【DQ Summit Tokyoキーノート】DQ(デジタルインテリジェンス)とは何か/第四次産業革命時代の共通言語DQ

Masami Ishiyama(石山 将)
#DQEveryChild in JAPAN
13 min readAug 26, 2019

以下の文章は、2019年3月9日に千代田区立麹町中学校にて開催されたDQ Summit Tokyoのオープニングキーノートの内容を書き起こしたものである。

https://www.watch.impress.co.jp/kodomo_it/news/1176173.html

2018年9月、「情報リテラシー」「情報モラル」「デジタルスキル」の新しい世界基準として、DQ(デジタルインテリジェンス)のフレームワークが発表されたことをご存知でしょうか?

WEF/OECD/IEEE/DQ Instituteとの共同宣言で世界基準となったDQは、OECDのEducation 2030ビジョンにも準じています。世界中で#DQEveryChild(すべての子どもたちにDQを)ムーブメントが巻き起こる中、日本でも3000人近くの子どもたちにリーチしてきました。

本日のサミットのキーワードは”共通言語としてのDQ”です。私たちは英語によってたくさんの人々と分かり合えるようになりました。同様にDQという共通言語を介して、より多くの人のコミュニケーションが豊かになり、笑顔が増える世界を作れる可能性があります。

今や学校は保護者からあらゆる問題を丸投げにされ、まるでカスタマーセンターのようになってしまいました。しかし、子どもたちとデジタル世界との向き合い方というトピックにおいては、学校・保護者・子どもたちの3者が一体となって取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

DQとは何かを説明する前に、このような問いかけから始めたいと思います。

皆さんは、「情報モラル、情報リテラシー、またはデジタルスキルと聞いて、それらをどう定義するでしょうか?」

そして、「そもそもなぜこのような言葉が存在しているとお考えでしょうか?」

私たちがある言葉を創り出すとき、そこには確かなニーズが存在します。「情報モラル、情報リテラシー、デジタルスキル」。これらの言葉の裏には、私たちが直面している課題ややり場のない不安が隠されています。

例えば、今後10年である国の総雇用者の47%の仕事が自動化されるリスクがあります。また、54%の企業が、デジタル人材の不足に苦しんでいます。そして、56%以上の子どもたちが、ネットいじめ、スマホ中毒、ネット上の誘惑、データ漏洩といったネット上の危険に直面しています。

ここに記したのは、ほんの一例であり、私たちは多方面でデジタル世界に対してよりたくさんの不安を抱えていると言えるでしょう。

私たちはそういった不安や問題を解決すべく、世界中で努力を続けています。そして、21世紀のデジタル社会において、「情報モラル、情報リテラシー、デジタルスキル」に関しての教育、トレーニングが盛んになってきています。

ですが、US政府と日本政府の情報リテラシーは異なり、Googleとトヨタのデジタルスキルもまた異なる定義になっています。

実際、取り組むべき問題はほぼ同じにもかかわらず、デジタルに関するフレームワークは世界に20個ほどありました。そこで、ユネスコやOECDと協力し、これらに関する共通のフレームワークを作る努力を始めたのが2017年のことでした。

私たちには「共通言語」が必要だったのです。

2018年9月、World Economic Forumのサミットにて、新しい共通言語が発表されました。

DQ(デジタルインテリジェンス)は、日本的な言い方でいう、情報リテラシー情報モラルデジタルスキルのグローバルスタンダードになったわけです。OECDが示すフレームワークは、各国の未来の教育の形になっています。

この発表は、DQ Instituteが2017年1月に発足してから、わずか1年半ちょっとでの出来事でした。

DQ InstituteがDQを作るときに大切にしたのが、How to Be a Humanという考え方です。

AI時代、第四次産業革命時代において、私たちはどのようにして人間らしさを保っていけるだろうか?人間を人間たらしめるためには、DQはどう在るべきだろうか?

そして、この考え方の裏には、教育とテクノロジー業界における大きな3つの懸念が存在しています。

まず1つ目の恐れは、テクノロジーの急速な進化が目に見えるようになったことです。

画像のアルファ碁のように、私達はいつしか、ある部分ではマシーンより劣っていると信じるようになってしまいました。

2つ目は、そういったAIやマシーンに対抗するために、子どもたちにスキルを身につけさせる教育です。いわゆる、プログラミングやSTEM教育がそれに当たるでしょう。

しかし、How to Be a Humanを考えなければいけないなかで、これらだけに注力するのは、子どもたちへのHow to Compete AIという考え方を連想させてしまいます。

そして3つ目は、子どもたちはテクノロジーはあまり安全ではないということです。フェイクニュース、スマホ依存、オンラインとオフラインの人格の齟齬などが挙げられます。

DQ Instituteが2017年秋に世界29ヵ国で行った調査では、56%の子どもたちが少なくとも一つ以上のネット上のリスクに直面していることがわかりました。

これは、企業や政府だけでなく、民主主義にも大きな影響を及ぼしかねません。

日本は低い割合になっているのですが、フィルタリング文化や、日本でスマホを持つのは13歳以上が多いことなどが影響しており、逆に13歳以上の割合は極めて高いことが想定されています。

では、こういった恐れに対する解決策はなんでしょうか?

皆さんは口をそろえて教育というでしょう。

では、それにおける”真”の教育とは何でしょうか?

DQ Instituteが考える”真”は3つあります。

まずは、「AIと競争する」という言葉遣いを変えることです。

私達は、テクノロジーが意味を持つのはhumanityを高めるときだけだと信じています。テクノロジーは他ではなく人間のためにあります。

”真”の2つ目は、すべての子どもたちに、君たちはMaster of Technologyだということを思い起こさせなくてはいけないということです。

子どもたちはテクノロジーの奴隷でもマシーンの代替でもなく、Master of Technologyたるのです。これはDQを考える上で最も大切にしたことの一つです。

これらを説明するときに、私達はいつも馬の例えをしています。

私たち人間は走りで馬と競争しても勝つことはできません。馬とは競争するのではなく、馬の乗り方を教えなければいけません。

同様に、私たちはAIの乗り方を教えないといけません。AIと競争してもそこに豊かさはないでしょう。

そして、馬に乗りこなすことは単なるスキルで十分でなく、知識・姿勢・価値観などが必要です。

だからこそ、単にICTスキル、コンピュータースキル、分析スキルでは不十分なのです。クリティカルシンキングで情報の見極め、セルフコントロールでスクリーンタイムやスマホ中毒に対処しなくてはいけません。

加えて、フェイクニュースとか他の問題においても、そういった認知能力だけでなく、倫理感も大切です。デジタル世界はフィルターがないからこそ、子どもたち自身がフィルターにならないといけません。

これらがDQ Instituteが考える3つの”真”の教育です。

私たち人類は、産業とテクノロジーの進化に沿って、その時々に大切になしている価値観や知性(インテリジェンス)を持ってきました。

DQはまさに、時代のニーズを受けて誕生した新しいインテリジェンスです。それは単にデジタルスキルでなく、第四次産業革命のための知性(インテリジェンス)なのです。

DQ is not just digital skills, it is about intelligence for 4th industrial revolution.

DQは大きく3つのレベルに分かれています。私たちは今、2番目と3番目には非常に力を入れだしています。デジタルクリエイティビティはプログラミング教育がさかんですし、デジタルアントレプレナーシップの実例としてUberやAirbnbなどがあげられるでしょう。

しかし、DQの第一歩であるデジタルシティズンシップに関しては、今までずっと軽視されがちでした。デジタルシティズンシップはデジタル世界を自由に駆け巡る上で欠かせない能力です。

私たちが運転をする前に、運転免許が必要なように、デジタル世界を駆け巡るにはデジタルシティズンシップが欠かせません。

そして、デジタルシティズンシップが欠けていると、左のような状況に陥りがちになります。運転免許なしで交通ルールも知らずに運転するのは極めて危険だと言えます。

DQ教育プログラムの第一段階は、子どもたちにデジタルシティズンシップスキルを備えてもらうことにフォーカスしています。なぜなら、子どもたちが活発にデジタルメディアやデジタル端末を使い始めたとき、彼らにはデジタル世界に飛び込むための準備が必要だからです。

小学校時代や中学校時代は、子どもたちがSNSを頻繁に使い始め、ネット上のリスクにも直面する時です。

この年代の子どもたちは、社会的に受け入れられることも求め始めるため、非常に脆弱でもあります。彼らは正しいことと間違っていることについての感覚を把握し始めると同時に、自分のアイデンティティを模索する人生という旅のスタートラインに立ったところであり、子どもたちにとって重要な成長過程にあります。

子どもの頃のインターネット上での幸福とサイバーセキュリティに関する学術的調査に基づき、私たちは子どもたちにとって必要不可欠な8つのデジタルシティズンシップスキルを定義しました。

私たちは、このムーブメントを#DQEveryChildと名付け、今日までに世界104ヵ国、15言語、60万人以上の子どもたち、100以上の法人に展開してきました。

この背景画像はDQ Instituteがトルコにて#DQEveryChildのローンチイベントを行った際の写真です。映っているのがFounderのYuhyun Parkです。

#DQEveryChildは2年前から日本でも始まりました。

DQアンバサダーは個人では世界に9人ほどしかいないのですが、私がコンタクトを取ったタイミングはちょうどDQ Instituteが設立されたころでありました。

当初、DQのコンセプトをご理解いただいたりDQテストを実証実施するには、たくさんの困難に直面しました。今日を迎えられたのは非常に多くの方々の支えがあってこそです。心より感謝申し上げます。

そして、数にしてこの2年間で3000人以上の子どもたちにリーチしてきました。この数字の裏には、たくさんの方々のご協力や#DQEveryChildムーブメントを主導された先生がたのご活躍がありました。

では、どのようにして子どもたちのDQを高めるかという基本的なサイクルがこちらになります。

まず、DQテストによって、子どもたちは自分のDQスコア、つまり自分のデジタル生活がどうなっているかを客観的に意識します。

次に、DQテストによって導き出されたスコアから、世界や全国平均と比べて自分がどの位置にいるか確認します。

そして、DQ Worldというオンラインプラットフォームを用いて、自分のDQを10%高めるというのが基本的なサイクルです。

DQ Worldは、子どもたちがデジタル市民に必要な8つのデジタルシティズンシップスキルを学ぶための、世界をリードするオンライン教育プラットフォームです。デジタル市民としての知識と優れた判断力を身に付けることができます。

さて、今までの話を一枚のスライドにまとめます。ネット上のリスクの大流行(サイバーパンデミック)は、スマートフォンとSNSがある以上、今後も避けることができません。

そんなウイルスに対抗するのが、DQというワクチンであります。そのワクチンは人間性を重視し、リスクを最小化&チャンスを最大化することを理念としております。

このDQというワクチンを一人でも多くの子どもたちにワクチンを届けられるように、活動していきたいと思っております。

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