速度を落として「気づき」を楽しみ、食の安心をつくる

菊池紳(いきものCo.代表)

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Published in
12 min readSep 21, 2020

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世界で猛威を振るう新型コロナウィルスによって、これからの世界がどうなっていくのか、不透明な毎日が続いています。そこで、日本のデザインカンパニー、BIOTOPE、KESIKI、リ・パブリックの3社が、私たちが希望を託したい先駆者達との対話を通じて、明るい未来を作るための視点を収集し、議論を深める場を設けたいと思いました。

目指したいのは一人一人が自分の頭で考え、行動するきっかけを作ることです。未来の起点となる個人の視点をつなぎ合わせ、そのループを日本へ、世界へ広げていきます。

Vol.2のゲストはいきものCo.の代表 菊池紳さんです。生物や生態系、資源と人との関わりや営みの中で、農林漁業や食、微生物産業などの生き物の力を借りている人々の暮らしや産業を、優しく、楽しく再設計するために「生態系デザインカンパニー」を運営されています。

そんな菊池さんが今回話してくださったのは「お店と生活者の信頼がない時代に、ライフインフラとしての社会関係性を再構築する」「食の体験はテクノロジー(道具)よりもテクニック(身体的な技術/スキル)が大切」「速度が落ちることで営みに楽しみを感じる」という未来への視点と現代社会の課題です。

インタビュアーは、佐宗(BIOTOPE)、市川(リ・パブリック)、水口(KESIKI)の3人です。新型コロナウイルスの猛威によって身の回りの日常生活で起こっている課題を見つめ直し、人間の営みの中であるべき姿を語っていただきました。その一部をテキストで紹介します。全貌に興味が湧いた方は、是非、Podcastへ!

では、菊池さんインタビューの前半ハイライトをどうぞ!

ライフインフラとしての「拡張家族」

佐宗)新型コロナウイルスの影響で自粛生活が強いられる中で、多摩川沿いをジョギングしていたときに、食べ物と僕らの距離感がもっと近くなっていかないとまずいのではないかとうっすら思っていました。当時、菊池さんがコロナフードサポートとして農家さんと都市に住んでいる僕らを直接繋げて新しい仕組みをつくりたいというFacebookの投稿を読んで、同じことを考えていると思いました。そのときに菊池さんが考えていたことを教えてください。

菊池)3つの兆しの1個目(「お店と生活者の信頼がない時代に、ライフインフラとしての社会関係性を再構築する」)なんですけど、「SEND」をやっていたときに、個人で2000件以上の生産者と繋がりを持ったものですから、このコロナ禍でも「余っちゃった」と言って10kgの野菜が送られてきたりするわけですよ。すごくありがたいことなんだけど、どう消費しようか、よし、まわりに配るか、みたいなのがかえって大変で(笑)。(一方)この時期のスーパーを見ていると、食料品の棚は空になってる。でも冷静に考えると、食べ物はどう考えても余るはずなんですよ。なのに、皆さんなんで競うように買い占めるのか?っていう問いが浮かび上がってくる。

菊池紳(きくち・しん)起業家、ビジネス・デザイナー。1979年東京生まれ。大学卒業後、外資金融機関や投資ファンド等を経て、農畜水産業や食分野の支援に従事。2014年にプラネット・テーブルを設立。2017年にグッド・デザイン金賞を受賞した「SEND」など、社会課題を解決する仕組みづくりを手がけるビジネス・デザイナー、起業家。2019年には、いきもの株式会社(いきものCo.)を創業。農林水産省新生物多様性戦略検討会 委員、東京都第4次産業革命推進プロジェクト委員など。

スーパー(小売店)は、ある種の社会インフラとしての存在意義があるってことは再確認できた時期でしたね。それはすごくいい一方で、お店と生活者の間には「信頼関係がない」と思ったんです。「コモンズの悲劇」という言葉があります。スーパーをある種のコモンズと見立てると、誰かが買い占めたら自分の分がなくなる状態。スーパーは商売で、平等に配るような公共サービスではない。だから生活者は信頼せずに、我先に買い占める。そういう関係性になってしまっているわけです。

一方で、自分はどうかというと、全国に40人くらい農業や畜産業をやってる親戚がいる感じ。おじさん、おばさんが、東京で働く若いにーちゃん(僕)に仕送りしてくれる。これは自分にとって完全にインフラで、ライフセキュリティです。この10年ほど、食べ物がなくなるなんて心配を感じたことがない(笑)。

佐宗)すごい!インドとロシアが小麦の輸出を停止したってニュースを見たときに、人が恐怖を感じたときのようにお尻の後ろがビクッとした。その恐怖が全くないのがすごいですね。

菊池)言われてみれば、生まれてから食料の不安を感じたことは一度もないですね。あ、でも母親の実家が山形なんですが、山形の実家がフルーツをやめたとき、さくらんぼが届かなくなることはありました。さくらんぼ飢饉ですよ(笑)。それくらいかな、それも、数日で解決しました。

それに、もしも災害等で物流が止まって都会で食べ物が手に入らなくなったら田舎に行けば良い。僕にとっての疎開先・避難先があるんですよ。ある種の拡張家族、ファミリーネットワークが全国にある。まるで、仮想実家みたいな感じですね(笑)。この擬似親戚ネットワークみたいなものってすごくいいと思ったんです。

この感覚をみんなにシェアしたいなと思って「NEWCOOP」を始めたんです。全国100人くらいの生産者と、東京の100人くらいが繋がっていて、「仕送り」と「里帰り」の関係性を持つようになれば良い。つまり「関係性がインフラになる」拡張家族プロジェクトと呼んでいたんです。

(生産者さんは)40世帯分くらいをまとめて一箇所に送るだけ。僕ら都会のメンバーは、その野菜を自分で詰めたり、食べ方を伝えたり、料理上手な方と話したり、ランチして帰ったりする。二週間に1回くらいファミリーが集まる感じで、すごくいいんです。家族やムラって食を守るために生まれた面があると思っていて、食べ物の確保が家族のフォーマットの起源の感じですよね。それを遠距離でもやれる今の時代っていいなって思います。

佐宗)食べ物を共有できることは、ひとつの人間の特性ということを京都大学総長の山極さんも仰っていますね。

菊池)そう。実際、子供の反応も違います。いつも食べている野菜と全然違うじゃんってお母さんに詰めよったり(笑)。(中略)昨日採って今日食べているわけですから、味も鮮度も全然違うんですよね。そういうところも含めて食べ物を自分の手で採って、匂いを嗅いで触ってって言う体験を週末だけできる。週末だけって方が逆に新鮮味があっていいですね。毎日だとスーパーに行くみたいな体験になってしまうので、1–2週間に一回とか、週末だけで良い。

テクノロジーよりテクニックへ

市川)本来であれば、私たちはコミュニティとして同じ場所に住んでいるにもかかわらず、スーパーではスパゲッティの棚だけ空っぽになっていたり、生活インフラでは真逆の方向にうごいているように思います。食や人間関係、サプライチェーンの変化について何かお感じになっていることはありますか?

菊池)特定のものがなくなる・皆がそればかり買うということは、買う側のスキルが偏ってるからです。それしか料理できない、ということ。カレーのルーにこだわったりする人もいるのですが、いや、そもそもカレーから出なよって(笑)。

(中略)NEWCOOPだと食材が選べないんです。何月何日のチケットって決まってて、見たことない野菜、使わない野菜も中に入っていたりする。そうするとメンバー間でそれをどう美味しく食べるかの情報交換が始まるんです。あるいはそもそもそれをどう料理するのかっていう生産者からの紙が入ってたり、感覚的には親戚のおばちゃんがどう美味しく食べるかを口伝で教えてくれる感じですね。そう言う意味では技術(テクニック)承継を両立している。その楽しみ、入り口としてはコロナはいいきっかけだったと思っていますし、テクノロジーからテクニック時代へ、そういう節目が見えてると思います。

速度が落ちることで営みが楽しみに

水口)実感ありますね。今は季節問わずなんでもスーパーに野菜がありますから、何か料理を作る時は、レシピありきですべての材料揃えようってなります。そういう環境が作り手のクリエイティビティを育てないようにしてる点にはすごく納得感がありました。本当だったら、季節の食材やたくさん採れたものを工夫して美味しくいただく、というのが自然なこと。「豊作貧乏」ってものすごい矛盾です。

菊池)食べるとか料理をするということが負荷であった時代から喜びの時代に変わるために、その分水嶺がいったいなんだったかというと、「速度」だと思います。(中略)

僕は物理を大切にしていて、食べ物とかモノを動かすなら、人間か車が頑張って運ばなければいけない。でもそれは通信や情報の速度には揃っていかない。情報の速度に合わせて組むとリアルワールドがついていかないんです。そうすると諦めなきゃいけないとか、捨てないといけないものが出てくる。コロナによって、速度が急に落ちたというか、手元が見え始めるんです。情報に振り回されて生きている時間中での義務的な作業から、作って食べるコミュニケーションへと繋がっていく。街も同じように、その場所は変わってないけど、ゆっくり歩くようになりましたから、出勤のために足早に行くというより、お散歩みたいな感じで、地域から見えるものが増えましたね。都会と田舎という距離感でないと非日常が得られなかったことから、近所ですらエンターテインメント性が増えたと思っています。

佐宗)以前に菊池さんと話したのが、ちょうどコロナ真っ盛りだった時期だったんですが、気候変動でちょっとだけ北京の空が綺麗になったり、料理をするようになったり、そういうスローワールドの概念が出ていていると感じた。それは、時間の速度の概念が変わっている。

この前、娘の初めてのお使いがあって、そこで動画をずっと取っていて、その状態で1時間撮影していたんですが、観察するという観点が新しくて、今までの観察の味わいとは違う、そういうちょっとした余白を持って体験を楽しむことができました。

自分がアクティブに楽しめる、味わえるといった、これまでUXとかで削ぎ落としていた概念を、むしろ味わおうぜっていうことが菊池さんの「一人一人をつなげてその裏にある体験をいかに楽しむか」という視点を感じられました。

菊池さんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか?全貌に興味が湧いた方は、是非、ポッドキャストをお聞きください!

インタビュー後記

BIOTOPE 佐宗

ビジネスや社会を生命論としてみる同志は、偶然にも旧友でもある。そんな彼から教えてもらった生態系をデザインするヒント、ただ観察すること、というのは広義のデザイナーが、めぐる経済を作るための向き合い方を教えてもらった気がする。

リ・パブリック 市川

お話を聞きながら終始痺れていた。生態系のデザインとは「ある場に身を置き」、「観察と対応」を繰り返し、そして「圧倒的にデザインしないこと」。スーパーから食品が消えたのも、それは「買う側の圧倒的な知識の偏り」。そう、菊池さんの一貫したメッセージは、消費者もデザイナーも日々観察と対応を繰り返して営んでいるのか、スローダウンして足元をよく見なさい、という問いである。とにかくポッドキャストを聞くべきだ。

KESIKI 水口

その気になれば地域や人とのつながりはいくらでも作れる。しかも消費という身近な活動を通じて。東京で生まれ育ち、地方に「帰れる場所」や「田舎」が欲しいなどと甘えたないものねだりをしていた私は、ガツンと殴られたような気がしました。衣食住はお金さえ払えば手に入るという都市生活での常識が、社会の混乱でぐらっと揺らいだこのタイミングでお話を伺えたことはとても貴重な体験でした。

インタビュワープロフィール

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。

市川文子(いちかわ・ふみこ)

株式会社リ・パブリック共同代表。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修了。フィンランド・中国にて通信系メーカーノキアに勤務し、10年に渡って世界各国でのリサーチを起点とした製品やサービスの開発に従事。博報堂イノベーションラボを経て、2013年株式会社リ・パブリックを創設。地域や組織における持続可能なイノベーションのためのプロジェクトを多数手がける。2019年よりサーキュラーデザインをテーマとした株式会社fog取締役を兼務。

水口万里(みなくち・まり)

編集者。株式会社KESIKIデザインリサーチャー。慶應義塾大学法学部卒業後、外資系メーカー、海外映画などのローカライズ制作会社にて勤務しながらフリーランスの編集者として活動。その後、音楽誌「Rolling Stone日本版」、経済誌「Forbes JAPAN」編集部にて、デザイン・ディレクションやインタビュー取材などを行う。2019年、創業メンバーとしてKESIKIにジョイン。現在、不要になったファッションアイテムなどの物々交換や地域の清掃などを通じたコミュニティ作りを行うNGO法人「SWAQ TOKYO」のco-founderとしても活動中。

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日本のデザインカンパニーBIOTOPE、KESIKI、Re:publicの3社が共同で運営するパースペクティブ・メディアです。先駆者たちとの対話を通して、明るい未来をつくるための兆しを収集し、議論をしていきます。