ニコシア大学が提供するデジタル通貨コースが無料とは思えない充実度!

北川ワタル
crypto*kratika
Published in
9 min readJan 7, 2017
University of Nicosia

キプロス共和国(the Republic of Cyprus)にあるニコシア大学(University of Nicosia)では「Introduction to Digital Currencies」(デジタル通貨入門)という科目名で無料のMOOCを提供している。

MOOCというのはMassive Open Online Courseの略で、一般に、大学などの教育機関がWEB上で公開している科目履修コースのことを指す。

私は、昨年2016年9月に開講、12月にFinal Exam(最終試験)が実施されたMOOC6を受講させていただいた。とても充実した内容で、日本の方にもぜひ受講してもらいたいと思ったので、コースの概要や受講方法についてまとめることにした。

1.仮想通貨について学べる大学

ニコシア大学はMSc(Master of Science)in Digital Currency(デジタル通貨の修士号)が取得できる大学として知られているが、世界で初めて授業料をビットコインで受領する大学ということでも話題になっていた。

仮想通貨(暗号通貨)について学べる大学は欧米に複数あるが、無料で気軽に受講できる大学としては、ニコシア大学のMOOCのほか、Coursera(オンライン教育プラットフォーム)で提供されている米国プリンストン大学(Princeton University)の「Bitcoin and Cryptocurrency Technologies」というコースがある。

プリンストン大学では受講後にCertificate(修了証)などを発行していないが、ニコシア大学ではCertificateを発行しており、面白いのは、そのCertificateをビットコインのブロックチェーン上に書き込んでくれることだ。これによりCertificateが不可逆的に記録され、客観的に検証可能となる(という触れ込みだ)。ニコシア大学のこうした先進的な取り組みはキプロスを“ブロックチェーン界のウォール街”にしようという構想の表れとも言えるだろう。

ちなみに、私もCourseraでプリンストン大学のコースを受講開始したが、プログラムを書く課題を3問ほど提出する必要があり、「非エンジニア」の自分には到底できないと判断して、即ドロップアウトした(泣)。そのうちプログラミングを学んでから、また再開してみたい。ということで、ニコシア大学のMOOCだけを履修した。

2.MOOCにエントリーする方法

MOOCにはニコシア大学の下記URLからエントリーすることが可能だ。この記事を書いている時点では、2017年春に開講するMOOC7(DFIN-511 Introduction to Digital Currencies)がOpenになっている。
http://digitalcurrency.unic.ac.cy/

入力フォームから情報登録すると、入力したアドレスに認証メールが届き、付与されたIDとパスワードで管理画面にログインできるお馴染みのパターンだ。

3.MOOCの内容は?

MOOCは12のレッスンとFinal Examから構成されている。

各レッスンには40~80ページ程度のテキスト(パワーポイントをPDF化したもの)が用意されていて、教授陣による1時間程度のLive動画レクチャーと20問のMultiple Choice Quizzes(小テスト)がセットとなっている。

レクチャーは質疑応答が中心で、受講者があらかじめテキストを学習し、動画配信前の所定期日までにメールフォームから質問を投稿しておくスタイルになっている。レクチャーはLiveでなくても管理画面のYouTubeプラグインからいつでも視聴できる。

Final Examは50問のMultiple Choiceとなっている。各レッスンのQuizzesもFinal Examも形式は同じ。ただし、Quizzesには時間制限がないが、Final Examには120分の時間制限がある。

なお、このコースは修士課程の1科目にもなっており、修士課程に進んだ際には単位として認定される。

4.各レッスンのテーマ

12回のレッスンのテーマは下記のとおり。「A brief History of Money」(貨幣の歴史)から始まり、The Byzantine Generals’ Problem(ビザンティン将軍問題)、プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)などの基礎的な概念、ハッシュ値や暗号鍵のプロトコルの種類、各暗号通貨での使用言語など技術的な知識、仮想通貨に対する各国での法律上、税務上の取扱、ブロックチェーン技術の応用分野、中央銀行の機能など幅広くカバーしている。

ちなみに、Instructorの1人は「Mastering Bitcoin」(O’Reilly Media)の著者Andreas M. Antonopoulos氏で、ブロックチェーン界隈では名の知れた人物だ。そのためか、テキストの内容も非常によくできている。

「Mastering Bitcoin」(O’Reilly Media)

5.Certificate発行の要件は?

Certificateには「Certificate of Participation」と「Certificate of Accomplishment」の2種類がある。「Certificate of Participation」は、すべてのQuizzesのうち75%以上(つまり12回のQuizzesのうち9回)を60%超の正答率でパスすることが要件となっている。「Certificate of Accomplishment」は、それに加えて、Final Examを60%超の正答率でパスすることが要件となる。

6.MOOCの難易度は?

「Introduction to Digital Currencies」という科目名だが、「Introduction」(入門、導入)の割には難しかったというのが個人的な感想。

QuizzesやFinal ExamのMultiple Choiceは4択だが、単純な択一だけでなく「正しいものをすべて選びなさい」というパターンや簡単な計算問題も含まれる。

ちなみに「高卒」「非エンジニア」「英語Non-Native」である私の場合でも、忙しいときには質疑応答の動画視聴を省略して、PDFテキストを2時間くらい通読してQuizzesを受けたら80~90%程度の正答率でパスすることはできた。本質的に理解すれば正答できる良問揃いだと思う。

ニコシア大学MOOCの管理画面より

12回のQuizzesのうち9回分をパスすればCertificateは取得できるため、第1回から第9回までパスした時点でQuizは受けないことに決めた。しかし、第10回が「Regulatory and tax treatment」(法規制と税務上の取扱い)であったため、公認会計士・税理士の私としてはやはりQuizの内容が気になるので受験してしまった。上記の管理画面のスクショで第11回と第12回がブランクなのはそうした理由からである。

7.税について一言

第10回の「Regulatory and tax treatment」(法規制と税務上の取扱い)では、簡単にではあるが、日本における法規制と税務上の取扱いにも触れられている。ただ、残念ながら、その内容は十分にアップデートされていなかった。広範なテーマをカバーしているので、極東の島国の制度についてアップデートされていないこと自体は致し方ないことだと思う。

平成28年5月に可決・成立した「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)での規制。具体的には、資金決済法で仮想通貨の定義、仮想通貨交換業者の義務を定め、犯罪収益移転防止法で仮想通貨交換業者を同法上の特定事業者に指定したこと。

また、平成26年3月7日付の「ビットコインに関する質問書に対する答弁書」(答弁書第二八号)や平成28年4月27日の衆議院財務金融委員会での麻生大臣、星野次彦政府参考人(国税庁次長)の答弁などから法人税、所得税、消費税上の扱いについての政府見解はおおよそ明らかになっていること。

さすがのAntonopoulos先生でもそんな些末な日本の事情までカバーできるものではない。本来は日本人受講生の1人として、フォーラムに投稿したり、メールでアップデートを提案すれば良いのだが、個人的に忙しくて余裕がなかったのでご容赦いただきたい。

8.余談ですが…

現時点では、さらに、平成28年12月28日に上記の法改正に伴う「銀行法施行令等の一部を改正する政令等(案)」が公表されて、仮想通貨交換事業者の登録に関する内閣府令や事務ガイドラインが具体化した。

また、平成28年12月8日に公表された平成29年度税制改正大綱においては、仮想通貨の消費税上の扱いが明確に示され、平成29年7月1日以降に非課税になることと、それ以前に個別対応方式で仕入れ税額控除を計算する場合の仕入れ区分まで示してくれている(ちなみに「課税資産の譲渡等のみに要する課税仕入れ」ですって)。

こんな日本の事情も2017年春開講のMOOC7には反映されていれば良いなぁと期待している。

まとめ

とにかく、無料で質の良いe-learningが受講できて嬉しかったので記事にした。また、いつでもどこでも学習できる環境も素晴らしいと思う。

上記の写真のようにコメダ珈琲で“東芝”のPCを開いて勉強することもできるし、スマホだけでPDFのテキストを読んでQuizまで済ませたこともある。

子供の頃に空想を巡らせた「未来」がやってきた気がする。

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北川ワタル
crypto*kratika

公認会計士/税理士/株式会社ダーチャコンセプト代表取締役。最近の興味は仮想通貨、クラウドセール、ICOにかかる会計処理、法人税、消費税、所得税、相続税の取扱い。仮想通貨の民事信託、現物出資、デューデリジェンス。仮想通貨交換業にかかる登録、帳簿書類および報告書の作成、財産の分別管理、それらにかかる公認会計士の監査など。