メイカーフェアベイエリア、おそらく今年が最後に

メイカーフェアベイエリアは、資金面の問題で今年が最後になる可能性が高い。今日のプレスカンファレンスでMaker Media CEOのデールと話したけど、この記事の内容はおおむね事実だと感じた。

僕はメイカーフェアが大好きだ。どこの国のメイカーフェアも大好きだけど、世界最大のメイカーフェアであるベイエリア(MFBA)は、最大級に好きだ。ここ2年はおかげさまで会社のお金で来れているけど、2012年、2015,16年の3回のMFBAは、ぜんぶ自分のお金で来ている。2012年のMFBAは僕にとって最初の海外メイカーフェア、2008年のMTM02は最初のメイカーフェア。どちらがなくても僕の人生は、いまとまったく変わっていただろう。だから、メイカーフェアベイエリアが今年で最後になるのは、親や恩師に会えなくなるぐらい、すごく悲しい。

今回のニュースは、あまり多くの報道がされないだろう。MakerMedia CEOのデールと話せるMFBAのプレスカンファレンスがあったが、来たメディアは僕を入れて3人だった。MakerMediaやオライリー・ジャパンから公式発表があるのは正式に何かが決まってからだろうし、アメリカでも上記のメディアぐらいにしか載らない話が他の日本のメディアに載るかはわからない。
なので、悲しいし、アタマがまだぜんぜん整理できてないけれど、今回来れなかった日本のMFBAファンに向けて、このエントリを書いている。

MFBAがなくなるのはお金だけが原因

とりあえず自分の感想は最後にして、事実や聞いた話を中心に書く。
お金がないのには2つの原因がある。
まず、MFBAはサンマテオイベントセンターという広大なスペースをお金を払って借りている。また、MFBAでしか見られないような多くのアーティスト、バーニングマンで見られるような火を噴く出展物などを招待している。会場の広さと出展物の両方から、大量のプロのスタッフとボランティアを雇っている、お金のかかるメイカーフェアだ。
2つめに、スポンサーを見つけるのが大変なイベントでもある。今年のスポンサー一覧はこちら。

Googleは残ってるけど、前はMicrosoftもIntelも、他にもそうそうたる会社が並んでいた。past makerfaire sponsersには、トヨタやディズニーやNetflixなどが並んでいる。今年のMFBAには、LegoもKicksterterもいない。

逆に言うと、去年の任天堂みたいな「これまでのMFBAにはいなかったけど、いきなり出てきてパビリオン一個まるごと使うぐらいの巨大スポンサー」がいきなり見つかれば、今後もMFBAは続く。

ただ、難しいだろう。今もMFBAのファンはたくさんいる。でも、今の形式で続けられるだけのお金が工面できない。

MFBAの面白いところは、「大規模だけど儲かりそうにない」ことだったのだけど。。

前にオライリージャパンの田村さんが、「Make日本語版をつくるときに、Makemagazineそのままの翻訳だとちょっとビール造りとか含めて多様すぎて、日本では受け入れられづらいと思ったので電子工作に寄せた」と話していたことがある。英断だったと思う。
MFBAの、自家醸造コーナーから火を噴くアートみたいな多様性は、なかなか「どういう性質のイベントで、スポンサードするとどういう効果があるか」を説明づらくしている。

AIフェスタだったりSTEMフェスタだったりハードウェアスタートアップイベントにすれば、おそらくスポンサーは確保できるだろう。だけどMFBAは、そのどちらでもない方向(つまり、スポンサーを見つけづらい方向)を目指してきた。
デールも「そういうスポンサーが取れそうなMFBAにするのは、少なくとも今は考えていない」と語っていた。

極端にスポンサーを取れそうな方向に振らず、今のままでも、招待メイカーを減らすなり、小規模にして続ける方法はあるだろう。アメリカらしい無駄遣い、メントスコーラや火を噴くアートがなくなるのは寂しいけど、DIYの人たちだけでも、ベイエリアは充分に楽しい。そちらの方向でも、ぜひ続いてほしい。

他のメイカーフェアは今後も続く

僕が一番聞きたかったのはそこ、まずいのはMFBAだけなのかどうかだったが、デールの方からまず東京や京都が素晴らしかったという話が始まり、ニューヨーク他のメイカーフェアについても「ベイエリアと同じような問題はないんじゃないか」と話してくれた。

日本に限らず、アジアではメイカームーブメントは拡大し続けている。フェアの名前がメイカーフェアかどうかはともかく。来月に行くマニラのフェアは4回目を数え、そのうちミニから昇格するかもしれない。
東京やNYほか、それぞれのフェアの運営状況について僕はまったくわからないけど、サイエンスセンターで運営しているMFNYや、有料なのに長蛇の入場待機列が並ぶ(間違いなくアメリカのフェアより数倍長い)東京や京都のフェアはイベントの性質的にもMFBAよりサステイナブルだと思える。

今回の話はあくまで「MFBAを続けるのが難しくなった、原因はお金」というだけの話だ。場所によって、いろんな事情がある。例えば中国では科学技術全体への投資は増える一方だが、メイカーの次のバズワードはAIだ。

MFBAは止まるけどメイカームーブメントは拡大している

以下は話を聞いて思ったことだ。
「ついにこの日が来たか」と思って、すごく悲しい。
2015年ぐらいをピークに、MFBAはちょっとずつ縮小というか、「前年よりはお金のかからない感じに」なってきていると感じた。まさか、続けられないほどになっているとは思わなかったけど。
Intelがガリレオシリーズやってたころは世界のどこのメイカーフェアにもゴールドスポンサーをしてくれていたけど、それがなくなってから、世界のどこのメイカーフェアもそれまでよりはスポンサーを見つけるのが大変になっている。中でもMFBAは、「スポンサーを見つけづらい方向に」進化してきた。デールを含めた今の運営チームは、年々大変になっていたと思う。

メイカーイベントの運営そのものは、やろうと思えばお金をかけずにやることもできる。僕たちが主催している同人ハードウェアフェスは完全にボランティアかつ「入ってくるお金も出すお金もゼロ」だ。だけどそれは勉強会の延長のようなもので、出展50人来場200人ぐらいのものだ。少し大規模なイベント、各地のニコニコ技術部イベントになるとイベント保険などでもう少しお金もかかるようになる。有料の会場を借りたり、外部に宣伝したり、プロのゲストを呼んだりするようになるともっとかかる。場所でありお金であり労働力であり、助けてくれる会社や人々がいないと行えない。同じく僕たちが運営しているAkiPartyになると、スポンサーがないと運営が成立しない。
イベントの性質は変わるだろうけど、ベイエリアにあるいくつもの科学館のどれかと連携するとかで、今後もこのエリアでメイカーフェアが続いてくれると嬉しい。今、デールたちは忙しく動いている最中で、まだ来年の話をできる状態じゃないけど、もし、違った形でも続けてくれたら、嬉しい。

僕はメイカーフェアがすごく好きで、今回のことは日本のメイカーたちに知らせたいから書いている。(先に英語記事も書いた)とはいえ、アクが強いし口が悪い人間だから、僕の話が信じられない人もいるだろう。
これは僕だけが聞いているべき話じゃないので、プレスカンファレンスの音声ファイルを最後に添付する。

今年も行われた出展者パエリアパーティでは、深圳Seeedのエリックほか、たくさんの人がDaleと話し込んでいた。いくつかはMFBAの話だと思う。僕はMFBAのために何もできなかったけど、続けられるアイデアを出せる人が出てくることを祈る。個人的にはメイカーフェアは、経費できてる人じゃなくて、自分で来たくてきてる人の場所であってほしい。SXSWやアルスエレクトロニカやSlash等よりも、メイカーフェアの出展者や来場者は、プロフェッショナルから遠い。コミケみたいな感じだ。僕はどのイベントも好きだけど、中でもメイカーフェアが一番好きだ。

今回の話は悲しい。でも、僕はニコニコ動画がなくなってもニコニコ技術部は続くと思っているし、メイカーフェアが他の名前になっても(AIフェスタやSTEMフェスタになっても)メイカーイベントはまだ増え続けると思っているし、実際に増えるのを色んな国で目撃し続けている。僕たちは現実を見て、前に進むべきだ。

そして、残り2日間のMFBAや、ますます拡大するさまざまなメイカーイベントを今後も楽しんでいこうと思う。日本をはじめさまざまなメイカーイベントを運営している皆さん、そしてデールたちに感謝して、この記事を終える。

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