小学英語の授業デザイン【外国語活動のプロジェクト型学習事例】
児童の能動的な学習を生む、小学校英語の授業デザインを考える。
日本とオーストラリアの2拠点で同時に行った授業プロジェクトの実例を交えながら小学校教育でのICT活用による英語の授業デザインを考えていく。
▼ご講演者
奥村真司先生(武庫川女子大学)
畑野彩先生(町田市立小山ヶ丘小学校)
本記事は「EdmodoCon Japan2018」の奥村真司先生と畑野彩先生のパネルディスカッションを基にしたものです。
Edmodoを活用した国際交流のプロジェクト報告
小学校における外国語教育とは?
Edmodoを活用した国際交流のプロジェクト紹介および報告に入る前に、日本の小学校における、外国語教育の概要について触れる。
指導要領に加え、文部科学省が外国語教育の充実に向け、小学校教育でのICT活用を積極的に推進していると奥村先生は説明する。
ICT活動の具体例を挙げつつ、国際交流プロジェクト設定の経緯を次のように話す。
「情報通信ネットワーク等を通して国内の様々な学校や海外の学校との交流により、外国語を使ったコミュニケーションを実体験させることを推奨しています。
私たちはこの文部科学省が推奨している小学校外国語教育における ICT の活用というものに着目をして、今回のEdmonoを活用したプロジェクトの設定を考えました。」
プロジェクトに取り入れた2つの概念
奥村先生は今回のオンラインコミュニケーション活動で2つの概念を取り入れていると語る。
その概念とは、「テレコラボレーション」と「プロジェクト型学習」の2つだ。これらの概念を順に説明する。
「テレコラボレーションというのは、国や地域の境界を越えた海外の児童生徒とのオンラインコミュニケーション活動のことを言います。」
この活動は目標言語(日本では英語)の学習の機会となる。
同時に、文化的理解の要素を活動に取り込こみ、学習者が協同的な学びを行うことで、異文化理解の向上の機会にもなるという。
「プロジェクト学習とは、ある特定の目標に向かって課題解決を行い、他者との関わり合い、協調を重視しながら児童の主体的創造的な学びを促す学習形態であると捉えられます。」
そして、外国語活動におけるプロジェクト型学習は、相手意識や外国語を用いたコミュニケーションの必要性を、より鮮明に自覚した主体的な学びの実現が期待できる。
「ということで私達は、今回のプロジェクトは『テレコラボレーションな活動かつプロジェクト型学習の活動であると』位置づけました。」
「小学校の外国語学習」でのプロジェクトの意義
テレコラボレーションやプロジェクト型学習は、小学校外国語学習で行われておらず、文献や事例も少ない。
それを踏まえたうえで、奥村先生は次のように語る。
「私達は海外の小学校児童とのテレコラボレーションの活動を実施して、その効果及び課題を検証して報告するということを決意しました。
それは今後のICTを活用した小学校英語にいろんな面で貢献できる、例えば児童の能動的な学びの発展ですね。
そういう面で起用できるのではないかというふうに考えて今回のプロジェクトを発足しました。」
プロジェクト交流校の選定:英語圏で1番日本語学習者が多い国オーストラリア
奥村先生は『オーストラリアの小学校は日本語教育が盛んである』ということに注目した。
これは、奥村先生が過去に現地で研究・調査して得ていた情報であり、上の表からも分かる通りオーストラリアでの日本語学習者が多い。
英語圏の国々では、世界で1番とのことだ。
積極的にICT活用をする、オーストラリアの日本語教育
奥村先生は、ここでオーストラリアの日本語教育に触れ、オーストラリアの小学校・中等学校(中学校と高校が合わさったような学校)では、日本語教育が盛んであり、日本語専科教員が指導している。また、政府の推進のもと、ICTを積極的に活用していると奥村先生は説明した。
実際にオーストラリアの小学校で日本語の専科教員をしていた畑野先生は、次のように語る。
「2箇所の学校に行かせていただいたんですけども、そこでも積極的にICTを活用していました。」
「先生たちは子供たちが分かりやすいようにということで、ゲームを作成したり、作成されたものを使用して積極的に活動していて、またSkype等のツールを使って日本の小学校ともすごく交流をしていました。」
畑野先生の話から奥村先生は次のように話す。
「DSiを使った日本語教育というか、漢字を書く練習を使ったりとか、今畑野先生からもお話あったSkypeや他にポリコムという、テレビ電話会議システムを使った交流も積極的に行っています。」
オーストラリアの学校でいかにICTを活用しているかが、お二人の話から良くわかる。
こうしたオーストラリアの教育の現状を踏まえて、
「日本語教育を行っている小学校と、日本の学校が英語と日本語でコミュニケーションするという、テレコラボレーションプロジェクトを立ち上げました。」
と奥村先生は語る。
プロジェクトの参加小学校と実施期間
2017年11~12月にかけて、日本の小学校6年生とオーストラリアの小学校5・6年生で共同のグローバルクラスルームを行った。
Edmodo上にグループを作成していて、日本のクラスメートはもちろんのこと、オーストラリア側のクラスメートもEdmodo内のグループに参加。お互いの国の文化や行事を3~4人のチームに別れて、Edmodo内で発表した。
発表の際は、『日本の生徒は英語』で、『海外の生徒は日本語』で、それぞれ自分の文化を相手の言葉で伝えるという形式を採った。
自国の文化を相手の国の生徒に相手の言語で説明
では、具体的にどのように発表まで進んだのか。
初めに、どの文化を自国らしい文化であると紹介するのか、をチームで話し合って決めてもらった。そして、その内容をどのように説明すればいいか、まず自国の言語で考えてもらった後、相手の言語へ変換するという作業を先生と一緒に行った。
次に、それぞれのチームで設定したテーマとその説明を、内容が想起される写真や絵と一緒にした。日本の小学生は英語で、オーストラリアの小学生は日本語でカードを作成して、Edmodoに投稿をしてもらった。
投稿後は、相手の国の投稿に対して、イイネをしたり、コメントをしたりしてもらった。
特にルールを設けてはいなかったが、自主的にお互いの言語を調べ、日本の生徒は自分で言いたいことを英語で、オーストラリアの生徒は日本語でコメントを投稿する姿が見られた、という。
プロジェクトにおける学習目標とは
学習目標として次の2つを設定したと奥村先生は語る。
①学習を通し外国の人々のものの考え方を理解し尊重する態度を育むことができる。
②外国の言語や文化について体験的に理解を深めることができる。
この目標の特徴は、外交活動と教科の社会科を連携させたという点にある。
日本の外国語教育においては他教育との連携が重視されており、オーストラリアでも他教科との連携が推進されているという。
計6時間のプロジェクト学習計画
当初は4時間として考えられていたプロジェクトであるが、途中で2時間加えられて6時間となった。
時間の内訳は以下の通りだ。
1時間目. ICTの基礎学習としてEdmodoの使い方を知る。
2時間目. 日本らしいと思う行事を調べ、小グループで共有する。
3時間目. 小グループで行事を一つ選択し、3つの英文と画像・絵などをオーストラリアへ投稿する。
4時間目. オーストラリアの行事について学習し、理解を深める。
そして加えられた2時間について畑野先生は次のように説明する。
「道徳の授業として1時間加えました。やっぱり子供達がEdmodoを使う中でこの言葉は使っていいのかな、これは良くないのかな、お友達が見た時にどう思うかなっていう学習も必要でした。」
「もう1時間は社会の単元を使って、日本の文化を知るというとこも兼ねてやりました。」
奥村先生の計画を基に、畑野先生、植草先生の現場にいる先生がさらに提案を加え、このようなかたちとなった。
教育は実際にやってみないとわからないことが多くあり、試行錯誤しながらプロジェクトを進めたという。
実際にプロジェクトで行われた活動内容
では、プロジェクトで行われた活動はどのようなものだったのか。
実際に子供達が書いて投稿したものを奥村先生が紹介した。
上の画像は、左側で日本の子供達が『ねぶた祭り』を紹介し、それについて右側で、オーストラリアの子供達と日本の子供達が、メッセージでやり取りをしている様子だ。
相手に伝えたい、という思いが行動に表れた
この投稿について、現場にいた畑野先生が次のように説明する。
「ほんとに予想外に沢山書きたい事が日本の子ども達に生まれてしまって。とても嬉しい事なんですけれども、教員としても対応するのがとっても大変でした。」
「『どうやって言ったらいいかな』、とか一緒に考えながらだったんですけども、でも伝える相手がいたからこそこんなにたくさん書きたいって思ったんだなと思って、とても嬉しくもあり大変な作業ではあったんですけれども、ここまで立派な投稿を書くことができました。」
そして、「自分達が言いたい事を、相手に伝えたいという事が表われた活動だったのですね。」と奥村先生がまとめた。
「spectacular」など、難しい単語の利用は、子供達が自発的に畑野先生に質問して出てきたものとのこと。さらに、家で考えてくる子供がいたとも畑野先生は語る。
自国の文化を見直す良いきっかけになった
次に、奥村先生はオーストラリアの子供の投稿を紹介した。
上の投稿はイースターについての投稿で、パワーポイントで資料を作成されている。
オーストラリアの子ども達からの投稿により、日本の子ども達がオーストラリア特有の文化やスポーツを学ぶことが出来た。
また、オーストラリアの現地の小学校で指導している植草先生は、オーストラリアの子ども達にとっても、母国の文化というのは一体何かと考える良い機会になっていたとコメントしている。
日本の子供達からは、どんな感想があったのか。
子供達は、日本文化について調べることで、外国文化に関する理解だけでなく、自分たちの知らなかった日本の側面も学ぶ事ができたようだ。
上の画像にあるように、オーストラリアと日本文化を対照させながら、文化理解を深めていった。
本当に存在する”相手”を実感して学ぶ
東京の小学校ではオリンピックに向けた教育が行われている。そのことを踏まえた上で畑野先生は以下のように述べた。
「うちの学校でも、オリンピック・パラリンピックということで色々な国のことを学んでいる最中です。」
「ただその中で色々な違いや面白い話を聞いたとしても、その先にいる子ども達のこと、友達のこと、大きく言えば人間関係のことについてまで実感がないのが正直現状です。」
今回の取り組みでの生徒の反応を通じて、次のように感じたという。
「ただ、もしかしたらオリンピック・パラリンピックの時に、外国の自分と同じくらいの子ども達も日本に来るかもしれないとか、その時に英語を使えるかもしれないとか、すごく実感を持って学習ができたんじゃないかなと感じました。」
実際の行動から振り返るコミュニケーション活動
子供達の自発的・自主的コミュニケーション活動
今回のプロジェクトの外国語活動という点で、子供達に見られた自発的・自主的コミュニケーション活動について、奥村先生は次のように紹介している。
これは、日本人の子どもたちが英語で自己紹介をして、オーストラリアの子どもが返信をしている画像だ。
ここから見える自発的・自主的活動として、奥村先生は次のように語る。
「実際のプロジェクト、先程お話した4時間の中では自己紹介をする活動は計画していなかったんですが、実際に子ども達が家でEdmodoに投稿したり(中略)子供達の中には自分の名前とか、たとえば好きな事とか、自発的に投稿している子供もいました。」
この自発的・自主的活動は予想していなかった、広がりが見えたことに驚いたと、畑野先生も話す。
最初は教室で習った英語(greatやnice等)を使っていたが、それでは飽き足らずに、どんどん別の表現(Hello, my name is~等)を使うようになった、という。
先生方の想定以上のことを、子ども達は自ら行った。つまり、能動的な学習を生み出すことができたということになる。
さらに、オーストラリアの子供にも、日本語を用いた自主的なコミュニケーション活動が見られたと、画像にあるやり取りを紹介した。
オーストラリア側にとっても、日本の子供達と繋がるのは意義深く、日本語・日本文化学習の良い機会となった。
今回のプロジェクトが、両国の学習者の自立性を高める良い活動になったのではないか、と奥村先生は語る。
奥村先生は、子ども達の自主性につながったと考えられるものとして、Edmodo利用時の畑野先生の寛容な態度を挙げた。
そして、Edmodoを使う時には、子供達の実態や、その時点での英語力に応じて活動を設定し、サポートや声かけがあると良いのではないか、と述べた。
本プロジェクトでのICTリテラシーの育成
奥村先生はEdmodoプロジェクトがICTリテラシーの育成につながったことも踏まえ、画像にある2点を挙げた。
先生も子ども達も教育用SNS(今回はEdmodo)の使い方を理解していることが大事であること、オンラインソーシャルネットワークのエチケットやマナーを学ぶ機会になったことが良かったという。
プロジェクトの成果と課題
今回のプロジェクトで、どのような成果を得られたのか。奥村先生は上記の5つにまとめて説明をした。
補足として、畑野先生は以下のように付け加えた。
「難しい文章じゃなくて簡単な文章でコミュニケーションを取るということの面白さとか、『実際自分がこう話している時に話す内容も、型にはまった内容ではなく心から思ったこととか、伝えたいことを短い言葉でもいいから伝えればいいんだ、まずは伝えてみてから始めようっていうようなことが大事なんだ』と気づくことができて、本当に良い機会となりました。」
クラスの一番好きな教科が体育から英語になったのではないか、とも畑野先生は言う。
それだけ子ども達の反応が良かったことが伺える。
プロジェクトは成果だけでなく、課題の洗い出しも重要である。
奥村先生は今回のプロジェクトから見えた課題について上の画像のように4点にまとめている。
「このプロジェクトでの成果と課題とともに、新たなプログラムを構築し、実施することによって、今後の小学校外国語教育でのEdomoを活用したテレコラボレーションの有効性を提言できます。」
今回の振り返りを通じて得た成果や課題から次のアクションが見えてきたという。
「(中略)本当に子ども達が元気に卒業できること良かったなと思いますし、中学校に行って英語、これから海外に夢を持って羽ばたいていく子供達に本当に良い機会になったと思います。」
最後は、畑野先生から卒業を迎える子ども達への門出を祝う言葉で締めくくられた。
児童の能動的な学習を生む小学英語の授業デザイン
ご講演者
・奥村真司先生(武庫川女子大学)
・畑野彩先生(町田市立小山ヶ丘小学校)
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