読書録:「知性とは何か」「学ぶとは何か」まで踏み込んで日本・フィンランド・中国・シンガポール・カナダの学校にプロの研究者が泊まり込んだ教育体験記。邦題以外最高の現代のイザベラバード、教育版のガリバー旅行記。「日本の15歳はなぜ学力が高いのか?」ルーシー・クレハン

TAKASU Masakazu
May 7 · 13 min read

圧倒的な一冊。マスターピース。
著者ルーシーはプロの教師で教育研究者のイギリス人。彼女はPISAランキング上位の日本、フィンランド、中国、シンガポール、カナダ5ヶ国の教育事情を調査し、筆者の国イギリスの含めて比較して本書をまとめた。
教育研究のプロが、この5カ国を充分な時間をかけて調査した。それだけでも一読の価値はあるが、本書の魅力はそれにとどまらない。
面白すぎたので実際にそれぞれの国で子育てしてる人が感想を話すイベントをやります。

■最高の旅行冒険記でもある
彼女の調査方法がまたすごい。
お仕着せの学校訪問、地元の教育関係者がアピールのためにアレンジした理想コースを避けるために、彼女は自力で各国の教師に、公開されているメールアドレスを頼りにアポイントをとり、ホームステイさせてくれる教師を探す。
そして教師の家に泊まり込みながら、1ヶ国のなかだけでも複数の学校に潜り込んで教鞭をとり、1ヶ月以上生活をともにする。その中で子どもたち、教育関係者、両親特に母親と様々な対話をする中で、文化含めてその国が教育に期待してるものを抽出する。その旅行記としてだけでも面白い。

僕は彼女が調査した中で、日本と中国とシンガポールには、住んでいたしそれなりに詳しい。たぶん言葉の理解とかを含めれば彼女より詳しいだろう。その僕から見ても、彼女のこの3カ国での体験は、文化の深いところをきちんと捉えている。教育にまったく興味がない人でも、そうした文化を比べるだけで、読む価値は十二分にある。「チョンキンマンションのボスは知っている」や、高野秀行の秘境探訪にも似た面白さ。日本の教育に「ロボット」とこぼす在日イギリス人ブリカス学生の感想を肯定しつつ、その中にも良さや特質を見つけようとする。
解説の刈谷剛彦オックスフォード大教授が、「現代のイザベラ・バード」と称えるが言い得て妙だと思う。解説も大変に面白い。(ネットで読める

■学ぶとは何か、発達とは何か
他の優れた本と同じように、著者ルーシーは、日々の具体的な事例から「知能とは何か」「学ぶとは何か」という普遍的な問いまで深く考える。それが本書の内容をすごくロバストなもの、どこの分野でも参考になるものにしている。おそらく人工知能の研究者や企業のマネージャー、大学教授などでも、本書からの学びは多いだろう。
教育云々を除いても、この本はすばらしい。

それだけに、表紙でインフルエンサー(笑)が腕組みしてそうな、この邦題はないよ..原題のCleverLandのほうがよかったのでは。日本の話、全体では20%ぐらいだし、amazonのレビューも「日本がすごいかどうか」について書いてあるものが散見されるし、英語版で67レビューあるのに日本は8本しかレビューついてない…(たとえばMAKERSだと英語版293日本語版147だし、日本人レビュー書くの好きなので、日本語の方が多いことも珍しくない)
この本の面白さは比較そのものよりも、その向こう側の普遍的な問いにあるんじゃないかな…

もちろん、印象も多いし、印象には賛否両論あるだろうけど。

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以下は長くなるが、読みながら書いたメモ。ネタバレ含む。

■覆される「教育への思い込み」

著者のルーシーは、この本を書いた動機として「よく知らない国の教育システムを都合よく持ってきてxx国はこうして結果を出してる!改善しろ」と言われることについての違和感をあげている。

PISAランキングができたそもそもの理由。もとはアメリカで政治主導の教育改革をやりたかったときに、エビデンス(他国と比べて自国の教育は効果的か)が必要で作られた。調査には意味があるけど、その後も都合よくつまみ食いして使われている

最後に5項目の教育に関する提言をまとめる。それは充分に科学的思考で考え抜かれたものだ。
そこには学習指導要領への支持など、意外なものも多く含まれている。
たとえば以下は「効果がない」とされている
-子供を褒める
-子供自身に勉強方法を決めさせて教師が合わせる
-要点を子供に見つけさせる
-教師が教えるのではなく子供自身になんらかの活動をさせる

また、
-日本の先生はフィンランドやイギリスよりも、時間に余裕がある
-日本の教育は生徒に答えを見つけさせる努力がある。アメリカやイギリスの方が、一方的に教えている
などはギョッとする指摘だ。(きちんとエビデンス付きで書いてある)

そして、それらの事実から、
「勉強は良いものです、よく学ぶことは素晴らしいことです、学びは座学と実践からなります」と社会全体が思うことが高い学びを生むことが浮き彫りにされてくる。それはお金他のインセンティブよりも、遥かに大事なことも。

■フィンランド
-フィンランドは伝統的にロシア帝国の大公国だったため、自分たちで学校を作って教育をすることは「ここはフィンランドという固有の国」とするための大きなモチベーションだった
-早く教育を始めることと、大人になって成績が上がることの相関性はない(こういうのは複数の公的調査をみてる)
-進行度による早期のクラス分けは、やるとばらつきが増え、貧しい家の子供が損をする。一方でどこかが得をしてるというエビデンスはない
-フィンランドの教職は、アメリカやイギリスに比べると、尊敬されてない。給与もOECD内では低い方。でも、難しい試験とトレーニングを突破しないとなれないので尊敬されてる
-責任と自主性が大事
-フィンランドの教師は自由度が高いが、ほぼすべての教師が個別指導でなく同じやりかたをしていて、それは日本とそっくり。教科書も規定はないが評価の高いいくつかの決まった本を使う
-移民が増えてから2009年のPISAは、移民のほうが成績が高かったが、2012年は低く、今では移民は2年ぐらいフィンランド人より遅れていて課題になっている

■日本
-日本の教師は時間にゆとりがある(!)から、研修やレビューができて質が上がる
-学習計画はアメリカやイギリスよりも項目は少ないのにレベルが高い(!)
-ゆとり教育はできない子の差を広げたが、効果は出ていたようで、PISA下落とは関係ないと
-出る杭は打たれる
-我慢が大人になるための通過儀礼として美徳とされている
-学校に冷暖房がなく、かつ服も自由ではない
-英語の「人格の育成」とは個性を伸ばすことをさすが日本では理想の振る舞いを身につけるとされる
-倫理道徳しつけへのウェイトが他の国より大きい
-班単位で叱ることや、騒ぐ子を直接叱らないことなどで集団としての意識を伸ばしている
-中学では班がクラスになる、クラスの自主性やクラス対抗などがある
-こういう集団形成は型破りを嫌う。一方で著者ルーシーは、それがオーガナイズされた社会を生む良さも評価している
-さすがインテリ、明治維新やGHQの学制改革もきっちり調べている
-教師の頻繁な異動により学校感のレベルが保たれる(学校でなく教育委員会に雇われるため)。諸外国にあまりない珍しいシステム
-先生も社会も本気で「人間は同じ能力がある」と信じている
-PISAの中で、数学の成績と親の地位の影響が関係なく、かつ点が高い国はすごく少ないが日本はそのうちの一つ
-母親が子供の教育に深く関与している
-小学校で多いグループ学習が中学から減る
-とくに数学では、たとえ話や具体例などを使って子供が自分で解き方を気づくようにしてる。推論問題も多い
-九九や漢字などの暗記が多いが、そうした長期的記憶はどんな問題を解くのにも役立つ。無意識でできるぐらいきちんと基礎を暗記することは、応用問題を解くときにワーキングメモリを開け、問題そのものに注力する手助けになる。日本の教育は覚えたことが次の基礎になるようにできてる。
-総合的な問題解決で日本はシンガポールや韓国についで世界三位で、欧米諸国より高い
-授業計画と授業研究はよくできていてレベルが高い

■シンガポール
-名門小学校かどうかでレベル差があり、入学条件が親が出身or兄弟姉妹がいるかなので、格差固定がある
-1992年以後は学校内でも能力別クラスわけ(3段階)があったが、I’mNot Stupidという映画がシンガポールを変えた(!)
-現在は科目別に能力別クラス分け
-12歳で全員試験PLSE
-PLSE後に8%の最上位, 60%のエクスプレス, 20%のノーマル普通,11%のノーマル技術に分かれる
-優生学的アプローチがある
-そこから優生学や知能についての研究(1960年代と違い、その後知能は変化して発展するとわかったことについて詳細な調査がある)
-最近は過度な能力主義は変化しつつある
-シンガポールの政府は遺伝を信じるが、シンガポールの国民特に中華系は、勉強すればトップに行けると信じている
-結果、シンガポールのPLSE試験は教科書のレベルと乖離してて難しい
-2000年ストレイツタイムズの調査では、3分の一の子供がPLSE試験を親の死より怖がってる
-一方で、能力別編成をしたあとは、その中で脱落は少ない
-下のクラスだからといって投げやりでもなく、他の国に比べると高めだったりするのでPISAの成績は高い
-職業訓練がめちゃ優秀なため就職率が高い。良い職業訓練と不平等の拡大は、セットではない。シンガポールの職業訓練から学ぶところは多い
-教師は全学校でめちゃ優秀、それは政府が強烈な補助をしてる。4–6年間学校で教える条件の奨学金とか
-その優秀は厳格さではなく、子供のやりたいことを受け止めて、かつ無理なく全員に理解させてる能力。イギリスなどよりそれが高い
-教師同士のワークショップや研修も多く、昇進に関係してる
-教師が自発的に作った教育研究ネットワークがよく機能している
-かつ、先生用の授業指導書が、例を含めてすごく良くできている

すごいところと理解しがたいところが両方あってすごく悩んだと書いてあり、悩んだ過程が書いてあるのが素晴らしい

■中国(上海)
ーアメリカ人は才能を褒め、中国人は努力を褒める
-14歳の子供は3–4時間分の宿題がある
-西欧では失敗するとやる気をなくすが、中国人はやる気を出す
-東洋と西洋の学びについて10年かけて書かれたジンリー博士の大著がある
-能力が努力で変わる アメリカ白人36%,アメリカ中華系45%,日本55%
-Moral 、道徳は西洋では他人への振る舞いだが、孔子では自己研鑽を指す
-教室では落ちこぼれを出さない
-できた子より頑張った子を褒める
-にもかかわらず、出来る子とできない子の差は大きく、競争は激しい
-2012年、都市戸籍を持たない子供がウェイボで訴えて権利を勝ち取った。これは市民運動になった(!)
-とはいえ上海のPisa好成績は、出稼ぎ民の子供をPiSA前の年齢で地方に帰すチートのによる底上げがある
-中国や日本の授業の方が子供への質問が多く、特に数学で子供自身に考えさせる時間が多い
-反復練習は丸暗記でなく、内容を深く考えさせることにつながるが、西欧では否定されがち
-プレッシャーと猛勉強にもかかわらず子供たちは学校も勉強も、西欧より好き

■カナダ
-中国からの移民は多いがそれとPISA高得点は関係ない
-部活動が単位と認められ、子供のやりたいことが優先される
-学校にカウンセラーがいる
-特別コースへの振り分けはなるべく遅く、高校ぐらいまでやらない
-15歳までは共通の基準で絶対評価をする、相対評価をやらない
-知能は全員が伸びて一定水準までは全員が届くが、伸びる時期や伸び方は違うという考え方。補修はやるが能力別クラス編成はやらない
-一方でアドバンストの子供を集めて対応はする
-イギリスやアメリカと違い、学校そのものの査定について、地域全体で対応する(米英のように学校の問題とみなして校長に罰金を科したりしない)ことで、生徒をグレード別に分けて達成可能な目標を与えるのでなく、全員が同じ水準を目指して達成するアプローチが持てる
-リーダーシップ、社会的責任などの科目も重視されている
-テスト科目と違う21世紀型スキルを増やしたカリキュラムに変えたら、PISAの点は下がった
-問題解決型学習は、基礎がついてない生徒にやると、出来る子もできない子もマイナスの効果が出る

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