エストニアのe-Residencyについて — エストニア共和国e-Residencyプログラム広報責任者アルノー・カステグネへのインタビュー

エストニア共和国のe-Residencyプログラムは2014年12月に開始されました。以来157カ国から50,000人以上が登録しています。以下は、エストニアのe-Residencyプログラム広報責任者のアルノー・カステグネのインタビューを掲載します。

エストニアe-Residencyプログラム 広報責任者

アルノー・カステグネ — エストニアe-Residencyプログラム 広報責任者

アルノー・カステグネ 略歴

アルノー・カステグネはエストニア共和国のe-Residencyプログラムの広報責任者を務める。その傍ら、パリに拠点を構える2010年に創業されたシンクタンクOpen Diplomacyの取締役会の一員を務める。また35歳以下の若手プロフェッショナルを対象とした米国ジャーマン・マーシャル財団の推進する「Young Transatlantic Network of Future Leaders(将来のリーダーによる若手大西洋横断ネットワーク)」の会員。e-Residencyプログラムに関わる以前は、フランスのフランソワ・オランド前大統領のコミュニケーションチームの一員を務めた。さらにフランスのパリで国際PRコンサルタントとして政府、政治家、企業の広報業務や戦略業務を担当し、またトルコ・イスタンブールやインド・ムンバイでビジネス担当記者を務めた実績も有する。パリ政治学院ボルドー校で修士号を取得。

インタビュー:スタートアップによる成功ストーリー

Q. e-Residencyプログラムとは何でしょうか?

A: e-Residencyとはエストニアの国民でも居住者でもないが、エストニアのデジタルIDと電子サービスへのアクセスが付与されている人々に提供されるステータスです。

エストニアのe-Residencyキット

実践面では、エストニアと同国のビジネス環境に繋がることができ、世界のどこからでもグローバルなEU企業をオンラインで経営する自由が得られます。

e-Residency認証カード

Q. e-Residencyに登録するメリットは何ですか?なぜエストニアの電子居住者(e-resident)になるべきなのですか?

エストニアは、電子居住者(e-Resident)が居住地に関係なく、容易にビジネス活動するための方法を提供しています。実際、デジタルサービスを販売し、国境をこえてITやコンサルティングサービスを提供するデジタル起業家や世界のどこからでも働くことができる居住地にとらわれない起業家、1つ以上の国で生活や仕事をするプロフェッショナルであるデジタルノマドといった方々が、e-Residencyから最も恩恵を受けることができます。e-Residencyはこれらの人々が、欧州で信頼される会社を設立し、少ない経費で遠隔から会社を管理することを可能にします。

Q. プログラムにより、エストニアに居住する権利は得られるのでしょうか?

A:e-Residencyはエストニアの市民権あるいは入国・居住する権利を付与するものではありません。また欧州連合(EU)各国に入国する権利を与えるものでもありません。

Q. e-Residencyの最新の統計を教えてください。

A:157カ国から50,000人が電子居住者として登録されています。電子居住者によりこれまで6,600の企業を設立されています。日本では、2,561人が電子居住者として登録しており、すでに190の企業が設立されています。

Q. 電子居住者はエストニアに行かずに、どのように銀行口座を開くことができるのでしょうか?また、電子居住者になると、その他にどのようなサービスが受けられるのでしょうか?

A:エストニアの銀行は、エストニアにビジネス上の接点があり、事業が明確な電子居住者に銀行口座の開設の許可をだしますが、エストニアで対面のミーティングが要求されます。エストニアの銀行のみが、電子居住者が利用できる銀行サービスではありません。

事実、電子居住者の設立した半分以上の会社は、オンラインバンキングにフィンテックサービスを利用しています。そのため私たちは、Holvi、InstaRem、Payoneerといった決済機関とパートナーシップを結んでいます。国際的な起業家の間では、IBANやクレジットカード、その他金融サービスへのアクセスの手段としてフィンテック企業の提供するサービスを利用すること多く、世界的なトレンドとなっています。例えば国際送金ではエストニアの最も成功したサービスであるTransferwise Borderlessが広く利用されています。

1月1日、エストニア議会は資本金の登録に際し、エストニアの銀行を利用しなければならないという条件を削除しました。そのため、電子居住者は欧州経済圏において、どのクレジットカードあるいは決済機関を利用してもビジネス活動を行えることになりました。

Q. 本プログラムを通してエストニアでの企業経営をオンラインで完結できるようになるのですか?

A:はい。e-Residencyにより、世界中のどこからでもオンライン上で国際的なEU企業を運営することができます。エストニアに訪問することなくエストニアで事業登録することができます。ただ、もちろんエストニアはとても美しい国ですので訪問されることを強くお勧めします。

Q. e-Residencyプログラムを通して行えない事業はありますか?

A. エストニアの法律を遵守する活動である限り、どのような企業でも立ち上げることができます。そのため、商品を輸出入する方々よりもデジタル起業家やITスペシャリストのような方々の方がメリットを享受できますが、どのような事業でも認められています。

Q.デジタル・アイデンティティのセキュリティをどのように担保していますか?

A. 定義としては、何らかのイニシアティブを開始する時(ここでは政府のイニシアティブですが)、リスクと機会のどちらもがあります。エストニアが2001年にX-Road(エストニアの情報交換基盤)とデジタルIDカード(国民IDカード)を開始した時、あるいはオンライン投票システムを2005年に開始した時もリスクがありました。デジタル社会を構築することにはリスクが伴いますが、紙で処理することがリスクを減らすことにはなりません。むしろ逆です。e-Residencyについて言えば、技術的な真新しさはなく、エストニアがすでに持っていたインフラにアクセスできるようにしただけであったため、私たちは新たなリスクが生み出されることはないと判断しました。

独立した決定権を持つ警察・国境警備庁による電子居住者のバックグラウンド調査を行い、法人は、法人登録ポータルに登録された上で、年次報告書の提出等他のエストニア企業と同等の義務を負います。エストニアは、関連するOECD協定に基づいて100以上の司法制度に準拠した形で税務関連情報が交換するため、租税条約を締結していない国々とも税務関連情報が交換することが可能です。

私たちのプログラムの成長の中で素晴らしいことは、私たちはセキュリティについてとても真剣に考えていることがe-Residencyの登録者数に良い影響を与えているという事実です。

エストニアのデジタル国家は、国民、居住者及び電子居住者、すべての人々の信用から成り立ちます。国家が透明性や説明責任を果たさない場合、信用は得られません。自身の個人情報の使用を、国民自身がコントロールできなければ、国民は自分たちのプライバシーについて不安を抱えます。エストニアでは、透明性と説明責任を保証し、国民は自らのプライバシーを監視することができます。国のポータルサイト「eesti.ee」にログインすることで、自分たちのデータに誰がアクセスしようとしたか確認することができます。私たちのデジタル・アイデンティティの完全性の保護は、常に最優先事項です。しかし、この領域の先駆者になるということは、時に新たな課題にエストニアが初めて直面することにもなります。10年前、データ漏洩はありませんでしたが、エストニアは国家レベルのサイバー攻撃を受けた世界ではじめての国となりました。

このサイバー攻撃は、革新的な新しい技術によって、国のデジタルインフラがどのように保護できるのかということについて警鐘を促すものになりました。もちろん、セキュリティを完全に保証できるシステムはありませんが、それでも私たちは、紙での管理よりもデジタルよりでの管理の方が高いセキュリティを保てると信じています。

電子サービスに対するサイバー犯罪や政治的な動機を持った攻撃の増加は、官民双方にとって、今までにないほどサイバーセキュリティの重要性が増していることを意味します。サイバー攻撃対応におけるエストニアの準備体制は過去10年間で飛躍的に整備されました。エストニアは侵入検知・保護システムを開発し、官民が協力関係を持ち、国民の意識を変え、また密に国際協力に参加しています。

2007年のサイバー攻撃を経験して以降、エストニアはデータとシステムの完全性と内部リスクへ対応するため、ブロックチェーン技術を実装しており、国際的に価値のあるサイバーセキュリティの専門性を持った国の一つとして認識されるようになりました。それ以降、エストニアにNATOサイバー防衛協力センターと欧州IT機関(eu-LISA)が設立されました。NATOサイバー防衛協力センターは世界で最大かつ最も複雑な国際的なサイバー攻撃に対する技術演習を実施しています。

Q. e-Residencyプログラムにより成功したスタートアップについて教えてください。

A: Cupcakeseというブラジルとエストニアをベースとした、急成長しているモバイルゲームとFacebookゲームの開発・販売会社を創業したガブリエル・シュテュルマー氏(Gabriel Stürmer)が挙げられます。またウクライナから電子居住者となったREDWERK OÜ 創業者のコンスタンティン・クライアジン氏(Konstantin Klyagin)もいます。REDWERK OÜは、オフショアのソフトウェア開発会社で、欧州議会向けのソフトウェアも開発しています。

ドイツの連続起業家であるクリストフ・ヒューブナー氏(Christoph Huebner)はKinder Privat VersichernやExmedioなど複数の企業を設立しています。Kinder Privat Versichernは、ドイツで幼児・子供向けの民間医療保険プランのブローカーに特化したサービスを提供し、Exmedioは自分の死に際して、知人に通知するサービスやデジタル上のアカウントを削除するなどのサービスを提供しています。フィンランドの電子居住者ミキ・クーシ氏(Miki Kuusi)はエストニアで700人の配達ドライバーを雇用しているWoltという食品配達アプリを提供し、タリンをバルト三国の拠点としています。

Velmenniを創業したインドのディーパク・ソランキ氏(Deepak Solanki)は最も成功したインドの電子居住者の一人です。WiFiの代替となる革新的なLiFi技術の開発を行う会社です。Velmenniはインドで事業を開始しましたが、資金調達に苦しみました。彼は、エストニアを通してEUで再度会社を立ち上げ、e-Residencyプログラムを通してイギリスの投資家とともに遠隔で会社を運営しています。エストニアのタルトとインドのニューデリーにオフィスがあり、50%のクライアントが欧州に基盤を置いています。e-Residencyは、ソランキ氏が資金調達する助けとなっただけでなく、広範な欧州マーケットへのアクセスを可能にし、会社の成功を支援しました。

日本人にも活動的な電子住民がいます。例えば、デジタルウォレット、暗号通貨のマイニング施設、ブロックチェーンのプロジェクトに投資するベンチャーキャピタルファンド、イーサリアム(暗号通貨の一つ)を基盤とした新たなクラウドファンディングサービスなどの事業を行うblockhiveのCEOの日下光(くさかひかる)氏が挙げられます。日下氏は、電子住民として会社を登記し、今は実際にエストニアに移住しています。

今、エストニアと日本の関係は良好です。そのため、私たちは、もっと日本の電子住民による成功ストーリーが出てくることを期待しています。エストニアのスタートアップコミュニティと強い協力関係にある日本の自治体もあります。また福岡県のいくつかのスタートアップ企業は、昨年5月にエストニアで実施された有名なスタートアップカンファレンスLatitude59に出席していました。そして私は今回Slush Tokyoなどのため、Startup Estoniaとエストニア投資庁(共に政府機関)と共に来日しています。

Q. e-Residencyの将来の方向性について教えてください。

A. プログラムが開始して以来、電子居住者はエストニアの電子国家の恩恵を受けるだけではなく、そのさらなる発展に多大な貢献をしています。彼らはエストニア企業とビジネスをし、エストニアに投資をし、エストニアを観光し、時にはエストニアに税金を払っています。そしておそらく一番面白いことは、彼らは私たちの文化や価値観も含め、エストニアの認知度をグローバルで大きく向上させています。電子居住者は今や全世界に広がるエストニアの重要なコミュニティとなっているのです。これは、私たちの国がどのように機能するかにとって新たなスタンダートとなり、他国もすでに私たちを追随しています。アゼルバイジャンやドバイは独自のe-Residencyプログラムを開始することを発表しています。

昨年12月、私たちはe-Residency 2.0という白書を発表しました。プログラムを進化させるための49の提言が記載されています。カリユライド・エストニア大統領によって発表され、その作成に直接関わったタミスト起業・IT大臣とTransferWise社のヒンリクスCEO といった多くの人々の支持を受けています。ラタス・エストニア首相はプロセスを進めるにあたり、重要な役割を担い、閣僚は49の提言全てを承認しました。

e-Residencyプログラムはすでに国民、居住者、電子居住者そしてエストニア自身に、確固たる便益をもたらしました。エストニア人の納税者によって投資された額よりも多くの直接収入をエストニアにもたらしました。以前は不可能であった方法で世界中の人々が起業家精神に触れ、グローバルで事業展開することを可能にしました。それにより、これまで以上にビジネスや仕事、投資をエストニアの企業にもたらしました。

改善提言は技術、ビジネス、セキュリティ、そして文化までをも網羅しています。デジタル国家の全ての人々が互いにより有益なつながりを得られるように作成されています。

Q. e-Residencyプログラムとパートナーシップを結ぶことはできますか?できる場合はその詳細を教えてください。

A. e-Residencyコミュニティが成長するにつれ、コミュニティの事業サービスをサポートするというニーズも大きくなります。電子居住者の生活を向上させ、彼らが成功した企業を作ることを支援することができる企業とパートナーシップを結んでいます。私たちは居住地に関係なく活動する起業家のための事業サービスに関心を持っています。また同時に、コワーキングスペースやアクセラレーターなどからの新しいクリエイティブなアイディアも待っています。

関連するビデオ(英語のみ):

· e-Residencyとは?

· エストニアのe-Residencyに申請するためには?

· エストニアのe-Residencyでグローバルビジネスを管理するためには?

その他関連するリンク(英語のみ): 
 e-Residencyプログラム:
https://e-resident.gov.ee
 e-residentになるためには: https://e-resident.gov.ee/become-an-e-resident/
 申請: https://apply.gov.ee/
 会社を始める: https://e-resident.gov.ee/start-a-company/
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