バンコクのEthereumミートアップで語られたVitalikのトークまとめ

Yusuke Obinata (Obi)
CryptoAge
Published in
10 min readMar 4, 2018

2/25@バンコクで行われたAsia-Pacific Ethereum Community Meetupに参加してきたので、そこでのVitalikのトーク内容をシェアしたいと思います。

トークのタイトルは”Cryptoeconomics to save the internet”でした。

インターネットをマシなものにする

Plasmaなど技術的なプレゼンは他の登壇者にまかせ、彼はブロックチェーンやクリプトエコノミーを通して、“make the internet less broken — インターネットをマシなものにする”ことに焦点を置いて話をするというところから始まりました。

“(インターネットの)世界は変わってしまった”

過去数カ月の間Twitterなどで、Vitalikと同じプロフィール画像を使ったフェイクアカウントが多く作成されたり、フェイクアカウントが彼のツイートに返信リプライする形で「このアドレスに0.3ETH送ったら、3ETHを返すよ」というような詐欺ツイートが多発していることを例に出し、

これが今のインターネットの大きな問題になっていると。

Internet in 1998: public key crypto is enough to fully protect it

Internet in 2018: can’t easily be censored, but can totally be manipulated

20年前のインターネットは、公開鍵暗号方式で、政府も暗号化されたメッセージや情報を検閲することは不可能で、インターネットを保護するのに十分な状態だった。

しかし、2018年(あるいはもっと前から)、インターネットは未だ完全に検閲するのは難しいものの、第三者が完全に操ることが可能であるものになった。

クリプト界隈だけでも、Vitalikの事故死亡説やロシアでの逮捕説、イーロンマスクがビットコインスタートアップを始める 、といった多くのフェイクニュース が流れた。

90年代のインターネットを救うために考案されたHashcash

これらを解決するには、クリプトエコノミーはどのような解決策を提示できるだろうか?
20年以上前に提案されたアイデアから探っていこう。

“Hashcash”とその前例

ひとつは、1990年代のインターネットを困らせた、Eメールスパムを撃退するために考案された”Hashcash”だ。
これは、送信するEメール全てに送信コストを付加したもので、もし本当の人間が数分の時間を費やしてEメールを作成しているのであれば、ある程度のコストを費やしてでも送付するだろうという理論。
この当時は、インターネットベースの支払い手段というものはなかったため、コンピューティングパワーで代償を支払う、つまり1通のメールを送付するまでにコンピュータが10億分の1の数列を発見するまで計算を行い、その数列を”Proof of work”として送付時に含める、といったテクニックを用いた。

Hashcashの課題は、非効率だったこと。スパム業者への対策のために、一般の人たちも多くのコンピューティングパワーを消費しなければならなくなってしまう。

HashcashをProof of stakeで改良する

ここで、Vitalikがより優れている思うアイデアを、Hashcashが用いたProof of workではなく”Proof of stake”を応用した形で紹介する。

・Hashcashとアイデアは同じ。受信者がスパムだと認定した場合のみ送付者のデポジットを消費する形で支払いを行う
・スパムではない場合には何もロスがない

具体例で見てみると:
・アリスがブロックチェーン上にスマートコントラクトを作成する
・アリスが0.0005ETHをデポジットする
・アリスが秘密鍵Xとともにボブにメールを送付する
・メールがスパムでなければ、ボブは秘密鍵Xを破棄し何もロスがない。スパムであればボブは秘密鍵Xを使ってアリスのデポジットを消費できる

受信者(ボブ)が悪意を持っていたずらにデポジットを破壊しないという前提に立てば、Hashcashよりも効率よくスパムを除去できる。

経済インセンティブ付きの評価システムTrustDavis

次にVitalikが紹介するのが、TrustDavisという経済インセンティブが効いた評価システムの仕組み。

これは、コミュニティ内のユーザー同士の信頼関係を利用し、ECプラットフォーム等においての詐欺を防ぐのに利用できる。

アリスはボブの友達だから$200までの範囲であれば信頼できる、アリスはボブからすでに10回以上商品を購入しているから$100までの範囲であれば信頼できる、といった具合だ。

具体例で見てみると:
AがDからスマホを買う場合、AとDには直接信頼関係がない場合でも、Aが信頼するBがおり、Bが信頼するCがいて、Cが信頼するDがいるのであれば、AはDを信頼して商品を購入することができるというサークルが構築できる
a) AとDの取引が問題なくすんだ場合→皆ハッピー

b) DがAにスマホを送付しなかったり欺いた場合
Aは直接関係があるBから資金を回収し、B←C←Dという流れでトラストチェーンをたどれるようにすることで、実際に詐欺を行った人間に対して保険をかける

このスキームは物であれ情報であれ、人間同士がなにかをやりとりする場合に活用できるものである。

では、フェイクアカウントやフェイクニュースが蔓延する現代のインターネットにおいて、一般の人が騙されずに済む仕組みはないのだろうか?

現在のTwitterにおける問題点

ここで冒頭のTwitterスキャムの例に戻る。

Vitalikのふりをしたフェイクアカウントや、それに呼応した”おとり”のフェイクアカウント(詐欺目的のツイートに対してLikeやRetweetをする)に対して、Twitterのアドミンは対応が遅すぎる(数時間〜数日以上)し、スキャムが自発的に排除されるような仕組みもない。

こういった問題に対して、Twitter以外のプラットフォームにも適用可能な、独立したモデレーションの仕組みは提案できないだろうか?

Prediction market:予測市場(一種の先物市場)がヒントになるのではと彼が提案したのは以下のようなアイデア。

予測市場を利用したコンテンツモデレーション

仕組みとしては、以下のような形である

  1. Webブラウザのエクステンションのような、Twiiterやそのほかユーザー投稿型のサイトに適応可能なレイヤーで、ユーザーはETHを拠出することで、フェイクと思われるコンテンツに”downvote”ボタンを押せるようにする。
  2. Twitterなどのクライアントソフトウェア側は、downvote/upvoteの比率を得ることによって、フェイクと疑わしいコンテンツにフラッグをつけたり、ユーザーの目から隠すことができるようになる。
  3. ここには最終的にコンテンツの正否を判断するモデレーションパネルが存在し、彼らがフェイクだと判断したコンテンツにdownvoteしていた人たちは報酬を得て、upvoteしていたひとたちは拠出していた資産を失うというインセンティブ設計を行う。

単なるボランティア状態だと多くのユーザーに自主的にスキャムレポーティングを行わせるのは難しいが、クリプトエコノミーでインセンティブ設計があれば、こぞってコンテンツの正否を判断するプロモデレーター(あるいはAIモデレーター)が出現しやすくなり、現在のツイッターの課題を多く改善できるのではないか。

インサイダー取引が起こらないようモデレーションパネルの中立性と正確性を維持するために、decentralizedな投票システムやDAOであれば好ましい。

最終的には、コンテンツ生成から数秒以内に、フェイクコンテンツには自動的にフラッグが立てられ、一般の人々の目にさらされないような世界が理想。

普及するためのステップ

こういったアイデアを実世界で普及させていくには、まだ以下のような課題が残っているとした
・現状のブロックチェーンのスケーラビリティはまだまだ追いついていない:Shardingや、2ndレイヤーのPlasmaのようなソリューションが実現するのが必須になる

・クリプト全般のユーザビリティの低さ:暗号通貨を入手するのはまだまだ一般の人には複雑、ウォレットは使いにくい

・レイテンシー:現状イーサリアムのブロック生成時間は14秒ほどだが、これはこれまで話したアイデアを実現するにはまだまだ遅い

・実際に創り上げるクリエイターが必要

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と、このような感じです。

Vitalik自身Twitterでもよくこの問題への注意喚起を行なってますが、わざわざトークのメイントピックに置くということからも相当問題に感じているということが伝わってきました。

アカウント名もVitalik “No I’m not giving away ETH” Buterinになってる↓

タイトルにもあった通り、“Cryptoeconomics”をよく口にしていたのも印象的でした。

クリプトエコノミーは、人間(あるいはAI)の行動を経済インセンティブをつけることによってモデル化を考えられるのが面白いところです。

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