読書録:「スノーデン独白 消せない記憶」普通の人の向こうにあるリヴァイアサン、デジタルの暴走

スノーデン 独白: 消せない記録
※献本いただきました

スノーデン自身が自分の生い立ちを語ったもの。なので、「スノーデンがやったこと」、NSAの仕事とかどういうドキュメントを暴露したかとかの話じゃなくて、スノーデン自身のモノローグが続く。
タイトルも、パーソナルなものであることを言いたくてこれになったのかもしれない。

お役所タウンに育った、いじめられっ子で自閉症気味だった少年が、パソコンのちにパソコン通信にハマり、圧倒的に沢山の時間を投入することで達人となってそれでネットワークエンジニアとして食べられるようになるまでの成長の軌跡は、黎明期のインターネットを知る人なら良く理解できる話だ。当時はだれでも、突っ込んだ時間に比例して尊敬を受けることができた。
そうしたスノーデン少年が、大学を卒業できなくてもITで食べられる仕事であり、見慣れた職業であるNSAを選ぶ。そこに描かれるNSAは、デジタル前からある組織にありがちな「お役所仕事」の巣窟で、仕事を得た若きスノーデンはめざましい活躍をする。

そうしたコンピュータ好きのストーリーが一変するのは911のテロだ。組織はなりふり構わない形であらゆる記録を傍受し保存しようとするように変容し、何人かの職員は「おかしい」と思っていても、誰が想像した形よりも凶暴な形に変わっていく。
この頃からスノーデンの記述のあらゆるところが、ちょっとパラノイアックにおかしくなっているところが増えてくる。効率以外の部分で組織への批判も増えてくるし、良心の呵責を抱えながら仕事をすることも負担になっていたに違いない。積み重なった巨大な意思は、スノーデン自身にも悪い意味で影響を与えていたように思う。山形浩生さんの翻訳は、そうした静かに狂気が浸透してくる有様をそのまま伝えてくる。

内部告発をすると決めて、世界各地を飛び回るようになってからは、自らのセキュリティに対して徹底的にこだわった、おそらくそれは必要なのだろうが、それにしても正常ではいられない日々がリアルに伝わってくる。この場に香港が、「自由な場所」として出てくるのも個人的にグッとくる。

僕は今でも、テクノロジーそのものは倫理中立だと思っている。一方で、大きい組織はそれだけで人間性を阻害するのではないかと、本書からは強く感じた。

中国雄安新区でのイベントで、ホテルにチェックインしたらもうイベント案内が載っていて、自分の名前も書いてある。こういうのはビビる。

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