捨て方をデザインする

中台澄之(ナカダイ 代表取締役 モノファクトリー 代表取締役)

Dots & Loops
Dots & Loops
14 min readAug 31, 2020

--

世界で猛威を振るう新型コロナウィルスによって、これからの世界がどうなっていくのか、不透明な毎日が続いています。そこで、日本のデザインカンパニー、BIOTOPE、KESIKI、リ・パブリックの3社が、私たちが希望を託したい先駆者達との対話を通じて、明るい未来を作るための視点を収集し、議論を深める場を設けたいと思いました。

目指したいのは一人一人が自分の頭で考え、行動するきっかけを作ることです。未来の起点となる個人の視点をつなぎ合わせ、そのループを日本へ、世界へ広げていきます。

Vol. 1のゲストはナカダイ代表取締役の中台澄之さんです。産業廃棄物処理という一般的にはキツい印象のある事業を、ピカピカのクリエイティブビジネスに転換。圧倒的なリサイクル率を実現するノウハウは世界的な注目を集めており、また昨今話題の循環経済のオピニオンリーダーとして国内外で大活躍されています。まさに初回のゲストにふさわしい方。

そんな中台さんが今回話してくださったのは「循環社会の構築は避けられない」「個性の分だけ拡がる経営」「回復力・反発力・弾力性が必要な時代へ」という未来への三つの兆し。

1時間の予定だったインタビューは30分以上延び、中台さんの未来に対する縦横無尽の視点に、インタビュアーの田村(リ・パブリック)、九法(KESIKI)、金安(BIOTOPE)は圧倒されました。その一部をテキストで紹介します。全貌に興味が湧いた方は、是非、ポッドキャストへ!

では、中台さんへのインタビューのハイライトをどうぞ!

すべてのゴミはモノ

田村)中台さんがよくおっしゃっている、「分ければ資源」「混ぜればゴミ」という話だと思って。そこの原理原則みたいなものは大事なんだなと思いました。

中台)うん、そうですね。分別しないでリサイクルできるとか、循環できるって絶対あり得なくて。(中略)「分けて置いておく」ということは「これはパソコンです」「これはコップです」というように、そのモノを認識することとイコールなんです。モノをモノとして認識することで初めて「これはこうだから、あそこに捨てよう」とか、「これはこうだから、あの人にあげよう」となる。分けないで、モノとして認識しないとカテゴリーとしてはゴミとか、いらないっていう「カテゴリー分け」になっちゃうんですよね、モノではなくて。

中台澄之 (なかだい すみゆき) 株式会社ナカダイ 代表取締役。 株式会社モノファクトリー 代表取締役。証券会社勤務を経てナカダイに入社後、総合リサイクル業としてリサイクル率99%を実現し、リユース市場やモノ:ファクトリーの創設等、リマーケティングビジネスを確立する。2013年Good Design Award、未来づくりデザイン特別賞。WIRED Audi INNOVATION AWARD2016を受賞。循環ビジネスの構築や企業の廃棄物に関するコンサルティング、研修などを行う。著書に『「想い」と「アイデア」で世界を変える ゴミを宝に変えるすごい仕組み 』など。

僕らの会社のリサイクル率の高さは、実はそこが一番のキーポイントで。カテゴリーで分けると、実はリサイクル率は上がらないんですよ。「これは金属くず」とか、「これはプラ」といってやっても、実は上がらなくて。「キャップです」「ボトルです」とモノを指定してあげた挙句に「あ、キャップとボトルは同じ素材だね」とか、「フィルムとボトルは同じ素材だね」となる。一回モノとして認識したものを、カテゴリーとしてまとめていくという感覚なんですね。

分からない人たちはまず、自分たちの身の回りにあるものを大きくカテゴリー分けしようとするんですけど、それは情報がまるでない状態。あなたの言う「プラ」と私の指す「プラ」は違うっていうのが入る。主観の問題なので。それでは情報が伝わらないから、もののやりとりはできないし、なかなか流通ができない。循環もリサイクルも実はすごく難しいんですよね。

「分かる」ための共通言語

九法)今、「認識」という言葉が出てきましたけれども、カテゴリーで分けるということの認識を変えていかなければならないんだということは、中台さんがビジネスをされる中で経験的に気づいてこられたことなのでしょうか?あるいは何か哲学的な思想が中台さんにあって、そういうことを感じられたのですか?

中台)経験ですかね。あるお客さんの工場に行って、私の知識の中で「これはポリエチレンです。これはポリプロピレンです。これはアルミです。ステンレスです。このように分けてください」とカテゴリーの話をするんですけど、そこでもう言語が通じないんですよね。(中略)なので、その会社さんの商品の名前に合わせて、「あなたのところのこのパーツはポリエチレンなのですが、これなんて呼んでいるんですか」と聞いて、「Aです」とか言われたら、「Aはこっち、Bはこっち、Cはこっち」というふうに、モノごとの分別を知ってもらうのが最初。モノごとの分別をしてもらうと、必然的に分かれる。分かれたものを我々のところに持ってきてもらって、我々がカテゴリーでまとめていくということをひたすらやって、リサイクル率を高めた。営業の過程で、まるで通じない(顧客サイドの)環境担当者との会話を成り立たせるために作り上げたみたいなところが実は大きいですかね。

田村)(前略)心理的な「分からなさ」が減るから、安心感が高まるのかなと。出す側からしてもそれを再生したものが、わけが分からないものになっているということにはならないですものね。(以前に)おっしゃっていた、「捨て方のデザイン」みたいなことが、これから循環経済や循環のデザインを考えていくときには、今まで以上に大事になるのかな?と今の話を聞いていて思って。

中台)そうですね。「ものとしての捨て方をデザインする」って僕らはよく言う。(中略)捨てられてきたものを何とかしようということよりも、捨てるときに「え、これ本当にいらないの」とか「誰々さんに渡せないの?」みたいな、捨てる行為そのものを見直しましょうということがメッセージとして入っている(中略)。モノとしての認識をすれば、捨て方自体を考えるようになっていくと思うんですよね

田村):デザイン業界は(中略)作る側のデザインというところにめちゃくちゃコミットしているんですけど、捨てる側にコミットするって、そう言われると無いよなって。中台さんはずっとやられてきているんですけどね。

中台)そうだね。僕らみたいに「循環」と言って、一次利用の新品をそのまま二次利用、三次利用というところを考えると、生み出す側の情報の渡し方、埋め込み方というのが、一次利用、いわゆる保証期間内には相当なフォーカスがされているけれど、期限が切れて使い終わった後についての情報というのはまるでない。受ける側は困りますよね。何のしようもないと言うか、ものを見て判断しなきゃいけないみたいなところがあるので。

田村)うん、うん。

大量生産=悪ではない

九法)「捨てる行為をデザインしていく」ということは、「捨てる」という言葉の認識を変えていく、意味を変えていくということなのかな?と、中台さんの話を聞いていて思ったんですけども。「断捨離」という言葉には、「自分から断つ」みたいなニュアンスが強いと思うんですけど、そもそも「いらないもの」という認識そのものを変えるということが必要なのかな?その辺りについて中台さんはどう考えていらっしゃるのかな?と思ったのですが。

中台)そうですね。(中略)捨てるっていう行為は何か悪いこと、捨てちゃダメみたいなことを環境の活動家さんたちは言うんですけど、僕らは消費するので、生み出す側がいて、捨てる側がいるということは別に悪いことではないと僕は思っていて。どちらかというと、あまり考えずに捨てるのをやめようよっていうのが、凄く大きいところなんですよね。だから捨てるのは、衛生面を考えたら使い捨てもあっていいと思うし、全部マイボトルを持てと言って、じゃあ山登りで奥地まで行く人たちはペットボトルを一本も持って行っちゃいけないんですかと言うと、いやそれはキツイよな、みたいなことがあるから別にそれはいいと思うんです。でも、ペットボトルをその辺に捨てるなとか、ペットボトルをそのまま分別せずに燃やしちゃわないでよね、みたいなところだけな気がするんです。

なので、捨てること自体が悪いことではなくて、その先を考えずに捨てることが良くないということと、生み出すこと、たくさん製品を作ること、大量生産も悪くないけど、循環させるとかリサイクルさせることを考えないで大量に生産するのは良くないよねということなんですよね。

だから例えば、捨て方が分からないもの、自分たちの商品の後始末の仕方が分からないものを生み出すことは、躊躇して欲しいということが僕にはまずあって。だけど技術革新は捨て方よりも速いかもしれないので、最悪、生み出したとしても、その商品の寿命が終わる五年先くらいには、自ら後始末の仕方を考えてくれと思いますね。

田村)なるほど。太陽光パネルとか、まさに。

中台)そう、まさにそう。あの時は震災もあったし、ワァーっとやったから分かるよ、生み出した時はね、と。けれど、なぜここ十年間、ノリ(注:積層の接着面)の剥離の仕方を放っておくんだみたいなね。独自性を出してより複雑化する理由は何なんだ、とか。電力のことを考えて、原発の善し悪しは議論があると思うんですけど、その後始末が全くできないと分かり切っているものは、ちょっと厳しいよねというところがあったりとか。当然、バランスなんですよね。

作り手との距離感が鍵

金安)(前略)ゴミというのはある意味、自分から早く切り離したい存在でもあるように思うんですけど、(前略)ゴミという認識だったものを、モノとして捉えていく、意識を変えていくためには、生活者とかもしくは中台さんがこれまで関わっている方というのは、どうやっていったのですか?

中台)露骨なのは多分、企業側はその認識にしないと、コストが下がらないっていう。ナカダイの所に預ける金が高いので、コストが下がらないから何とかしたいというのが、まずスタートでしょうね。一般の生活者は(うちの)工場見学をしてやっぱり分別は大事だと思うだろうけど、金銭的にインセンティブがあるというのが、一番納得感もあって行動はしやすいだろうなって気がしますよね。

田村)そうですよね。あとは捨て方を生活者の方で工夫できるような状況、(中略)デジタルファブリケーションとかそういうものを使って、例えば自分で何かを作り出すとか。そういうことのために、今手元にあるものをどう使えるのか、みたいなことがカルチャーになってくると、ちょっとは変わってくるのかな?って印象も。僕なんかは特に、そういうことをやっている人が周りに多いので。

中台)ここにもちょっと書いたんですけど、自分で買ってきて自分で作ったものは、その素材が何かが分かっているから。一応、「木はこうやって分別して捨ててね」「プラはこう捨ててね」みたいなことが、もしも明確に書いてある何か拠り所があったら、多分それはやるだろうと思うんですよ。自分で作っているから。

だけど、どこの国で作られたか分からないけれど、Amazonでポンと送られた商品って、「木はこうしろ」「プラはこうしろ」と言われてもあまりやらない、みたいなところがあって。

それってやっぱり、グローバルでものを作っていることの「見えなさ」とか、トラックで運ちゃんが汗水垂らして運んでいるのではなくて、ピンポーンと鳴ったら段ボール箱でピロンと来ちゃう感覚で、ドローンが飛ばして手元まで持って来たぐらいの感覚でしか捉えられないような、システマチックな世の中が、感覚のズレを生み出しちゃっているんだろうなという気がするんですよね。

田村)うん、うん。

中台)ものって必ずどこかで生み出されて、誰かが作って、機械も含めて、組み立てが行なわれているんですけど、その感覚が(自分から)離れてしまえばしまうほど、「ものを次に生かす」という感覚がどんどん薄れて、捨てるという行為になってしまうと思うんです。多分身近じゃないんですね。だから、ローカルであればあるほど、馴染みが深くなるので、その後についても考えるようになるというのは、理屈だと思うんですけど。

ただ、それをやり続けると効率的ではなくて(後略)。マスプロダクションの良いところといえば良いところなのだけれど、大量生産で安定しているとか、エネルギーの効率が良いとか、そういうことになるから、難しいところではあるかなと思いますね。

中台さんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか?全貌に興味が湧いた方は、是非、ポッドキャストをお聞きください!

インタビュー後記

リ・パブリック 田村

中台さんとはかねてからの知人で、これまでもいろんなコラボレーションをやってきた間柄なのですが、今回は、ちょっと衝撃的でした。循環経済って3R〈Reduce, Reuse, Recycle〉の話じゃなくて、ものを〈作る, 使う, 捨てる〉のプロセスのデザインだってことです。このプロセスがうまくいくと、「結果的に」3Rの成果が上がるってことなんだなと、すごく腑に落ちました。このプロセスのデザイン、すごく面白そう。個人的にも、リ・パブリックとしても挑戦していきたいテーマです。

KESIKI 九法

ゴミに限らず、ついつい色んなものをカテゴリーで分け、分かった気になってしまう。中台さんの話は、思考停止の罠を一刀両断してくれました。モノは必ずどこかの誰かによって作られ、世に登場し、次第に衰え、そしてまた生まれ変わっていくーー。中台さんはそのプロセスをまるで生き物のように捉えていらっしゃる。編集者としては、あらゆるモノの一生を物語にしてみたい。そんな欲求に駆られたインタビューでした。

BIOTOPE 金安

中台さんの発言で印象的だったのが、「サプライチェーンの上で生産する過程にデザイン・クリエイティブが存在するなら、消費する終わりの過程にも同様にデザイン・クリエイティブがあるはず」。ゴミという認識=カテゴリーで分けてしまうことで、思考が停止してしまい無意識に固定概念となっているが、そこにビジネスのインセンティブや生活者の感覚的な実感をデザインすることで曖昧になりがちなゴミの本来あるべき価値を企業や生活者に翻訳する活動に強く共感しました。企業や国が大義を掲げる上でも、実感が持てる翻訳こそ、循環経済において大切であることを学びました。

インタビュワープロフィール

田村大(たむら・ひろし)

株式会社リ・パブリック共同代表。東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェロー。北陸先端科学技術大学院大学客員教授。1994年博報堂に入社。以降、デジタルメディアの研究・事業開発等を経て、同社イノベーションラボに参加。2013年に独立し、株式会社リ・パブリックを設立。新しい地域デザインのあり方を模索している。

九法 崇雄(くのり・たかお)

株式会社KESIKIパートナー。NTTコミュニケーションズを経て、編集者に。「PRESIDENT」副編集長、「Forbes JAPAN」編集次長兼ウェブ編集長などを務め、国内外の起業家やクリエイターを数多く取材。2019年、KESIKI設立。企業のカルチャー・デザイン、ブランディングなどを手がける。

金安塁生(かねやす・るいき)

株式会社BIOTOPE BusinessDesigner/TrendResearcher。BIOTOPEにてエスノグラフィを用いた生活者リサーチと定量データ解析を元に、製造業や金融業界などで事業開発やビジョン開発、シナリオプランニングを行なっている。欧州と中国のデータエコシステム事例から持続可能な未来の構想を行う。

--

--

Dots & Loops
Dots & Loops

日本のデザインカンパニーBIOTOPE、KESIKI、Re:publicの3社が共同で運営するパースペクティブ・メディアです。先駆者たちとの対話を通して、明るい未来をつくるための兆しを収集し、議論をしていきます。