損のない宝くじ, PoolTogetherへの質問/回答

Taisuke Horitsugi
DeFi Japan
Published in
15 min readSep 1, 2020

8月27日(木曜)に、PoolTogetherのfounder, LeightonさんをDeFi Japan Telegramに招いてAMA(Ask Me Anything)を行いました。1時間、DeFiに関心ある人々が直接彼らにチャットで質問していきました。

DeFi(Decentralized Finance, 分散型金融)について考えるために面白いやりとりが見られたので、PoolTogetherの概要とともにブログでまとめます。

当日のやり取りは、以下のリンクから直接スタート地点へ飛べます。

PoolTogetherの基盤は Compoundプロトコル

PoolTogetherは、有名なDeFiプロトコルCompoundを活用したプロダクトです。従ってまず、Compoundの仕組みを簡単に理解することが大切です。

Comopundはトークンの貸し借りをスマートコントラクトで行うマーケットです。

「使わないトークンがあるから貸したい」人はCompoundのスマートコントラクトにトークンをロックします。世界中の貸し手でトークンのプールを作ります。

「借りたいトークンがある」人は、貸し手が作ったプールから、借りたいだけを借りていくことができます。

借り手は返済時に利息も支払い、貸し手でその利息を分け合う仕組みです。これらは全てスマートコントラクトを介して行われ、確実な執行と透明性が確保される、代表的なDeFiプロダクトの一つです。

詳しい日本語での説明は、以下の記事を読んでみてください。

PoolTogether は、No loss lottery (損のない宝くじ)

PoolTogetherは、このCompoundを最大限に活用します。ユーザーは、PoolTogetherのスマートコントラクトへDAIなどステーブルコインをデポジットします。元気玉のように貯まったステーブルコインを、一括でCompoundへ一定期間貸し付けます。

https://www.pooltogether.com/#learn から改変

貸したステーブルコインはCompoundプロトコルにより借り入れに利用されるため、貸している一定期間のうちに利息を稼ぐことができます。

期間が終了すれば、Compoundから資金を引き上げます。このとき、元本と共に利息分のステーブルコインも追加されています。

Compoundで利息が生まれる

全員が自分が出したステーブルコインを引き出します。しかしくじによりたった1名のみ、賞金として利息分と共にコインを引き出すことができます。当選確率は参加金額に比例します。

Winner takes all

全員が問題なく拠出したコインを取り戻せるため、誰も損をする人がいません。ただ、くじに当たったラッキーなユーザーのみ、賞金として利息を享受できます。これが “No Loss Lottery (損のない宝くじ)” です。

AMAで出た質問と回答まとめ

以下に質問と回答を列挙していきます。答えてくれたのはFounderの Leightonさんです。

※質問の順番はカテゴリ分けのため変更しています。

PoolTogetherプロトコルについて

PoolTogetherは既存金融のどんな課題を解決するポテンシャルがありますか?

伝統的な金融を大幅に進歩させることができると思っています。プロトコルのオーナーシップをユーザーに与えることが大きな秘訣になるでしょう。とてもエキサイティングなことですし、ブロックチェーンを使った開発の最も素晴らしい所です。

そしてもう一つ考えがあります。既存の金融システムを置き換えたり、解決しようとしているのではなく、私たちは単により良いシステムを構築しようとしているのです。例えば車は馬を全て置き換えたわけではなく、よりよい移動手段として発明されました。金融システムを全て置き換えようとするのでなく、ベターなものを構築したいですね。

今後も「損のない宝くじ」を集中して開発、改善していくつもりですか?もしくは少し違うプロダクトを開発する予定はありますか?

Good question! ここ半年の間で、PoolTogether プロトコル V3をローンチすることに集中してきました。おそらくあと2週間程でできると思います。

バージョン3でもキーアイディアは「損のない宝くじ」で変更ありません。しかし、遥かに柔軟に設計されています。例えば、賞金の配布方法をカスタマイズできる “prize strategies” です。

また、利息を得るソースをCompound以外にも拡大できます。つまり、同じコンセプトで取り組みつつ、より広い柔軟性を持たせようとしています。

Compound以外でも利息を得られるのは素晴らしい!

はい、まずCompound上のアセットは全て取り扱い、すぐに他のプロトコルも利用できるようにします。AAVE, Curve, yearn を考えています。

“prize strategy”についてもう少し詳しく教えてください。

Yes! クールな設計ですよ!PoolTogetherにはアップグレードできないスマートコントラクトである “prize pool” があり、これがユーザー資金を抱え、利息を稼ぐプロトコルと通信する役割を持っています。 “prize strategies” はそれと異なるコントラクトで、利息の分配方法を規定します。例えば、「毎日10人のwinnerを決める」「月に1回1人の勝者を決める」「利息の半分は寄付する」などが考えられます。規定したいロジックを自由に決めることができます。

次のバージョンでは、勝者にはどれくらいの利息が払われる予定ですか?

目標としては、1週間で $10,000 を設定しています。この目標は以下の条件が上手く重なれば可能であると考えています。

  1. Compound以外の収益源を追加して利息を増やす
  2. リファラルを利用してユーザーを増やす
  3. ステーブルコイン以外でも参加できるようにする

勝率も、参加者の数によって変わりますよね。

その通りです。プールには2種類のデポジットがあり、それが “sponsored” DAIです。これはプールが利息を得るのに貢献しますが、賞金を得ることはありません。もう一つが賞金対象となる “tickets” です。現在のところ、DAIプールは475,000DAIが tickets であり、341,000DAIが sponsored です。

だから、仮に1DAIで参加すると、勝率は 1/475,000 になります。最近のラッキーな人は、4DAIで参加して700DAIを手に入れました。今までで最もラッキーな人は、10DAIの参加で1,650DAIの賞金獲得でした!

V3 の勝率はどうなりそうでしょうか?

ユーザー数によるので何とも言えませんが…、$10,000 のゴールのためには少なくとも $12,000,000 の参加が必要になります。

開催期間が長く、賞金金額の大きな抽選会を行う予定はありませんか?

はい!V3で可能になります。異なるプールで、そういった異なるパラメータを持つモデルに移行します。

最近、ガス代が高騰しています。Layer2ソリューションの活用等は予定していますか?

確かに参加者は減ってきていますね。少額参加より、大金での参加も目立ちます。

L2を考えてはいますが、真剣に検討する前に、今は新しいプロトコルリリースに集中しています。新プロトコルは消費ガスも少ないし、この問題にも貢献するはずです。

どの様にして今のプロダクトの形に行き着いたのでしょうか?

2019年2月のEthereum Denver ハッカソンに参加してみましたが、そのときは業界の誰のことも知りませんでした。以前に ”損のない宝くじ” のアイディアを読んだことがあったのでハッカソンでも取り組んでみたのですが、何の賞も得ることができませんでした。しかしその時、共同創業者となる2人と出会うことができました。Ethereum Denverの後は個人的に給与を支払い、1週間だけシンプルなプロトタイプを創り上げ、監査費用を支払うためMakerDAOの助成金に申し込みました。この助成金を使ってメインネットをローンチすることができました。Makerから他の助成金も受け取り、現在のバージョンを完成させることができました。今は出資を受け、もうすぐバージョン3をリリースできそうです!

MakerDAOの助成金がなければ、今ここにはいないでしょうね🥰

カンファレンスで共同創業者と出会えたんですね!

Yes! 最初は請負として1週間雇っていたのですが、結局PoolTogetherを共同創業することになりました。

これがローンチしたV1サイトです。

イーサリアムコミュニティの先駆者になるために大切なことは何でしょうか。

流れが本当に速いため、とても難しいことですよ!最重要事項は、ユーザーとの信頼関係を強め、セキュアで安定性のあるプロトコルを作ること。2つ目は、常に改善し、アップデートを提供し続けること。この2つの目標は仕事を難しくすることも確かです。例えばセキュリティのためには、他の進捗を遅くする必要があります。しかし先駆者として、高い水準を保ちたいと思っています。

加えて、何にチャレンジするか、何にチャレンジしないかを明確にするのも大切です。何があなたのプロダクトに不可欠であり、何は変更可能な部分なのか。

バージョン3の最新情報はどこで得ればよいですか?

来週にユーザーに協力してもらいテストを行います!興味あればDMをください。ローンチしたらこのチャットにリンクも投稿しますね。

アップデートはTwitterでも見てください!Discordもよく使っていますよ。

https://twitter.com/PoolTogether_

最近のYield Farmingブームと監査、資金管理について

最近のYield Farmingでは、監査のないものに大金を注ぎ込むことも見られ、危うく感じることもあります。スマートコントラクトを安全にするために、監査の他に必要なものはありますか?

Good question!はい、私の考えでは監査の他に、

  1. コードのテストカバレッジが徹底されているか、がとても重要です。私たちも、常に100%のテストカバレッジを意識しています。テストネットにデプロイし、テストを徹底することです。
  2. 信頼できるコードを可能な限り再利用することです。私たちもGnosis Safeを多く活用しました。
  3. システム自体の設計が安全かどうかも大切です。理想を言えば、資金はアップグレードできない最小限のコントラクトに入れる設計とし、資金移動に関するロジックは別のコントラクトに規定すべきです。

主にこれらが重要だと思います。バグバウンティも大きな助けになりますね。

しかし、普通の人々はソースコードが読めません。監査以外にどのようにセキュリティに関する情報を得ればよいのでしょうか?

とてもいい質問ですね!プロジェクトはもっと情報を明確にすべきだと思います。私たちもサイトのデザイン刷新に取り組む理由の一つもそこにあり、新デザインでは、セキュリティ情報が明確に伝わるようにします。何がリスクになるのか、テストカバレッジはどうか、どの監査を受けたか。もしプロジェクトがこれらを提示できないなら、個人的には利用しないと思います。

例えば私は、”YAM 🍠” には決して資金を入れませんでした。とても興味深い取り組みでしたが、個人的には利用できませんでした。

DeFiは実験やトライアンドエラーの場所として見られることもありますが、コード監査など、高い信頼に値するものもありますね。

その通りですね。実験は素晴らしいですが、個人的な資金に関わる部分に関しては、深く考えるべきだと思います。

多くのプロトコルはYeild Farmingをしている状況なので、規模拡大のためにもそれを取り入れなければ不利になりませんか?

Yeild Farmingの偉大なイノベーションは、プロトコルのガバナンスとコントロールの元、プロトコル利用者に報酬を与える仕組みであることです。私はそれが素晴らしいと思うので、絶対に導入したいと思っています。しかし、Yield Farmingは非常に広い用語で、多くの異なる行動やデザインを含んでいます。私たちは、それが良いコミュニティと分散化を構築するという目的に真に貢献するものであるのか、そして短期的で投機的なものではないか、常に確認して行動したいと思っています。

また、Yield Farming でよく見られるような、一部のwhales(鯨)にプロトコルをコントロールされないことを確認したいです。

これらにはまだイノベーションの余地があるでしょう。

プロトコルのマネタイズ、開発費について

マネタイズはどうする予定でしょうか?

Good question! 私たちの最優先事項はプロトコルの分散化です。プロトコルのマネタイズは合理的だと考えていません。フォークインセンティブを強めてしまうからです。一度プロトコルが自律的に動くようになれば、プロトコルを使いやすくするようなソフトウェア開発に移ります。これこそ、マネタイズに関して最も合理的だと思います。つまり、consumer levelでのマネタイズです。

Consumer level, とは何でしょう?具体的に説明していただけますか?

Yes! 私が考えているのは、ユーザーにプロトコルサービスを提供したいと考えている既存の金融企業です(銀行はその一例です)。彼らは簡単にプロトコルを利用し、顧客へ提供するためのツールが必要になります。

マネタイズに対する考えは素晴らしいですね!しかしそのプロセスは長期的です。その間、チームの開発モチベーションを高く保てるのでしょうか?

素晴らしい質問ですね!確かにそれは簡単ではありませんが、最も大切なことはプロダクトを改善し続けることです。進歩こそが、私たちのモチベーションを保っています。

日々の開発費はどのように賄っていますか?

去年受けた出資でやりくりしていますね。

マネタイズのためのトークン発行も考えないのですか?

トークンは素晴らしいと思いますが、うまく設計されていなければむしろプロトコルを傷つけてしまいます。個人的な見解では、トークンは投機的でないものがベストです。プラットフォームのガバナンスを表すためにあり、価値を表すものではありません。こういったトークンは分散化に役立つでしょう。

Uniswapが成功しているのもそこに理由があるかもしれませんね。彼らはトークン発行していません。

そう思います! Uniswapはプロダクトを常にシンプルに保ち、素晴らしい仕事をしています。将来的にはトークン発行があるかもしれませんが、投機的なpump&dumpスタイルのトークンにはならないと思います。

終わり

Telegram AMAは1時間でしたが、あっという間に終わりました。事前に質問募集していましたが、時間の関係で触れられなかった方々、申し訳ございませんでした。

ぜひ今後も、DeFi JapanのTelegramや、毎月のオンラインイベント やさしいDeFi にて話し合い学んでいきましょう 👩🏻‍🏫

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