100年前から変わらない理想の教育をデザイン | 新渡戸文化学園- 山本崇雄先生

Hal
Edmodo Japan
Published in
14 min readJun 26, 2019

新渡戸文化学園 英語科教員 山本崇雄 氏

新しい授業の形をデザインする山本崇雄先生。ユニークな授業の裏側に隠された思いや狙いとこの度赴任された新渡戸文化学園での教育デザイン改革についてお話を伺いしました。

学校の抱える問題は「最上位の目標の設定」

— 山本先生は、教育はどのようにあるべきだとお考えですか?

山本先生:教育のあり方は、約100年前にも様々な偉人が提唱していますよね。例えば、海外でいえばデューイは、そもそも子どもには「知りたい」「作りたい」「コミュニケーションしたい」「表現したい」という欲求があり、学校がこれらを奪っていると主張しました。

本校の初代校長である新渡戸稲造も「試験目的の詰め込み主義はやめて、学生たちがじっくり自習できるように環境を整えるべきだ」と言っています。

著名な教育者が、「教育のあるべき姿」について述べていることは今にも通じていて、それらを今の教育問題と紐づけてあげれば、みんな納得すると思うんですよね。

— そもそも、現在の学校教育の問題点はどこにあると思いますか?

山本先生:よく工藤先生も話題にされていますが、学校には本来最上位の目標があるはずなんですよね。でも、多くの学校ではその目標が見失われています。

運動会一つを例に挙げてみましょう。そもそも運動会は子どもたちが「運動を楽しむ」ことが最上位の目的であるはずです。

しかし、いつの日か、先生がレールを引き、それを演技して成果を保護者に見せることが重要になってしまいました。保護者も運動会では、子ども達の演技の成果を求めるようになります。

すると見栄えや行進など運動とは関係ないところの指導も重要視されるようになりました。

— たしかに、行進をしっかりやる学校は多いですよね。組体操など見栄えをよくする演技の危険性も問題になっています。

最上位目標の「生徒が運動を楽しむ」にもどれば、見栄えや行進は重要ではないと気づくはずです。こうしたことにも優先順位がつけられないほど目標を見失っているのが今の多くの学校です。

運動会をはじめ、すべての行事は子どもたちが主役であるべきです。行事を運営し、先頭に立つべきは子どもたちであるべきなのに、先生が先頭に立って指揮を振るい、子どもたちがそれに従っている場面を多く目にします。

不十分であっても子どもたちが主体的に計画・運営し、それを先生が黒子のように支える。子どもたちも、大人の期待を気にせず安心して挑戦して失敗ができる場であってはじめて運動を楽しめるのではないでしょうか。

— 学校側が何をするにしても、最上位の目標を明確にしておかなければならないのですね。

山本先生:そうです。今学校では、「目的を大切にしましょう」といった改革が行われています。

例えば自律型学習者を育てるという目標で授業をするとしたら、一番重要なのは「学び方」を教えることです。次に学びを社会課題につなげ、モチベーションを高めることです。

これらを手にいれた子どもたちは、「学びたいことを学びたい」になります。そうすると宿題は必要ありません。むしろ邪魔になります。「宿題の廃止」というと保護者から「なんで宿題出してくれないんですか?」「勉強しないんで出してください」といった反対の声も上がるでしょう。

そんな声に、「自律型学習者を育てる目的で宿題を出しません」と全員の先生が答えられなければならないのです。

— 先生一人ひとりがその目標を理解している必要があるんですね。

そうです。もっと言えば、学習者である生徒自身も授業の目的を理解しなければなりません。自由に学ぶ時間は、さぼることもできます。

ある生徒が山本先生の授業は「さぼろうと思えばさぼれる。でも伸ばそうと思えばとことん伸ばせる」と言っていました。

サボることも、一生懸命勉強することも選べるんです。さぼってもいいけど、選んだ結果には自分で責任を持つことを教えなければいけません。

先生と生徒が協力をして課題を解決する

— 新しいキーワードやテーマが続々と学校に入ってきます。同じ目標を持ち続けることは難しそうな気もします。

山本先生:これからの教育について色々考えていくわけじゃないですか。ソサエティー5.0(Society 5.0)が登場したり、不登校の生徒の多さが課題にとして挙がったり。

一方、起業する学生がでてきたり、勉強の仕方もブラウザやアプリを使った形が増えたりしています。

時代が変化していく中、『先生と生徒が共に協力し合うしかない』と僕はいつも言っています。

— 先生と生徒の協力、ですか?

山本先生:学校の外の世界を見ても色々な課題がありますよね。戦争や環境問題、政治など。

そのようなテーマの課題を乗り越えるためにも、先生と生徒の関係は、「先生が教えるだけ」じゃなくて「生徒の発想を活かしながらも先生も一緒に」社会課題の解決を目指していく対等なものになっていくのがいいと思います

教育の出口が人類最大の共通目標である持続可能な開発目標(SDGs)の解決だとしたら、教室の学びが、ゆくゆくは世界平和にも繋がるだろうと本気で考えています。

世界中で、考え方、文化が違っていてもいいんです。教室内で、性格が合わなかったり、友達の好き嫌いがあってもいいんです。それでも、SDGsを達成しようという共通の目標には協働できる。教室の学びは、世界平和につながるんです。

新渡戸文化学園目指す教育はハピネスクリエイターの育成

— 一つの国の、一地域の学校にいる、生徒と教師という小さな関係が、世界問題への解決へと繋がる。新渡戸文化学園では、取り組まれている教育のリデザインについて教えてください。

山本先生:新渡戸稲造が目指す教育って何だったのだろう、と考えた時に、『幸せ創造者(ハピネスクリエイター)』という言葉を我々で定義しました。

その上で設定した目標は、『みんな幸せ創造者になろう』です。ここでいう幸せとは、誰かのために行動すること、と位置付けました。

実際に新渡戸稲造も、「この世に生まれた大きな目的は、人のために尽くすことにある。自分の名誉や利益のためではない。自分が生まれた時からこの世を去るまで、まわりの人々が少しでもよくなれば、それで生まれた甲斐があるというものである」と言っています。

— 『幸せ創造者(ハピネスクリエイター)』についてもう少し詳しく教えてください。

幸せ創造者になり誰かのために行動するためには、まず自分が利他的に、より良い選択ができるようにならなければなりません。これが自律型学習者の目指すところだと考えています。

先生も生徒も、周りに色々な人間関係を持ちながら生きているわけです。その周りが幸せ、ハッピーになるのを最上位の目標に置くのが幸せ創造者です。

自分の言動で周りが喜んだり、悲しんだりすると意識して、目標達成のために自分の感情や行動をコントロールいくリレーションシップマネジメントが重要です。

— 教育の中でリレーションシップマネジメントを身につけていけるような学習を設計されているのですね。

山本先生:そうですね。まず学習面について、試験目的の詰め込み主義はやめて、学生たちがじっくり 学びたいことを見つけ主体的に学ぶようにしました。

さらに学びを社会課題につなげ、目標達成のために周りと協働していくリレーションシップマネージメントが出来る生徒を育てたいと思っています。

そういった目的でPBL(問題解決学習)やっています。問題を解決するためには、学校の外のステークホルダーとの協働が不可欠です。教室内だけではなく、教師、外部の方や講師の先生、もちろん親も巻き込んで行っています。

新渡戸稲造は、善悪の判断・倫理観・平等・人格を尊重し合う必要性についても話しています。

彼が100年前に「勉強してばかりして狭い世界に閉じこもっていないで、広く社会を見て学ばなければいけない」、と言ったことが私たちがやっていることと紐づけられる。私たちのやりたい改革の根は本校の歴史でもあるのです

改革を実現するために必要な教育の形

— なるほど。ここで最初に仰っていた偉人が提唱していた、教育の在り方に繋がるのですね。素晴らしいです。

山本先生:これが教育の大枠なんですよね。だから、プロジェクトベースで 目標を共有し、協働してやっていくのが、学校の勉強の基本的なやり方になっています。

教育における3つのC
・クロスカリキュラム (Cross curriculum)
・チャレンジベースドラーニング (Challenge based learning)
・コアラーニング(Core learning)

プロジェクトベースの学習の内容は、クロスカリキュラム(教科横断的な学習)やチャレンジベースドラーニング(解決策の実践までを行うプロジェクト型学習)と定義付けています。

それらの基礎になるのがコアラーニング(上位の学習の基礎となるスキル習得)です。

このコアラーニングを学習する上で学習アプリを始めとするITツールが活躍しやすいかな、と考えています。

新渡戸文化学園で実現していく交流型の学校

— ここまで伺ってきた教育の形については何となく理解できた気がします。具体的にどのような仕掛けや工夫で実現されていくのでしょうか。

山本先生:学校での授業や活動は何かと内側にこもりがちです。これから社会に出ていく子どもたちにとって、興味や関心のあることの発見やその夢に向かっての着実に力を育んでもらえる環境を提供しています。卒業までに「100人の大人につなぐ」計画です。

具体的にいうと、各業界の最前線でプロフェッショナルとして活躍する大人に授業を行っていただいています。

またSkypeなどで海外につなぐしかけもします。学校の先生で気の合う大人がいなくても、100人の大人の中に「かっこいい」と思えるロールモデルに出会えたら最高だと思います。

(※取材当日もプロのミュージカルダンサーがダンスの授業を行っていました。)

毎週水曜日の3、4時間目は誰でもネットで予約すれば授業を参観できます。場合によっては参加していただくこともあります、見学されている大人を通して、授業が広がっていくこともありました。

— そのためのオープンなスペースなんですね?

山本先生:はい、通常の教室もあるのですが、ここではより多くの交流がうまれるようにできるだけフラットでオープンな設計にしてあります。

従来の机や椅子もなく、このような形でアコーディオン型にしていてできるだけオープンでインタラクティブな授業や会話が生まれることを意識しています。

子供が打ち合わせを覗ける教室

— (私たちがインタビューしているスペース)ここもオープンで気持ちいいですね。

山本先生:外部の方をお招きしてミーティングをする際にはこのスペースを使っています。子どもたちにもそのような場面や雰囲気を見てもらいたいと思っています。

たまに話し合いをしていると子供が横に来て、「うんうん」と頷いている場合もあるんですよ(笑)。

直接的に何かの役に立つとは思いませんが、そういった大人や社会との交流を身近に感じてもらえるきっかけになればと思っています。

ICT活用をして交流型の教育改革を促進

— このような教育デザインにおいてICTツールはどのように活用できるでしょうか。

山本先生:学校のコミュニティとして必要なのは、アウトプットが自由にできる、アウトプットがどういう形であっても評価される、点数化されないという点だと思うんですよね。

学校という場所は安心してチャレンジ出来る場であって、自由に表現出来る場であって、そこはオープンであった方が良いと思っています。

— 自由に表現が出来て、失敗ができるオープンな場ということですね。

山本先生:反対に、小テストを積み重ねるような知識ベースの学習は最小限にし、ICTで個別化してそれぞれで取り組んでいく仕組みをつくればいいと思います。Edmodoは学習の個別化にも最適だと思います。

学びのペースは人それぞれ違うので、クローズドでいい。

たまたま、ある子が早いスピードで一定のレベルに到達しているだけで、将来的に長い目で見てどの子が成功するかは分かりませんよね。

よく覚えてない子がいても別にいいのですが、その子が覚えていない箇所をやりたい、と言った時に個別化してサポートできるのがICTの良いところです。

そこは先生1人1人対応出来ないですしね。もし対応しようとすると、一斉にみんな同じことやりましょうになるわけじゃないですか。

だから九九が出来ない生徒がいたりするんだと思います。

— 生徒個人に合った指導が、ICTを通じて可能になる。一人ひとりの能力は違っていていいということですね。

山本先生:もし英語ができない生徒がいたとしても、SDGsの1番目のゴールを達成するためのアイデアをみんなで考え、それを世界に発信するために英語にして動画を撮ろうというプロジェクトがあるとしたら、出来ることって色々あるじゃないですか。

英語はできないけどアイデア出しは出来るよとか、英語はできないけど動画編集は出来るよとか、私はそういうの苦手だけどナレーターだったら出来るかもしれない、という風に。

その過程で、何か能力が足りないと感じたら、生徒が自分で、タブレットで勉強すればいいわけなのです。

無理に生徒全員揃えようとしたり、小テストで 点数化して揃えようとするからおかしなことになります。学習の個別化と、ICTと人間が出来ることを住み分けたほうが良いと思っています。

Edmodoの活用について

— 山本先生は以前の学校でEdmodoを利用いただいていたと伺いました。元々、Edmodoを使い始めたのは、どのような経緯だったのですか?

山本先生:以前に江藤先生が「エドモド、エドモド」と仰っていたのを聞いて知りました。

そこから自分で調べて、「あークラスが作れるんだ」、「パスワードを入力すれば誰でも使えるんだ」と分かった。じゃあ、まずこれでコミュニティを作って、タイムラインに情報を出すのが一番単純そうだなってところから使い始めましたね。

アウトプットの場としてのEdmodo

— 先生の考える教育デザインの中でEdmodoはどのように利用されていましたか。

山本先生:チャレンジベースとか、クロスカリキュラムまでは出来なかったのですが、授業の中で学習を個別化したり、アウトプットの場として、子ども達が作品を見合ったり出来る場として、Edmodoを使っていました。

— どんな点で気に入っていただいたのでしょうか。

山本先生:気軽でいいですよね。シンプルが1番いいなぁって、本当に思っています。使い方に自由度があって、広がっていくイメージがいいと思うんですよね。

— 今後どんな風にご活用を検討できそうでしょうか

コミュニティをどう安心・安全に作っていくのかが、課題だと思います。やりたいベースのコミュニティを作った方がいいのかもしれませんね。

例えば放課後の活動やSDGsに関心のある子のコミュニティ、プロジェクトベースのコミュニティを作ったり、そのコミュニティ内でアイデアを交換出来る場として提供する方が、Edmodoの使い方として合っているかもしれないですね。

クラスに限定しなくても良いですよね。部活やPTAでもいいし、係活動とか委員会とか、保護者も入れて利用できそうですね。

--

--