ソフトバンク+ARMの衝撃!

八鍬兼二
電子書籍出版 MAGAZINE
8 min readJul 31, 2016

2016年7月、とてつもない出来事が起こりました。それは、ソフトバンクグループによる英国ARM社の買収です。

最終的な買収完了までは、まだ時間がかかるようですが、取り敢えず、今回の買収が実現するとして、近未来への影響を考えてみたいと思います。

■ Made in Japan

2016年7月18日、ARM Holdings(英国、半導体設計大手)の買収を、ソフトバンクグループが発表しました。買収金額の、3.3兆円も驚きのニュースですが、この買収の意味するものは何か? また、これからどんなことが起こっていくのか気になります。

その前に、ちょっとだけおさらいを。

資源の乏しい日本が、世界をリードしてきたもの、それは技術力。勤勉で努力家の日本人が生み出す確かな製品群は、Made in Japanとして世界中でシェアを拡大しました。

しかし一方で、ものづくりに固執するあまり、時代の変化を過小評価してしまったことは否めません。米国を中心にIT革命が起こると、世界中のスタンダードは変化しました。やがて、日本のものづくりは輝きを失い、いつのまにか世界の後塵を拝することになりました。

■ Made in USA

初めてトリニトロンのTVを見たとき、初めてウォークマンを手にしたとき、初めてCDの音を聞いたとき……インパクトをもたらす製品は、いずれもSONY製でした。多くの国民が、次々と世界をリードするSONY製品に、強いリスペクトを感じていました。

しかし、時代をリードする製品は、気付けばSONYからAppleへと変化して行きました。Appleのものづくりには、性能の追求だけではなく、デザインやインターフェースを機能に取り入れ、世界中の人々を魅了しました。

また、シリコンバレーのIT企業群は、ものづくりでなくインターネットを主軸とするビジネスモデルによって、はじめからグローバルビジネスを視野に入れてサービスを展開しました。

現在、PCを動かすのに必要なOS・CPU・インターネットといった基幹技術は、もののみごとにMade in USAです。

いずれのテクノロジーも、その鍵を握っているのは、ハードウェアではなくソフトウェアという点がMade in USAの特徴です。

■ 失われた20年

例えば、今から世界中のOSを新しく開発した日本製にすることや、CPUをIntel製から日本製にすること、そしてインターネットテクノロジーをまったく新しい日本製のネットシステムに切り替えること、これらは実現可能なことでしょうか? 残念ながら、今の日本は周回遅れなのです。ものづくりに固執している間に、世界の潮流に乗り遅れてしまったのですから。

最大の要因は、バブル崩壊後の、いわゆる「失われた20年」です。長らく続いたデフレ経済は、人々の経済成長に対するマインドまでをも奪ってしまいました。

その間、一時的な円安と株高のおかげで大企業は潤いましたが、日本経済を立て直すまでには至りませんでした。近頃は、足下からデフレの影が再び伸び始めています。

一方、米国経済の方は、経済的に落ち込むことがあっても、ほどなく回復します。その強さは、本物といってよいでしょう。

これには明確な理由があります。それは、世界経済が、ものづくりからインターネットビジネスへと主役の座が交代してしまったからです。そして、その覇権を握っているのは米国です。

日本は、この事実をきちんと受け止め、正面からこの問題と向き合わない限り、本当の意味で経済的な強さを取り戻すことは難しいのではないでしょうか。

世界が変わってしまったのに、日本だけが同じやり方のまま異なる結果を求めるのは、どうにも無理があると感じるのです。それでは、日本が取るべ道はどこにあるのでしょう?

■ 新世界のはじまり

世界は、無音のまま足跡も残さず新しい時代へと歩みはじめました。それもそのはず、これから始まる新世界は、見ることのできないクラウド上にあるのです。

ものづくりからクラウドへ。国境のない新しい世界は、IoT:Internet of Things(モノのインターネット)で構築されます。

それは、ありとあらゆるモノたちが、ネットに接続されるだけではなく、モノとモノが相互に繋がりネットワークを築く世界です。PCだけでなはく、すべてのモノがインターネットに繋がる社会。SFのような未来が、本当に始まるのです。

■ 新世界のプラットフォーム

私たちの未来が、IoTによるモノのインターネットによって構築されていくとしたら、そのとき、世界の覇権を握っているのは、やはり米国でしょうか?

IoTの実現に当たっては、あらゆるモノをインターネットに接続することが必要です。現在、オフィスや自宅では、有線と無線の両方でインターネットに接続しています。外出先では、WiFiアクセスポイントや、携帯電話で接続しています。IoTも一緒です。室内では有線と無線で。室外は無線が基本になります。

また、モノですから、携帯電話ほどの機能は必要ありません。ほんの少しの情報を送るだけの小規模で低消費電力型の無線通信があればこと足ります。

現在、携帯電話に組み込まれているチップ(半導体)のほとんどは、英国ARM社のライセンスに基づき作られています。そして、スマートフォンにも、ARM社のライセンスで作られたチップが入っています。

ですから、あなたも既にARM社のユーザーの一人ということになります。そしてそれは、世界中のモバイルユーザーも同じなのです。

今、私たちが手にしているモバイル環境は、多くても一人あたり数台といったところでしょう。つまり、そこで使われているARM社のチップ数も、数個程度ということです。

ところが、本格的なIoT時代になると、身の回りにあるモノのすべてがインターネットに接続されます。その際、一人に関係するチップ数は、1,000個とも想定されています。そして、その多くにARM社のチップが用いられることになるのです。

ソフトバンクが買収するARM社の見つめる未来には、私たちの新しい社会基盤を支える新たなプラットフォームの実現があったのです。

この事実を知ったとき、私は強い衝撃を覚えました。

■ まとめ

今後の世界経済を担う、IoTを主軸とするビジネスモデルには、ソフトバンクグループ=ARM社のテクノロジーが必須です。

つまり、次世代の世界的な社会基盤を構築する要の技術を、日本のソフトバンクグループが握ることになるのです。IoT社会の発展を支える基盤をソフトバンクグループが提供するのですから、その強さは想像を絶します。

IoT社会の経済では、IoTが発達すればするほど、ソフトバンクグループに利益をもたらします。それは、来たるべき次の時代をリードするポジションを意味します。

IoTを超える地球規模の次世代プラットフォームが誕生するまでは(例えば、想像もつきませんが無線を使わないモバイル環境の実現など)、ソフトバンクグループは、IoT時代をリードして行くでしょう。

世の中、何が起きるか本当に分かりません。

今回お伝えしたことは、電子書籍と無縁の話ではありません。なぜなら、IoTと電子書籍の親和性は極めて高いからです。

例えば、冷蔵庫の食材で料理をする場合、IoTなら家族構成、料理の好み、天気、スケジュール、食材の量と鮮度に応じて、もっとも相応しいレシピが選ばれます。選ばれるレシピは、世界中のデジタルコンテンツからリサーチされます。

このようにIoT時代になれば、デジタルコンテンツである電子書籍は、自動的にモノと繋がり、そのコンテンツは人々の生活を快適にする知恵として、AI(人工知能)に活用されていくでしょう。

そんな未来が、もうすぐやって来るのです。

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