目的と手段を意識した学校改革とは?(麹町中学校校長 工藤勇一先生)

Takayuki Doi
Edmodo Japan
Published in
8 min readFeb 21, 2019
EdmodoCon Japan2018 「実現可能な改革を目指す麹町中学の学校経営」

本記事は2018年3月21日に開催された教育カンファレンスEdmodoCon Japan2018の講演を基に作成された記事です。

※ご講演者の所属や肩書は2018年3月21日、講演当時のものです。

千代田区麹町中学校校長の工藤勇一先生の講演をまとめたものである。

講演テーマは、「実現可能な改革を目指す麹町中学の学校経営」であった。「学校改革という言葉はもう聞き飽きた」「公立学校で改革なんて出来るのか」という多くの声に対して、「改革はできる」という工藤先生の改革のポイントをみていこう。

教育現場で何が起こっているか?なぜ改革は進まないのか?

改革が進まない最大の原因は、何を最終的な目的においているかの合意形成が出来ていないこと

工藤先生は、現在の教育現場において改革が進まない最大の原因は、何を最終的な目的においているのかということの合意形成が出来ていないことだという。

「あることを実現するためには最上位に目標を置く。その目標を達成するために何か手段を決める。」「その手段が次の目的になって、その目的を達成するために手段を選ぶ。」

これは学校だけでなく、どこの場所でも何らかの目標を達成する際の基本的な手順だが、ここに問題があると、工藤先生はいう。

「少し具体的な例で、運動会という例を用いて考えていきたいと思います。運動会というのは歴史的に見るともともとはレジャー的なもの、地域の方と一緒に学校を楽しむというところで始まったんですけど、現在では『なぜ運動会やりますか』って質問すると、おそらく多いのは『教育ですか?』とか『団結ですか?』とか『集団行動ですか?』とか。そうするとみんなばらばらなこと言いますよね。

規律が大事だ、服装が大事だ、組体操が大事だとか。それぞれが自分のこだわっているものを優先させようとしています。じゃあ本来の目的って何だったんですかってとこなんですけど、本当は運動を楽しむとか、地域とのコミュニティとかそういうことじゃなかったのかなと思うんですよね。」

目的と目標を達成するための手段がバラバラになってしまうことがある

他にも、評価や成績のための宿題やノート点検、担任に向けて書く作文、目的の達成よりも協力することが目的となっているアクティブラーニングなどの例が学校現場では見られるという。

「自律した生徒を育成する。文部科学省的に言えば、生きる力を育成したいと。その為には確かな学力を身に付けさせる必要がある。この『確かな学力を身に付けさせる』ためが今度目標になって、さらにこれを達成するために次の手段、『つまずいたところを繰り返させる』。」

「一番上の『自律した生徒を育成する』っていうところと『つまずいたところを繰り返させる』。ここに注目していただければ分かります。つまずいたところを繰り返させられた子どもは自律が出来なくなりますね。」

このように上位の目的を達成するという目標が忘れ去られ、目標も、目標を達成するための手段も、ばらばらになってコンセンサスが得られていない。そして、何を目的にして行っているかさえ不明な形骸化した教育活動が増えてしまう。その結果、個々人の理想と現実のギャップが生まれている状況が今の教育現場の状況であると工藤先生は説明する。

麹町中学校の学校改革、その目標とは?

麹町中学校の学校改革を一言でいうと、「学校教育を目的と手段の視点から学校・生徒・保護者が主体的に見直し、社会とシームレスな教育を目指した」学校改革であるという。また、「うまくいかないことを誰かのせいにしたり、何かを批判することなくありのままを受け入れてきた」という意識も大切で、文部科学省や仕組みのせいにせず、改善作業を繰り返すことが大切だという。

時代背景を考えた時に、「激しく変化する社会をたくましく生きる力を育てていくことが大事で」、現にAIなどの出現により、産業構造が大きく変化しつつあると述べる。今までの学校では、「忍耐・礼節・協調」の大切さが強調されてきたが、今後は転職や起業出来る力が求められていく。

学校教育の本当に1番上にある教育目標を考えると、「自律」であると工藤先生はいう。

自律に関して、工藤先生は「人や社会を批判することばかりを学んだ生徒は自律のスイッチを押せません」と主張する。そこで、麹町中学校の最上位の目標を以下のように設定した。

「世の中ってまんざらでもない!結構大人って素敵だ!」

ふとしたときに戻って確認する、最上位の目標

「この目標を達成するために手段を選び、またこの手段が目的になって手段を選ぶ。みんながばらばらになったらここ(最上位の目標)に戻る」ということが大事であり、その下にある教育目標を「自律」と設定している。

自律した生徒とはPDCAを回せること

自律についても目標設定を行っており、自律した生徒というのは、「自分でPDCAが回せる子」であるという。「自分でPDCAを回せる子」というのは、「経験を通して、繰り返し実現できる力(コンピテンシー)を身につけ」た子であるという。

このコンピテンシーはOECDが示した「異質な集団で交流する」「自律的に活動する」「相互作用的に道具を用いる」といったものを中学校用に変更して用いて、以下の8つを設定している。

①様々な場面で言葉や技能を使いこなす
②信頼できる知識や情報を収集し、有効に活用する
③感情をコントロールする
④見通しをもって計画的に行動する
⑤ルールを踏まえて建設的に主張する
⑥他社の立場で物事を考える
⑦目標を達成するために他者と協働する
⑧意見の対立や理解の相違を解決する

これらのコンピテンシーを実現するために、カリキュラムの見直しを行ったという。

麹中をみんなの学校へ!

生徒・先生・保護者全員で行う改善

「麹町中学校はトップダウンの学校ではありません。」工藤先生は、学校についてこう述べる。4年間で改善項目に挙げたのは600項目、実際に改善されたのは400~500項目に上るという。それらの改善は教員だけでなく、生徒や保護者を含めて行ってきたものだと、工藤先生は語る。

社会の専門家を授業に招いた新しい学び方の事例

生徒は体育祭および文化祭の運営や学校運営協議会への参加を行い、学校運営に関わっている。また、保護者と学校が共同で部活動の運営を行うなど、様々な問題を保護者と学校で協力して解決するようにしたという。

更には、「昨年の4月、学校のルールを基本的に保護者に全部あげようと。委譲しようと。ということを職員で相談して、それを決定しました。」という。「子ども達からヒアリングをしたり、教員からヒアリングをして、また様々な保護者の意見を集約して、PTAが主体となってルールを検討しています。」とのことで、服装や持ち物についてのPTAを中心に行っているという。委譲の際の方向性としては、「経済性」と「機能性」の2つのみで、それさえ守れば何でもよいというスタンスを工藤先生はとっていると述べる。

最後に工藤先生は麹町中学校の改革について、

「学校・生徒・保護者、全員が目標と手段の合意形成を図りながら主体的に学校改善に努力してきた」

「最上位の目的が何なのかというのを意識して、それを達成するためにはどんな手段が必要なのかということを何度も何度もディスカッションをしながら合意形成を図って、改善をしてきた」

と締めくくった。

本当に実現可能な改革を目指す学校経営

ご講演者:
・工藤勇一先生(千代田区立麹町中学校)

※ご講演者の所属や肩書は2018年3月21日、講演当時のものです。

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