『新しい小説のために』を年表にしてみた

Toka Shinano/信濃東河
Cubit_c
Published in
3 min readFeb 25, 2018

年表についての解説

2017年10月、批評家の佐々木敦が世に放った『新しい小説のために』。500頁を費やして明らかにされるのは、小説の新しさをめぐる文学史上の絶え間なき論争、その果てに生まれつつある現代の新しい小説の正体である。言及される作品数はおよそ130。気ままな講義のように、時間空間をとび越えて行ったり来たりする本書の道筋を、別の仕方ではっきりと見通してみたい。ここに『新ため』作品年表をつくった。

年表の縦軸は1700年代から2010年代までを時系列順に、横軸は第一部「新しい「小説」のために」と第二部「新・私小説論」とで分けた。第一部は文学史におけるリアルという概念、第二部は私という概念がそれぞれ変化する過程を描いている。

また、年表を読みやすくするために、作品が議論の根幹にどれだけ深くかかわっているか、その重要度によって文字の大きさを変えた。小林秀雄「様々なる意匠」などが大サイズ、横光利一『純粋小説論』などが中サイズ、そのほかが小サイズである。読む人によっては異なる重要度を感じるかもしれない。

そして、年表の下の方に赤字で表示されているのは、著者が文中で「新しい小説」だと明示している作品である。主に2000年代に集まっているが、議論を追うと必ずしも近年に留まらない、新しい小説の萌芽がそこかしこに見て取れる。小島信夫やベケット、勝小吉さえも赤字にするべきか。新しさの探求はいまに始まった話ではない。

ところで、なぜ年表なのか。さほど強調されているわけではないが、著者は作品を論じるにあたって、それが書かれた年代を強く意識している。わかりやすいところでは、第一部第三章「近代文学vs近代絵画」の最初の小見出しは、このように書かれている。

1.「新しい小説論」の古典を読み返す(1980年(1975年~1977年(1907年(1900年~1903年))))

括弧が多すぎてなんじゃこりゃ。「新しい小説論の古典」とは、批評家の柄谷行人の著書『日本近代文学の起源』のことである。年号が指す出来事を追ってみると、1980年に出版された『~起源』は、1975年から77年にかけて柄谷がイェール大学で教鞭をとった時期に構想された。そこで柄谷は、1907年に書かれた夏目漱石の『文学論』を継承する姿勢を見せる。漱石の文学論は、1900年から03年にいたるイギリス留学で練られたものである。佐々木いわく、柄谷は漱石の海外体験に自らを重ね合わせ、西洋の自己同一性(アイデンティティ)への疑いを共有している。このように、節を通読してやっと小見出しの意味がわかるようになっている。

『新ため』は現代の新しい小説について語る以上に、時代ごとに見出されてきた新しさを執拗に追う。作品や批評がもつ縦の関係を示すにも、同時代の言葉を並べてみる横の関係を示すにも、どちらにせよ年代は重要なのだ。だからこそ、本書を読んだ人も、読む前の人も、年表を眺めてその見えないつながりを思い出し、想像してみてほしい。

--

--

Toka Shinano/信濃東河
Cubit_c
Editor for

批評再生塾2期生。慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒。