デザインに必要なのは「ユーザビリティ」だけじゃない。そそるデザインを作る方法
その名も「デザイラビリティスタディ」
日本では、サービスの開発やUXデザインの文脈で最も注目される機会が多いのは「ユーザビリティ」だと思います。これは、UXデザインの源流にメーカー由来のユーザビリティ工学があることがその理由でしょう。
しかし、今やモノづくりの枠を超え広範なものとなったUXデザインにおいては、ユーザビリティを突き詰めるだけでは不十分です。何故なら、ユーザビリティのみを突き詰めたものは「問題がない製品」にはなっても「感動を与える製品」にはならないからです。
「問題がない製品」のままでは、その他大勢の製品やサービスに埋もれてしまいがちです。そこで登場するのがデザイラビリティ(=望ましさ)、もう少し砕いて言えば「人々にとって望ましいデザイン」「そそるデザイン」といった感じでしょうか。
ちなみに、デザイラビリティは「desire(欲求・願望・想い)」が語源で、「desirability」と書きます。design-abilityではありません(自分も最初勘違いしました)。
デザイラビリティとは、そそるデザインかどうか
さて、上記のエクスペリエンスホイール(のピンク色の部分)によると、デザイラビリティは戦術的にはグラフィックデザインの領域であり、また下記の5つの要素があることが分かります。
- カラースキームとコントラスト
- メディアの使用
- グラフィック要素
- タイポグラフィ
- 要素配置
これらの要素が人々・ユーザーにとって望ましく、そそるものなのかどうか(使いたくなるか・買いたくなるか)が、デザイラビリティです。
そしてあなたのサービスのデザイラビリティを良くする手法が、デザイラビリティ調査、デザイラビリティスタディと呼ばれるデザイン手法です。
デザイラビリティ調査(デザイラビリティ・スタディ)
今回紹介するのは、デザイラビリティ調査の中でも、Microsoft製の「Microsoft Reaction Card Method」という手法です。
おおまかに説明すると、制御された単語での語彙テストによってデザインに対する人々の態度を測定する手法です。特定のユーザーにある単語リストを与え、その中からデザインを最もよく表すものを選択してもらいます。
この手法の主な効能は、任意のデザインやテイストが特定ユーザー層に与える印象を言語化できることです。これにより、デザイナーでなくても、自分たちの製品・サービスのデザインがどういうものであるべきかを明確に認識することができるようになります。
では、以下で手順ごとに説明していきます。
1. テスト対象となるユーザー層を選定する
まずは、テスト対象を決めます。あとでユーザー層別に比較するため、年齢や性別などで分けたユーザー層の内、対称的な層を2つ選びましょう。
今回は主にAという層向けのデザイラビリティを発見しようとしており、仮にターゲット層を4象限で分けそれぞれをABCDとし、A層と対称的な層としてBを設定したとします。そのため、テスト対象はAとBとなります。
2. テスト時に見せるデザインのスクリーンショットを4つほど集める
次に、テスト時にインタビュイーに見せるデザインを選定し、スクリーンショットや操作不可能なモックアップ、ドキュメントデータや紙などのペライチに収めます。
操作できるウェブサイトやプロトタイプではなくペライチで提示するのは、操作感や機能への評価が美的感覚の計測のノイズになってしまうためです。
提示する中身は、想定しているテイストに似たデザインサンプルや競合他社のウェブサイトを選んで集めるとよいでしょう。数は4〜6個がオススメです。この時、比較対象としてテイストの異なるサンプルを1つ以上混ぜておきましょう。
また、サンプルを集める際、有名すぎる製品・サービスは選定しないようにして下さい。認識にバイアスがかかってしまうことが予想されます。そういったサービスを選定せざるを得ない場合は、ロゴを隠したり改変する工夫を施します。
尚、自分たちでデザインの1枚絵を作っても構いません。
3. それぞれを1(魅力的でない)〜7(魅力的)で評価してもらう
サンプルをインタビュイーに提示したら、まずはそれぞれのデザインを1〜7で評価してもらいます。この時の基準は、魅力的か否かのみです。
4. それぞれにあてはまる印象を、あらかじめ用意する単語カードの中から選んでもらう
次に、それぞれのサンプルがどういう印象なのかを、あらかじめ用意する単語のリストから5つ選んでもらいます。
使用する単語カードは、Microsoftが設計したリストを使用します。感情と繋がりのある単語が選定されています。ただしこれは英語のリストのため、日本語に訳しておくといいでしょう。
Desirability Toolkit (.doc)
このリストには118個の形容詞が入っています。しかし118個の言葉の中から5つを選ぶのは一般的に困難で、疲労や倦怠を感じさせてしまいます。そのため、25個以下を選んでピックアップしましょう。ただし、単語を選出する際には次の点に注意して下さい。
- 使用されると想定される言葉と目指している印象に近い言葉両方を選ぶ
- 機能やコンテンツのパフォーマンスに関連する言葉を削除する(「制御可能」「技術的に」「遅い」など)。ターゲット層の美的感覚を測定するのが目的のためです。
- 単語は、毎回ランダムに提示しましょう。インタビュイーがカードの順番を憶えて他のカードを見ずに選出するのを防ぐためです。
- できるだけ否定的・中立的・肯定的な言葉全てを含めましょう。
5. 魅力ポイントの平均ポイントをユーザー層別に出し、比較する
ある程度の人数に聞いたら、分析を行います。
まずは1〜7で評価してもらった魅力ポイントの平均をユーザー層別・パターンごとに出し、数値及びグラフで比較します。
6. サンプルに付けられている単語を、ユーザー層別にランキングし、基準サンプルを選ぶ
次に、それぞれのサンプルに付けられている単語を多い順でユーザー層別にランキングします。
そして、次の2点を最も満たしているサンプルを1つピックアップします。
- ユーザー層別の魅力ポイントが近い
- ユーザー層別の上位の単語に共通点が多い
同サンプルの魅力ポイントの差が小さく単語の共通点が多いほど、デザイラビリティを正確に測ることが出来ていると判断できます。
7. A層の方がポイントが高く、かつ最も差が開いたサンプルで比較する
最後に、A層の方がポイントが高く、かつユーザー層別の魅力ポイントに最も差が開いているサンプルに着目します。
同サンプルについてのA層でのランキング上位の単語が、B層では何位なのか、反対にB層でのランキング上位の単語がA層では何位なのかチェックします。
そして、A層で上位だった単語とサンプルをセットでデザイン方針として採用します。またターゲットであるA層とは対称的なB層で上位だった単語は、積極的にはずしていきます。
ここで出た結果が6で出た結果と異なっていた場合、デザイラビリティスタディは成功と判断し、デザイン方針を決定します。
簡易版
以上のやり方は定量的なアプローチのため、ある程度インタビュイーの母数が必要です。そのためクラウドソーシングサイト等を使ったオンライン調査で行うのですが、もし何らかの事情で予算や時間をかけられない場合は、簡易的に行います。
簡易版では、一般的なユーザーインタビューに1〜4のデザイラビリティセクションを用意します。そして、5以降の分析は短期的には行いません。何故なら、母数が少ない状態のため定量的に分析をすることは出来ないからです。中期的に、何度もインタビューを繰り返す中で定量情報へ昇華させていきます。