2015年、相次ぐ雑誌休刊から読み解く出版社のこれから(後編)

Ryosuke Watanabe
edism -エディズム-
7 min readJan 6, 2016

VOYAGE GROUPのメディア担当者がメディアについて書き綴るメディア『edism』にようこそ。コンテンツメディア事業本部の渡辺です。

前回の記事では、老舗雑誌の相次ぐ休刊から、実態として雑誌の発行部数はどう推移しているのかを調査し、その原因は何にあるのかに触れました。

後編となる今回。雑誌発行部数が落ち込む冬の時代、各出版社がこれからの未来にどんなことを思い描いているのか。また、その共通点はどこにあるのかを最近のニュースから4つのパターンに絞ってみたいと思います。

1.「勝算アリ?物販事業への新展開」

「宝島社×伊藤忠と組み服飾雑貨事業に参入へ」(毎日新聞)

出版社の物販事業への参入は一見すると博打的な新規事業かの様に見えるでしょう。「なんで出版社が??」そう思う方も少なくないはずです。

しかし、少しでも携わったことのある人であれば誰でも、雑誌のようなメディアを0から創り拡大させていくその過程は、ファッションブランドを形成していく過程と非常によく似ていることがわかるかと思います。ユーザーから信頼されるコンテンツやライフスタイルを提供し続けることによって、一部のユーザーを熱狂させ、確固たるファンを築いていく。両者をコンテンツビジネスだと捉えるならば、その違いは紙媒体か服飾という差はあれど、本質的な違いは僅少だと考えることができます。

一般消費者や投資家にとってみれば、突拍子も無い新規事業に思えるかもしれません。その考えとは裏腹に、宝島社の立場から言えば自社ノウハウを生かしたコンテンツ事業の拡大だと考えているのかもしれません。

さらに言えば、宝島社は雑誌の付録をインセンティブに用いる手法で、ユーザーエンゲージメントを構築することに定評のある出版社です。「sweet」「GLOW」「SPRiNG」など、多くの雑誌媒体と連動した付録やファッションブランド作りには、今後も注目が集まるところです。

2.「トレンドはやはり動画?独立WEB移行型」

WEBに完全移行すると述べた出版社が存在することには前回の記事で触れました。今回はその中で、いくつか新しい試みを行っている出版社をご紹介します。

「VOGUE VIDEOS」

http://www.vogue.co.jp/videos

「ELLE TV」

http://www.elle.co.jp/elletv

ブランドメディアの最高峰とも言えるご存知「VOGUE」や「ELLE」では、紙面では表現が出来ない、動画コンテンツの生成に力を入れているようです。

例えば、雑誌撮影時のメイキング映像を予告のような形でWEB限定にて先行展開したり、撮影した写真に関しては静止画で紙面で展開するといった取組です。他にも、著名人や有名人のインタビューに関して、旧来はテキスト+写真で表現をしてきたものを、WEB上のみ動画にて公開するといったことにも取り組んでいます。

※参考URL

73の質問-ヴィクトリア・ベッカム すべてを手に入れた彼女が、それでも笑わない理由(VOGUE VIDEOS)

彼らにとっては、展開するデバイスは何であろうと問題ないのかもしれません。WEBだ紙だといったデバイスにとらわれずに、ユーザーのニーズによって同じコンテンツを異なる手法で展開している好例ですね。国内でも同様の取組を行っている企業はありますが、コンテンツの質・量ともに群を抜いています。

3.言っても社内にエンジニアとか居ないし。。「協業WEB移行型」

生成するコンテンツの配信チャネルの拡大を狙い、WEBメディアと協業する企業も出てきています。

20代女性誌としても人気の高い「non・no」では、こちらも女性人気の高いキュレーションメディア「MERY」上に公式アカウントを開設し、雑誌で展開中のコンテンツをMERYメディア上でも展開をしています。

※non・no × MERY スペシャルアカウント

http://mery.jp/user/non-no_official

当然コンテンツ力の高い記事を生成できる出版社ですから、一般人が作る記事とはワケが違います。各記事のview数を見れば、誰でもその差にすぐ気付くことが出来るでしょう。

独立したメディアを当てるには不確実性が高い&運営体制にも制限がある中で、既にユーザーが集まっているキュレーションメディアと協業するのもひとつの形です。また、non・noの媒体資料を見るに、既にLINEやMERYとはコラボ企画としてタイアップの広告枠を販売しているようですね。

4.ハードル高め?「コミュニティ事業」

メディア作りをコミュニティ作りと置換して、メディアの読者をコミュニティ化することで事業継続をはかろうとする会社も存在します。

前回の記事でも取り上げた「DRESS」では、読者コミュニティを「DRESS部活」と掲げて、メンバー限定のWEBコンテンツを配信したり、DRESS主催のイベントを定期的に開催し招待をしているのだとか。驚くべきは2013年4月に創刊した本誌ではありますが、既にそのコミュニティには2016年1月現在、約18,000名(!)のメンバーが居るんだそうです。

当然一定量の人員の集客が可能になれば、オンラインのみならず、イベント送客などのオフラインでの収益化が可能になります。ナショナルブランドとタイアップしたキャンペーンや、モデルを使ったSNSでのプロモーションも出来るかもしれません。カリスマ性の高い編集長や読者モデルの存在が必須要素となるため、そのハードルは非常に高いように思います。しかし当たればデカイ、チャレンジしがいのある事業なのかもしれません。

今回は雑誌社の今後の事業戦略について、以下の4つに絞って考えてみました。

・物販事業

・独立WEB移行

・協業WEB移行

・コミュニティ事業推進

当然その他にもIPビジネスイベントビジネスなど、いろいろな展開を考えることが出来そうです。

WEBメディア界隈では動画元年だと言われる今年、今までの雑誌はどう体系を変化させていくのか。はたまた変化を遂げずに、トラディショナルなメディアとして残り続けていくのでしょうか。

現状で言えば、出版社や今までの編集者が持つコンテンツ生成スキルはWEBメディアの比ではないと筆者は考えます。メディア界隈で言えば各ニュース系メディアをはじめとして、多くのプラットフォームがより一次情報を志向しようとしています。その中で出版社がどのような戦略を取り、編集者がメディア業界の中でどのようなプライオリティとなるのか、2016年も引き続き注目です。

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Ryosuke Watanabe
edism -エディズム-

VOYAGE MARKETING(VOYAGE GROUP100%子会社)という会社で、アライアンス事業を担当しています。デジタルメディア運営における、提携・協業のご相談お待ちしております。