アメリカでもPMIはむずかしい

Comemoという日経新聞の媒体で国内のM&Aに関する投稿に対するコメントで「PMIの話しが全然聞こえて来ない、不幸な結婚にならないか心配」というコメントを頂いた。それを受けて、これだけ買収の多いアメリカってPMIどうなってるんだろうと思いちょっと調べて見た。

ただググって出て来た結果が、マッキンゼーやベインなどのコンサルやFAのものが多く、もしかしたらポジショントークなのかもしれないが、総じてアメリカにおいてもM&A後のPMI(Post Merger Integration)に失敗している会社が多いとのことだった。 Harvard Business Reviewによると70−90%のディールが失敗に終わっていると推測している。

1年で1万件(前回参照)のスタートアップの買収案件がある中で、7割ものディールが失敗となると、金額的にも相当な痛手でディール数自体に影響も出かねないと思うのだが、実際のところ買収案件は右肩あがりで増えているという不思議。なんでかなとも思うのだが、以前ある人との話しを思い出した。

よくあるシリコンバレーのスタートアップ買収の金額的なレンジ

1. x < $50M

2. $50M < x < $100M

3. x > $100M

というのがあり、1についてはどちらかというとAcquhireによる人材獲得がメイン。2は特許などの技術獲得。3はビジネス(P/Lや顧客)の獲得というようにざっくり分類できるという。以前comemoで紹介したレポートには金額毎のディール数は乗っていなかったので、完全に推測だが1万件のディールのうち大体が1なんじゃないかと思う。

そう考えれば、ロックアップによる時間的な縛りとearnoutによる金銭的なモチベーションで優秀な人材を一定期間確保し、自社の技術やサービスの改善に費すということであれば、買収した事業がうまく行かなくても問題ないし、事実acquhireの場合は元のサービスを買収時点で潰してしまうことがほとんどだ。

2の場合も、確固たる技術が自社に取り込めるので、将来的な使い道は色々あるだろう。有形・無形のアセットとして残るという意味でも、買い物としては失敗はそんなに多くないのではないか。

問題は3のケースで、恐らく失敗ケースとしてメディアなど取り上げられるのも、3の場合でPMIにうまく行かなかったケースが大半なんじゃないか。PMIがうまく行かない理由は色々と解説されているのでここでは扱わないが、$100M以上の企業価値がつくような会社であれば、やはりそれなりにでかいし会社としてのカルチャーもできているから、diversityの国であるアメリカであっても難しいのは想像できる。

翻って日本だが、まず金額的にほとんどが1に当たる。シリコンバレー方式で行けば人材獲得がメインなのだが、まあ、人件費やコスト構造が違うので一概にそうあるべきとは言えないのだが、このレンジでアメリカでは3に当たる目的でスタートアップを買収するのは少し飛躍が大きいかなと思う。

$50M以下の会社であれば、まだシリーズA・Bくらいの会社だし、舵取り失敗したら突然死することもあるレベルだ。そのスタートアップ(事業)に対して無理な事業計画を押し付けても上手く行かない可能性の方が高い。また、買収金額も、恐らくおかしいのだと思う。買収額がベースになるので、買収後の事業計画も無理なものになるのではと推測する。

結局はRisk/Rewardのバランスだと思う。人件費、採用コストのバカ高いシリコンバレーなら$50M以下(大抵は$10M以下)の金額でAクラスのエンジニアやサイエンティスト何人かを数年間囲い込めるという意味であれば、ペイされるので躊躇しない(もちろんその人たちをちゃんと使って、製品化なり技術向上なりがロックアップ前に出ることが成果だが)。

支払う金額と(対象のスタートアップが)できることをバイアスかけずにフラットに見極められれば、自ずと買収後にやるべき事が見えてくると思うので、1、2の案件はPMIをそんなに恐れずにできると思うのだが。まずはそういった案件がどんどん出てくれば、より高度な買収も可能になってくるはず。

とにかく経験し学ぶ事が大事だと思う。それがアメリカで年間1万件もの買収案件が出てくる理由の1つだと思う。

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Daisuke Minamide(南出 大介)
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a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.