なぜ分散化が重要なのか

Ryo Iida/飯田諒
CryptoAge
Published in
15 min readApr 3, 2018

この記事はアンドリーセンホロウィッツのパートナーである Chris Dixon氏によって2/18に公開された”Why Decentralization Matters”Ryo Iida/飯田諒Yusuke Obinata (Obi)が翻訳したものです。

This article is a Japanese version of ”Why Decentralization Matters” written by Chris Dixon translated by Ryo & Yusuke Obinata (Obi). All credit goes to Chris.

インターネット最初の2つの時代

1980年代から2000年初頭のインターネット最初の時代、インターネットサービスはコミュニティに管理されたオープンプロトコル上に築かれた。この時代、人々および組織は「後々になってもインターネットのルールは変わらないだろう」と知っていたことで自分たちのサービスを安心して伸ばすことができた。Yahoo, Google, Amazon, Facebook, LinkedIn, YouTubeなどの巨大なWebサービスがこの時代に始まり、その過程で、AOLのような中央集権型プラットフォームの重要性は大幅に減少していった。

インターネット第二の時代(2000年代半ばから現在まで)では、利益を追求するテクノロジー企業(例:GAFAーGoogle、Apple、Facebook、Amazon)はソフトウェアやサービスを開発し、あっという間に既存のオープンプロトコルの能力を上回った。このトレンドは、モバイルアプリが近年の主なインターネットの使用用途であるのを見てわかる通り、スマートフォンの爆発的な普及によっても支えられた。このようにして、ユーザーはオープンなサービスからより作り込まれた中央集権型のサービスへ移っていった。いまユーザーがWebのようなオープンプロトコルにアクセスしたとしても、GAFAが提供するサービスやソフトウェアに仲介されてアクセスする場合が多いだろう。

これの良い点は、何十億の人々が、素晴らしい技術に無料でアクセスできるようになったことだろう。逆に悪い点は、スタートアップ、クリエイター、および他の集団が自分のインターネットサービスを成長させようと思った際に、中央集権的なプラットフォームがルールを変え、彼らのユーザーや利益を奪ってしまう恐れがつねに消えないことだ。これはイノベーションを抑圧し、インターネットの面白みやダイナミクスを無くしてしまった。フェイクニュース、選挙妨害ボット(state sponsored bots)、EU一般データ保護規則、アルゴリズムによるバイアスといったことに関する議論にもみられるように、インターネットの中央集権化によって幅広い社会的な緊張も生み出されてしまった。このような議論は年々激しくなっていくだろう。

“WEB 3”ーインターネット第三の時代

中央集権に対する一つの対応は、政府が巨大企業に規制をかけるということである。この対応はインターネットが電話、ラジオ、そしてテレビをはじめとした過去の通信ネットワークと似ているという想定に基づいて行われている。しかし上記のようなハードウェアを基にした過去のネットワークは、ソフトウェアを基にしたネットワークであるインターネットとは根本的に異なっている。ハードウェアを基にしたネットワークは一度構築されると再構築はほぼ不可能であるが、ソフトウェアを基にしたネットワークはイノベーションや市場の力で再構築され得るのだ。(そのため規制でさえかいくぐれてしまう)

インターネットはソフトウェアに基づく究極のネットワークで、比較的シンプルなコア・レイヤー(インターネットプロトコル)が何十億といったプログラム可能なコンピューターを繋げることで構成されている。ソフトウェアは人類の頭脳をコード化したもので、デザインする余地が無限にある。コンピューターはネットに繋がってさえいれば、その持ち主が選んだどんなソフトウェアも実行可能である。考えつきうるものであれば何でも、ちゃんとしたインセンティブ設計があれば、素早くネット上に拡散される。インターネットの構造は、技術的なクリエイティビティがインセンティブ設計が交わる交差点なのである。

インターネットはまだ革新の初期でしかない。現在の主要なネットサービスはほぼ全て次の数十年で再構築されるであろう。何に再構築されるかというと、ビットコインによって導入され、イーサリアム(Ethereum)によってさらに開発されたクリプト経済的なネットワークである。クリプトネットワークは以前の2つの時代の特徴を併せ持つ。コミュニティの管理、および現在の最先端を走る中央集権サービスをゆくゆくは超えてしまうくらいの能力を持つ非中央集権(分散型)ネットワークだ。

なぜ分散化なのか

分散化は誤解されやすい概念である。例えば、クリプトネットワーク支持者が分散化を好むのは政府による監視や検閲を逃れるため、もしくはリバタリアン的な理由であると言われることがしばしばある。しかし、これらは主な理由ではない。

下に示したのが、中央集権下での問題である。中央集権プラットフォームはおおよそ予測可能なライフサイクルをたどる。初期は「ユーザー」や、デベロッパー・事業体・メディアなどの「プラットフォームを補完するサードパーティ」を集めることに必死である。双方のネットワーク効果が存在するプラットフォームであるため、ユーザーとサードパーティを集めることによりプラットフォームはより価値あるものになる。プラットフォームが成長しSカーブの上に差し掛かるにつれ、ユーザーやサードパーティに対する力は大きくなる。

Sカーブの頂上に達した時、プラットフォームとその参加者の関係はポジティブサムからゼロサムに変わる。ここからさらなる成長をする上で一番簡単なのは、ユーザーのデータを集め、プラットフォームに参加するサードパーティと利益およびユーザーを巡り競争することだ。歴史上で起きたこのような競争はMicrosoft vs Netscape、Google vs Yelp、Facebook vs Zynga、そしてTwitter vs サードパーティ である。iOSやAndroidなどのオペレーティングシステムはまだマシなほうである。もっとも、30%のマージンを取り、よくわからない理由でアプリを拒否したり、サードパーティが開発したアプリの機能を自らのプラットフォームに組み込んだりしているが。

サードパーティからしてみれば、この協力関係から競争への移行は「おとり商法」のように感じるだろう。名だたる起業家、デベロッパー、そして投資家が中央集権プラットフォーム上にサービスを構築することに対して用心深くなってしまった。さらに、ユーザーは自身のプライバシーを諦め、自分のデータに対するコントロールを失い、セキュリティ侵害に対して脆弱になってしまった。中央集権プラットフォームによって発生することのような問題は将来さらに大きくなっていくだろう。

クリプトネットワークの登場

クリプトネットワークはインターネット上に構築されたネットワークで以下の二つの特徴を持つ。

  1. ブロックチェーンのようなコンセンサスメカニズムを使うことによりシステムを維持およびアップデートする
  2. ネットワーク参加者(マイナー/承認者)に対するインセンティブ設計のために暗号通貨(コイン/トークン)を使用する

イーサリアムをはじめとするいくつかのクリプトネットワークはあらゆる目的に利用できる一般化されたプログラミングプラットフォームである。他の特定の目的を持ったクリプトネットワークを挙げるとすると、ビットコイン(Bitcoin)は主に価値の保存、ゴーレム(Golem)はコンピューターリソースの共有、そしてファイルコイン(Filecoin)は分散化されたファイル保管が目的とされている。

初期のインターネットプロトコルは、有志のグループもしくはNPOによって作られた技術仕様であり、彼らの利害が一致するという前提に大きく依存していた。これはインターネット時代の初期の初期はうまくワークしたものの、1990年代初めからはごくわずかなプロトコルしか大きく普及することがなかった。クリプトネットワークはデベロッパー、維持者、そして他のネットワーク参加者にトークンという経済的インセンティブを与えることにより普及を押し進める。また、クリプトネットワークは技術的にも堅牢である。例えば、状態を保ちながら任意の変換ができる。これは、過去のプロトコルが絶対にできなかったことだ。

クリプトネットワークは複数のメカニズムを使い、成長しながらも中立を保ち、中央集権プラットフォームの性質であった「おとり商法」を排除している。どのようにしているのか。

まず、クリプトネットワークとその参加者の関係はオープンソースのコードに刻まれている。次に、双方が発言と退出(Voice and Exit)のメカニズムを通してコントロールされる。ネットワーク参加者は「オン・チェーン(プロトコル内)」および「オフ・チェーン(プロトコル周辺のソーシャルな繋がり)」の両方で発言権が与えられる。参加者は自分のコインを売却するか、もしくは極端なケースではプロトコルをフォークさせることでネットワークから退出することができる。

要は、クリプトネットワークはその参加者とともに共通のゴール — ネットワークの成長とトークンの価値向上 — を目指すのである。これが、イーサリアムなどの他のクリプトネットワークの成長が側で起こっていても、ビットコインが懐疑論者に負けず繁栄できている主な理由の一つだ。

今日のクリプトネットワークは、内在するいくつかの制限によって既存の中央集権プラットフォームに勝負を挑めていない。一番厳しい制限がネットワークのパフォーマンスとスケーラビリティである。来たる数年間はこれらの制限を解決し、クリプトのインフラレイヤーを形成するようなネットワークを築くことに費やされる。その後、構築されたインフラの上にアプリケーションを作る時代が来る。

どのようにして分散化が勝つのか

分散型ネットワークが勝つべきだというのと、分散型ネットワークが勝つというのは別物である。以下では、なぜ分散型ネットワークの勝利に対して楽観的であるかを詳しく説明しよう。

ソフトウェアやウェブサービスは開発者たちによって開発された。世界には何百万といった優秀な開発者がいるが、そのうちのほんのわずかが巨大企業で働き、さらにその中のほんの一握りが新たなプロダクトの開発に携わることができる。重大なソフトウェア開発プロジェクトの多くがスタートアップや開発者集団によって作られた。

”あなたが誰であろうと、優秀な人の多くが他の人の下で働いている” — Bill Joy

分散型ネットワークは、インターネット最初の時代にメインストリームになった理由と同じ理由で、インターネットの第三時代に返り咲くことができる。その理由とは、起業家と開発者のハートとマインドを味方につけることだ。

これを証明するのにうってつけの例がある。それは2000年代のWikipediaと、その競合であり中央集権型のEncartaとの競争である。2000年代初めの方に両者を比べたら、トピックのカバー範囲の広さおよび正確性の高さを持つEncartaの方が良いプロダクトであった。しかしWikipediaは、分散化され、コミュニティが強いという特徴に惹きつけられたボランティア集団を抱えており、それによって驚くべきスピードで改善が進められた。2005年になると、Wikipediaが最も有名なリファレンスサイトになっており、2009年にEncartaは閉鎖した。

ここで学び取れることとしては、中央集権と分散型を比べる時、そのシステムを硬直したプロダクトとして静的にみるのではなく、流動的なプロセスとして動的にみるべきであるということだ。中央集権のシステムは完全な状態で始まるが、そのシステムを保有している会社の従業員のペースでしか成長しない。一方で、分散型のシステムは未完全の状態で始まり、新たな協力者を集めながら指数関数的に成長していく。

クリプトネットワークの場合、コアプロトコル、クリプトネットワーク、サードパーティアプリケーションのそれぞれの開発者や、ネットワーク上で展開するサービスプロバイダーなどを巻き込む複合的なフィードバックが交わされる。この複合的なフィードバックはトークンによるインセンティブ設計によってさらに増幅していき、ネットワークのコミュニティの開発速度をさらに後押しする。(この後押しが、ビットコインマイニングに使用される電力の過剰使用にみられるようなネガティブな結果につながることもある。)

中央集権型と分散型のどちらのシステムが次のインターネットの時代を勝ち抜くかという問いは、誰が多くの人を巻き込むプロダクトを作るかという問いになり、究極的には誰が優秀なディベロッパーと起業家を集められるかという問いに収束する。GAFAはキャッシュやユーザーの多さ、そしてインフラが整っているという点でを含め多くの優位性がある。しかしクリプトネットワークは、ディベロッパーや起業家に対してはるかに魅力的な価値提供をできる。もしクリプトネットワークが彼らのハートとマインドを強く惹きつけたら、GAFAを凌駕する量のリソースを手に入れ、GAFAのプロダクト開発のスピードを追い抜くことができるだろう。

”もし1989年の人々に人生を豊かにするために何が必要かと聞いても、ハイパーテキストとリンクされた情報ノードの分散型ネットワークとは答えないだろう。” — Farmer & Farmer

中央集権プラットフォームはローンチ時に強力なアプリとバンドルされていることがある。Facebookは核となるソーシャルな機能を備えていたし、iPhoneは多くの基本アプリがインストールされていた。それに対して分散型プラットフォームは未完成でユースケースが定義されていない状態でローンチされる。その結果、2つのフェーズのプロダクトマーケットフィット(PMF)をたどる必要がある。

  1. プラットフォームとエコシステム間のPMF
  2. プラットフォーム/エコシステムとエンドユーザー間のPMF

この2つのフェーズは技術者も含めた多くの人が分散型プラットフォームのポテンシャルを過小評価する原因となる。

インターネットの次の時代

分散型ネットワークはインターネットが持つ全ての課題を一挙に解決する特効薬なわけではない。しかし、中央集権型システムよりもはるかに優れたアプローチを提供できる。

Twitterのスパムとemailのスパムを比べてみよう。Twitterがサードパーティに対してネットワークを閉じて以来、Twitter上でのスパムを解決しようとしているのはTwitter社のみということになった。反対に、emailスパムにおいては、問題を解決しようと何百といった企業が生まれ、ベンチャーキャピタルや大企業から数十億ドルにのぼる多くの資金提供を受けた。emailスパムは完全に解決されたわけではないが、現在はだいぶマシになった。なぜなら、emailプロトコルが分散化されているおかげで、第三者がプラットフォームにルール変更される心配をすることなく、emailプロトコル上で事業を展開していけたからである。

別の例を挙げるとすると、ネットワークガバナンスについてだろう。現在、表示する情報の順位づけ、どのユーザーアカウントをプロモートあるいは停止するか、そしてその他の大きな判断は、巨大企業の従業員によってなされている。クリプトネットワークでは、これらの判断はオープンで透明なメカニズムを使い、コミュニティによって行われる。現実の世界で生きていてわかる通り、民主主義は完璧ではない。しかし他の手段よりはよっぽど優れている。

中央集権プラットフォームによる支配の期間が長すぎたせいで、人々はインターネットサービスのより良い構築方法があるということを忘れてしまっている。クリプトネットワークは、コミュニティによって管理されたネットワークを開発し、サードパーティの開発者、クリエイター、事業者たちが参入するチャンスを作ることができる。インターネット最初の時代を見れば、分散型システムの価値は明らかである。

次に訪れるインターネット第三の時代でそれが再び見られることを願っている。

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