データ解析が何もかもを解決するわけではない

Jun Ito
edism -エディズム-
6 min readJan 19, 2016

VOYAGE GROUPのメディア担当者がメディアについて書き綴るメディア『edism』にようこそ。金曜日担当の伊藤です。

キュレーションメディアのトラフィック分析の記事や2016年のITトレンド分析の記事など、分析系の記事をメインに上げてきましたが、今日は少し毛色を変えて、データ分析を記事メディアにどのように活かすべきか、僕の意見を書いていければと思います。

「データ分析」から「コンテンツづくり」の間の断絶

「データ分析をコンテンツ制作に活かしていきたい。」

媒体を運営している方なら誰もが思うことと思います。ですが、実際に自社サイトのアクセス解析を分析したり、競合サイトの人気コンテンツを分析して分かるのは、それを次なるコンテンツに活かすことの難しさ

過去のヒット記事と同じものをやっていてもユーザーには飽きられてしまうし、競合の人気コンテンツをそのまま参考にしても「パクリ」になってしまいます。

では行った分析をどのように活かしていけばいいのか。ネットフリックスの事例にヒントがあるので、まずはご紹介します。

ネットフリックスのデータ活用

データを活用してのコンテンツ制作という文脈で語られることの多いネットフリックス。

Yeamake / Shutterstock.com

アメリカにおいてプライムタイムの総インターネット通信料の30〜35%を一サービスで占める(すごすぎ!)ほどの圧倒的な視聴データをもとに、データ分析を軸にヒットコンテンツを作っていると言われています。

そういった紹介のされ方から、人間のセンスは排除し、完全データドリブンで作品を作っているという印象の方も多いかもしれません。

ですが、上記の本で紹介されているネットフリックス日本法人のピーターズ社長の発言は、そういったイメージを覆すものでした。

『視聴データからは、作ろうとしているコンテンツがどのくらいの市場規模を持っているのか、ということが見えてくる。そのためにデータ分析を使っている。』(p181)

また、以下のようにも述べています。

『素晴らしいデータがあっても、それで素晴らしい映画やドラマができるわけではない。データから『どこに有望な視聴者がいるのか』は分かっても、実際に素晴らしいドラマを作るのはクリエイターの力だ。データによる部分が半分、もう半分『アート』の領域。双方を同時に持ってきて、サイエンティストとアーティストのあいだを同時かつシームレスにつなぐことが、我々のアプローチだ。データから得られたものはクリエイターに対して提供している。そういった情報を使い、彼らを説得するのだ。』(p181)

そうです。あのデータ分析で有名なネットフリックスですら、「コンテンツ制作の半分はアート」と言い切っているんです。

ブロックバスター戦略とデータ

このことは、ネットフリックスのコンテンツ戦略を考えてみると理解しやすいと思います。同社のコンテンツ制作を語る上で欠かせないキーワードは「ブロックバスター戦略」です。

ブロックバスター戦略とは、単純に言うと「制作する全ての作品に均等に予算を投下するよりも、ヒット狙いの大作に資金の大部分を投資し、実験的な作品に残りの少額の予算を利用するほうが、投資リターンが高くなりやすい」という理論です。

監督・主演俳優などを、過去のネットフリックス作品から徹底的に分析した結果大ヒットとなった『ハウス・オブ・カード』という作品がこの戦略を象徴する一例と言えるでしょう。

そして、このブロックバスター戦略を実行しようと思ったときにまず大事なのは、「当たる市場」を確実に選ぶことですね。資金の大部分を投資する投資先に、市場がなければ会社が傾いてしまいますから。

そして、ここは「データ」を非常に活かしやすい領域です。自社や他社の過去事例を徹底的に要素分解して、ヒットする要素をかき集めればいいのですから。お金と時間はかかりますが、確実に正しい答えを出せる領域です。

一方で、人を笑わせる・感動させるような作品からは、データ分析からは出てきにくいでしょう。なぜなら、笑いも感動も、鑑賞者の想像を「裏切る」ことで生じるものだからです。

データを集めて、「過去どうだったか」を知ることができるデータサイエンティストは多くても、「想像をどう裏切ればいいか」を導くことは容易ではないでしょう。

向かうべき方向はロジカルに。推進力はエモーショナルに。

上記のことは、メディアの運営でも同じだと僕は思います。

何についての記事を書くか、そこにどんなライターを配置するか。ここまでは徹底的にデータからロジカルに洗い出す。

それをどのような切り口から描いていくかは、編集とライターで頭を悩ませ、当人やユーザーが面白いと思うものをエモーショナルに作り上げていく。

この絶妙なバランスの中からこそ、良いメディアというのは生まれていくのではないかと思うのです。

我々コンテンツメディア事業本部は、ロジックとエモーションの間から紡ぎだされる珠玉のコンテンツを皆様にお届け出来るよう、日々頭をひねっていきます。

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Jun Ito
edism -エディズム-

VOYAGE GROUPでウェブメディアのデータ解析やSEOをやっています。