「人類全体を舞台にしたリビングラボ」 読書録:進歩: 人類の未来が明るい10の理由 (著:ヨハン ノルベリ 訳:山形浩生)

TAKASU Masakazu
Jan 3 · 6 min read

未来が過去より悪くなったことはない。

子供の頃から働かされ、教育が与えられないと、進歩が止まって貧困が再生産される。排泄物は上水道と隔離しなければならないとか、消毒とか、今では当たり前に思われていることはつい最近まで当たり前じゃなかった。

逆に、この20年で世界のあらゆる場所でものすごい進歩が起きていることを、この本を読むまで僕は知らなかった。この2–30年で、世界中で(特に発展途上国で)爆発的な進化が起きている。

たった70年前の1950年、世界中で25%以上の子供が働いていた。地球の人口は3倍以上に増えたのに、今の児童労働は10%を切っている。1990年でも1億人も未就学児童がいたのに、2015年は子供の数が増えたにもかかわらず5700万人に減った。1970年でも発展途上国の成人は半分が文字が読めなかった。今ではそれは25%になり、若者に限定すると文盲は世界全体で10%を切っている。アフリカでもバングラデシュでも、人々は知識の蓄積をはじめ、資本の蓄積をはじめ、自分の人生を自分で選択しようとしている。

この本の前半はまず食料、つぎに衛生など、生存に関したところからその人類の進歩をひもとき、後半の8章で自由、9章で平等性とどんどん高次で抽象的なテーマに論証を続け、そして最終章の10章「次世代」で子供の教育に触れて終わる。最後の章で描写される、200年前と現在の、10歳の女の子の比較は感動的だ。
200年前は世界で一番豊かなイギリスに生まれたとしても、彼女は5–7人兄弟で、30歳より長生きする女性は希だった。母親が子供を産むときに死んでしまう確率は、今の僕たちが祖父母に会える可能性よりも高かった。女性は教育が受けられず、低栄養で脳も発達しないまま、そのときの健康状態でできる仕事をさせられて、どこも行けないし、仮にどこかに行っても自分の人生を変えられない。
それが今では、200年前に5歳まで子供が生き延びられる確率よりも、世界のあらゆる国で、人は引退年齢まで生き延びられる確率の方が高い。世界で一番貧乏な国でも、200年前に一番豊かだった国よりも、栄養状態が良い。200年前は人類の90%が食べ物に困る貧困の中にいたが、今は世界全体で10%未満になり、文盲はレアケースになっている。彼女が死ぬまでにほぼなくなってしまうだろう。
そして、世界の最も貧しい国でもインターネットとスマートホンが普及しつつあり、「考えて解決策を見つける」ことができるようになってきている。アフリカもインドも、僕が引退する頃にはおそらく、今の僕らより自由で進んでるなんて!

「日本に生まれてよかった、悪かった」なんていうショボい視点を、本書は一発で吹き飛ばす。2次元の距離より4次元の時間のほうがすごい。

人類全体を舞台にしたリビングラボ

前回レビューした9プリンシプルズはお高くとまった本ではないが、事例は世界最先端であるメディアラボのものが中心だ。9プリンシプルで語られるMITメディアラボのすばらしい事例は、決してMITメディアラボのなかだけの話ではないことが、本書のあらゆる場所から伝わってくる。ほんの10年、20年前に比べたら、誰もが世界最先端の環境の中にいる。
この本は、人類全体がそうしたリビングラボの中に生きていることを気づかせてくれる。(そしてそれは、9プリンシプルズのなかにもあるメッセージだ。)

一方で、あとがきや山形さんの解説で触れられる「イノセントな状態よりも現状について悪い偏見をもつ仕組み」への示唆も重要だ。

アメリカでもどこの国でも、アンケート取ると
「昔のほうが良かった」
「未来は地球がすぐ滅びる」と答える人が圧倒的に多い。サイコロでアンケートに回答するよりも正解率が低いのは、つまり間違った方に知識をつけているということである。

僕自身の実感でも、自分形性当事者になった分野、シンガポール、深センなどの地域や物書きや研究者、投資などという仕事については、テレビ見てWIREDや日経みたいなメディア読んでる人のほうが
「なんも知らん人」より間違いの率が高い。そういう、プレイヤーとメディア越しにモノを見る人とのギャップはどこから生まれるのだろう?本書ではメディアの書きぶりに原因を求め、確かにそれは一因だろうが、自分たちに解決できる何かの問題はないだろうか。

その進歩への認識のあるナシは、なにか行動するときの環境を左右する。「9プリンシパル」はそのための環境づくりの本でもあるのだ。

僕たちみんなが巨人の肩に乗り、未来を見つめて進んでいる。

第1章からぜひつづけて読んでいくべきで、生存から経済発展、そして権利や知識といった人類全体の進化まで、たいして紙幅のない本で膨大なデータを引用しながらシンプルに説明できているのはすごい。

本書を読んで目から鱗が落ちることは多々ある。いわれてみれば当たり前のことかもしれないが、児童労働は、所得が少し上がると一気に減る。貧乏な国に仕事が行き渡ると、どの国でも親は子供を学校に送る。経済発展と技術進化は環境問題を解決する。1970年代の車は、エンジンを止めて停止しているときに揮発するガソリンだけで、現在走っている車よりも多く環境破壊をしていた。無鉛ガソリンのようなイノベーションは中国やアフリカにも普及している。

そうしたデータの数々は、僕らをより未来へ目を向けさせる。「いまよりももっとよくできる」という啓蒙主義とグローバル化が世界を進化させていて、その進化速度はさらに高まっている。読めば多くの人が、「そのなかで自分に何ができるかな?何をしたいかな?」というエネルギーをもらえるはずだ。

教育へのアクセスはますます進化している

TAKASU Masakazu

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