一条校におけるIB(国際バカロレア)の導入とその課題

Hal
Edmodo Japan
Published in
17 min readApr 1, 2019

先生はこれまでブログにて、IBの認定を取るためにはどのようなプロセスを踏むのか、またはIBの子ども達・IBの先生達はどのように学び、教えているのかなど様々な声を紹介。

今回の講義ではそれを踏まえた上で、IBについて、IBDPについて、IBの課題とその展望について話していただいた。

本記事はEdmodoCon Japan2018の、国際バカロレアディプロマプログラムコーディネーターをしている、筑波大学附属坂戸高等学校の熊谷優一先生の講演を基にしたものです。

※ご講演者の所属や肩書は2018年3月21日、講演当時のものです。

IBとは、世界のどこにいても世界的水準の学習ができるようプログラムされた学習法

そもそも、国際バカロレア(IB)とは何なのか。その名称の意味と概要について解説が続いた。

「IBは1968年ヨーロッパ・ジュネーブで生まれ、外交官などの転勤族の子供向けに教育の質、学びの継続を目指して開発されたプログラムです。IBのプログラムは対象年齢に応じて4つのプログラムに分かれています。」

「世界のどこにいても高水準の学習ができるようプログラムされています。」

プライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)

3歳から12歳を対象としています。これが現在世界で167校で実施されています。

ミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)

11歳から16歳を対象にしています。1456校で実施されています。

ディプロマ・プログラム(DP)

高校生を対象にしたプログラムです。世界では3297校で実施されています。

キャリア関連プログラム(CP)

ディプロマ・プログラムを実施している学校で大学進学を目指さない子ども達向けに実施されているプログラムです。現在のところ170校が認定を受けています。IBのプラグラムを実施している認定校は世界では4839校にのぼります。

このうち、熊谷先生が担当しているのは高校生を対象にしたディプロマ・プログラム(DP)。

また、IBで使用される公式言語についても以下のように説明した。

「IBの公式言語はこれまで英語・フランス語・スペイン語の3ヶ国語でした。近年、文部科学省とIBOの間で日本語と英語によるプログラムが開発されています。日本語と英語によるデュアルランゲージ・ディプロマプログラムというものです。」

日本におけるIBの現状

2013年に閣議決定され、IB の教育が日本の公教育に導入されています。日本でも日本再興戦略の中でIB認定校等を増やしていく方針で、全国的にも急速に増えていると熊谷先生は話す。

「現在、一条校でIBプログラムを実施することができる学校は以下のようになっています。」

  • プライマリー・イヤーズ・プログラム:26校
  • ミドル・イヤーズ・プログラム:14校
  • ディプロマ・プログラム:38校
  • キャリア関連プログラムは認定なし

ディプロマ・プログラム(DP)を知る

IBのディプロマプログラムは、どの時期に取り組むのか、どういったカリキュラムや試験、評価があるのかを解説してくれた。

「カリキュラムは高校2年から3年生にかけての2年間のプログラムで、実質18ヶ月になっています。内部評価と外部評価によってこの学習が評価されます。学習方法は問題解決型学習と概念型学習というものです。探究型学習ともリンクします

IB ディプロマ・プログラムのカリキュラム①

IBで履修すべきカリキュラムについて、以下のように説明があった。

「ディプロマプログラム(DP)は高校2年間で実施されるプログラムであり、プログラムを実施する世界の学校では、子供たちは必ず世界共通必修科目となっているコア3科目を学ぶ必要があります。」

「それ以外に6つの教科グループに分かれており、その教科グループの中から基本的には各1科目ずつを学びます。そのうち3科目は150時間勉強するスタンダードレベルと、3科目を240時間学習するハイヤーレベルで学ぶことになります。」

また日本語と英語によるデュアルランゲージDPの場合、この6科目のうち言語B、これが英語Bという科目になります。さらにプラスもう1科目を英語で履修することが文科省による規定があります。」

IBディプロマ・プログラムのカリキュラム②

それぞれの科目について詳しい内容は以下のように話す。

世界共通必修科目となっている、以下の3科目です。

  • 知の理論(theory of knowledge:TOK)
  • CAS(Creativity Activity Servise)
  • 課題論文(Extended Essay)

さらにDPの科目は以下の6つのグループに分かれており、この6つの中から1科目ずつ基本的には学習する。

  • 母語
  • 外国語
  • 個人と社会
  • 理科
  • 数学
  • 芸術

「その内の3つはスタンダードレベル150時間、その内の3つはハイヤーレベル240時間を勉強するという縛りがあります。また日本語と英語によるデュアルランゲージDPの場合、この6科目のうち、外国語にある言語B、プラスもう一科目は最低でも英語で学習します」

赤字で書かれているものは日本語ですでにオファーされている科目で試験も日本語での受験が可能とのこと。

IBディプロマ・プログラムの評価について

日本の学校で一般的に実施される試験や評価とは異なるIBディプロマ・プログラムでの評価方法や3週間かけて行われる試験について解説があった。

「評価に関しては各科目によって違いはありますが、外部評価が7割から8割、内部評価が20%から30%の割合で、合計100%で評価がされます。4月から新学期が始まる日本の学校は、11月に最終試験を受けることになり、これが外部評価です。」

「試験問題はIBが指定した試験問題が各学校に送られてきます。試験は3週間行われ、全世界共通の日程で行われます。内部評価については、プレゼンテーションや小論文、グループ学習などが決められており、それらを採点することになります。」

「各科目のスコアは7点満点になっており7×6科目で42点。コア科目にはTOKとEE があり、出来によって加点が3点分あり、45点満点で採点されます。細い基準がたくさんありますが、24点でディプロマが付与されます。」

「平均点は30点前後と毎年レポートでは出ており、取得率は7割から8割と公式では発表されています。」

日本の学校では3週間に渡って試験を受け続けるという形式はめったにない。熊谷先生によると、IBのようなカリキュラムが他にはないからこそ、プログラム設計というのは非常に大事になるという。

「IBディプロマ・プログラムのカリキュラム②について詳しい解説」

次に必須科目3科目と教科グループ6つの中から各1科目ずつ履修するカリキュラムについて詳しく解説があった。

「IBホームページにも無料で得られる情報と、IBのプログラムを実施する学校でしか見られない情報があります。今回はそれぞれのグループの1科目ずつをピックアップし、一条校のそれと該当する学習項目、学習方法の違いについてお話しします」

「今ご覧いただいている資料はそれぞれのグループの1科目ずつをピックアップして、それが一条校のそれと該当する科目で、どのように学習項目、学習方法が違うのかについて説明したものです。

例えば、言語と文学では、(中略)抜粋ではなく作品全体を扱う点が国語の授業とは異なります、と説明しています。

国語の授業だと大体は何ページか分を抜粋してその中で鑑賞したり、学んだりしますが、このIBの言語と文学という科目では1作品丸々を対象にして学習することになります。」

日本の場合は文科省の国際バカロレアのサイトから日本語の分に関してはいくつか無料で誰でも見られるようになっている。

IBディプロマ・プログラムを受講した生徒の声

実際にこのディプロマ・プログラムを学習した生徒達の声を紹介した。

仙台育英高校出身の鈴木純麗さんのインタビューの要約を例に挙げて、IBDPについて、そしてどんな力が求められるのかに言及した。

「ここで強調されるのは本当にとにかく課題が多いプログラムなんですね。なので、次々来る課題に対して、それをどういう段階で自分の満足度を持って提出していくのかということに関してはセルフマネジメントが必要。それはもう本当に生きる力だと思うんですよね。」

「これから私たちがいろんな課題を仕事でもしていくわけですけれども、期限が設けられている中でどのようにこなしていくのか、そういったスキルはこの課題の量でかなりトレーニングされると思います。」

▼鈴木純麗さんのインタビュー記事全文はこちら

IBDPの課題例と、教員にも求められるスキルと姿勢

「知の理論(TOK)科目の昨年の課題のひとつを紹介します。『地図は事物を単純化してこそ有用なものとなる、この考え方は知識に対してどの程度当てはまりますか』というテーマにしたがって3200字で論じて提出します。

これが、今日本の高校生達が取り組んでいる課題なんですよね。それをどういう風に教えるのかいうこともまた一つ教育者としては課題なわけです。したがって教員の養成もとても大切になりますし、TOKを担当する教員達のトレーニングも課題です。」

実際にこの試験を受けた、学生の声も紹介している。

最初は確かに何を考えればいいのかも分かりませんでした。他人に自分が考えていることを伝えるのってこんなに難しいのかって思いました。TOKの問いを考えながら自分の脳みその奥の奥を自分で覗いてみるような感覚になりました。

そしてそれを他人に知られるのが怖くもあって。だって考えれば考えるほど自分が冷たい人間で、なんて性格が悪いんだろうって思うこともあって嫌になりました。

このコメントに対して、「子供達が自分の考えていることを表明するのはなかなか心理的ハードルが高いと思うんですね。(中略)教室内のフィジカルな環境だけでなくて精神的な安全性を担保するってことも非常に大事なんじゃないか。」と話す。

最初は戸惑いも多かったのですが、他の教科との共通点を見出せばどんな風に考えたらいいのか、どうアプローチすればいいかがだんだんわかってきます。私はグループ1の文学の授業の中でこれかっていう瞬間がありました。それからはTOK が楽しくなりました。

情報を一回自分で咀嚼して自分なりの解釈をする習慣が身についたと思います。ニュースやメディアで提供される情報もそのまま受け取らなくなりました。

このコメントにもIBDPの学習成果が見えるという。

「ちゃんと自分で吟味した上で自分なりの判断を下すということ(中略)オープンエンドの質問に対して自ら様々な情報や様々なスキルや関係性を用いて自分なりの答えを見出していくその勇気を学ぶんだと思っています。」

日本におけるIBの3つの課題

日本でもIBを取り入れる学校が増えつつあるといっても発展途上、課題も多くあると熊谷先生は話す。

カリキュラムの柔軟な運用

必修科目もある一条校の生徒にとっては、加えてIBのカリキュラムを履修することでかなりの学習量になる。柔軟なカリキュラム設定の重要性について以下のように話す。

「高校2年生から3年生の間で、スタンダードレベルは150時間、ハイヤーレベルは240時間学習することになります。また最終試験が(中略)3週間かけて行われる。それまでに全て学習するとなると、子供達にとってはかなりハードスケジュールになります。また一条校を卒業するための必修科目も履修しなければなりません。」

子どもたちがIBに集中して取り組めるように、学校としても柔軟なカリキュラムを設計する必要があるが、多くの学校で設計に苦労しているのが現状だという。

教員養成

学校でIBに取り組むためには、それを指導する教員の養成も重要な要素の一つ。IBを指導することと、英語で指導することを満たす人材をどのように確保していくのか。

英語での学習を実現するための外国人教員の登用について以下のような課題があるという。

「外国人教員っていうのは主にインターナショナルスクールで働いていた先生達が多い。したがって、日本の一条校で働くための免許がなく、特別免許が必要になる。(中略)日本のその特別免許の取得が各自治体によって異なるので、プログラムを進めるためにも規定を全国で合わせるなどの、合意が必要だと思います。」

一方、知の理論(TOK)等の科目を担当する、日本人教員の指導力養成については以下のように話す。

「日本には各科目ごとの教員たちが集まり、情報交換をするジョブアライクが開催され始めています。こういった集まりは知識を増やし、スキルを高める場でもあるので、今後増えていってほしい。」

IBDP生の大学進学の門戸

IBを学習した高校生にとって、どんな大学に進学できるのか?将来にどんな風に役に立つのか?という疑問の声は多いようだ。

熊谷先生は、進学に関しての現状について国立大学でIBをやっている学校に積極になってほしいとのコメントとともに、進学における生徒のために柔軟な支援ができる体制の構築とIB修了生の外部へのアピールが必要だと話す。

「アメリカに留学するのか、カナダに留学するのか、イギリスに留学するのかによってまた用意しなければいけないものが違ってきます。そういったその情報の共有やメソッドは公立の学校ってなかなか持っていないので開発していかなければいけない。」

「(中略)このプログラムを終了した生徒がどのようなスキル、どのような学力を持っているのかということもアピールしていかなければいけないと思っています。」

日本におけるデュアルランゲージDP(DLDP)の展望について

新しい学び方の選択肢としてのIB

「英語によるディプロマ・プログラムは日本でもインターナショナルスクール、私立の学校などでは行われてきましたが、日本語と英語によるデュアルランゲージDP はここ最近になって増えてきました。しかし卒業している生徒がまだわずかなので、データとして分析できるほど情報がまだないのが現状です。

また大学の方とお話した際、「クオリティとしてどうなの」というようなことを聞かれますが、ただそこはもう少し待ってほしいっていう思いがあります。一方で、自ら考え、それをもとにディスカッションしながら自分の考えをブラッシュアップしていく、そして最後にその時々の最善の結論を出していくという学び方を好む生徒達は結構いました。

模擬授業を行なった際も、こんな風に授業を受けてみたかったという声が保護者の間からも非常に多くありました。したがって今後、こういった学び方もあると選択肢としてIBが益々広まっていくのではないかと予測しています。」

新しい学び方としてIBを選択肢に入れることも今後は当たり前になってくるかもしれません。

2つの学習者像

どのような人物がIBを選択するのだろうか?

「一つは、日本で生まれ育った学習者です。ネイティブ並みに英語は喋れませんが、もっと英語ができるようになりたいっていう人たち。もう一つは、日本でキャリアを築くことを決めた外国籍の子ども達です。帰国生もこの中に含まれるでしょう。自分の得意を活かしつつ、日本語で思考するというニーズがあります。」

「(中略)幼い頃から英語に触れてきた人がIBを選択するケースが多いようです。今後は、英語に触れてきていない人物でも積極的に選択できるようになるといいですね。」

最後に

学校説明会で模擬授業を行った際の子どもの反応を交えて熱っぽく話す。

「新しい学び方の選択肢としてのIBなんですけれども、いわゆるチョークアンドトークと言われる先生が黒板の前に立って説明していくっていうスタイルの知識を偏重する、そういった学習方法ではなくて、自ら考えをディスカッションしながらブラッシュアップしていき、そしてその時々の自分なりの最善の結論を出していくという学び方を好む生徒達は結構いました。」

新しい学び方の選択肢としてのIBであるが、IBの認定を取る学校がどんどんんと広がっているという。

熊谷先生は今後、大阪の公設民営による中高一貫校である大阪市立水都国際中学校高等学校でIBのプログラムの実施に携わっていくという。

「グローバルなマーケットで勝負できる人材を育成するという点に長けた教育プログラムが公立の学校でも選択ができるようになっていきますので、今後の教育の流れを注目してほしい。そして教育業界の閉塞感に風穴をあけられるように一緒にムーブメントを作っていきたい。」と話す。

一条校におけるIBの導入とその課題

ご講演者
・熊谷優一先生(筑波大学附属坂戸高等学校)

--

--