教育実習生の孤独を解消するEdmodoの活用方法
望月先生、北澤先生は、学習SNSを使った研究『教職の職業理解を目指した教師教育のデザイン研究―大学と教育現場の経験をつなぐSNSによる介入の効果―』の論文を執筆。現在は学習SNSとしてEdmodoを利用しているということで、お話を伺う機会があった。
北澤武 氏(写真 右)
東京学芸大学 教職大学院 教育実践創成講座 准教授
望月 俊男 氏(写真 左)
専修大学 ネットワーク情報学部 准教授
教育用SNSを使った研究を始めた経緯
教員志望の学生の誰しもが通る道。
学生は在学中に、実習校に赴き、実際の教育現場に身を置くことで、教育実習を行う。
望月先生と北澤先生のお二人は、日本における教員養成にある問題を感じていた。
その問題とは、教師の『職業社会化』が不完全であることだ。
『職業社会化』、すなわち職場に適応し、その一員として活躍していけるようになる社会化の過程は、議論される機会が少ない。
教師教育をどのように行うかについて議論される際、教授方法についての知識をどう向上させるかに主に焦点が当てられているのが現状だ。
実際、新任教師が理想と現実のギャップに衝撃を受け、数年で離任してしまうケースが多々ある。
そこで、オンライン日記型のSNSを用いて、みんなで教育実習で学んだ職場体験を共有し、様々な角度から吟味、省みることが大学の教師教育と現場のギャップへの対処に繋がると考えた、という。
悩みや成功を共有する教育実習中の投稿例
SNS上では、基本的には生徒同士でのやり取りが主である。
教育実習を行っている生徒がその日の感想や起こった出来事、悩んでいることなどについて日記形式で投稿をしていく形である。
投稿例を紹介する。
私が実習中にやっていた板書計画の画像を載せておきます。参考までに(参考だから、こうしろって言ってるわけではないよ ><)[中略]ノートにしておけば、授業の教室に持っていけるし、見ながらやってても注意されない!
先に教育実習を経験している生徒が、授業を行ったときに作った板書計画や、注意すべき点といった具体的なアドバイスを投稿する。
それに対して、以下のようなコメントで反応があった。
ほむほむ!なるほど!実物ありがたい!参考にさせてもらいます!明後日から実習が始まるから試行錯誤してやっていこうと思います♪
他にも以下のようなコメントもあった。
ありがと〜!こういうやり方もあるんだ〜^^私も見開きで、横に使っているよー!
この生徒の投稿に対するコメント欄には、これから教育実習が始まる生徒からは、感謝のコメントがあり、既に実習が始まっている生徒からは、自分はどのように授業をしているのかについて、授業方法を共有するコメントが書かれていた。
もちろんアドバイスを投稿するだけでなく、教育実習生が自分の失敗談も含めて、一日の流れを日記のように綴る投稿もある。
SNS上の投稿を通じて、教育実習の様子の共有や振り返りが、いつでも可能となっている。
OpenPNEからEdmodoに転換したきっかけ
以前はOpenPNEを利用していたが、数あるSNSの中から、なぜEdmodoを選択したのだろうか。
ある時期に、OpenPNEを使い慣れている望月先生が留学のため、日本を離れられることがあった。北澤先生が代行で、教育実習に参加する学生の指導を受け持つことになったものの、何かシステムでのトラブルがあった際に復旧や修正対応がすぐに行えないことがネックになった。
そこで外部サービスを検討している中で、Edmodoがあがった。
facebookなども選択肢としてはあり得たものの、学生にとってもプライベートと切り離しておいた方が良いという配慮もあってEdmodoを利用するに至った。
そこからOpenPNEに戻すことなどを検討したが、バージョン変更やphpのメンテナンス、Edmodoのスマートフォンアプリが使えるということもきっかけに、Edmodoを継続して利用することになった。
望月先生は、「OpenPNEをメールで送ったりするんですけど、今時の学生はメールを見ないから」と笑いながら話す。
また、教育実習中でタスクや情報に追われているところでは、Edmodoのスマートフォンアプリのプッシュ通知が便利でもあり、Edmodoが最適だと判断した。
教育実習中のEdmodo活用
ここからは一部論文内で紹介されている内容にも触れつつ、Edmodoを活用した教育実習での活動を紹介する。
主な活用方法として、教育実習中に日記やコメントを投稿し、共有、議論等の活動をする。
生徒はおよそ10人規模、モデレーターとして教職経験者である北澤先生が参加した。
「孤独を感じる」- 今までの教育実習時の課題
教育実習の目的は、授業技能の向上は勿論のこと、教師という職業を体験し理解することである。
上で紹介したように、現在の教育実習では、教授方法についての知識を向上させることばかりが注目され、教員として職場への適応は十分でない。
さらに、在学中に初めて経験する「教師」という立場に、多かれ少なかれ実習する生徒は不安を抱えているが、基本的に教育実習中は、学生は放置されてしまうような気持ちになる。
「論文には書いてないんですが、学校での孤独な立場で悩んでしまうような教育実習生もいたりして、学生も放り出されるのも不安だという話もありました。」と望月先生は述べる。
悩んでいる・いじめられているなど、実習校に一度行ってしまえば、現場での状況がわからない。
その上、教育実習の振り返りという観点からも、派遣されてから完了するまでは、実習を省みるタイミングがないことが問題であった。
教育実習中につながることによるメリットと特徴
SNSを用いて、学生同士のコミュニティを作成し不安を軽減すると共に、単一の職場からは得られない、多様な体験を共有出来た。
ある生徒の投稿によって、職業人としての社会的振る舞いを促進させる事例もあったという。
教育実習の事前・事後にも、教育現場で働くイメージ、教育実習での体験談を語らせ、共有することで、教育実習の準備や教師生活について考えるきっかけを与えることが出来た。
①悩みを共有でき、すぐにフィードバックをもらえる
教育実習生がぶつかる壁の一つに、生徒とのコミュニケーション方法の問題がある。
北澤先生は、SNSを用いた際に生徒の評判が良かった投稿の例として以下のように仰っていた。
「生徒といつ、どういう風にコミュニケーションをとるのかが分からないため、先に行っていた人達が、こういう風にやったよと(情報共有をしていた)」
行く前は分かりにくい、自己紹介など生徒とのコミュニケーションは、事前(準備授業)より、実際に現場で困難に直面した際のほうが生徒には響くようだ。
当たり前のようなアドバイスや教えは、実際に現場で困難に直面したこと、少しだけ先に始めた同じ境遇の人からのアドバイスだからこそ、効果的になる。
とこの取り組みでの生徒の反応を見て、望月先生も改めて感じたという。
②日記が記録として残る
教育実習後にはレポートを提出することになっているが、Edmodoの投稿は日記形式で残るので後で振り返りがしやすい。
「学生にとってそれ(Edmodo)に記録することが、後でどういう自習だったか振り返るのに非常に有効なので、そういう風にも使ってます。」
教育実習が終わってから振り返りをするのにも、日記形式でその日の感想や悩んでいたことがまとめて確認できるので、教育実習の記録としての殺しておけることも、Edmodoを使用する利点であると話す。
③実習中に投稿数に変化があった
教育実習の前半は、比較的やり取りが活発的である。先に実習に参加している学生が板書計画を投稿し、それに対するコメントを学生同士で行う等、頻繁にSNSを用いた活動がなされた。
モデレーターとして参加している北澤先生は、あまり積極的に参加しすぎることはせず、生徒同士の議論を促しつつ、助言や質問への応答を行った。
教育実習の後半に入ると、徐々にコミュニケーション量が減っていく傾向が見られた。
授業の準備などに翻弄され、忙しくなってきていたということが主な要因と考えられる。また、徐々に環境や境域実習自体に慣れてきたということも関係するのであろう。
そのため、週二回は書き込むよう指示を出したりすることで、一部強制的に投稿を促進したり、投稿のテーマを与えることでコミュニケーションが発生するような仕組みづくりには配慮したという。
今後の課題は
教育実習にSNSを導入することで、正の側面が多く見られた。
しかし、SNSを導入して日が浅いこともあり、生徒の投稿が生徒同士でどのように受け止め、モデレーターの存在が生徒の考え方にどのような影響を与えているのか等、SNSの存在による影響は、まだハッキリと解明されていない。
また、教育実習にSNSを導入することに対し、受け入れ先の学校が難色を示すことがありうるという。
教育実習におけるSNS導入におけるメリットを、しっかりと受け入れ校側に理解をしてもらうことも必要である。