逆上りとあの日の影
いつのまにか成長していた話。
大人になった今でも覚えている成功体験がある。そんな個人的に思いで深い成功体験話を書いていきます。
それは僕が小学生の頃の話。
体育で逆上りの授業が始まった。僕は運動が苦手だったので億劫でした。当然逆上りも出来なかった。
それでも僕は一念発起して、休日真夏の昼下がりに一人で小学校の運動場に行って逆上りの練習を始めた。丁度運動場では、地元のリトルリーグが野球の試合をしていた。野球ボールがバットに当たる音やミーンミーンと鳴く蝉の鳴き声が運動場に広がっていた。
逆上りの練習動機は単純で逆上りが出来たら“かっこいい”と思ったからである。当時小学生の僕の評価軸なんて、かっこいいか、かっこ悪いかのどちらかの二択だった。逆上りを華麗に決めてクラスメイトから拍手を受けている自分の姿を想像する。
ニヤリとして、僕は練習を始めた。
古くて少し茶色くなった鉄棒を逆手にギュッと握りしめる。勢いをつける為に、数歩後方へ下がる。勢いよく1.2歩と駆け出し、3歩目で力強く地面を蹴り上げる。
眼前の風景が野球の試合→空→鉄棒後方のフェンスと変わった所で、逆回転しはじめた。
ドスンッ
足が踵から地面に落ち失敗した。
その後、何度も繰り返し練習するが上手く出来ない。両手の間隔を広げたり狭めたり、助走距離を変えてみたりと色々と試行錯誤する。それでも上手く出来ずに失敗を繰り返す。色々試しては失敗するの繰返し。
いつの間にか校舎の時計の針は午後17時を指していた。野球の試合は終わっている。野球の観戦に来ていたおばちゃんが帰り際に『ボク、練習頑張ってね。』っと言って帰って行った。少し照れくさかったけど嬉しかった。
野球の試合後の片付けも終わり運動場が閑散としたころ、ようやっと逆上がりが出来た。一回出来ると不思議な事にそれ以降は何回も何回も連続で成功した。不思議なものである。アハ体験というやつだ。初めて補助輪を外して自転車に乗れた時も同じだった。根気強く練習をしていれば、急に“これだ”っという感覚が宿る。
ボクは笑みを浮かべ満足して運動場を後にした。
『明日みんなに見せてやろう。』
夕焼けを背負って長く伸びた自分の影を見て、少し大人になれたような気がした。