「ブロックチェーンはトラストレスである」とはどういう意味なのか?

Megan
CryptoAge
Published in
12 min readJun 13, 2018

「トラストレス」は「信用できない」ということではない。ブロックチェーンでは。

はじめに

この記事は、ELI5: What do we mean by “blockchains are trustless”?の翻訳記事です。

元記事のライター、Preethi Kasireddy氏は女性のブロックチェーンエンジニアであり、2017年には自身のブロックチェーンカンパニー「Trustory」を立ち上げました。

ブロックチェーンについての議論の際に用いられる「トラストレス」という単語ですが、この単語はしばしば直訳の「信用できない」といった意味に誤解され、その本質について語られる機会はあまりありません。それに対し、この「トラストレス」という単語の本質を解き明かし、ブロックチェーンの構造的上の意義をとなえた彼女の本記事は、ブロックチェーンの理解に大いに役立つでしょう。

イントロ

我々の多くは、ブロックチェーンを「トラストレスな」システムとしてみなしているという罪を負っています。しかし私は気づいてしまったのです–「トラストレス」という言葉があいまいで混乱を招くものであり、そして何よりも重大なのが、不正確であるということに。

実はブロックチェーンは信頼を無くしているのではありません。ブロックチェーンがしていることは、システム内の任意の1人の当事者から要求される信頼の量を最小限に抑えることなのです。ブロックチェーンは、当事者らに対してプロトコルで定義されたルールに協力してもらうためにインセンティブに沿った行動をするよう促す経済的なゲームを通じて、システム内のさまざまな当事者間で信頼分配する ことによってこれを行います。

より詳しく説明しましょう。

真に「トラストレス」な取引システムとは、以下のようになります。

互いに取引することに関心を持つ2人の人々は、直接モノの持ち主を交換し合います。それらは物理的に存在するため、簡単に検証することができます。

1.真実性:実際の送付者がお金を引き渡しています、そして

2.二重支払いはありません:取引したそのお金は偽物ではなく、本物の10ドル札です

理論的には完璧ですが、この取引システムには限界があります。考えてみてください:2人の個人は、物理的に近接している場合にのみ、互いに取引することができます。経済規模を大きくするためには、取引システムは、距離にかかわらず、世界中の誰とでもやりとりできるようにする必要があります。

つまり、真に我々が求めているのはこういうことです:

上記の図からわかるように、我々がこの目標を達成するには、実際にお金を送金した人が本当にお金を送っており、そしてお金が本物であることを確認するために価値の移転を促してやれるような仲介業者が必要です。

これには疑問が浮かびます:誰が信頼するに値する仲介者としての役割を果たしているのでしょうか?

現代のトランザクションシステムでは、仲介者は銀行(例:チェース銀行)、決済プロバイダ(例:Paypal)、送金会社(例:ウェスタンユニオン)、クレジットカード(例:Visa)などがあります。

この集権型モデルでは、銀行があなたを認証し、受取人が実際のお金を得ていることを保証します。

言い換えると、ある個人から別の個人へ価値が直接物理的に移転しない限りは、私たちが「信頼する」仲介者が存在しなければなりません

ブロックチェーンも同様です。

ブロックチェーンは、2人の個人がインターネット上で「ピア・ツー・ピア」方式で相互に取引することが可能になるようにプロトコルを定義しています。ブロックチェーン上のあるアカウントから別のアカウントにデジタルで価値を移転するとき、あなたはこのようなブロックチェーンシステムがその価値の移転を可能にし、送信者の真正性通貨の正当性を保証することを信頼している、ということです。

「中央集権型」システムでは、我々は一つの第三者(例えばチェース銀行)がこれら2つの財産を保証してくれる仲介者として行動すると信じています。「分散型」システムでは、私たちの信頼は他の場所、すなわち公開鍵暗号と真実を決定することを可能にする「コンセンサスアルゴリズム」に置かれています。

公開鍵暗号

公開鍵暗号(または非対称暗号)は以下のものを使用します:

誰にでも公開されている公開鍵

所有者だけが見ることができる秘密鍵

秘密鍵は、ユーザーが送信するブロックチェーンのトランザクションの度に「デジタル署名」を生成します。署名は以下の方法で真正性を保証しています。

1.取引がユーザから来ていることを確認すること、

2.一度署名が発行されれば、あらゆる人間から取引の改ざんを防ぐこと

何らかの方法でこのトランザクションメッセージを変更すると、検証は失敗します。

さて、公開鍵暗号がピアツーピアシステムのユーザーを認証するのに役立つことのだということを理解したと思います。しかし二重払いを防ぐには、誰が本物の仮想通貨を送金していて誰が偽物の仮想通貨を送金しているのかを知ることができるよう、誰が何を保有しているのか追跡する必要があります。

これこそがとりもなおさず「コンセンサス・システム」– 我々にデジタルに共有された真実を保存しておくことを可能にしてくれるもの–が活躍する場所にほかなりません。

マシンコンセンサス(暗号経済プロトコル)

ブロックチェーンには共有する元帳があり、我々にシステムの状態についての絶対的な真実を教えてくれます。それはこのシステム内の全当事者に対して「コンセンサス(合意)」に達するか、この元帳が唯一無二の状態であることについて合意に至るようインセンティブを与えるために、数学、経済学、ゲーム理論を使っています。

Bitcoinを例に取ってみましょう。Bitcoinのプロトコルは、システムを同一に保つ “Proof of Work’’というコンセンサスアルゴリズムを有しています。2人の使用者間で取引を完了するには、複雑なアルゴリズム上の問題を解決してトランザクションを検証するために、一連のノード(「マイナー」と呼ばれます)が競い合う必要があります。言い換えれば、Bitcoinは、複雑な問題を解くために「経済的にインセンティブ設計して」マイナーにコンピューターパワーを購入して使用させています。これらの経済的インセンティブには、

1.ユーザーが取引を実行するために支払う取引手数料を獲得するマイナー、

および

2.パズルをうまく解決したことに対しての新しいBitcoinを報酬として得るマイナー

が含まれます。

これらの経済的インセンティブのために、マイナーは新しい「ブロック」に新たな一連の取引を格納するためにネットワークを絶えず見張っています。そして彼らは自らが仕事をしたと証明するためにコンピューターのリソースを使用して複雑なアルゴリズムを解決しています。

アルゴリズムを解いた最初のマイナーは、その答えと新しいブロック(そしてそのブロックの中にはこれまでの全取引が格納されています)をブロックチェーンに追加し、それをネットワークに公開します。その時点で、ネットワーク内の他のメンバーは、誰もが「真実」だと信じているものなので、その最新のブロックチェーンをネットワークに同期させます。

マイナーは競い合って計算を実行するので、複数のブロックが同時に解決されることもあります。これにより、複数のチェーンの「フォーク(分裂)」が発生します。

このようなフォークがあった時には、ネットワークにおける「標準的な」チェーンとはすなわち最も長いチェーン–大部分のマイナーが信頼し続けているもの–になります。

この方法でブロックチェーンに追加されたすべての新しいブロックは、システムのセキュリティを強化していきます。なぜなら過去の当事者を上書きする新しいブロックを作り出そうと思う攻撃者は、ネットワーク内の誰よりも速くパズルを解かねばならなくなります。これは事実上不可能なもので、これらのブロック内のデータをリバースエンジニアリングしたり変更したりすることは不可能です。これがユーザーがこのシステムを信頼し続ける理由です。

だから我々はブロックチェーン上でお互いに取引するとき、二重払いがないことを確実にするために自らのリソースを割いて仕事をしているマイナーに対して信頼を置いているのです。

社会的な合意(ガバナンス)

もちろん、マシン・コンセンサスが完全に機能したとしても、このネットワーク内の信頼を維持するために必要な他の重要な要素についても100%の確率で合意に達すると保証することはできません。たとえば、基盤となるネットワークをアップグレードしたり、改善したり、修復する必要がある時には、ネットワークとその構成要素の全てが適切にその変更を処理できるようにするための何らかの手段が必要になります。そのような場合に、それは構成員の間の調整努力、あるいは私が「社会的な合意」(ガバナンスなど)と呼ぶもの、が必要になります。

たとえば、ブロックチェーンに改善(トランザクションログの改善など)が必要な場合は、関係するすべての当事者(ユーザー、開発者、投資家など)の利益を最大限に生かすガバナンスメカニズムが必要になります。また、最善の方向性が何たるかについて議論が紛糾している場合(論争の多いフォークなど)、コミュニティは次に何をすべきかについて合意を形成する必要があります。合意に達することができなければ、ネットワークは分裂し、人々は全ての人が信じていた共有された真実を信じることの代わりに、どちらか一方の立場を選択することを余儀なくされてしまいます。ユーザーは、どのチェーンが「有効な」チェーンであるかを合理的に判断できないために、システムに対する信頼を喪失することになるでしょう。

前の記事(箇条書き#6)で説明したように、ブロックチェーンのガバナンスのためには多くの異なるモデルが存在していて、コミュニティ内での積極的な研究の余地が残されています。ブロックチェーンガバナンスは信じられないほど難しい問題であり、集中管理と分散管理のバランスを取ることは、システムに対する全員の信頼を維持するために不可欠です。

結論

我々がブロックチェーンが「トラストレスである」と言うときそれが意味するのは、システム内の全当事者が何を正当な真実とするかについて合意に達するための仕組みが存在する、ということです。単一の個人または団体(銀行、政府、金融機関など)に集中するよりも、ネットワークの利害関係者(開発者、マイナー、使用者など)に電力と信頼が分配・シェアされます。

おそらくブロックチェーンをより正確に表現するのは、「トラストレス」なものであるというよりは、分散 された信頼、我々が全体として全員を信頼しているということ、に基づいて築き上げられたものであるということです

もちろん、これはシステムに保持されているパワーの大部分が、同様の価値観を共有し合うステークホルダーたちに帰属していると信じていることを前提としています。残念ながら、私は–少なくともまだ–共有された価値観の構成要素が何たるかを正確に把握することができるとは思っていません。そのため、去年のブロックチェーンの急増や争いのあるフォーク…いえ、これは長くなるのでまた後日にしましょう!😊

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