アメリカのgift card(prepaid card)事情

毎年2月は子供達の誕生日が重なっている関係で、誕生日会等で親は疲弊しているのだが、子供達も大分大きくなってくると友達から貰うプレゼントも徐々に様変わりしつつある。今まではおもちゃや本など、物で貰う事が多かったが、小学校の高学年(下の子)にもなると様々な店舗のギフトカードをプレゼントとして貰うことが増えてきた。

そもそもこちらでは習慣的にギフトカードを渡す機会が多い。誕生日やクリスマス、出産祝いなどのseasonalな場合はもちろん、ちょっとしたお礼や学期が終わるときに担任の先生に感謝としてクラスでまとめてギフトカードを渡す場合など多岐に渡る。先生の中にはカードを指定する人もいたりする。とにかくgift cardは手軽で簡単、様々な店舗のカードが発行されていて色々な機会で利用されている。

gift card/prepaid cardのマーケット規模

source: Aite Group

2012年に出されたprepaid card及びpayroll card(何度もチャージできるタイプのカード)の市場予測だが、この時点で2014年で総額$131B(14兆円)程になり、2016年までのCAGRは約20%にもなるとしている。また、2014年4月に出された同Aite groupが発表したreportを元にしたこの記事では、2014年末時点で店舗で利用されるprepaid cardの取扱高が$200B(22兆円)になると予測している。この巨大なカード市場はVisa, Master, Discover, Amexなどのクレジットカード大手issuerが発行するgeneral use向けのカードや、Amazon, Google, Apple, Target, CVS, Starbucks等各リテールが発行する特定利用型カードなど様々なプレーヤで構成されている。

カード利用を牽引するGeneration X, Y

この巨大市場を牽引するのがGeneration Xとその子供世代であるGenration Y (a.k.a Millennials)とされる。親の立場からしてみれば、ある程度制限があるとはいえcredit cardを子供に渡すには心許ないし、更に利用用途を限定できれば余計に使われる心配も無くなるので、小さな頃からこれらのカードを渡してきた。一方、子供世代もprepaid cardの利用を子供のころから当たり前としてきており利用に抵抗がない。更にMillennials世代が大学を卒業し購買層へとshiftしてきており、更なる利用拡大が見込まれている。

prepaid cardを支えるtech企業

米国では様々な銀行間ネットワーク(NYCE, Pluse, STAR)が存在しそれぞれとの繋ぎ込みや、カードのactivation、残高管理、不正利用のモニタリング、ユーザーサポート等のバックエンドや、ブランディング、マーケティング、流通含めた全ての業務をパッケージで提供している会社が存在する。

InComm:

visa, master, amex, discover, western union等大手クレジット会社、銀行のgeneral use向けのprepaid cardに関するバックエンドの仕組みを提供すると共に、EAやGoogle, iTunes等のデジタルコンテンツやstarbucks, macy’s, subway等のリテール向け、更にはAT&TやT-moのprepaidカードを手がけるこの分野におけるリーディングカンパニー。

FIS:

2014年度の売上が$6.4Bを越える巨大企業。元々はFNFという保険会社からspin offし、2005年に既に上場した会社。基本的にはpayment/金融networkとのI/Fとしてガスや水道などのonline paymentの仕組みや、トランザクションのfraud detection、トランザクションからactivity tracking/analysisを実施したり、payment/billing周りのbackendシステムを提供している。

Verient:

前職時代のportfolio。FISと同様に金融機関のback endサービスを提供するstartup。特に機能限定型のcredit cardを既存の仕組みに手を加える事なく実現可能とするSaaSプラットフォームを提供している。例えば、カードの利用に関して時間や場所、商品等を限定する事ができ、子供向けに渡したり、出張時のコーポレートカードとして利用することが可能となる。

mobile walletの台頭

paypal, google wallet, square wallet, looppayなど様々なdigital wallet/mobile paymentのサービスが出てきているが、その店舗でのトランザクションはまだ$3.5B(2014 年)を越えた程度であり、まだまだ発展途上のサービスと言えよう。

mobile payment 実店舗利用 (source: Statista)

やはり実店舗での利用となると、対応PoSの少なさや、既存のプラスティックカードの利便性を越えるUXがまだまだ提供できていないのが大きな要因だろう。mobile carrier連合で作ったISISやvisa, masterが独自で提供しているpaywaveやpaypassなどのNFCベースのpayment solutionも今のところ全く広がる気配がない。一方でappleが昨年発表したapple payはNFC + touch ID(指紋認証)をベースにする決済方法をとり、当初からvisa, master, amex等のクレジットカード会社、bank of america, chase, citiを始めとする数多くの銀行と当初から連携することを実現し、またretailもbloomingdalesやmacy’s, mcdonald, petco, staples, nikeなど含めた22万店舗が開始当初から対応する事とした。 そしてmobile appでもapple payに対応するアプリが数多く登場し始めていて、大きな期待を寄せられている。

NFCに関しては様々な取組みがある中で、昨年10月に法案が可決され、2015年10月よりEMV(aka chip-and-pin。クレジットカードに埋め込まれた電子チップ)の読み取りが可能なPoS/card readerの導入が必須となった。この事により、既存のcard readerが置き換えられる事となり、必然的にNFC readableなcard readerとなる事が予想され、対応が遅れていた店舗側の受入れも進む事となり今後NFCが飛躍的に伸びていく可能性が高くなった。余談だが、この辺の政府の動き(あるいは政府へのlobbying)も含め、またtouch IDやPassbookの過去何年かに渡る試運転も含め、相当前からapple payの準備をしてきたと思われるappleのproduct戦略は本当に感心する。

prepaid cardの今後

apple payを含めたmobile paymentが今後爆発的に伸びていく事が予想されるがまだまだ普及には時間がかかるだろう。一方でprepaid marketも順調にそのトランザクションのボリュームを伸ばしており、しばらくは時間的なleewayがあるように思える。但しgeneration z、いわゆるdigital native世代(2000年前後生まれ)が社会に出る3〜5年後にはかなり違った景色になっているだろう。

少なくとも金融の仕組みがドラスティックに変わる事はないのでcredit cardを含めた金融機関は既存のままであると思うが、”last 1 inch(財布とレジ間での距離)”に関しては今のところappleが優勢でその他どこが残るか全く想像が付かない。特にandroidベースのスマートフォンではgoogle walletですら地位は盤石ではないので、うまく間隙を縫って台頭してくるplayerがいてもおかしくはないだろう。

またNFCに関しては、secure elementというセキュリティの根幹=サービス主導権の源泉をなす部分のインプリに関して4つの方式が用意されている。vertical integrationができるiphoneは別として、どのインプリ仕様を取るかによってmobile vender, mobile carrier, financial institutionそれぞれが主導権を握るチャンスを持っており、互いに睨み合いが続いている。端的に言うとsecure elementをどこに持つか(外だしにするのか埋込にするのか。iphoneは埋込)が論点なので、pebble等のsmart watch、fitbitなどのfitness、sony coreのようなactivity trackerなどwearale + 個人認証(w/ biometrics)にも実はチャンスがあったりする。(この点に関しては別の機会でまた議論したい)

何れにしても5〜7年後には店舗/金融機関/アプリ諸々含めたインフラの整備も相まって、プラスティックカードは年寄り世代だけの物になっているかもしれない。個人的にはgift利用に限った話しでいうと、「電子的に送っておいたからwallet確認しておいて」、というやり取りよりも、やはり対面で直接手渡しした方が貰う側も渡す側も気持ちの面での価値が高いような気もするけど、それは年取った証拠なのかもしれない。

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Daisuke Minamide(南出 大介)
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a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.