単元計画の中での学び合いデザイン

tsuyoshi shimodaira
Edmodo Japan
Published in
16 min readApr 16, 2019

~小学校でEdmodoが当たり前になるまで~

鈴木先生は2年間に渡って、小学校低学年への教育活動において、教育用SNS「Edmodo」を活用してきた。

2年間の実践の中で見えてきた、SNS活用による学びの場の変容などの教育効果や、SNS活用において特に注意が必要であると思われる点はどのような点なのであろうか?

本記事は、EdmodoCon Japan2018の、 東京学芸大学附属小金井小学校の 鈴木秀樹先生の講演を基にしたものである。

※ご講演者の所属や肩書は 2018年3月21日、講演当時のものです。

小学校の学級内SNSの可能性とは?

現在の学校は「どんな」学びの場なのか?

鈴木先生はEdmodoConには2度目の登壇であり、以前の登壇のときには小学校1年生がEdmodoを使用している様子から、「学級内SNSの可能性と課題」について話をしていただいた。

まず、振り返りとして、その学校現場の学びの現状とSNS活用による可能性は以下のようなものであるとまとめている。

『非常に乱暴なまとめ方かもしれませんが』という前置きで次のように話す。

「学校とは一体どういうところだろうか?ということで考えると、学校とは『いつ』、『どこで』、『だれが』、『だれから』、『なにを』、『どうやって』学ぶかが決まっているところと言って良いのではないかと、考えています。」

「いつ、どこで、だれが、だれから、なにを、どうやってというのが決まっているからこそ、学校は効率的に教育をできるわけですけれども、それが学校の制約になっていることも否めません。」

学級内SNSを使うことで変わる学校の学びの場の定義

しかし、学級内SNSを使って、学校の学びの場の定義を変えることができると鈴木先生はいう。

「しかし、学級内SNSを活用することによって、学校が今までの形から『いつでも』、『どこでも』、『子どもが』、『友達と』、『思ったことを』、『伝え合って』学ぶ場を提供するところに変えていくことができるのではないかという事を昨年お話をさせていただきました。」

SNS活用における学び合いのデザインの重要性

また、SNS活用の課題として、子どもたちが学び合う場のデザインを鈴木先生挙げていた。

「学級内SNSの活用で本当に児童の資質能力は伸びているのかというところはきちんと評価していかなければならないでしょう。それから、そもそも学級内SNSを使っていくためには、学び合いのデザインがきちんとしていなければならないはずですということも申し上げました。」

「学級内SNSの中での学び合い、それともちろん子ども達は教室で学び合いを行っています。その両者がバラバラに存在していては意味がありません。」

「やはり、きちんとした単元計画の中にその両者が居続けられて、きちんとした相乗効果を生むような形でないとうまい学び合いにはならないだろうと。逆に、そこをきちんとデザインできれば、いい学び合いになるのではないかということを昨年度お話しいたしました。」

1人1台タブレット環境での子どもたちの学びの変化

現在では1人1台のタブレット環境を実現

2学期目からは1人1台のタブレットの環境が実現し、大きな環境の変化があったという。

この環境の変化は様々な学びの変化にもつながったと鈴木先生は考えている。

活用事例①:気づいたことを知らせ合う

九九の授業のとき、一度九九を覚えたあとにその法則性を考える授業を行った。そのときに、子どもたちの意見を聞くために鈴木先生は次のような方法を取った。

「子供たちがいろいろ考えて、私の方からもなにか気がついたことがある人?って聞くとものすごい勢いで手が上がって子どもたちが言うわけですけれども、そこでは一人二人だけに留めておいて、こう言いました。

『まだまだ気がつくことあるでしょ、じゃあそれを見つけたらEdmodoに書いてね』

「そうすると子供達が九九表を見ながらタブレットを片手に自分の気がついたことをどんどんとEdmodoに書き込んでいきました。」

学び合いを深める『あ、それそれ私もそう思った』

「ただ子供たちが(自分の)コメントするだけではなくて、友達のコメントについて『あ、それそれ私もそう思った』ということについては、さらにコメントを重ねていくという事になっていきました。」

「これによって子供たちは自分が気がつかなかった九九の性質に気がついたり、あるいは自分が気がついた性質はそうかみんなも気が付いてたんだなということが分かったり、色々と学び合いを深めることになります。」

このような意見の交換が、Edmodoを用いることで、活発になったと、鈴木先生は述べた。

活用事例②:作文の感想を送り合う

鈴木先生が「ないた赤おに」の続編を自作して読ませる

また、国語の「ないた赤おに」の授業でもEdmodoを用いたところ、子どもたちの意見交流があったという。

「ないた赤おに」というのは、人間と仲良くなりたいが怖がられて仲良くなれない赤おにの友人の青おにが、自分が悪者の芝居をして自分をやっつければ人間は信用してくれるだろうと提案し実行したところ、赤おには人間たちの信頼を得て人間と仲良くなるが、青おにが去ってしまい、赤おには悲しくなって泣いてしまうといういう話である。

この物語の読解の授業を重ねていくと、子どもたちから次のような感想が出てきたという。

「続きが読みたい。」

そこで、鈴木先生は「ないた青おに」というタイトルで、続編を自作した。

※以下、鈴木先生の自作の続編

「青おにが旅立ってから赤おにはしょんぼりして過ごしました。村人たちはとても仲良く、優しくしてくれます。小さな子どもからお年寄りまでみんなが『赤おにくん』『赤くん』と呼んで慕ってくれます。でも赤おにはずっと悲しく思っていました。青くんと会えなくなってしまったからです。

村人たちは心配しました。どうして赤おにくんは寂しそうなのだろう、私たちと仲良くなれたのになんで悲しそうなのだろう。そこで赤おにに聞いてみました。

『赤おにくん、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?』

赤おには迷いました。本当の事を話したら、村人は騙したんだなと怒ってしまうかもしれません。

でも赤おには正直に話すことにしました。それくらい赤おにと村人は仲良くなっていたのです。村人は話を聞いてびっくりしましたが、納得しました。

『あの時どうして戦っている相手に”青くん”なんて叫ぶのか不思議だったんだよ、そうかそういうことだったのか。』

そして、赤おにに提案しました。

『赤おにくん、青くんに帰ってきてもらおうよ。』

『えっ、どうやって?』

赤おにがびっくりして聞きました。

すると、村人が言いました。

『あちこちに青おにくん帰ってきて、と立て札を立てよう。』

さっそく、村人たちは立て札をたくさん作りました。そして、あちこちにその立て札を立てました。山の向こうにも、谷の向こうにも、川の向こうにも、雲のむこうにも。

赤おには特別な立て札を作ることにしました。青おにくんが帰ってくるとしたらまず自分の家に帰ってくるでしょう。

帰ってきた時すぐ見てもらえるように、自分の気持ちが青おにに伝わるように、赤おには青おにの家の前に立て札を立てました。

何年か経ちました。

青おにはもう帰ってもいい頃かなと思って自分の家に向かいました。すると、あちらこちらに立て札が立っています。

山のてっぺんにも立っています。谷の底にも立っています。川岸にも立っています。雲の上にも立っています。

『これは何だ、誰が立てたのだ。』

不思議に思いながら自分の家に帰ってくると、家の前に大きな立て札が立っていました。

そこには何か字が書いてありました。

青おには何度もそれを読みました。

涙を流して読みました。」

この続編を読んで子どもたちに、

『赤おにの気持ちを考えて、赤おにの書いた立て札を想像してそれを書いてみるという活動を行い、Edmodo上で感想を交流させる』

という学びを行ったという。

感想を言い合うだけではない。すべてのコミュニケーションでEdmodoがリンクする

Edmodoが学習の一環の中心にあった

このような学習の一環の中心には、Edmodoがあったと鈴木先生は語る。

「最後の書いた文を読みあってその感想伝え合うところだけではありません。」

「そもそもが続きが読みたいというのもEdmodoで上がってきたことですし、あるいは泣いた赤おにを読み進める最中でも気がついたことをどんどんEdmodoに書いたり、その日の授業の感想をEdmodoに書いたり(中略)」

「Edmodoの上での学び合いと教室での学び合いが常にリンクしながらという形で学習を進めていきました。」

共有されるそれぞれの子どもたちのノート

「読解の授業をすると、その後で子供達がノートにその日の授業で学んだことを書くわけですね。(中略)そうすると、それを学習支援アプリを使って共有するわけです。」

子どもたちみんなで友達が書いたノートを読み合います。そうすると、やはり自分と友達の考え方との違い、あるいは共通点、自分が気がつかなかったところ、そういったところをどんどん学んできます。」

「ないた赤おに」の読解の授業でも、様々なコメントのやりとりがあり、子どもたちの間で学び合いが深まったと、鈴木先生は述べた。

Edmodoでの文章交流、その3つのメリット

このEdmodoを介した文章の交流には、3つの良い点があったと、鈴木先生は語る。

メリット①:他の生徒のコメントをよく読む

「こうして友達にコメントするためには友達の書いたノートをよく読まなければいけないという事です。」

「つまり、友達の意見に通常であれば耳を傾ける、実際には目を傾けるわけですけれども、きちんとノートを読んでいたのは非常に良い事だったと思います。」

一斉授業のときにも、子どもたちの間で意見を交流するという場面はあった。しかし、そのような場面では、子どもたちの意識が意見交流の方向に向いていないということが起こる。

Edmodo上でほかの子どもたちの意見を読んでコメントを書くことという体制を取ることで、子どもたちが自分のスピードで読むことができ、また、自分の考えを書くためにきちんと読むようになったという。

メリット②:教科書に立ち返る仕組みになる

「2つ目は、先程お見せしたこのノート。赤おにくんの気持ちになって書くとき、このノートが果たして良いかどうかを考えるためにはやっぱり国語の教科書のテキストに立ち帰らないといけないんですね。」

いいノートを選ぶ基準を子どもたちに示すときに、『教科書と似た言い回しを用いているかどうか』について調べてみるよう子どもたちに伝えたところ、子どもたちは教科書を見返して、どのような表現をしていたかを考えるようになったという。

「テキストに立ち返るような活動を一斉授業の中でさせるのは、実は今色々大変なんですね。ところがEdmodoで書き込みをしてみようという目標を与えることによって子供たちは自然と教科書に立ち返るようになりました。」

メリット③:学習意欲が高まる

メリットの3つ目として、鈴木先生は子どもたちの学習意欲の向上について述べた。

「『ないた赤おに』は、さらっと読むだけであれば1時間で終わる。しかしそれを10時間以上かけて子どもたちが学ぶわけです。」

「10時間かけてもまだまだ学び足りない、もっともっと言いたいことがある、感じることがまだまだある。そういう状態に持って行けたのは、やはり今回の授業デザインがうまくいった証拠かなと思います。」

このような泣いた赤鬼での授業実践を、鈴木先生は学び合いのデザインとして、『教室での学び合い』と『学級内SNSでの学び合い』を結びつけるための単元計画が上手くいった例であると語った。

学びあいデザインのために必要なこととは?

このような学び合いの環境は、どのようにすれば作ることができるのだろうか?鈴木先生は、次の2つを必要なこととして挙げた。

ポイント①:1人1台のタブレット環境

「まず1つは何と言っても環境づくりです。先ほどお話ししたように、1人1台タブレットの環境が実現してから、Edmodoの活用は本当に破格に進みました。」

タブレットの普及がEdmodoの活用に役立ったことを鈴木先生は繰り返し語っていたが、それだけでは十分でなく、子どもたちにEdmodoの有用性を示すことが大切だと指摘する。

書き順をアニメーションで表示するアプリ

「たとえばこれは書き順を表示する、アニメーションの表示をするアプリを見ながら漢字の練習をしているところです。」

「漢字の書き順ってよく紙の教材だと一画ずつ濃くなってて、まだ書いてないところが薄くなっててみたいなのが、書いてあるようなものが多いわけですが、これだとアニメーションをもって自然に書き順を学ぶ事ができます。」

他にも、プログラミングや体育、話し合い学習の授業でもタブレットを活用したという。

プログラミングを遊び感覚で楽しむ

「それから、ロボットプログラミングも行いました(中略)子どもたちにほとんど遊び感覚でプログラミングを体験させると非常に盛り上がるんですね。この時もやはりタブレットないとだめなので、非常に上手くいったかと思います。」

縄跳びの動画をタブレットで撮影して研究をする

「それから、体育の授業ではこんな事がありました。記者会見のようですが、縄跳びの非常に上手い子がいて、『じゃあ、あの子はどうしてうまいんだろう』と、みんなでタブレットで動画を撮ってそれを探ってみようとい活動です。うまい子が飛んでそれをみんなで撮影してるっていう風景ですが、これも一人一台の環境でなかったら出来ません。」

子どもたちの話し合いの共通ツールとして利用

「そしてこれが一番大きかったかなと思いますが、話し合い学習の時によく小さいホワイトボードを使ったり付箋を使ったりすることがありますが、タブレットでできてしまう。子供たちの話し合い活動を促進することができたのも大きかったと思います。」

このように、タブレットを子どもたちが自然に使う環境を整えたことは、子どもたちの学びにとって大きなことだったという。

ポイント②:文字入力の方法

小学校2年生ではまだローマ字を学んでおらず、文字入力をどのように行うかは最大の障壁であったと、鈴木先生はいう。

最初に試したのは音声入力だが、問題点も多かったという。

「最近のタブレットは非常に性能がいいので音声入力もかなりの精度で変換してくれるんですね。」

音声入力での試み

「これはいいかなと思ったんですが、ただやはりですね、子供によってはうまくいかない子もいるんですね。ちょっとした読み方や発音の違いで機械の方がうまく変換してくれないということがあります。あるいは、きちんと読み込んでくれても、到底小学校2年生では読めない漢字に変換されてしまう事もあります。色々と難しいことがありました。」

そこでかな文字変換やローマ字変換での入力を行うようにしたという。ローマ字入力については、想定以上であったという。

想定以上にローマ字変換に親しんでくれた

「ローマ字表を渡してですね、実はローマ字変換っていうのもあるんだよねということで渡して挑戦したい子はしてみてもいいよというふうに進めてみました。思っていたよりも、ずっと子供達ローマ字変換に親しんでくれて、よく入力してくれるようになりました。」

最終的に文字入力の方法は自由にしたが、ローマ字入力も選択肢に加えたことは正解であったという。

このように環境を整え、そして文字入力について必要な手立てを取ることで、Edmodoの活用は行うことができるようになると鈴木先生は述べた。

学び合いの成否を決めるのは単元計画

この学び合いのなかで一番大事なのことは、『学級内SNSでの学び合いと教室での学び合いをきちんとした単元計画の中に位置づけて使っていくこと』だと鈴木先生はまとめた。

「きちんとした設計の中で使う上ではEdmodoは非常に有効なツールになり得るのではないかな、というのが2年間小学校低学年の子どもたちとともにEdmodoを使ってきた私の偽らざる実感です。」

また、子ども達の家庭の協力が必要不可欠であったと、取り組みを振り返った。

「ただこのEdomodoを使うにあたっては、教室の中の私と子ども達だけの事ではなくて、やはりご家庭の協力が随分必要でした。(中略)こうした取り組みができたのも、私のクラスの保護者の皆様のご理解とご協力のおかげということを思っております。」

小学校でEdmodoが当たり前になるまで

ご講演者
・鈴木秀樹先生(東京学芸大学附属小金井小学校)

Edmodoは無料で、お一人の先生からでも使える教育向けツールです。子どもはメールアドレスなしでアカウント作成ができます。

--

--