読書録:WTF経済 日々やってくる未来とどうつきあっていくか

TAKASU Masakazu
Feb 25 · 5 min read

心待ちにしていた一冊。何しろオライリーといえば、
・技術書出版社の名門
・カンファレンスやメイカーフェアなど、コミュニティ作りの老舗
・オライリーヴィジョンファンドなどで投資を通じた社会実装も
と、未来への扉っぽいモノを押し広げている。ティム・オライリー個人もweb2.0という言葉の生みの親だ。

そうしたトレンドを作り、押し広げる人が経済をテーマに何を見たのか。内容そのものは、山形浩生さんの訳者解説をよめばほぼわかるとして、、、

サマリーよりも細部に価値がある本なので、ぜひ全体を精読すべきだ。

WTF?(なんだこりゃ?)が起こすインパクト

多くの技術が物質をデジタルな情報に置き換えることで効率的に活用できるようにし、人々を自由にしてきた。学習は楽になり、something happenを(本書で言うWTF?を)起こせるようになり、個人の活動がスタートアップ起業や何かのムーブメントを起こせるようになってきた。僕がいろいろなところで話している、「正解のないイノベーション」「予測不可能なこと」だ。iPhoneもFacebookも、最初はギークだけのオモチャで、だんだんと一般に広がり世界を変えた。そうしたイノベーションの頻度は高まっているし、

また、技術の広まりも加速し、特に発展途上国の進化はめざましく、インターネットが届く世界のどこでも、それまでアメリカにしかなかったようなイノベーションが起こせるようになってきたのも事実だ。GFWがあって外部と隔絶されたインターネットの中国でさえ多くのイノベーションが起きていて、ティム・オライリーはそこについてもしっかりと見ている。細かい間違いはあれど、彼のイノベーションに関する知見は、AliPayやWeChatなどの中国イノベーションに対するすばらしいリファレンスになっている。

イノベーションが格差を生んだのか?

そのようにフラット化されて可能性に満ちた世界を技術が作り出した中で、アメリカでは初めて「平均すると父より子の世代が収入が下がる」時代を迎えつつある。アメリカ経済は今もイノベーションによって成長しているが、成長はすべて上位1%に吸い取られ、収入格差はますます広がっている。
WTF?(それまでの社会になかった、ビックリするような新しいもの)が経済でも重要になってきたのは間違いない。そういう社会になったから格差が生まれたのか?それとも、イノベーション主導の社会と格差は関係ないのか?

本書でも扱われているように、イノベーションによってコストが下がることはある。コンピュータが人間の仕事を代替していくことはある。たとえばキーパンチャーとかファイリングみたいな仕事はおおむね消えたし、「一般職」なんて言葉も過去のものになりつつある。コンピュータの登場前でも、馬の世話や飛脚みたいな仕事は新技術によるイノベーションによって消えた。一方でイノベーションは新しい仕事を作ってもいる。レコード産業は消えつつあり、同時にyoutuberが生まれつつある。イノベーションは労働力の海外移転を加速してることもあり、それも先進国の格差拡大に一役買っている。
オープンソース運動のように、プログラマの数を爆発的に増やし、おそらく格差拡大にはほぼ寄与していないようなイノベーションも多い。

本書では上記のような例を出しながら、Uberの運転手を例に、「好きな時間に働けるようになったし、強制もされないから、悪いものではないのでは?」という問題提起をしていて、そこには一定の説得力があるが、それだけで格差がぜんぶ肯定されるわけでもない。
本書では99%運動他、そうしたイノベーションの裏側の負の側面にもきちんと目を配ってはいるし、オライリー本人の問題意識も伝わってくる。

WTF?は不可避だが、外側にいる人はどうしよう?

これからもWTF?は起こり続けるだろう。WTF?が格差を引き起こしているかどうかはわからないが、まともな経済活動をしていたら、格差は広がっていくだろう。規制でそれを抑え込むと、かえってダメになることも、本書ではカバーしている。
本書の受け止め方としては、先進国にいるポジションを行かすのであれば、なんとかして自分なりのWTF?を見つけ、そこにコミットして広げていくやり方ぐらいしか、答えは見つからないように思う。

WTF経済は難解な本ではない。翻訳も山形さんなのでめちゃめちゃ読みやすい。
が、ケーススタディやディテールの知見を消化し切れたとは思えない。これからも何度も読み返すと思う。

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