Voyantroupe「Paranoia Papers 〜偏執狂短編集Ⅲ〜」

邑上笙太朗さんからすごい芝居に出るというご案内をいただき、万難を排してでも観に行こうと決意した。

で、行ってきました。

高校演劇とは全然違う世界。アングラというのともちょっと違うのかな。とてもスタイリッシュな感じもする。実際制作というか、受付や会場周りにいるスタッフが皆さんきちんとしたドレスコードでお出迎えくださったし。

とにかく、高校演劇とは対極にあるんだろうね。高校生にはできないわな。「冗談だからね」は赤ふんどしの少年が出てきたが。マッパにはなれんよね。特に女子は。

黝の章から観る。

『メンゲレとグレーゼで』

アウシュビッツが舞台。暗めの照明が印象的。メンゲレ役の山本さん、何だろう、あの虚無的な演技は。暗くてはっきりと表情が見えないところもあるんだけど、髪型といい口髭?といい、ヒトラーを連想する。メンゲレの思いと全く別の形で人体実験が進んでいくのが、何ともその時代の空気というか、流れを感じて怖気だつ。
人体実験に反対のように見えるメンゲレだけど、その考え方の背景にはアーリア人種優位の思想は流れていて、これは他の作品にも通じていたけれど、「差別」というものが狂気の背景に潜んでいるということを痛切に感じる。
双子の人体実験を拒否するメンゲレが「ドレミの歌」を双子と一緒に歌う。ナチス統治下のオーストリアからスイスへ亡命していくトラップ一家を描いた「サウンドオブミュージック」と重なり合う。
しかし、双子達はメンゲレの保身のために結局人体実験に供され、醜い姿に改造されてしまう。
あの双子の改造されて、しかもピクニックで作った花の冠を手に登場してくるシーンは何とも形容しがたい感情の塊が湧いてきて、メンゲレに早く銃殺して楽にしてやってくれと願わざるを得なかった。
ということでまんまと観劇していた僕もアウシュビッツの殺戮に加担させられたようなとても気持ちの悪い状況に追い込まれてしまった。してやられた感じ。
グレーゼ役の里仲さんの感情を抑えた台詞回しがとても印象的だった。
ラーツの邑上さん。唯々諾々と人体実験にしたがっていくアウシュビッツの住人を好演していた。自分のやっていることを全く疑わない、こういう人間がたくさんいて、あの狂気が繰り返されていったんだろう。

『ウェストご夫妻の偏り尽くした愛情』

人が次々殺されている芝居で、こんなに笑っていいのかなと思うくらい笑った。役者がうまい。緩急のメリハリが見事。ネタじゃなくて、その呼吸で笑ってしまう。盛り上がっている状態から一気に白けた重い雰囲気に持っていくところとか、ただただスゲーって思いながら観ていた。沈ゆうこさん好きだなー。三の線でいいアクセントになっている。

『ジャンヌダルク異端審問裁判』

ジャンヌ役の大森さんの体を張った演技に圧倒される。例えば劇団桟敷童子なんかでも、人間の根源的な力を示すものとしてセックスのシーンとか出てくるけれど、凌辱シーンがあれだけ延々と続く中、聖女ジャンヌとしての演技を続けるのは並みの集中力じゃできないよな。
まだ人権なんて言葉の生まれてこない中世、男性のみが人間として認められていた時代。
火刑に処されるシーンで呪詛の言葉を叫ぶ表情が悪鬼か羅刹のように見えた。ものすごい迫力。そこに持っていくまでの痛めつけられ方が半端じゃないから説得力があった。
平良さんと渡辺さんが日本人に見えなかった。

黝の章から赭の章の間に30分休憩があったので、外で食事をする。

赭の章。

『ジルドレと黒魔術』

ジルドレ役の窪田さんがすごい。登場した瞬間に存在感で客席を掴んだ。マリーは中世の女の子というより、欅坂とか乃木坂とかにいそうな感じ。ジルドレの娘にしては狂ってないよなあ。言ってることは狂ってるけど。父親のことが大好きでジャンヌになりたくて。何だか一途な可愛い女の子に思えてしまうところが、いいんだけど、ちょっと残念だったかな。
プレラティ役の紅日さん。目力がある役者さん。両性具有という難しい役を存在感たっぷりに演じていた。
プレラティの証言のところのジルドレの表情がすごかった。狂気に囚われた人間の恍惚とした表情なんて、おぞましいだけのもののはずなんだけれど。
沈さん好きだなー。ほんのちょっとの役だけど。こういう役者さんがいるから狂気の世界の中でちょっとホッとできる。

快楽刑

大森さんの演技と根来さんの演技が素晴らしかった。圧倒的な暴力の世界。矜持というのがこの芝居のポイントなんだろうな。それぞれの登場人物がそれぞれの矜持を持って生きている。そのぶつかり合い。
格好よさって何だろうって考えさせられた。

『バートリ・エルジェーベト リバイバル』

島田荘司の『アトポス』の「長い前置き」の部分にバートリ・エリザベートとして登場してくる。まさにあのエリザベートが眼前に存在している。そのくらい川添さんのバートリは処女の血に狂った中世の美女を体現していた。美しい。そして恐ろしい。
ドルコとヤノシュの二人も狂気の片棒をかつぐ存在として凄みがあった。
それにしても丸山翔さんという役者さんは見事にそれぞれの役を演じ分けていて、とても印象に残った。最後のおちゃらけも含めて。

6時間あまりの時間があっという間に過ぎていった。高校演劇の地区大会を観にいくと、同じくらいの時間で6作品見るけれど、質がまちまちだから、途中眠くなったりする。
しかし、6つの作品それぞれが完成度が高くて、とても楽しめた。

ただ、両隣に妙齢の女性が座っている中でこれらの作品を観劇したことに対しては、多少のいたたまれなさも感じたことを付記しておこう。