DroidKaigi 2020 活動報告

mhidaka
DroidKaigi
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17 min readJul 22, 2020

DroidKaigi 代表理事 mhidaka です。

この活動報告は新型コロナウイルス感染症の影響によって2020年2月のDroidKaigi 2020が中止した影響をまとめています。

DroidKaigi 2020の中止を受けて

2020年7月の今もなお新型コロナウイルス感染症は社会へ大きな影響を与えています。技術カンファレンスも変化せざるをえません。本記事は今一度、開発者・企業・IT業界の関係各位がカンファレンスの有り様について考えるきっかけとなればという気持ちで公開します。我々の至らないところも目立ちますが、広く共有することで業界に役立ってほしいと考えています。

この中止でご迷惑をおかけした講演者、一般参加者、アプリ開発にコントリビュートした開発者、協賛企業、取引企業、カンファレンスに関わった皆さんにとって残念な結果となったことを改めて、お詫び申し上げます。

DroidKaigi実行委員会のボランティアスタッフは、一切の報酬がないにもかかわらず開催に向けて尽力し、生命の危機がある状況でも一緒に対応してくれました。スタッフ全員に感謝いたします。

2020年7月22日 一般社団法人DroidKaigi 代表理事 日高 正博

注釈

以下は2020年4月に協賛企業各位へ送付したものを可能な限りそのまま公開しています。一部にあった誤記や誤解を招く表現を訂正し、非公開URLなどを削除し、参考URLを追加しました。

可能な限り関係者でなくても分かりやすい表現に差し替えましたが、十分とは言えません。諸事情ご留意ください。また本件はスタッフには答えづらいものが多く含まれます。質問があれば近くにいるDroidKaigiスタッフではなく代表理事 mhidaka までお願いします。

DroidKaigi 2020 活動報告

Droidkaigi has been declared cancelled.

本投稿は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて中止となってしまったDroidKaigi 2020の活動および中止費用について詳細を取りまとめた資料です。

諸注意

一般社団法人DroidKaigiは非営利での社会貢献を目的とした社団法人です。DroidKaigiの運営はボランティアを主体とした実行委員会が行っています。ボランティアスタッフによる工数提供が運営基盤ですが、以下の説明費用にはスタッフの人件費や一般社団法人理事の人件費は含まれていません(一切を無償で行っております)。

予算と中止費用

中止費用は約5100万円で着地見込みです(脚注:2020年7月現在も一部、協賛企業との調整が継続していますので確定はしていません)。

無事に実施していた場合の概算予算は6200万円です。中止にあたってかかった費用は予算の82%に上りました。82%には本来予定していなかった廃棄物の処理費用なども含まれています。

(補足)予算の考え方

カンファレンス(人が集まるイベント、たとえば結婚式も似たような形で見積もれます)では1人あたりの費用を基準として費用を見積もる事ができ、~1000人単位の技術カンファレンスでは1人あたり2~4万円の範囲に収まることが多いです。

  • 1人あたり1~2万円:小中規模の技術カンファレンス
  • 1人あたり2~5万円+:中~大規模カンファレンス
  • 1人あたり5~10万円+:企業実施等の開発者カンファレンス

DroidKaigi 2020は合計1400名が参加予定でした。1人あたり4.4万円です。これは次の3点の影響を受けています。

  • 海外からの講演者・参加者が多い国際カンファレンスである点により渡航費用・同時通訳費用が発生
  • 1400名の参加は国内でも最大規模の開発者カンファレンスである点により準備物数量が増加
  • 大規模展示会場の利用にオリンピックの影響を大きく受けた点により会場費用の増加

中止費用の内訳

2月16日に中止を決定して以降、速やかにキャンセル処理を行いましたが2月20日(会場利用は2月19日の設営日から)の実施日に近く、中止費用がかさみました。内訳の概要は次の通りです。

これらの費用については事情を説明し、最大限の減免を申し入れました。開催4日前での中止のため発注・到着済みの備品も多く合計5100万円となりました。もし決定が1日遅れていた場合、多くのキャンセル規定では100%の支払いとなり、更に費用が膨らんでいた可能性があります(予算金額に加えて廃棄などの費用が追加でかかるため)。

会場費が突出して高額ですが、これは会場予約が2年前から行われる点、キャンセル規定は6ヶ月前を期限に100%支払いを求められることなどが背景にあります。オリンピック開催もあったため、2020年夏を予定していた展示会が玉突き的に移動し、大規模会場の需要が逼迫したことも影響しています。DroidKaigiへは国際的な関心が増しており、今年は1400人を収容できるスペースを確保する必要があった点も仇となりました。

費用の妥当性について

予算規模で6000万円、中止費用でも5000万円を超えており高額な出費とみえるかと思います。カンファレンス費用の目安は上記のとおりですが分かりにくいところもあると思うので補足します。

DroidKaigi実行委員会に一任された協賛金・チケット販売代金については、効率的な執行をボランティアスタッフ一堂心がけており、以前より可能な限りのDIYを行っています。

一例として、備品調達における輸送コストの削減があります。DroidKaigi規模のイベントになると、特別な調整と費用負担なしに一般的な宅配便での配送を利用することはできません。会場側でも受け取りのための施設利用費が必要となります。

DroidKaigiの備品調達は、連絡用トランシーバーのレンタルが一式100組(30~50万円)、養生テープも2箱(100本以上を消費します)のような規模になります。その他、当日利用するネットワーク機材なども、専門業者を使うと高額となります。このため、備品調達においては自らでトラックをレンタルし、搬入・搬出する工夫を行って節約に努めています。同規模のイベントにて専門の事業者を利用した場合、次の金額が追加発生します。

これら検討事項に加えて1000名の安全管理など考慮するべきことも多く、通常の生活・会社業務とはかけ離れたバランス感覚・金銭感覚が必要な状況です。負担を少しでも抑えて継続的なコミュニティ貢献が行えるよう、費用削減に努力しています。

補償について

損害についてはDroidKaigi 2020では興行中止保険等には加入しておりませんでした。しかしながら、たとえ加入していても新型コロナウイルス感染症による中止は補償の対象外との認識です。

興行中止保険は補償対象でも費用が100%返ってくることは稀なケース(または実施費用の20~30%程度の高額な掛け金を要する)であり、一部の費用負担(概ね60~80%)をカバーするものです。あくまで影響を小さくするリスク管理が保険の役割です。政府発表のイベント補償についても詳細は不明ながら現時点では一般社団法人を対象としておらず、補償を受けられない見込みです。

人命を第一に中止を決断いたしましたが協賛金のご返還等が困難である状況に変化はございません。申し訳ありません。

協賛企業の準備物についての取り扱い

また協賛企業が用意していた準備物(チラシ・封入物・展示什器)についても補償ができかねる状況です。

お預かりしていたチラシ等封入物については1400人分の封入物保管に相当の費用(15平米~20平米分の資材運送・倉庫保管・返送のための再梱包等の費用は50~100万円程度が発生)がかかることから廃棄のご連絡をしております。制作費用を負担を致しかねます旨、誠に申し訳ありませんがボランティアによる運営で追加費用の負担が難しく、選択し得なかった点など諸事情をご賢察ください。

キャンセル費用の減免

中止の影響を最小限にすべく、費用について交渉を行ってきました。上記の費用は次の減免を受けたあとのものです。

個別交渉により合計325万円を節約できました。今回、特別の事情を鑑みて対応いただいた経緯もあり、事業者へご迷惑がかかるとよくないので事業者名を公表する予定はありません。

協賛金・参加費と中止費用について

わかりやすく収入と記載していますがカンファレンス開催にあたってチケット販売および協賛金の2つから構成されており内訳は次の通りです。

中止費用と相殺し、キャンセル費用の減免交渉を行った結果、210万円の余剰が発生しました。なお中止費用にはチケット販売分の100%返金が含まれています。よって参加者の負担は発生していませんが協賛企業からお預かりした4300万円について返金の見込みがなく、中止に伴う整理の必要がある点には変わりがありません。

剰余金の取り扱いについて

剰余金210万円を協賛金の負担比率で分配した場合、次の返還額となります。

剰余金の取り扱い・詳細は本投稿の末尾をご確認ください。

ボランティアスタッフの活動

DroidKaigiはボランティアスタッフによって支えられています。今回の中止にあたって有志による開発・調整業務などの工数を概算しました。

これらを合算した24人月分の貢献はスタッフ本人の自発的意思による、賃金の発生しない無償の奉仕活動として実施されています。アプリ開発やデザインといった自らが持つ技能、ネットワーク構築といった専門性の高い分野などを含んでおり一概に費用としてコストを算出することは難しい状況です。

ボランティアスタッフへの贈与

制作物に関しては廃棄を進めていますが、保管費用が低廉な一部の制作物(スタッフ衣類・ネームプレート・シール等のノベルティ)を保管しておりました。中止が確定しているため近々、廃棄致します。

産業廃棄物ですので特別な廃棄費用が発生する見込みです。節約するためにスタッフパーカー・スタッフTシャツ等をボランティアへの贈与を検討しています。本来であれば市価にての買取を打診すべきではありますが、上記工数のような会計に現れない多大な貢献があることから贈与として廃棄費用の節約に努めるべきと考えています。

本処置について申し立てがある協賛企業がありましたら、4月20日までにご連絡ください

(追記:不同意申し立て分は、制作費用を按分して不同意となる協賛企業の負担相当額を算出、一般社団法人DroidKaigiがそれを補填してスタッフへ贈与を完了しています)

今後の対応についてFAQ

中止にあたっていくつかご意見を頂いております。問い合わせも広報・採用・また開発部門や協賛担当者等さまざまな部門・立場から頂き、皆様が必ずしもカンファレンスの運営構造に詳しくないため丁寧な回答が必要です。この場にてよくある質問の回答と背景を共有します。冗長と感じるかもしれませんがご確認ください。

(追記:FAQについても4月当時のまま掲載しています)

Q.代替開催の有無

A.ありません。代替開催のための会場・費用・運営体制を捻出することが現実的でなかったため中止を決定し、速やかに通知しました。DroidKaigiでは1000人を超える開発者カンファレンスとなるため、運営は1年以上前から緻密な計画に基づいて行っています。当時、オリンピックが控えている状況での会場確保は困難であったのが一番の理由です。

代替開催を実施した場合、準備・ボランティア工数の不足から多くを外注することとなります。同規模で6000万円を超え、規模を縮小した場合でも2000万程度が追加調達の最低ラインとなり、選択は難しい状況でした。

Q.今後の開催等について協賛企業へ特別な優遇措置の有無

A.ありません。一般社団法人DroidKaigiは非営利の公益法人として公益活動を理念に掲げています。特定企業への優遇は理念から難しく、今後のカンファレンス開催において費用面の割引、特別な露出の確保がお約束できません。

協賛企業各位に費用負担を強いている点について、DroidKaigi実行委員会一同、忸怩たる思いです。遺憾ながら新型コロナウイルス感染症の影響による中止に直面して、公益性を維持することと企業のPRや採用活動との整合性が難しいとの課題が浮き彫りになりました。今回の対応は開発者コミュニティの継続性を第一に考えてお願いしている次第です。

Q.採用等への協力等での補償・補填の有無

A.インタビュー・PR露出の確保などのご依頼は受けていません。上記と同等の理由から個別の協力依頼には答えられておりません。正直なところ可能であればお手伝いしたいという気持ちは山々です。しかし複数の企業から申し入れがあった場合、またそれらを公平に全てを受け入れようとした場合、ボランティアでの対応は難しくスタッフ各位の業務に影響があり生活との両立が難しい者も出てくるためです。

予定の協賛スペース等を提供できなくなったことは心苦しくあります。中止のショックを受けるボランティアスタッフも少なからずいるなかでこれ以上の負担をスタッフに強いるのは開発者コミュニティとしても本意ではなく、苦渋の決断としてお断りしています。ご理解いただけますと助かります。

これら以外にも不明点がありましたら遠慮なくお問い合わせください。

Q.中止の決定について協賛企業への事前相談が足りないのではとのご指摘

A.わかりやすい情報提供ができず、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。一般社団法人DroidKaigiでは万一に備えて、協賛企業各位に新型コロナウイルス感染症についての方針をメールで通知していました。

今回、緊急かつ重要な事案であったため速やかにお伝えするべく連絡経路を指定しました(追記:Meduimの記事のことです)。不測の事態における対策についてあらかじめ共有・理解の場を設定するなど連絡体制および信頼関係の構築に努めます。今回ご協力頂いたおかげで内部決定より一般への中止告知まで2時間で完了し、混乱を最小限に留める事ができました。あらためてお礼を申し上げます。

Q.発生した費用の用途、企業への説明が不足しているとのご指摘

A.この度はご不安を与えてしまい、申し訳ありません。費用等の取りまとめ、説明が遅いという指摘については事務作業が開催に比して遅延するというカンファレンスの特徴が影響しています。開催日に確定する費用・追加発生のものなどもあり、費用精算は翌月末や翌々月末の支払いとなるものがあります。そのためDroidKaigiのケースでは最短で2ヶ月後(DroidKaigi 2020であれば4月以降ですが中止の影響が大きく、前年と比べても細部確定はずれ込んでいます)となります。

「費用の妥当性について」などで補足させていただきましたとおり、大規模特有の事情、およびカンファレンスの事務処理にかかる時間など一般の方からは想像がつきにくく不安を与えてしまいました。今回の説明資料も精緻でないものの、わかりやすさを優先して作成しています。諸般の事情に鑑み、ご容赦ください。

(追記:中止にあたって関連する企業は100社を超えており、現在もなお調整を行っています)

Q.イベント中止時の規定を用意するべきではないか

A.おっしゃるとおりです。安心できるガイドラインを作成して参ります。類似の事例をみるとガイドラインに補償なしまたは100%の返金と書かれていても、片方に有利すぎる契約が有効であるとは限りません。実際には個別交渉での調整対象となるケースが多く、中止という双方が被害を被るケースではガイドラインの有無ですべてを解決できるわけではありません。

一般社団法人DroidKaigiでは、これまでも反社会的勢力の排除条項を取り入れるなど説明資料の改善してきました。今後も中止時の対応など含めて協賛ガイドラインの充実を図るとともに、イベントへの理解度を深めてもらうための説明やパートナーとして継続的な信頼関係の構築を行ってまいります。

コミュニティ協力の御礼状

この度は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて想定外の中止とせざるを得ず、コミュニティを形成する一般来場者、学生や講演者、協賛企業、関係者には大変な迷惑がかかりました。安全を優先したとはいえ慚愧に堪えません。

特に協賛企業に関しては費用負担が発生していることから、ボランティアスタッフでなにかできないかと集まって検討しておりました。費用面でも余裕がないことは明らかであるため、ささやかながらではありますがコミュニティ協賛への御礼状をもって感謝を広く開発者に公示し、謝意を伝えられないかと考えております。

コミュニティの継続・発展を支援頂ける企業の功績を表彰するとともに、チャリティイベントなどの場でモバイル開発者へ功績を掲示させていただこうと考えております。チャリティイベントの開催要旨などは依然未定ではありますし、これまでの説明および剰余金の取り扱いにご納得の上での話でもあります。

御礼状の送付はDroidKaigi実行委員会が一足飛に決定する立場ではありませんがDroidKaigi 2020の中止以降、2月から現時点に至るまで技術カンファレンスはことごく中止・延期の影響を受けています。過去にない事態に対して開発者への支援を表明し、協賛企業の功績表彰を行えますことは勉強会・カンファレンス文化の維持だけでなく企業ブランディング・PRの側面でも大きな価値があると考えています。

次のフォームで御礼状送付/掲載および返金ご回答を受け付けております。

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新型コロナウイルス感染症のもたらした社会的影響に鑑み、危機的な状況への貴社の貴重な協力が賜れますよう、今一度ご検討・ご一考よろしくおねがいします。

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mhidaka
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Software Engineerだよ。DroidKaigi Organizer / Androidと組込とRe:VIEW。TechBooster主宰。mhidaka's writings http://booklog.jp/users/mhidaka 技術書典! http://techbookfest.org