先生の余裕が子どもを救う。先生の多忙化解消への道!

tsuyoshi shimodaira
Edmodo Japan
Published in
18 min readApr 25, 2019

~ 教員多忙化の現状と目指すべき方向性~

本記事は、EdmodoCon Japan2018の、 株式会社LOUPE代表の浅谷治希様の講演を基にしている。

※ご講演者の所属や肩書は2018年3月21日、講演当時のものです。

浅谷さんは株式会社LOUPEを運営している。株式会社LOUPEでは、先生同士がオンライン上で質疑応答のやり取りや資料の共有できるオンラインプラットフォーム「SENSEI NOTE」や、約3万人の先生が登録している、全国で開催されている先生方の研究会や勉強会を北海道から沖縄まで時系列にすべてまとめたサイト「SENSEI PORTAL」を運営を行う。

このようにプラットフォームの運営により先生を支援しようと試みてきた。さらに教員の多忙化を解消するために、浅谷さんは日本教員多忙化対策委員会という社団を新たに立ち上げた。

このプロジェクトを進めていく中で、教員の多忙が社会に与える影響やその原因、そしてその先に解決される可能性のある問題が見えてきたという。それはどのようなものなのだろうか?

子どもの貧困、その現状とは?

貧困は連鎖する!子どもへの貧困の連鎖!

先生の多忙化という問題を考えるまえに、浅谷さんは子どもの貧困について述べた。貧困家庭における子どもの貧困は増加しているという。

「今(東京都)大田区が出している剥奪指標というものがあります。相対的貧困、ご飯は食べることは出来ているけれども、貧困家庭にある子ども。具体的には習い事に通うことができないとか、あと家族旅行に一度も行ったことがないとか。あと自宅に学習スペース、自分の部屋がない、いつも同じ服を着ている、大学入試をしようとすると入試費用がないので自分でアルバイトをして大学に進学しなきゃいけないなど、そういう子たちが増えています。こういう子たちが親になってどうなるかと言うと、また自分の子供がこういう貧困状態に陥って貧困が連鎖していく。」

教育現場における多忙化という問題を解決することで、この貧困を断ち切ることができないかと浅谷さんは考え、次のような子どもの光景を目指したいと語る。

「具体的にはこの写真(上部)にも出てますけども貧困家庭の子、相対的貧困家庭にいる子。たとえば誕生日に誕生日ケーキがないとかですね、そういうなんとか食べれてるけどちょっと他の家庭よりも貧しいといった子たちがいまして、まあそういう子がですね、普通にあの誕生日に誕生日ケーキ食べれるとかもそうですし、大学に行こうとした時にアルバイトしなくても行けるみたいな未来を描ければなと思っています。」

学力と貧困は相関がある

貧困を断ち切るにはどうすれば良いのだろうか?家庭の所得と子どもの学力には関係があり、所得向上が必要だと浅谷さんはいう。

「これは世の中的にデータも出ています。世帯年収が低ければ低いほどその世帯の子どもの学力は低くなります。その学力が低い子供達大人になってまた貧困連鎖するという状況があります。こちらのデータはですね、実際に貧困家庭にいる子供たちの世帯年収に応じた学力があるんですけどやはり世帯年収が低い世帯ほどどうしても子供学力が下がってしまうと。」

ほかにも、スタンフォード大学の研究論文で、学力向上が生涯賃金の上昇につながることが示唆されているという。

つまり、学力が向上した結果所得が向上し、貧困から抜け出せるという構造があると浅谷さんは説明している。

貧困による問題、その影響の幅広さ

また、貧困によって引き起こされる問題は、子どもへの貧困の連鎖だけではない。

「たとえば健康部分ですね。だいたい貧困世帯にいるとジムに通わなかったりとか、食べるものが偏ってくるので病気になりやすくなります。たとえば、ジムに通うと心疾患率は下がったりとかしますので、医療費が下がるんですが、ジムに通わない、不健康な人が増えると、国としては医療費が増えてくという構造にあります。」

「失業リスクがすごい高いので、失業手当とか生活保護が増加してくって傾向にあります。だいたい失業手当の生活保護って約3.5兆円ですが、この20年間で人数が2.5倍くらいになっています。」

「あと他の衝撃的なデータで、年収300万円未満の30代男性の未婚率が60%です。つまり所得が低くて結婚できない。これによって何が起きるかというと、少子化っていう問題出てくる。合計特殊出生率は年々低下している。」

また、低所得によって1人あたりのGDPが停滞し、日本のGDPが減少するという。では、どうすればこの貧困の連鎖を断ち切ることができるのか?

浅谷さんは、その答えは”教育”にあると主張する。

教員の多忙化を解消して貧困の脱出へ!

教育で貧困から脱する!その3つの理由

「学校がなんで肝なんですか、という3つの理由を挙げさせて頂いてます。」

浅谷さんはこのように述べる。

「一つは、一番はやはり海外。国際的なデータでも出ているんですが、親がすごく重要です。先に述べた、親の所得が高いとか、親の学習力が高いと学力上がっていく構造にはあるんですけど、全ての親をその国が財源を持ってサポートするのはなかなか難しいという点から国の財源が限られている中で、家庭で全部担保するのはまあ現実的じゃないよねと。」

「あとは学校のメリットっていうのは、低コストで子供達が等しく教育を受けられるという所だと考えています。塾とかですね、そういった外の教育を受けられる子ども達がいる。一方で、そういうのが受けられない子ども達もいますので、低コストで等しく教育を受ける学校っていう環境が非常に重要ですよね。」

「あとは物理的に子どもたちが生涯6歳から18歳まででの時間のだいたい半数くらい、50%、2万時間くらいを子どもたちが学校で過ごすということで、子供たちを教育するために非常に物理的に有意な環境であるという点から、学校がすごい重要な機関であるというふうに考えています。」

先生の質は子どもの学力と生涯賃金に影響する

学校現場で子ども達と接しているのは先生である。先生の質の向上が、子どもの学力向上には欠かさないと、浅谷さんはいう。

「優秀な先生の教えている学級は子供たちの生涯賃金が上がって行く。これは、いい先生に当たると子供の学力が上がって、結果子供の生涯賃金が向上していくという形になっています。」

「逆に低い資質の先生に当たってしまうと子供の学力が下がって子供の生涯賃金が下がっていくというデータがあります。つまり、学力向上が所得向上に非常に欠かせない。そのために教員の資質向上がかなり重要であるというデータになっています。」

また、マッキンゼーのレポートでも教育システムの質は教員の質を超えることはできないと結論付けられており、先生の質や資質向上、先生達へのサポートが非常に重要なテーマになっていると、浅谷さんは考える。

先生は子どもにとってのセーフティーネットの役割も果たす

子どもの貧困において、先生はセーフティーネットの役割も果たすという。

「これ調べていく中ですごく面白かったんですけど、家庭訪問を世界中でしているのは日本の先生だけです。つまり全ての家庭に入って、実際に子供達はどういう環境で暮らしているのかを、普通はソーシャルワーカーの方たちとか見るケースが多いです。日本の場合だと先生たちもそういった状況把握しているという形です。場合によってはこのように家庭を環境した方がいいのでは?という助言もできる。先生方がそういうセーフティネットになっていると言う事実があります。」

他にも、先生が子どものために行っていることは多岐にわたっている。そして、1人の先生が関わる子どもの多さも、先生の質が大事である理由であると、浅谷さんは述べる。

「あとは問題行動のある子供の生徒指導とか給食の未納金の回収まで。また、警察沙汰を起こすと保護者の代わり深夜に対応する。本当に先生方が毎日生徒のために尽くされてるな、先生の役割はすごく重要であるとすごく感じてます。今、小学校1年生から高校3年生までで全部で約1300万人の生徒がいますけども、それを100万人の先生が支えていて、だいたい1人の先生が(教師生活を通して)受け持つのが生徒の数1000人くらい。1人1人の生徒をサポートしていくのはもちろん重要なんですけど、その生徒たちと普段接している先生たちを1人サポートすることで1000倍のレバレッジがかかると考えています。」

教員の多忙化、その現状とは?

OECD諸国の中で一番忙しいと言われている日本の先生には、学ぶ時間がないという。

「実際に86%の教員が学ぶ意識はあるが、そもそも学ぶ時間がないというデータが出ています。時間がないことでなかなか教材の準備ができないとか言う先生がかなり多いというのがデータから見て取れます。」

「実際に社会はすごく急激に変化しているので、先生方が社会の要請に応じて自分の知見をアップデートする。他の先生方の知見を共有してもらう。そのような時間がないとなかなか先生方が専門性を向上しながら前に進んでいくのが難しいですし、先生だけで全て解決するのは難しいので外部との連携をするためにとにかく時間が必要です。」

このように学ぶ意識を持ちながら、忙しくて時間が無いのが、教育現場の現状であるという。浅谷さんは、教員の多忙化による問題意識は今、国全体として認識されており、教員の多忙化を解決せずにこの貧困状態にある子供達の未来を明るくするのは難しいという。

また、他にこのような現状があるという。

「今回のモデル校となった静岡県の高校をモデル校として実証実験させていただいたんですけども、まず入ってみてわかったのはですね学校の全体の業務を把握してる人は校内に誰もいなくてですね、それぞれ先生方が自分の持ってる業務をなんとか必死に回してるという状態で、その中から学校のシステムを改善していくというのはなかなか難しいなというのは感じました。」

「あとは学校の中で当たり前に行われていることでも実際外から見てみるとこれって本当に必要な事なのかなって思うことであったりとか、先生方がこれは変えられないんだよねって当たり前になってしまってる事っていうのがたくさん出てきました。」

外部ツールで先生を支援する

「5年前にSENEI NOTEというプラットフォームを開発しました。先生が SNS の形でやりとりするサービスって当時あまり海外にもなく、一応世界初の教員向け SNS を開発しました。日々先生同士のやりとりがされています。」

このプラットフォームは先生が忙しい中でもやり取りできることを想定していた。しかし、これからは根本の忙しさの問題に対処することが必要で、その際に外部ツールは大きな役割が期待されるという。

「今、先生方は本当にとにかくやることが多いと思うんですけど、先生達だけで社会の要請に全て受けて子供に対して万全の教育をしていくのはなかなか難しいなと思ってます。そのためにこのEdmodoさんや色々な外部のツール、色々な人と力を合わせて子供を支えていく仕組みがすごく重要ではないかと考えて今、今年4月から色々施策を打っていこうと思っています。」

多忙化の解消へ!3つの業務効率化のポイント!

学校内の業務効率化は大きく3つあると浅谷さんはいう。

その1つ目が先生個人で改善できる業務の圧縮である。

「コストをかけずに簡単にできる例を紹介します。ある小学校の先生は丸つけを生徒たちが問題を解いている横から同時にお丸をつけていっています。実際に職員室に丸つけを持ち帰ることをせず、教室の中でほとんど丸付けを終わらせてしまっています。丸付けで残業するような事をなくしているというお話もありました。」

「あとは回覧板をうまく効率化することで会議時間を圧縮したり。授業も毎回板書ではなくてパワーポイントを使うことで業務がかなり圧縮できる。」

「他には先生が不在時に戻ってくるの待つのではなくて、付箋で伝言するといった事例。先生を待って声をかける手間や待ち時間がなくなる。 ICT を入れると、学校全体を改革するだけではなく、先生個人の手元で改善できる事もたくさんあるということを感じました。」

2つ目は管理職の役割である。校長や教頭としての十分な訓練を受けていない中で、以下のような問題が現状があるという。

「特に課題になってるなと思ったのが学校で何か新しいことをやろうとする時に既存の業務をスクラップしないまま前に進んでしまうというのがあって、どんどん業務が肥大していくと。こういった時にその既存業務を少なくするために校内でのコミュニケーションをしっかり取って、どういう事を学校として重要にして進んでいくのかっていうのを、みんなでコンセンサス取って進んで行かなきゃいけない中、なかなかの先生達とうまくコミュニケーションを取れずそのまま業務がどんどんどんどん増えていくといった学校がかなり多いんだなという印象は受けました。」

3つ目はツールの改善が挙げられるという。

「実際自分で会社を経営している立場から見て驚いた事があります。たとえば、高校入試は未だに紙の用紙を受け取って、先生方が手動で PC に転記している。これもおそらくICT の力で解決できると思います。あと時間割の作成が詰め将棋のような形になっていて、毎年100時間かかる。他には、奨学金の申請を先生がやっている、紙のアンケートを PC に転記など。

トップ校の事例で言うと海外留学や進学の支援も英語の先生が一人で請け負っている。先生がとにかく全部請負いすぎていています。外部と連携できるはずです。子供のために良い教育という姿勢はもちろんですが、学校として何を一番重視するのかを見て業務を削っていかないと結局どこかでパンクしてしまうと感じています。」

浅谷さんによると、これらの業務の効率化の実例は、モデル校での実践を待って公表する予定だという。

多忙化の解消へ。目指す学校の姿とは?

OB・OGによる支援を学校現場とつなぐ

学校が使えるリソースとして、OBやOGに焦点をあてることが大事なのではないかと浅谷さんはいう。

「母校に何かしたいっていうOB・OGすごく多い。そのOB・OGをうまく活用することで、高校であればキャリア教育もできると思います。あとOB・OGからの寄付も進められる可能性がある。やはり学校の中で何か進めていく時に課題になるのは資金が足りないという話が多い。OB・OGから寄付を集めれば多少財源を確保できると考えています。」

「たとえば海外、アメリカを例に挙げると寄付の文化が進んでいます。ハーバード大学では、実際に寄付の依頼のメールが送られてきます。そのメールに在学中の自分の写真が添付されていて、在学中、学生時代楽しかったよね。寄付しようね。というかなり合理的に寄付を募るような仕組みづくりをしています。こういった仕組みもお金がないと構築できないことはあると思います。そのため、卒業生と母校を繋いでお金を集めていく仕組みは今回取り組んでみたいと思っています。」

子どもの貧困の早期発見へ

他にも、浅谷さんは子どもの貧困を発見し対処する仕組み作りにも意欲を示す。

「実際にグレーゾーンにいる子供たちがどこにいるのかということを、子供の支援をしてる機関と連携して実際に学校の中でグレーゾーン診断をしていくことで、早期にこの貧困の連鎖を断ち切ることできるのでは、と思いました。」

「こ関連してくる話としてシングルマザーで生活保護世帯の98%が高卒です。つまり、高校を卒業してそのまま妊娠をして子供が生まれてしまうと働けない状況になってしまう。生活保護になるリスクは非常に上がります。そのため、生活保護世帯の女性を阻止するって考えると中学時点の支援がすごく重要です。(中略)中学時点での支援も行っていきたいと考えています。」

学校業務を生徒に任せることで成長を促進

浅谷さんは、学校業務を生徒に任せることが、多忙化の解消や生徒の学びにもつながるという。

「学校のイベントや学校に起きてるタスク自体が本当は生徒にとっても良い学びになると思っています。それらを先生が全部請け負ってしまっているので、結局先生も多忙になります。生徒達もよくわからないけど、学校行事に参加していると感じる状況がある。今後、生徒が主体的に参加して、自分たちの学校は自分たちが良くしていくということができると、先生達の業務の軽減もできます。また、実際に生徒達の学びにもつながると考えています。」

多忙化の解消とその先のビジョンとは?

学校の多忙化の実践とその後のビジョンを、浅谷さんは述べた。

「今回の実証実験(モデル校)では、対象は高校にしています。今後、小学校や中学校にも展開をして、高校だけに限らない課題、高校のノウハウをその他の小中にも展開できると思っています。」

「色々施策があるんですが、実際その施策をした結果、教員の多忙化も解消されるとすると、先生方の時間が確保される。その結果、教員の資質は向上する。資質が向上すると子供の学力が向上します。その結果、子供の生涯賃金が上がって、貧困を解消できることを目指す未来として設定をしています。」

先生に時間が確保されることによる効果は、子どもの貧困への対処だけでなく、他の問題の解決にもつながるという。また、今回の実践は、ランダム比較化試験という国際標準的により評価し、論文化することで成果を発表することを目指しているという。

先生の頑張りが子どもたちのパフォーマンスにつながってほしい

最後に浅谷さんは、多忙化解消と教育への思いをこう語った。

「本当にいろんな方に関わって頂いてます。私は現場の先生ではないのですが、やはり学校という教育機関の大きさ。あとは先生たちの日々奮闘されてること。その先生たちの頑張りがその子供たちのパフォーマンスにちゃんとつながればいいなと思います。」

「先生たちが力を十二分に発揮できる環境をこれから作っていければいいなと思っています。実際やっていく中でわからない事もたくさんありますし、結構大変だと思います。ただ、なかなかこの課題を、『よしやろう!』というふうにプロジェクト化して立ち上げる人がいなかった。」

「そこで、今回意を決してこのプロジェクトを作って無事予算が取れたので、いろんな人を巻き込んでやっていきたいと思っています。実際、ここで生まれたノウハウ自体は全国の自治体や学校にどんどん解放してきたいなと思っています。」

多忙から多望へ!

「メッセージとして『多忙』から、多くの望みを持つ『多望』へということを実現していきたいと思い、今頑張っています。

おそらく、実施していくときにこのEdmodoも含めてICTの力が必要になってくると思っています。我々はその橋渡し役になって先生たちがどんどんパフォーマンスを出せる環境作っていければいいなと思っています。」

教員多忙化の現状と目指すべき方向性

ご講演者
・浅谷治希氏 (株式会社LOUPE 代表)

※ご講演者の所属や肩書は2018年3月21日、講演当時のものです。

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