今の深圳と僕がやりたいこと:老害にならないために

このエントリはとある腹立ち事を終わらせるために書いている。最近とある件で腹が立った。腹を立てたのは僕の勝手で、原因は別に消えていないが、数日たってそれなりに落ち着いた。思い返したくもないので、そもそもの原因はここには書かない。一方で、いろいろ自分自身を省みる機会になったので、それを書く。

僕はたまに「思い出し怒り」みたいなことをする。なるべくこの件は成仏させて先に進みたいので、ブログを書いている。この話は深圳に関わる様々な日本人のエコシステムについてだ。

今の深圳は注目の場所になった

僕は深圳に足を踏み入れてたかだか4年だが、今の深圳は人気の場所になった。イノベーション云々どころか、世界一有名な旅行雑誌LonelyPlanetの「2019年訪れるべき都市」に、コペンハーゲンに続いて2位になった。住んでる僕でもびっくりした。電気街やスタートアップだけじゃなくて、外人観光客が行ってみたい場所の世界2位?たった4年しか深圳にいない僕でも、昔と今が別物なのはわかる。中国人だってびっくりだ。

LonelyPlanet Best in Travel City Top 10 2019

最近もCNNに深圳のイノベーションについて連続記事が載った。タイトルは「猿まねからイノベーション」。最近の僕の講演タイトルは「コピーされる深圳からコピーする深圳へ」で、つまりこれは僕の得意な方の話だが、もちろん記事の中に新しい発見もいくつもあった。

いずれにせよ、今の深圳がたくさんの人がやってくる街になったことは異論の余地がない。たかだか4年しかこの街を知らない僕でも、古株めいたことはできるだろう。仲良しの会社Seeedの2014年の従業員は80人ほど、今は200人だ。入れ替わりもあるから、ほとんどの社員よりも僕の方が経営陣との付き合いは長く、イベントに行くと「話に聞いていたタカスか!」と言われて話を聞いてくれる。正直気分いい。僕のwechatには現時点で2169人のフレンドがいて、過半数以上はイベントで会った深圳の中国人達だ。彼らの大半は僕の後に深圳に来ていて、僕はよく深圳の会社の場所や、「こういうレストランない?」とか聞かれる。悪くない。
でも、そうやって古株ぶってていいことは僕にとってなにもない。僕が知ってるよりも知らないことの方がはるかに多い。僕が知ったことはあっという間に古くなる。それに目をつぶったら自分が老害化するばかりだ。ただでさえ僕はおっさんだ。若いものがまわりにいてくれたほうがいい。褒められなくてかまわない。話を聞きたい。

年数=エライとなる世界はある。たとえば剣道の8段は46歳以上かつ7段から10年経たないと受けられないそうだ。自衛隊でも「星の数より飯を食った数」ということわざがあるそうだ。
分野によっては整合性があるんだろうけど、エンジニアの世界ではむしろ逆だ。最新のやり方を知っている方が大事だ。若手の方が最新の世界を知っている。僕は、剣道や自衛隊よりはエンジニアに近い世界にいるし、これから先もここにいたい。

今の深圳は僕の知らないことばかりだ

一方で、急成長する深圳は、僕の知らないことばかりだ。南山区の僕の部屋から半径500m、華強北のオフィスから100mでも、毎日のように店ができては潰れ、知らないことはいっぱいある。
技術は日進月歩で進化し、製品はすぐ変わる。昨日のイノベーションは今日のコモディティが、深圳の姿だ。下請けでゲームコントローラ作ってたどこにでもあるような会社GPDが世界一小さなコンピュータを作る有名な会社になったり、名物だった商売がコストに見合わずまったくなくなったりする。技術だってそうだ。僕のPCにはまだPythonもtensor flowの実行環境も入れてない。データマイニングで仕事したことや教師あり/なし機械学習の違いとかはわかるけど、AIについての知見は大いに怪しい。

間違いなく、僕はこの街についても自分の得意分野でも知らないことの方がはるかに多い。あまり興味のわかない駐在員向け居酒屋やマッサージ屋の話はもちろん知らないが、自分が詳しいと思っていることについてさえ、そうだ
メイカーフェア東京に来る人は、もはや一人が全出展物を把握できる規模じゃないことはわかるだろう。深圳はその何倍も大きいし、DIYだけ並んでるわけでもない。

ゴミ情報はいっぱいあるが、そこに釣られる人とは商売したくない

大きくなったということは、関わる人も増えたと言うことだ。パイは大きくなると味が落ちる。それだけでなくいくつものパイが乱立するようになった。その中には僕は嫌いだが愛好者の多いドリアンパイや、違うものを売るために「パイ」と名付けただけのモノ、さらには売り文句だけで中身のないものもある。
僕だけではすべてのパイを探せない。信頼できる友達がフィルタし、シェアしてくれる情報は大事だ。得意な分野ならホンモノとニセモノの違いはわかるし、発信者によって振り分けもできる。
深圳初訪問の人でも、僕がまったく疎い分野、たとえばファッションとかに興味ある人なら、新しい知識を与えてくれることがある。かつて知人の深圳訪問で、会社予算で通訳までつけての深圳訪問だったので僕は内心大いに馬鹿にしながら、ひさしぶりに会う機会なので同行したのだが、東門のファッション街を歩き回る彼女たちは僕のまったく知らない深圳を見せてくれた。ShenzhenFanみたいに、もともと知り合いではなかったけど、今の僕が疎い分野(日本食とかコワーキングスペースとか)を教えてくれるメディアもある。これまで僕は、仲間以外が書く情報をまず疑っていた。実際に間違いも多いのだが、有益と思える数少ないものを、自分たちがやってることじゃなくても積極的にシェアしていくべきだろう。

正直に言うと、自分で前に書いたことをたまたま別の人が書いてそっちが評判になったら「けっ」と思うしアラ探しをしたくなる。でも、2014年の誰も深センメイカーの話なんか聞いてくれなかった頃よりマシだ。腹をたてるのはおかしい。そこに時間を使うのは不毛だ。バズりたいなら彼らから学ぶべきだし、そうじゃないなら広まったことを喜ぶべきだ。

一方でとにかく釣ればいい記事は一杯ある。僕が今回腹を立てたのもとあるオッサン向けの釣り記事を、多少アテにしていた人が書いたのが原因だ。でも、釣り記事はこれからますます増えるだろうし、仲間が充分にいれば釣り記事のマイナスより記事が増えるプラスの方が多いだろう。僕だって長期的な信用を失わない範囲で最大限読んでもらえそうなタイトルをつけるしミスをする。悪意とバカの区別をつけるのは大変だ。僕だって勘違いでバカ記事書くことは今後もあるだろう。
短期的に釣り記事は、たとえば僕や僕の信頼する人が書くモノよりアクセスを集めるだろうけど、僕は自分と同程度以上に頭のいい人はいくらでもいると思っている。学会は疑似科学に負けないように、自分がきちんと情報収集していれば、ゴミ記事に悩まされないで済むだろう。僕も記事は書くけど、あくまで本業があっての趣味ないし布教活動なので、自分の興味の範囲でしか書けないし、過度にPVを気にしなくてすむ。そもそもプロじゃないので、何でも書けるスキルはない。釣り記事に乗らない人だけを相手にしていた方が、僕は最終的に得るものが多いだろうと思っている。(詳しくはマッハ新書「コミュニティで未来を理解する」に書いた)

中華IT最新事情のような釣りまくりのメディアは、山谷剛士高口康太Shaoのような有識者の指摘でだいぶおとなしくなった(し、僕はまったく見なくなった)
僕は「この記事ゴミ」みたいな注意に時間を使うのは気が進まないが、立派なことなのでこれからもやる人はでてくるだろう。

商売がうまい人はうらやましいが、その嫉妬が僕を助けるとは限らない

深圳では様々な日本人が商売をしている。僕の商売はスイッチサイエンスのパートナーの開拓で、深圳のメイカー企業を助けることだ。他にオープンイノベーションについてお手伝いする仕事やJETROなどでの調査もしてる。

原稿を書いたり講演したりするのは、趣味(情報を出す方が集まってくる。記事へのフィードバックも勉強になることが多い。僕は締め切りや舞台があったほうがアウトプットが増える。)や布教活動、何よりも取引先かアマチュアかを問わず、自分の属するメイカーたちのことを書くと喜んでもらえる。紹介したい人たちを紹介すれば喜んでもらえるのだから、ストレスない仕事で良いご身分と言えるだろう。しょっちゅう飛行機に乗ったりワープロと格闘する必要があるし、実入りはそんなによくないけど。あまり金なさそうなミッチアルトマンも「I love my Job!」と言っていた。メルカリやGoogleで働いてる人に比べたら、僕の実入りは半分以下かもしれない。でも、ここは毎日電車に乗っても2000円もしない、携帯代金50Gで350円、ご飯もその程度の国だ。3倍になったって六本木やカリフォルニアよりは、値段を気にせず生きていける。

別の商売で、深圳を案内する日本人が何人もいる。彼らの案内はいろいろな値段がついていて、30万円とか50万円とかするものもある。それだけの価値があるのかどうかは、僕は参加したことがないのでわからない。お金だけ払えば参加できて、案内してもらわないと行動できないような人とまわるツアーなら興味ないな、と「僕は」思うが、日本人は誠実だ。何度も仕事が成立してるならバリューがあるんだろう。そのバリューがわからない僕のほうが古いのかもしれない。(そういう話もさっきのマッハ新書「コミュニティで未来を理解する」に書いた。

かつて参加したツアーは世界のスタートアップ限定で深圳の製造業を見にいくとか、JETROの調査としてエチオピアの中国工場に行くとか、ハッキリと色がついていてお金で買えないものだ。
僕は2014年頃から興味があってニコ技深圳観察会を続けているが、これは割り勘で、売り物ではないボランタリーなコミュニティ活動だ。来年にまたやると思うが、参加者は自作ハードウェアの販売者orメイカーフェアの出展者に限るつもりでいる。「誰でも深圳に連れてくる」ということよりも、意味ある人と一緒に深圳の新しいモノを探しに行きたい。

一方で忙しい人、自分で準備したくない人などにとっては、お金払えば参加できるツアーは便利だろう。僕も講演依頼や街の案内を、見合うと思うお金(その間に原稿書くよりたくさん、とか)をもらってやることはある。僕なんかの時間を買ってくれるのはありがたいし、講演は好きな仕事だ。きちんとお金をもらう以上張り切ってやる(し、向こうも準備してくれる)が、僕自身の時間を提供するだけで取引先を巻き込むことはない。今の僕に、お金だけもらって売れるコネクションはない。自分の説明でどのぐらい満足してもらえるかは、いつもドキドキする。

身近な場所で羽振りの良さそうな人を見るとうらやましい。そういう人はたいていSNSに大物ぶったり思わせぶりだったりなことばかり書いて他人に役立つ情報(具体的な地図など、後日再訪できるような情報)を書かないので、そういう見苦しい人の羽振りがよさそうなのは余計に嫉妬で腹が立つ。
が、それは僕とは別の商売の人たちだ。彼らには彼らの苦労があるんだろうし、実際に値段ほどの価値がないなら勝手に消えるだろう。価値ある人はたいてい、儲けている商売の周辺で世間の役に立つボランタリーな活動もしているから、そういうところで見分けられる。

羨ましいなら、宝くじあたった人だって、ちゃんと家庭がある人だって羨ましい。僕は年に100回近くも飛行機に乗る今の生活を続けたいけど、一方で「結婚できるといいなあ」と思いながらたいして活動してこなかった40代でもあるのだ。どうすればいいのかは正直良くわからん。

ド本気の人に向かって価値ある本を書くことはあまりコストパフォーマンスのよくない仕事だ。なのでこの分野に見苦しい人は入ってこない。最初のきっかけがツアーでも、その後もっと深圳のイノベーションに魅力を感じて、自分で調べる気になったなら、メイカーズのエコシステムハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ、何よりハードウェアハッカーを読んでくれるだろう。エコシステムとしてはそういうツアーが人気になった方が僕は得をするはずだ。嫉妬して腹を立てるのはおかしい。

この街とメイカーは可能性に満ちている

今でも僕がメイカー相手の商売をするぐらいの仕事と収入をアジア/深圳と日本のメイカーたちのエコシステムは与えてくれている。バブルは流行り廃りがあるけど、幸い僕の商売に影響のある「真水」の部分はずっと安定して増えていて、今後しばらくはもっと増えるだろうし、増やすためにまだまだ僕は活動できるだろう。僕はテクノロジーが好きだ。テクノロジーを追いかけて深センでない街に行くことはあるだろう。人間はテクノロジーが好きだ。僕の商売は本能に立脚している。深センが虚栄より本能に満ちている(と僕には思える)ように。

僕自身は変化に対応したいし、もっと成長したい。成長する人たちと景気のいい話をしていたい。深圳は浮き沈みの激しい街だが、僕の中国人メイカーたちはバブル(政府補助金とか)から遠いところで商売をしていて、中国のメイカーバブルがはじけてAIバブルが始まってもみんな元気そうだ。

黄金の手錠とアーロンチェアか、リュックサックと遙か彼方の面白そうな場所のどっちを選ぶかという話だったんだ。(バニー・ファン、ハードウェアハッカー)

僕はなるべく後者を選んでいくつもりだし、そういう人たちを友達にしていくつもりだ。