Compound概要と、DeFiを揺るがしたCOMP祭りの内幕
Compoundは、Ethereumで展開されるDeFi (Decentralized Finance, 分散型金融) で最も多くのユーザーを集めるレンディングプロトコルです。
そのCompoundが最近、プロトコルトークン “COMP” のユーザーへの配布を開始したため、国内外のDeFiユーザー/イーサリアンが狂喜乱舞する事態となりました。
このブログで、
- Compoundの概要
- COMP祭りの内幕
を簡単に説明します。
Compoundはレンディングプロトコル
Compoundは、EthereumのDeFiアプリケーションです。ユーザーは、ETHやステーブルコインなどのトークンを自由に貸し借りできます。
Supply (トークンを貸す)
Compound.finance にアクセスすれば、余っているETHやトークンを貸し出して利息を得ることができます。
それぞれのトークンごとにAPYが表示されています。例えば現在、DAIを貸すと年間で 1.09% の利息がつくことになります。現在は利率が落ち着いていますが、利率は需給バランスにより自動決定されるシステムであり、それゆえ常に変化します。
貸し出している途中から利率が上下すると、その利率が適用されます。10%近くの利率がつくことも珍しくないので、現在の利率に関わらず使わないトークンを貸し出しておくのも一つの有効な運用方法です。
貸し出したトークンは、特定の誰かを指定して貸すわけではありません。ユーザー全ての貸し出しトークンは、スマートコントラクトにプールされることになり、借り手は貸し手全員で作ったプールからトークンを借りてゆくことになります。この方式により、
- 貸したトークンをいつでも引き出せる
- 相手方を待つ必要もなく、貸し借りの流動性が高まる
といった利便性を実現しています。トークンはいつでも引き出せますが、例えばAPY12%の状態で貸し出し、APYが1ヶ月間不変であれば、1ヶ月後に1%の利息と共に元本を引き出せる計算です。
慣れると、cTokenと呼ばれる貸金債権トークンを利用し、単に貸し出す以上の運用ができるのもCompoundの便利なところです。
Borrow (トークンを借りる)
貸す人がいれば、借りる人もいます。
上図の例では、DAIを年間1.61%で借りることができます。貸した際の利息と同じく、需給により常に変化します。
借り入れたい場合は、トークンを担保に入れる必要があります。Compoundでは、貸し出し = 担保供与 とみなします。つまり、トークンを貸したものだけがトークンを借りることができます。当然、借りたトークンを返済しない限り、貸したトークンを引き出すことはできません。
利息を払ってもトークンを借りるメリットは、
- 自己資産を売却せずにステーブルコイン借りて運用する
- 借りたトークンをショートする
- 他プラットフォームとの金利差を狙う
などがあります。
それぞれトークンに担保率が設定されており、例えばETHを貸し出す(担保にする)と、貸したETHの75%までの額を借りることができます。担保価格が下落もしくは借り入れトークン価格上昇により担保率を下回れば、担保トークンは競売にかけられ、割安価格での担保売却を余儀なくされます。
Compoundの規模
現在Compoundには、貸し借りの8つのマーケットがあります。
表を見ると、最も大きな貸し(supply)プールはETHで、約9000万ドルです。ETHは主に他トークンを借りる担保としてたくさん提供されるので、貸す人に困らず、利率(Supply APY) はほぼ0%になっています。
貸し出しプールの合計は2億6000万ドル、借り入れは合計約6900万ドルです。借り入れる人は精算を避けるため、かなり余裕を持って担保を提供します。従って総貸出額は総借入額を大きく上回ります。
defipulse では、DeFiプロトコルのスマートコントラクトへロックされているトークンの金額が一覧になっています。このサイトでは一部のトークンしかカウントしていないため実際の額とは大きく離れていますが、CompoundはステーブルコインDAIを発行するMakerDAOに次ぐ大きなプロダクトに成長していることが分かります。
分散ガバナンスのためのCOMPトークン
そのCompoundは今まで、Compound開発チームが以下の重要な仕事を担っていました。
- 取り扱いトークン決定
- トークンごとの利率決定ロジック
- オラクル(価格情報取得先)メンテナンス
しかし、Compoundはパブリックチェーン上のプロトコルであるため、開発チームという単一障害点を無くし、永続的にステークホルダーの分散ガバナンスにより運営していくことがローンチ当初より予定されていました(white paper)。
そのために発行されたのが、CompoundプロトコルのガバナンストークンCOMPです。Compoundへのコミットメントの大きな主体にCOMPトークンを分配し、そのメンバーによる分散ガバナンスを実現します。
COMPのディストリビューション
COMPはあくまでも分散ガバナンスのトークンであり、資金調達手段ではありません。従ってICOは行わず、VCや開発チーム保有分を除いた残りを、Compoundで貸し借りをしているユーザーに配布します。
総発行COMP数は1000万COMPで、そのうち4,229,949COMP (約42%)がCompoundユーザーへ、利用に応じて無料配布が行われます。
Ethereumの1ブロック(約15秒)ごとに0.5COMPが、マーケットの金利に応じて割り当てられます。高い金利のマーケットに参加している貸し手/借り手ほど、たくさんのCOMP配布を受けることができます。
1日の配布量は2880 COMPであるため、42%全てが配布されるまで4年かかります。当然、ユーザーが増えると一人あたりの配布は減ります。
COMP保有者がCompoundの将来を決定するガバナンスシステムであるため、ユーザーコミュニティを活発にするためにも、約半分がユーザーへの分配にあてられているわけです。
COMPはあくまでもCompoundのガバナンストークンです。用途はガバナンス参加のみで、投機を促すような機能は組み込まれていません。そもそも資金調達のためのトークンですらなく、発行側は対価を得ず、4年間でゆるやかに、全てのユーザーに配布する予定です。
COMP、Uniswapで暴騰
こういった特徴を持つCOMPトークンの分配が、2020年6月15日頃にスタートしました。ユーザーへのゆるやかな分配が始まったCOMPトークンですが、おそらく何人かのプライベートセール組が、早々とUniswap(DEX)にCOMPトークンを上場させます。
すると、投機の加熱に加えて疑わしい価格変遷もあり、COMP価格が暴騰、時価総額10億ドルを超え、CompoundがDeFiにおける初めてのユニコーンとなりました。
当然、Uniswapという小さな市場でアルゴリズムにより決定した価格であるため、本当の時価総額10億ドルの価値はありません。
Compound利用を加速させるツール
本来COMPは投票するためだけのもので何の機能もありませんが、
- ガバナンスにより、Compound収益をCOMP保有者で分け合う決定がなされるだろう
- 出資やプロダクトでCoinbaseと強い繋がりがあり、上場が見込まれる
- 実際にUniswapで凄まじい価格がついている
主にこの3点により、COMPのユーザー配布を受けるためにCompoundを利用する人が爆発的に増加しました。COMP配布は金利に比例するため、高い金利を支払ってでも借り入れをする強いインセンティブが生まれることになりました。
”COMPマイニング” を後押しするツールも生まれます。
COMP配当計算ツール
COMPの配布ロジックは決定しているため、貸し借り合計を入力するだけでAPY(年間収益)が出るツールがあります。
この計算ツール (非SSL化)は当初、COMP時価総額が1億ドル想定で作られていました(個人的には2億ドル~ 4億ドルあたりが妥当だと思います)。
それでも、1万ドル分のステーブルコインを貸すだけで、年間1000ドル以上のCOMPがもらえる計算が出ていました。普段の金利は別でつくため、これでもかなりよいリターンであるといえます。
しかし、後にCOMP時価総額が10億ドルまで上昇してしまったため、想像し難いリターンをはじき出すようになってしまいました。
こちらはCOMP時価総額が9億5000万ドルのとき、1万ドル原資にCompoundで強めのレバレッジを効かせて計算した結果です。返済すべき利息と相殺しても、年間で3万7754ドル分のCOMPが配布される計算です。リスク管理を怠らなければ、約370%のリターンです。
COMP原理主義者の支持を集める InstaDapp
こんなリターンを目の当たりにすることで、多くの人々がCOMP原理主義者となりました。COMP原理主義者は、節操なくCompoundにお金をつぎ込むことを選びます。
InstaDapp は、そんなCOMP原理主義者の匂いを察知し、ありがたいツールを準備したDappsの一つです。
InstaDappは、MakerDAOやCompoundの利用状況を直接バックエンドで繋ぎ、DeFiにおける資産管理を簡単にしてくれるスマート・ウォレットです。
InstaDappは COMP配布に間に合わせ、Compound管理ダッシュボードにて “Maximize $COMP mining” 機能を付け加えました。
この機能は、Compoundのシンプルな貸し借り機能を最大限応用し、レバレッジを簡単に効かせてくれるとても便利なツールです。
例えば、1万USDCを保有していたとします (1万ドル相当)。これを、全額貸し出すだけなら、単なる “1万ドルの貸し” ポジションです。
しかし例えば、USDCとDAIの2つのステーブルコインを利用して、
- 貸した1万USDCを担保に、7000DAIを借りる(担保率70%)
- 7000DAIを7000USDCに交換し、7000USDCを追加で担保に入れる
- 追加担保の7000USDCから、更に4900DAIを借りる(担保率70%)
- 4900DAIを4900USDCに交換、4900USDCを更に担保へ
- 追加担保の4900USDCから、更に3430DAIを借りる(担保率70%)
のようなループを行うと、1~5を経た後のポジションは、
- 21900USDCの貸し
- 15330DAIの借り
となります。原資1万ドルで、総額3万7230ドルのCompoundポジションを持つことができ、COMP配布のために大きなレバレッジを効かせることができます。担保率70%でこれを最大まで続けると、
- 約33000USDCの貸し
- 約23000DAIの借り
まで高めることができます。このようなレバレッジは通常とても危険ですが、ステーブルコイン同士の価格変動リスクが低いことから、COMP獲得のためには有効な戦略となりました。1万ドルの原資で、かなり大きなリターンを得ることができます。
InstaDappの “Maximize COMP mining” 機能は、この面倒で複雑な貸し借りの繰り返しを1トランザクションで完結してくれます。
担保資産と借り入れ資産を選び、さらに自分のリスク志向に合わせて担保率を選べば、最大限に上記のような貸し借りを一度で繰り返してくれます。何の手間もかかりません。
このとても便利な機能を使うため、InstaDappを使うCOMP原理主義者が増加しました。
(実は、このレバレッジ方法はDeFi使いにとっては日常なので、Instadappはずっと以前から全く同じ機能 ”Leverage” を提供しています。しかし彼らは流行りに乗り、あえてCOMP用にラベルを変えて機能を付け加えてマーケティングに成功しました。)
USDTの存在感
常に疑惑がつきまとっていたTether社発行のステーブルコインUSDTは、最近Compoundでもマーケットが追加されました。
USDTの利率決定ロジックでは少し高めの利率が出ることもあり、他に比べて貸すにも借りるにも高利率です。
さらにUSDTのイメージもよくないため、他のステーブルコインに対してドルペッグの信頼性を低く見積もられることがあります。
これらの要素から、自然とユーザーには、
- USDTを貸し借りしてCOMPマイニングを効率化したい
- USDTを他のステーブルコインに対してショートしたい
といった意図が出てきます。
そういったユーザーはInstaDappなどのツールを使い、ひたすらUSDCやDAIを担保にUSDTを借り入れ、USDTをDAIかUSDCに変えてまた担保に入れ、またUSDTを借りる……といった行動に出ます。
COMPもたくさんもらえるし、さらに借金であるUSDTが暴落すれば、返済額も小さくて済むからです。
その結果、USDTがCompoundで最も重要なトークンになってしまいました。
USDTを扱うことはリスクを伴いますが、CompoundではUSDTを担保として利用することができません。USDTをいくら貸しても、1円も借りることができません。これは、プロトコルとしてはUSDTリスクを負わなくてよいことを意味します。
COMPブームに乗る Curve.fi
比較的精算リスクの低いステーブルコインペアのレバレッジでCOMPを最大限に得ようとするプレイヤーが増えたため、DeFi上でステーブルコイン同士の交換需要が激増します。
ステーブルコインのプールを作り、ステーブルコイン同士の交換を促進する交換所 Curve.fi の取引高は24時間で1800万ドルを超えました。
もちろんUSDTが取引高の多くを占めています。
これら、Compoundに影響を受けたDAppsを確認すると、DeFiプロダクトが如何にそれぞれのプロトコルを利用することで成立しているのかが分かります。
現在の利率
このように、多くの資金がCompoundに流れてしまったため、一人あたりのCOMP配分は大幅に減少することになりました。6月17日現在でも、レバレッジを使えばAPY100%ほどは出ます (COMP時価総額700億円想定)。
ただ、長期的にCOMP時価総額はかなり落ち着くでしょうし、利率も低くなるでしょう。
- レバレッジにまつわるリスク
- スマートコントラクトのリスク
- 返済時の流動性リスク
などもありますし、チャレンジする方は計画的な利用をしてください。
DeFiトークンの新しい分配方法
Compoundのようなパブリックチェーン上のDeFiプロトコルは、公平性のあるトークンディストリビューションが不可欠です。以前まではICOが目立っていましたが、Compoundのような新しい方法も模索されています。
今はクリプト全体のマーケットも活気を取り戻しつつあり、なおかつ圧倒的存在感を放つCompoundのトークン配布であったため、歪んだ市場を作り出し、いい意味でも悪い意味でも話題を独占してしまいましたが、ICO一辺倒の時代よりはフェアで信頼できる方法が考えられつつあることはプラスであるかもしれません。
追記: 予想以上のバブル
日本時間の6/15日深夜頃にCOMP配布始まり、上記のようなストーリーを書きましたが、その後すぐ6/18 に Coinbase Pro の上場が発表されました。
段階的に $COMP 売買をスタートさせます。
(念のためですが、Coinbase Pro上場はCoinbase上場とは異なります。)
このニュースもあり、COMP価格はとどまることを知らず、$230近くまで上昇します。
20億ドル以上の時価総額は、
- MakerDAO (MKR)
- 0x (ZRX)
- Kyber (KNC)
- Synthetix (SNX)
- AAVE (LEND)
などDeFi上のトップトークン全て合わせても遥かに及ばない金額で、Compoundの実情を表していないことは誰の目にも明らかです。
しかしたくさんの投機的な買いが集中したことと、
- 初期保有組は露骨に売ることはできない
- 売り圧候補のCOMP配布は1日2880 COMPのゆったりペース
といった理由から、なかなか価格を急激には下げれないかもしれません。
クリプト全体にお金が流れ始めている中、投機買いを避けることは不可能ですが、ロックアップを厳しくしたり、上場時期を遅らせるなどすると、もう少しコミットメントの高いCompoundユーザーに配布できたような気がします。