ペルソナが必要とされない事業におけるUXデザイン
諦めないこと。「顔」にこだわらずペルソナを作ること。
「ウチのサービスにはペルソナとか必要無い気がする」
多くの場合、それは勘違いです。
ターゲット層を特に絞らない事業・サービスの場合、ペルソナのような特定の属性・人格を想定するアプローチは無用のように思えるかもしれません。
もしあなたがペルソナの導入・策定を考えていても、周囲はその必要性に共感してくれないことでしょう。
例えば、旅行会社や鉄道、金融サービス、印刷サービス。あるいはブログサイトやクラウドファンディングサイトなども当てはまりそうですね。
ペルソナ不要論が起こりやすい上記のようなサービス群には、ある共通点があります。
それは、プラットフォームとしての側面が強い事業ということです。
こういった「特定の層にターゲットを限定しないサービス」というのは、顧客を開発・選択していくのが定石のリーンスタートアップやデザイン・シンキング、UXデザインの文脈から見るとやや不安に映ります。
「誰かに集中して価値を提供しない」という点が目立って、ともすると、まるで「誰にも価値を提供していないサービス」のように思えてくるかもしれません。
しかし、そこで具体的なユーザー像の形成を諦めることは2つの意味で誤りです。
- ペルソナは属性や人格を規定しなければいけないわけではない(ペルソナの本質への勘違い)
- 「誰にでも使ってほしい=全ての要求に応える」ではない
ペルソナは属性や人格を規定しなければいけないわけではない
「ペルソナが必要無い、ユーザーを限定しないサービス」において、私たちはどのようにサービスデザインを行えばよいのでしょうか?
その答えのひとつは、顔の無いペルソナを作ることです。
プラットフォーム的なサービス・事業の場合にペルソナが不要に見える理由は、そのペルソナの人以外にもサービスを使ってほしい人がいるからです。
そのため、まずは特徴や習慣・課題感・欲している価値を中心に据えます。そして、職業・年代・性別といったプロファイル情報を取り除きます。
これで、「その人以外にもユーザーになる人はいると思うんだけど」という事態を防ぐことが出来ます。
例えば「コンビニのコピー機で印刷できるアプリ」の場合なら、次のようなイメージです。
「家にコピー機が無い」というのは、かなり広範な人たちに起こり得るものです。「自宅にコピー機が無いのは20代・女性である」などと誰が言い切れるでしょうか。
このような広範なターゲット層を無理にプロファイル情報で定義すると、いつか必ず、チームのユーザーへの共通認識・理解への障害になります。こういった顧客定義は、仮説としても棄却すべきです。
だからといって、年齢や性別・職業ごとの全てにペルソナを作るのは運用面から見て現実的ではありません。(ペルソナの数は1〜6つが適正と言われています。)
そのためターゲット層が広い事業では、ソリューションに結びつく本質だけを使った「顔のない」ペルソナを作るのです。
誰にでも使ってほしい ≠ 全ての要求に応える
もう一つ、気をつけるべき点があります。それは、「誰にでも使ってほしいサービス=全ての要求に応えるサービス」ではないということです。
ユーザー層が広いサービスには、ユーザーから様々なフィードバックが日々降ってきます。
しかし、これらのフィードバックはサービス開発のプロではないユーザーによる思いつきなので、クリティカルな問題でもなければインサイトでもなく、重要度が低い表層的なものである可能性が存在します。
にも関わらずこれが意外なほど大きなノイズとなって、自分やチームの中で鳴り響き、ついついその要望に応えたくなってしまうことが多々あります。
先ほどと同じく「コンビニのコピー機で印刷できるアプリ」をモデルケースにするならば、例えば「複数の書類や画像をレイアウトして印刷したい」とか、「画像を編集できる機能が欲しい」とか、「印刷したものを届けてほしい」とか、「名刺サイズや大判サイズでも印刷したい」とか、「コピー紙じゃない良い紙でも印刷したい」といった要望がありそうです。
これら全てに応えると、”書類や画像をレイアウトして印刷できるし、画像も編集できるし、自分で印刷しなくても印刷して家に届けてくれるし、名刺サイズから大判サイズまで色んな紙で印刷できるサービス”ということになりますね。
一見便利そうですが、もしこうなってしまうと、どういうことが起きるでしょうか?
答えは明白です。
すなわち、プロダクトはコンセプトレベルでもUIレベルでもシンプルさを失い、特定のユーザーしか使わない機能の寄せ集めになります。ユーザーはユースケースをイメージしづらくなります。
また、既存ユーザーすらも次のような卑屈な言葉を遺して、離脱していくでしょう。
良いサービスだと思いますよ、色々できて。ちゃんと使いこなせる人にとっては便利です。でも、私には使いこなせないですね(笑)
こうして、あなたのプロダクトは多くの機能をきちんと使いこなせるほどリテラシーが高い人にしか使ってもらえないプロダクトになり果てました。
おかしいですよね、誰にでも使ってもらいたいはずだったのに。
どの要求に応えるべきか・応えるべきでないかを判別することが出来ればこんな事態にはならなかったはず。
前述した特徴や課題感・欲している価値が明示的なペルソナがあれば、それが出来るのです。(ペルソナが適切に運用・改善されていない場合を除いて。)
特徴や課題感、欲している価値を明文化するのには、以前紹介したリボンモデルを使ったペルソナ作りが役に立つかと思います。
まとめ:防波堤としてのペルソナ
ペルソナは「こういう人にしか価値を提供しない」というものに映りやすいので、周りからはユーザーを絞り込むためのものだと捉えられがちです。
しかし実際には、上記の例のように意図せずユーザーが絞り込まれるのを防いでくれる効果も持ちます。
これは「ユーザーの要求全てに応えないようにする」という効果があるからです。「応えるべきユーザーの要求を判別しやすくする」と言ってもいいでしょう。
しかし、プロファイル情報を含むペルソナを作ってしまうと、広範なユーザー層を持つサービスにおいてはチームの共通認識・理解への障害になります。
そこで、特徴や課題感・欲している価値といった本質的情報だけを記した「顔のないペルソナ」を作るようにするのです。