Make:Vol.61 「サイボーグとSINO:BIT」セクシーサイボーグ様寄稿

セクシーサイボーグとして知られる深センのメイカーNaomi Wuが語る、彼女の旅、インスピレーション、そして中国初の認定オープンソースハードウェアプロジェクト
オリジナル Make:Vol61 プロジェクト杉田玄白参加作品 翻訳:高須正和
(Authorized by MakerMedia and Naomi Wu)

私はNaomi Wu(@realsexycyborg on Twitter)
23歳の中国人、メイカー、ハードウェアオタク。「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれる深センに住んでいる広東人です。
あなたの持っている電話機やコンピュータは、おそらくここで作られている。私はそこで育った女の子だ。ここ深圳はまさにサイバーパンクな場所で、技術の最先端にある場所で、私はまさにその中で育った。
深圳は広東省、古くは広州と綴る、香港の国境を超えてすぐの場所にある。まだ40年も立っていない中国でもっとも新しい都市です。

深圳の文化はその新しさ、若さを反映していると言われ、ニューヨークに例えられる。深圳の人々は財産を稼いで自分の人生を違ったものにするために来ている。深圳の人たちは素早く変化し、よく働き、中国の他の都市に比べて革新的だと言われる。
深圳の人々は中国全土、特に西の方から来ている。なので「深圳の地元料理」というと、中国全土のものになる。

深圳はかつて山寨(模倣品や複製品を指す中国語)の中心地として知られていた。(訳注:山寨は英語のHackのように人によって解釈が違い、ポジティブな意味で使う人もいる。ただしその多くは欧米人ハッカーと彼らの友達の中国人で、中国人同士の間ではたいてい蔑称として使われている)
でも私たちは、他人のアイデアを単に模倣するビジネスがそう長くは続けられないことを知っている。それを続けているかぎり、私たちはずっと工場労働者のままだ。

深圳がクリエイティブでイノベーティブな場所になるまで、途方もないアイデアとリソースが投下された。今では何百万という人々が共通の目的と価値を持ち、自分自身のアイデアを製品化し、ここで生産している。私は何よりもそのおかげで今のようになれた。労働者ではなく、クリエイターに。

セクシーサイボーグ様の作品達。すべてオープンソースで公開されている

だから私は自分のクリエイティブの成果を公開している。
私のプロジェクトはヘンで笑えるモノだ。ウェアラブルな背負える3Dプリンタ、合わせ鏡で無限に入っていけるように見えるスカート、infinity skirt。みる人誰もが喜ぶ、「クリエイティブな愚かさ」を保つためにいつも努力している。
金持ちのボスが上等なクルマに乗っているのを見ても、誰も幸せにならない。でもこの深圳の地下鉄に、稼働中の3Dプリンタを背負った女の子が乗ってきたら、誰もが一緒にセルフィーをせがむ。誰もが笑う。なぜならそれは、このクリエイティブな都市深圳が求めていたもので、この中国の伝統にはなかった新しいものだからだ。

作ることで決まった考えを打破する
私はワーキングクラスの典型と言えるバックグラウンドだ。中国の地元の学校、西洋で言う公立学校を卒業している。自分が西洋ほど包括的な教育を受けられたのはわからないが、今どういうことができるか考えれば、充分な教育を受けたと思っている。
特に数学と科学が得意だったことは、今の技術的な活動にすごく役立っていて、ありがたい。学生時代の私は英語オタクで、子供の頃毎晩夜遅くまで英語のテレビ番組を見て、地元の英語コンテストで賞を取ったこともあった。受賞は英語専攻の大学に進学しようとしたときに役だったし、大学生活で小遣い稼ぎをしたいときにさらに役だった。オンラインでプログラムの書き方を学び、フリーランスのWeb開発者になることができたのだ。

Web開発は私をスタートアップカルチャーに繋げてくれ、さらに深圳のハードウェアスタートアップシーンに繋げてくれた。深圳にはハードウェア開発をしている多くの西洋人がいる。彼らとメイカー文化やハードウェアのハッキング情報、情報セキュリティなどを話すことはすごく私の興味をかき立て、自分でも調べるうちに私はメイカーになっていた

私の最初のハードウェアプロジェクトは、2015年のMaker Faire Shenzhenのアフターパーティ、AkiPartyのために、天野清之(面白法人カヤック)の絶対領域拡張計画 光るスカートをベースにしたHikaru skirt、LEDで光るライトを内部につけたスカートだった。

AkiPartyはTomad(マルチネレコーズ)と僕@tksが運営しているギークのためのダンスパーティ。東京、深圳などで行っている

私は3Dプリンタに触ったことやTinkercadのチュートリアルを完了し、友達のために小さな贈り物を作ったことはあった。今回のプロジェクトのためのマイコンボードとバッテリのためのシンプルな外箱をつくるために、何回かプリントして修正を繰り返す必要があった。私はソフトウェア開発でのオープンソースツールの経験から、attribution(訳注:帰属、原作者を明示すること)の重要性を知っていたので、スカートのコンセプトとしてクレジットすることにとても気を配った。

オリジナルのクリエイター天野清行と日本のメイカーのコミュニティは私のattributionを認めてくれた。中国人の多くはattributionを考えず、オリジナルの写真を自分が作ったとして作品リストに転記する中、私のやり方は珍しく、自分自身にとって良いレッスンになった。他人のアイデアを自分のものとして主張するより、きちんとattributionすることのほうが多くのリスペクトを得られる
このスカートは最終的に多くの欧米のWebサイトで紹介された。中国の大都市で育った普通の女の子の写真が急に広まる-それは簡単に人間性を見失ってしまうほどの大事件だった。私は、初心者が夜遅くまで半田ごてを握り続けて得たこれを恥ずかしくも、虚栄心だとも思わない。
私は今も、プレゼンテーションやパフォーマンスが好きだが、作ることそのものをさらに深く愛している。

それから2年間はフルタイムで働きながら、2ヶ月に一つぐらいの割合で新しいプロジェクトを作ることができた。ハッキングツールを内蔵した3Dプリントのハイヒール、腕に取り付けられるマイクロドローン、合わせ鏡で作られたスカート、LCDディスプレイで作ったバーレスク式のタンクトップ(もちろん、露出度は控えめ)。メーキャップよりもネットワークハッキングのためにRaspberry Piが内蔵されたコンパクト、Wi-fiをハックする装置を積んで飛んでいくドローンのためのデバイスなど。

私は大人になり、とても派手な自分のスタイルを持つようになった。自分はこれらのプロジェクトで、多くの人から注目されるための広告塔的な役割を果たしていたことを知っている。Makeは純粋に技術的な追求に加えて、パフォーマンスアートの要素もある。プロジェクトの技術的メリットをキッチリと解読することの良さととプレゼンテーションの重要さを分けることはできない。
私は群衆に埋もれる人になりたくなかった。なのでファッションとテクノロジーを組み合わせ、パーソナルでクリエイティブな表現を理想としている。

西洋人は、クリエイティブに着飾るかわいいアジアの女子を日本の芸者の伝統に見る。もちろん芸者の起源は中国だ。
私たち中国人の女の子は何千年もの間クリエイティブに着飾り、それで社会と何のいざこざも起こさずに溶け込んできた。それが私たちの理想だ。異なるテイストと芸術的な伝統を持つ西洋人達は変わった中国人の女子に驚くが、私はそれに気を取られない。
私は中国人なので、自分たちの伝統をもっとも気にしている。中国の老婦人が笑って、私とセルフィーを撮ってくれる限り、私はあまり心配していない。

深圳でSINO:BITをつくる
最近、自分で作ったプロジェクトに加えて、SINO:BITという教育用のマイコンボードのプロジェクトに協力している。
このプロジェクトは私が友達を見ていてあるパターンに気づいたことから始まった。ハードウェアのために深圳に来る西洋人はほとんどが男性だ。一方でメイカー教育に関係して私とオンラインでつながっている友達はほとんどが女性だった。彼女たちは教室で必要とされているものを正確に知っていた。Pi HatsとArduino Shields、特殊なフルカラーLEDディスプレイ。どれもとても具体的で実用的なニーズだ。でも彼女たちは製造の経験がなく、飛行機に乗って英語の通じない中国に来るのも気が進まないようで、たとえクラウドファンディングに成功しても作り上げられなさそうだった。自分でハードウェアを作り上げることができた人と話す機会がある女性は、中国でもあまりいない。

そのパターンは私がBBCが開発したMicro:Bitについて持っていた関心とうまく一致した。Micro:Bitは教育のためにうまくエンジニアリングされたプロジェクトだ。そして多くのオープンソースプロジェクトと同じように、さまざまなニーズに合わせて最適化できるように設計されている。
中国語を話す多くの子供たちや教育者達は、プログラムの最初のステップである「Hello World」を無視するか、単にディスプレイが光っていると思う。「こんにちわ!」とコンピュータが話しかけてくるということは、それが自分に通じる言語でなければ感動がない。

Micro:Bitを開発したイギリスの子供たちは、ディスプレイに「你好、全世界!」と表示されても、それに関心を示さないし、両親に見せようと思わないだろう。なので中国の子供たちは「Hello World」に関心を示さず、Micro:Bitでロボットを作ろうとしていたが、それにはMicro:Bitにモータードライバのボードを追加する必要があり、一般的ではない。Micro:Bitと接続スロット間のトラブルは、貴重なクラスルームの時間を食い潰していた。

私はMicro:Bitのドイツ語バーションCalliope Miniを見つけた。Calliope Miniはローカリゼーションと簡単なモータードライバを最初から備えていて、我々の問題をすでに解決したようだった。なのでまず彼らの許可を得た、Calliope Miniの中国版を作ろうとした。CalliopeとMicro:Bitの両方に互換性があるが、いちばん大きな違いとしてSINO:BITは5*5でなく12*12のマトリックスLEDを備えている。これで中国語だけでなく、日本語、アラビア語、タイ語、ヒンディー語のような非ラテン言語も表示でき、子供たちは母国語でコンピュータが「こんにちわ、世界!」と言ってくれた感動を体験でき、両親もそのメッセージを読むことができる。休日の挨拶や愛の言葉、宗教的なメッセージまで子供たちがプログラミングすることができる。
中国の文化と教育で、「書き言葉」の役割を説明することは難しい。それは私たちの教育や文化のすべてと言えるかもしれない。

SINO:BITはLEDの数を増やしたことでラテン語圏でない文字を表示することができる

SINO:BITはMicro:BitとCalliope Miniに注がれた素晴らしいエンジニアリングの成果を得て、私たち中国人が他の文化や言語、伝統に合わせるのでなく、技術を中国の文化と教育の伝統にあわせて調整したものだ。

女性のメイカー教育友達が抱えている製造上の問題を考えて、このプロジェクトをElecrowという深圳のエレクトロニクス製造会社に連絡して進めることにした。
私のアイデアは、開発する中国人の私たちがこのアイデアを生活に取り込むために、プロセス全体を英語で行い、ドキュメントも英語で書くことだった。私はタクシードライバーに中国語で書かれた住所を示しながら、英語だけを話す工場に向かった。
頭の中には、「自分のメイカー教育友達のような英語しか喋れない人が自分のアイデアをメールやオンラインで説明して、作ってもらうことができるか?」がいつもあった。

PCBレイアウトや電気工学の経験はないが、Arduinoなどの基本的なエレクトロニクスやプログラミングの知識があり、それを教えることができるメイカー教育の西洋人女性を創造して、彼女ができそうな注文でエンジニアリングを進めることができるか試した。
それはElecrowにとってとても難しい課題だった。私は中国語のメールには返信しなかった。明確な回答が必要なときもいつもあいまいにして、「一番いいと思うことをやってください」とだけ指示するようにしていた。西洋人はよくそういうイニシアチブを取るが、私には難しいことだった。よく「開発チームに対するレッドチームテスト」と情報セキュリティの用語からとった冗談を言った。(訳注:レッドチームテストは、特定のシナリオに則ってシステムに攻撃を加えるテスト。いわゆる侵入テストとの違いは、たとえばシナリオが内部犯だとしたら、単純なシステムのテスト以上の攻撃、物理的にキーを盗むなどもやろうとする)

これは自分にとって最初のハードウェア開発プロジェクトであり、彼らのための学習機会でもあった。最終的には私たちのチームは、中国で最初のオープンソースハードウェア協会認定プロジェクトとなり、中国の企業の関心がそこに向いたことは、費やした時間以上の効果があった。

いくつかの企業が私たちのオープンソースプロジェクトに参加して、ハードウェアのコミュニティでの存在価値を上げる方法について私に相談してきた。子供たちへの教育ツールへの関心や、オープンソースハードウェアコミュニティへの関心が中国で高まることに、とても満足している。

中国でのオープンソースへの挑戦
最近は開発の合間に、自分のYoutubeチャンネルのコンテンツを増やすために、ここ深圳で作られた地元企業の製品を紹介するビデオを撮っている。もちろんしょーもないものを推薦しないようにいつも注意しながら。
これは地元の企業が、西欧に向けてアピールするために自分にオファーしたことで始まった、中国と西欧のハードウェア共同体がお互い説明しわかり合うためのチャンスだと思っている。

最近、私のオープンソースへの関心とビデオを撮ることが面白い相互作用を起こした。
深圳ではよく知られている3Dプリンタの会社、Creality 3Dがある。彼らから、工場を撮影してもらいたいと招待されたのだが、私は自宅からは一時間ちょっとある距離のために渋っていた。
ちょうどその頃、3Dプリンタのファームウェアとしてよく使われているMarlinファームウェアの開発チームは、Creality 3DがGPLライセンス条項に反し、コードの変更について公開していないと不平を言っていた。私は冗談交じりにCrealityに、「コードを公開してくれたらすぐ工場に行くよ」と伝えたら、彼らはすぐにコードを公開した。
オープンソースに関するコンプライアンスは中国ではいつも厳しい結果になるので、これはとても珍しいことで、私はビデオで最高の仕事をすべきと考えた。
なぜならCrealityは典型的な深圳の工場で価格を最重視し、深圳の人々は悪い工場はすぐ消えてほしいと思っている。私はそこに、オープンソースコミュニティの基準を遵守するために歩み出した企業を支援し、促進するためにできるだけのことをしようと考えた。
工場をツアーし労働者や社長と話したとき、彼らはCR-10という大きなプリンタを私に提供してくれると言った。残念ながら私の小さなアパートはすでに作業機器でいっぱいだ。大きなプリンタも一台持っていて、もう一台は要らない。だからお断りしようと思ったのだが、こう提案してみた。
「ボス、Creality 3Dのレビューをみんなみたけど、あなたはコミュニティに特に貢献してないじゃない? Josef PrusaLulzBotみたいにコミュニティに貢献して、製品だけじゃなくてそれを作っている会社の価値をアピールしない?
Becky Buttonというアメリカのすばらしいメイカーを知ってるんだけど、彼女はまだ10代なので、技術はあっても3Dプリンタをいつも使えるわけではないの。」
私は自分のスマホで、かつて少しアドバイスしたBeckyのプロジェクト、まわりのWi-fiを切断するサンダルをボスに見せた。
結局のところ彼も中国人なので、賢い子供に教育のために何かを与えることが素晴らしいことなのはわかる。

右端の写真がBecky

彼らはこのアイデアを気に入り、Beckyはプリンタを手に入れました。これはかなり自分たちにとって大きな事で、もっと多くの企業とこういうことを繰り返していきたい。

Makingやその道具は、多くのMAKERの中で男性のものだと思われている。女性のメイカーや教育者、ブロガーは、スポンサーや評価用ユニットを入手するのが難しいかもしれない。もし私がこの問題に対処できるとしたら、本当に素晴らしいことだ!

私は中国の会社に「これがあなたの会社が迷惑だと思われている問題よ」と伝え、メイカーやハードウェアコミュニティに「この会社ではこくいう理由があります」と伝えることをより簡単にしていきたい。そこには膨大な量のミスコミュニケーションがある。
しかし、中国と西洋は、違いよりもクリエイティブな精神と価値観で、とても似ていると正直に思う。その橋渡しをすることはとてもエキサイティングだ。

私は常にMakingをしたいと思っているが、ハードウェアやメイカーコミュニティのためのこうした外交と伝道も、実際に行っている。

僕はクアラルンプールの紀伊國屋でこの号をゲットしました。日本の紀伊國屋にもありそう!PDF版はMakerMediaのサイトですぐ手に入ります!

訳者より
翻訳とブログでの公開を許可してくれたNaomi WuとCelab Kraft (Senior editor of Make:Magazine)に感謝します。インタビューを読んでいて日本のメイカーについての記述が出てきたので、僕にできる中で、最高のお年玉(この原稿は旧正月只中のクアラルンプールで書いている)になりました。文中のプロジェクト、光るスカートやAkiPartyなどについては僕にわかる範囲で捕捉しました。

セクシーサイボーグ様はすぐ怒る面倒くさい人で僕もしばしば怒られますが、筋の通らない怒り方をしたことはありませんし同程度に面倒くさい人は日本のメイカーコミュニティにもけっこういます。

過去の彼女のインタビューは、中国人や女性メイカーについての僕のステレオタイプを修正してくれる素晴らしいものでした。
こうしたインタビューや考え方、作ることで学び、シェアすることでお互いを強くしていくメイカー達が、世界をメイカーの場所にしていくことを願っています。

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