サービスの成長を支える新しい概念「LTR」とその活用事例

はじめに

eureka, Inc.
Eureka Engineering
8 min readJan 25, 2016

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こんにちは。Pairsエンジニアの鉄本です。


Pairsはこれまで、様々な指標を活用してサービスを成長させてきました。
その中でも、”LTV”に代わり”LTR”という指標を用いて事業戦略に応用している話を今回はしたいと思います。

LTVとLTRの違い

“LTV”はよく聞くんだけど…という方は多くいると思います。
“LTR”は”LTV”によく似た概念です。LTVの解説と共にその違いを説明します。

LTVとは?

LTVとは「Life Time Value」の略で、日本語では「顧客生涯価値」と言います。
一言でいうと、顧客一人あたりがサービスにもたらす売上(※)のことです。
※売上に粗利率をかける場合もあります


計算方法はいくつかありますが、コストを考慮しないとしたら、以下が最も簡単な式でしょう。

LTV = (平均購入単価)×(平均購入回数)×(継続購買期間)

または、サービス全体の売上からLTVを導くこともできます。

(売上) = LTV ×(商品を購入した顧客数)
LTV = (売上)/(商品を購入した顧客数)

上記の式の通り、LTV計算式では顧客は商品を購入していることを前提に置いています。

LTRとは?

LTRは「Life Time Revenue/Regs」の略で、獲得顧客一人あたりの売上を意味します。

Pairsでは、”LTV”の代わりに”LTR”の概念を利用しています。
その理由は、Pairsのサービスモデルにあります。


Pairsのサービスモデルは、会員登録が無料で、商品を購入せずともサービスを利用することができます

表1. Pairs サービスモデル

※実際には女性にも一部有料コンテンツがあります。


ここでLTVをサービスの指標としておいた場合、無料で利用している顧客が全く考慮されなくなってしまいます
しかし、Pairsはマッチングサービスであり、無料の顧客にも利用されることで価値が生まれるものです。
Pairsにとっては無料で利用している方もPairsの売上に対して重要な顧客と考えています。


そこで、無料の顧客も考慮に入れたLTVを算出します。それが、”LTR”という考えです。

LTVとの違いは、売上を割る母数です。

LTR = (売上)/ (獲得顧客数)

この「売上」や「獲得顧客数」をもう少し明確にすると、「一定期間内における売上・獲得顧客数」になります。
「一定期間」の区切り方は様々ですが、比較的多いのは1年間です。年度毎に管理がしやすいのが理由の一つでしょう。

LTR = (獲得顧客による一定期間における売上)/ (獲得顧客数)

LTRは何に使うのか?

LTRを計算することで、顧客一人あたりから得られるリターンを予測できます。
このことから、顧客一人あたりに対してどのように投資をするかの判断がしやすくなります。
たとえば、顧客獲得施策を考える際には「どの程度予算をかけたら、どの程度リターンが期待できるか」を計算する、などの活用方法があります。
顧客獲得施策を考えるにあたって、「顧客一人あたりの獲得コスト」を特にCPA(Cost per Acquisition)と呼びます。


ここからは、PairsではLTRとCPAをどのように扱っているかを紹介していきます。

PairsでのLTR運用

Pairsでは、顧客の新規登録月から一ヶ月ごとの「累計売上」を使ってLTRを算出しています。
以下にサンプルの表を用意しました。

表2-1. LTR階段図サンプル

0ヶ月目売上は、「顧客が新規登録した日から1ヶ月以内の売上」を指します。同様に、1ヶ月毎に売上の累計を算出していきます。
このようにLTRを管理することで、時系列に沿ってLTRの伸びを追うことができます。


ここに、顧客の獲得にかけた広告費とCPAを表に追加してみましょう。

表2-2. LTR階段図(サンプル)- CPA追加 -

2015年02月のCPAを読み取ると、顧客一人の獲得に167円投資したことがわかります。
同様に、2015年02月の1ヶ月目のLTRを見ると、170円になっています。
つまり、2015年02月に獲得した顧客は、「1ヶ月目で投資分の回収が完了し、利益になる」と判断できます。


このように、LTRは獲得にかけたコストに対する投資回収期間の評価に使うことができます
では、この投資回収期間の評価を実際にどのように活用しているのでしょうか。

PairsでのLTRの活用方法

1. 最適なCPAで広告運用をする

CPAが高くても、その後のLTRが高くなるならサービスは成長します。


たとえば、以下はLTRを広告媒体毎に算出した場合です。
ここではLTRの算出期間・投資回収期間も1年間で設定しているとします。

表3-1. 広告媒体別LTR/CPA比較

CPAだけで比較すると、ブラウザ広告がより安く新規顧客の獲得ができますが、LTR/CPAを比較すると「ネイティブ広告の方がブラウザ広告よりも投資回収時期が早い」ということがわかります。
必ずしもCPAが低ければよいわけではないということです。
この場合、「ブラウザ広告の費用をネイティブ広告に当てれば、より効果的な広告運用ができそうだ」と判断することができます。
このように、LTRを広告媒体ごとに算出することで、広告メニューの最適化ができるようになります。


ただし、獲得人数が担保できるか、広告出稿費が予算内に収まるかなど、LTR/CPA以外の判断軸もあるため、実際には状況を見ながら適切な判断を下す必要があります。

2. 商品ごとのLTRを施策に反映させる

商品ごとにLTRを出すことで、広告媒体に対して効果のよい商品を判断することもできます。


今回は広告媒体と商品ごとにLTRを出したサンプルの表を用意しました。

表3-2. 広告媒体-商品別LTR比較

それぞれの広告で獲得した顧客に対して訴求すべき商品は、「ネイティブ広告には商品Aを、ブラウザ広告には商品Cを当てるのが効果が良さそうだ」ということがわかります。


Pairsでは有料プランが複数あるため、広告媒体に合わせてバナーのクリエイティブを改善したり、キャンペーンの企画・開催スケジュールの設計で参考にしています。

3. LTRを予想して先回りの運用をする

たとえば、特定の月で獲得した顧客のLTRが下がる場合、季節要因があるかもしれません。
この場合は前年度の傾向を見て、出稿を調整することで回避できます。


または、LTRが上昇傾向だとします。
投資回収が早まるだろうと予想ができた場合は、目標としていたCPAを上回っても強気で出稿するという判断もできるようになります。


Pairsでは、新規獲得顧客の男女比率も重要視しているので、当月の進捗と過去のLTRの結果を比べ、広告出稿予算の男女比率を調整したり、目標CPAを上方/下方修正したりと役立てています。

おわりに

今回はエンジニアリングの話から離れて、LTRの話をさせていただきました。
このLTRという概念は、アメリカのIACグループが運用しているオンラインデーティングのMatchやTinderでも実際に使われています。
このような前提知識を持っておくことで、データベースや分析基盤の設計に活かし、サービスの成長を加速させることができると思います。少なくとも私はそうでした。
エンジニアの働き方は様々で、マーケティングの知識を求められる場面は今後増えていくのではないでしょうか?
この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば光栄です。


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興味のある方はぜひ、一度オフィスに遊びにきてみてください。

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