ビジュアルで推敲する

こちらは「言葉に関するアドベントカレンダー」の6日目の記事です。昨日の記事は以下でした。

その記事では、音感で推敲することについて書きました。

一方、「分かる」と「わかる」のように、音は同じだけど漢字仮名の文字遣いが違う、という場合にも推敲の悩みは生じます。

このようなときに、ぼくが基準にしているのは、「見た目の漢字と平仮名のバランス」です。

たとえば、よくメールの最後などに使われる、「よろしくお願い致します」という表現がありますが、これを「よろしくお願いいたします」と書く人も多くいます。これはどちらの方が良いでしょうか?

もちろん正解はありませんが、ぼく自身は前者の「致します」を使います。なぜなら、後者では「お願いいた」のところに「い」が2つ並んでいて、本来の意図とは別の表現が生じているように思えるからです。

あるいは、「すごいいい」という言葉はどうでしょうか。これは漢字をひとつ使うと「すごい良い」になって、「すごいいい」に比べてずっと元々の意図を自然に伝えられるようになると思います。

すべての文字が漢字になってしまったらかなり読みづらくなるのと同様に、ぜんぶ平仮名になっても読みづらくなりますから、読みやすい文章はその「間」にあると言えると思います。漢字と平仮名の比率が「6:4」なら良いのか、それとも「3:7」なら良いのか、という正解はないと思いますが、それでも、その文章をパッと見て、「これは意味を把握しやすい文章だな」と思えるものと、思えないものとの間には明らかな違いがあって、ぼくはその適切なポイントを漢字と平仮名のバランスで判断していると思います。

全部が漢字である場合に比べれば、全部が平仮名になっている方がまだ読みやすいとは思いますが、平仮名が多すぎる文章の問題は、意味の切れ目がわかりづらくなる、という点にあります。

たとえば、「それはいらない」という文があったとき、「それは・いらない」なのか、「それ・はいらない」なのか、その部分だけを見てもわかりません。

しかし、「それは要らない」と書けば、迷わずにその意味を捉えることができます。

この違いは、喩えてみると、インターネットでWebページを読み込むまでの時間の違いのようなものです。新しいページを開くまでに0.1秒かかるマシンと、0.01秒かかるマシンのどちらが良いかといったら、ほとんどすべての人が後者を選ぶと思います。

「それはいらない」という文は、「それは要らない」に比べて、読者を理解に導くまでの時間が少し長いと思います。前者の表現は、後者に比べて、読者がしなくてもよかったはずの判断を経由させる可能性を多く持っています。

平仮名を多く使うと、そういった問題を同時に多く含むことになるので、ぼくは読者の読み込み速度(文章を把握するまでの速度)を速くするために、あるいは読むときの労力を最小限にするために、適度に漢字を配置します。

ところで、Webの文章は紙の文章よりも平仮名を多めにした方が良い、という意見を時々聞きます。「Webではその方が読みやすいから」と。この真偽はよくわかりません。もしかすると、モニターの解像度や、発光体を長時間見ることの影響なども関係しているかもしれませんが、ただ個人的には、これについては、単に読者のニーズとして、漢字よりも平仮名が多い方がスイスイ読めるとか、ネットなら紙数を節約する必要がないからそのニーズに合わせて平仮名を多めにできるようになったとか、そういうことではないかとも想像しています。

以上、漢字仮名の判断に際して普段考えていることをまとめてみました。

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