漫画村の広告出稿問題に関わる広告配信システムの裏側について解説
インターネット広告業界の現状/アドネットワークについて
漫画村の広告とは?
2018/04/15にねとらぼにて以下の記事が公開されました。
話題が話題だけに、かなり盛り上がっていますが、Twitter等の反応を見ていると、誤解されて広まっている部分もかなり散見されました。
現在のweb広告の配信についての裏側がどうなっているかについて解説していきます。
問題点はどこなのか、なぜこういう状態になったのかの理解に役立ててください。
広告主は悪…とも言い切れない
「広告主も代理店もどこのサイトに広告が配信されているか知らない」というのが現状です。
違法サイトに広告を出しているから広告主が悪い!
とされていますが、実は知らずに配信されている可能性が高いです。
web広告の配信システムは収益の最大化を目指して最適化を繰り返してきました。 結果、裏側がとんでもなく複雑になってしまっています。
ねとらぼの記事では以下のようなやり取りがされています。
――それはご迷惑をおかけしました。B社では漫画村を指定して出稿していたのでしょうか。
B社代表:いえ、アドネットを使用していた関係でそうなっていただけだと思います。弊社から指定したことはありません。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/15/news021_2.html
より引用
「弊社から指定したことはありません」
すごく嘘くさく見えますが、広告配信の裏側を見ていくと、必ずしも嘘とは言い切れないのです。
この辺りに触れながら、広告配信のフローと、なぜ違法サイトへの広告配信を止められないのかを解説していきます。
「アドネットワーク」とは
ねとらぼさんの記事にも登場した「アドネットワーク」これがキーワードです。
(記事内では「アドネット」と記載されていますが、業界的には「アドネットワーク」が用語として使われています。本記事ではそれに従います)
アドネットワークの持つ主な役割は以下の通りです。
- 代理店から入稿があったバナー広告等を在庫として一括管理する
- 各webサイトと連携し、在庫の中から広告をサイト上に表示する
- ユーザーの属性情報を元に、サイト閲覧者の興味のありそうな広告を選定する
日本だとGeniee、海外だとRubiconProject等が有名で、GoogleAdsenseもアドネットワークの一つです。
ユーザーのCookieや属性から、その人にあった広告をサイトに表示することができるシステムも、アドネットワークによるものです。
ググった内容ばかりが広告として出て来る機能も同様です
「アフィリエイト広告」とは全くの別物です。 この記事で扱う広告は「アドネットワーク広告」であることを念頭に置いてください。
アドネットワーク発生している問題
- 広告主はどこのサイトに広告が配信されているか知らないことがほとんど
- 広告配信経路が誰も分からない現状
- 配信ネットワークが広大かつ不透明すぎて、根本解決が難しい
- ひとつのアドネットワークが配信を停止したところで、ほどんど意味がない
- アドネットワーク広告配信停止は代理店にとって不利益
これらの問題が何故発生しているのかを、インターネット広告配信のフローとともに解説していきます。
アドネットワーク広告配信のフロー解説
広告主が代理店にインターネット広告配信の依頼を出す
すべてのスタートはここからになります。 モノを売りたい、宣伝したい広告主は代理店に対してインターネット広告配信の依頼を出します。
代理店からアドネットワークへ
アドネットワークは広告主がターゲットにしたいユーザーを狙い撃ちできるので、費用対効果が高いシステムです。
ゲームの広告を出す場合のターゲット例
- ゲームについてググったことがあるユーザー
- メイン層の10~30代の男性
こういったようにターゲットを絞ることで、より効率よく広告を表示することができます。
依頼だけすれば後は勝手にアドネットワークのシステムが広告を配信してくれるので代理店は管理・運用コストも低く抑えられます。
そのため、多くの代理店がインターネット広告の配信手段として、アドネットワークを利用しています。
こうして、広告はアドネットワークを経由して各webサイト上に表示されます。
広告主が把握出来ない部分の発生
「どこのサイトに配信するか」「誰に配信するか」といった情報は、アドネットワークが管理します(ほぼシステムが自動で行っています)
代理店がアドネットワークを利用した時点で、広告主はアドネットワークの中でどういった設定がされているか、どこに配信されているか等は把握できません。
「知らないうちに自分の広告が漫画村に出ていた」ということも充分に有り得ます。
違法サイトへの広告配信停止の手順
違法サイトに広告配信されてしまうと、広告主のイメージダウンに繋がってしまいます。 広告主が配信を止めたい場合は、以下のフローを辿ります。
会社をまたいでの作業になるため、停止依頼から実際に停止するまでにはタイムラグが発生します
ねとらぼの記事にて、以下のようなのやり取りが公開されています。
――漫画村への出稿が4月5日をもって取り下げられましたね。
B社代表:3月下旬から広告代理店に「漫画村の広告を落としてほしい」と頼んでいたので、やっと落ちたなという感じです。
――なぜ出稿を取り下げようと思われたのですか。
B社代表:(漫画村は)評判がよろしくないサイトだということで。
――私がA事務局に取材をした翌日に広告が落ちたわけですが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。
B社代表:A事務局にアイティメディアから問い合わせがあったという話は聞いています。他にもこうした問い合わせや取材依頼などが相次いでおり、業務に支障が出るようになってきましたので。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/15/news021_2.html
より引用
「私がA事務局に取材をした翌日に広告が落ちたわけですが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。」
これが本当に偶然だった可能性も考えられます。
実際の広告配信の複雑化
ここまでは、広告主・代理店・アドネットワーク・サイトの関係ついて単純に記載してきました。
ここからは、実際の広告配信がどれほど複雑化しているか説明していきます。
代理店は複数のアドネットワークに配信依頼を行う
前述した内容では、代理店とアドネットワークは1:1の関係でした。
実際の広告配信では、代理店は複数のアドネットワークに配信依頼を出します。
アドネットワークごとに広告を配信できるサイトが異なるため、広告を売るためには有効な手段です。
webサイトcについて注目してみると、同じ広告でも「アドネットワークA経由」か「アドネットワークB経由」か不透明になります
広告が複数の代理店と契約した場合
さらに事態は複雑化します。 別の代理店経由で、同じ広告がアドネットワークの広告在庫としてストックされます。
webサイトcに注目してみると、もはやどこのアドネットワーク経由か、どこの代理店経由判別するのは困難です。
広告主は1社でも、アドネットワークを使うことでここまで複雑化します。
アドネットワークのアドネットワーク
アドネットワークとwebサイトの経路がかなり複雑になってしまいました。
コレを解消するため、各アドネットワークの在庫を一括管理して配信する「アドネットワークのアドネットワーク」が登場しました。
これを使うことで、アドネットワークA~Gは、直接各webサイトとやり取りをすることなく、広告が配信できるようになります。
「アドネットワークのアドネットワーク」の登場により、見た目経路は単純化しました。
しかし、これによりアドネットワークA~Gはどのwebサイトに掲載しているか分からなくなりました
そして誰も分からくなった配信経路
広告主からみた広告配信
広告主はあくまで「代理店」とだけやり取りをしています。 その後の配信経路は広告主側からはブラックボックスと化しています。
どのアドネットワークを使ったか、どのサイトに掲載されているかを直接管理する術は、広告主にありません。
唯一の方法は代理店に問い合わせることですが、代理店もアドネットワークの中身は知りません。
掲載サイト側からみた広告主
掲載サイト側は広告主・代理店など見たこともありません。
webサイトには広告用のJavaScriptを埋め込むだけで、あとは「アドネットワークのアドネットワーク」が勝手に広告を選んでくれます。
たった1つの広告に対してこの有様です。 世の中のアドネットワーク広告の数を考えると、裏側がかなり混沌としていることが想像できるかと思います。
アドネットワークは悪なのか?
答えはNoです。
アドネットワークは「簡単」「大量」「効率よく」広告をwebサイトに掲載するために進歩してきた仕組みです。
このシステム自体はは利便性が高く、代理店・掲載サイト側ともに多くのメリットを得ます。
web広告配信のフローをすべて手動で管理するとどれだけコストがかかるか を考えると、どれだけ効率化に繋がっているかは明白です。
このシステムに「違法サイト」と「違法サイトでも良いから掲載してほしい」と考える広告が混ざったことによって問題へと発展しました。
違法サイト配信のメリット
手っ取り早く広告のノルマを達成したい代理店にとって、違法サイトは魅力的な配信場所です。
違法サイトの特徴
- ユーザー数・ベージビューが多い
- 大量の広告掲載場所がある
- ターゲットが絞りやすい
「企業イメージ」「モラル」といった部分を無視すれば、コレほど代理店やアドネットワークに美味しいサイトは他に無いと思います。
違法サイトへの広告配信が停止されるということは、これらのメリットを失うことになります。
代理店、アドネットワークとしては手放したくないところでしょう。
問題の根源はどこなのか
では結局どこが問題なのでしょうか。3つのパターンが考えられます。
1, 広告主が代理店に違法サイト込みで広告依頼をした場合
代理店に依頼した時点で、違法サイトだろうがどこでも良いから掲載してほしいと依頼した場合です。
この場合、問題の根源は「広告主」です
2, 代理店が勝手に違法サイトへの掲載をアドネットワークに依頼した場合
代理店が独自の判断でアドネットワーク配信範囲に違法サイトを含んだ場合です。
この場合、問題の根源は「代理店」です
3, アドネットワークが勝手に違法サイトへの広告配信を行った場合
アドネットワークが独自の判断で違法サイトに広告を配信した場合です。
この場合、問題の根源は「アドネットワーク」です
このパターンは非常に悪質です。
アドネットワークから先は広告主・代理店が把握できないからです。
外部から責任のありかは追求出来ない
複雑化したアドネットワーク網に加え、不透明化が進んだ現状では、広告配信経路をたどることは困難です。
さらに、経路を特定したとしても、外部から「誰が指示したのか」を追求することはほぼ不可能でしょう。
対策方法はあるのか?
アドネットワークのジーニーが違法サイト配信停止 しかし…
アドネットワーク運営会社のジーニーが不正サイトの広告配信を停止しました。
果たしてこれは違法サイトへの広告配信崩壊への大きな1歩となるのでしょうか?
ここまで読んでくれた人なら分かると思いますが、違法サイト・代理店への影響は軽微なものでしょう。
ジーニーのポジションはアドネットワークなので、停止後は以下のようになります。
アドネットワーク1社が漫画村に配信を止めたところで、別のアドネットワーク経由でいくらでも広告は配信可能です。
アドネットワークの完全な規制は可能か?
現実的な視点から考えると、不可能でしょう。
アドネットワークを運営している会社は世界中にあります。
国内だけで違法サイトを規制したところで、国外の会社に依頼すれば簡単にすり抜けることができるでしょう。
アドネットワークがなくなったら起こること
じゃあもうアドネットワークなくしてしまえばいいじゃないか!という意見もあると思います。
しかし、アドネットワークを撤廃することで、私達エンドユーザーにも大きな影響が発生します。
以下にその例を挙げます。
Youtube広告の収益がガタ落ちする
Youtubeの広告の一部もアドネットワーク(GoogleAdsense)です。
ターゲット最適化などが出来なくなると、Youtuberへの報酬額も減ります。
サイト閲覧者への金銭的負担が増加する
アドネットワークの収益で運用しているサイトは立ち行かなくなります。
広告で得ていた収益をユーザーから回収する必要がでてきます。
結果、月額サブスクリプション制サイトが増えるでしょう。
特にメディア系などはダメージが大きいと思います。
まとめ
アドネットワークは恩恵も大きいですが、結果として複雑化・不透明化が進んでしましました。
Genieeが対応を発表しましたが、根本解決には程遠いのが現実です。
インターネット広告業界が全体的に協力しない限り、この問題を解決することは難しいでしょう。
最後に:気をつけてほしいこと
アドネットワーク = 悪 ではない
繰り返しますが、アドネットワーク自体は悪ではありません。 この収益を利用して運営している健全なサイトは沢山あります。
アドネットワークを掲載しているから
そのサイトが悪質だとは考えないようお願いします。
ここまで長文を読んでいただき、ありがとうございます。
少しでもアドネットワークについての理解の助けになれば幸いです。
これを期にアドネットワークの広告が健全に活用されることを祈っています。
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