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パイナップル 続 — 黄色の楽園

・・こうやって母と長い長い坂道を歩くのが夢だった。大きな手と小さな手のひらを合わせて鼻歌を歌いながら、午後の坂道を降りて行く。
その夢は遂に、ささやかな夢の中で叶えることが出来た。
大人になっても私は子供で母は若くて、太陽は穏やかに春と夏の境界線の暖かさで降り注いだ。何もかもが順調で、ここに生きる私は絵に描いたように健やかに成長を止めている。

今年のパイナップルはどんな味がするのかな。
この世界では毎日食卓にパイナップルが出され、私はそれだけを食べて生きていた。現実の世界ではそれが一本のバナナだったり数粒の苺だったりするけれど、ここでは無限にいつまでもパイナップルを食べることが許された。

母は女神のような人だった。ずっとここにいたかった。
「ここ」を何処かと誰かに訊かれたら私は、迷わず‥ 「天国」、と答えることが出来ただろう。でも誰も「ここ」の話をしなかった。

「ここ」を知っているのは多分私と、夢の中の母だけ。他に誰も登場しない「ここ」の私たちはきっと風のように、ここでもあそこでもない世界を自由自在に行き来しながら時間を忘れて生きている。

目が醒めてもこんな風だったらいいのに、と何度願ったことだろう。目覚めを拒絶したくても私は風、どこかで風の私は生身の私と入れ替わり、目が醒めた時の私は虚ろで小さくて、愛を知らない母に引き渡されて行く。
そこはパイナップルのない世界。6を数えるよりも手先にでもなったように、私は母のいいように扱われる。

私はリアリティーを夢の世界へと移動させた。パイナツプルの6文字分のささやかな幸せの為に目を閉じて、だるまさんが転ぶ前に母の胸めがけて走って行きたかったから。

パ イ ナ ツ プ ル・・・

おはよう私、
おはよう夢の世界、
空と海が逆さまの黄色の楽園‥。

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