あいだのストリート

Rie Matsuura
exploring the power of place
5 min readOct 7, 2016

百貨店は高級品が並ぶイメージがあるが、デパ地下のお惣菜やお菓子なら私にでも手が届く。地方の銘産が並ぶ特設コーナーが開かれていようものなら吸い寄せられずにはいられない。威勢の良い掛け声や匂いに釣られてついつい足を運んでしまう。

一品ずつ買えるのが魅力だ

行く度に変わる食べ物は見ているだけでも楽しい。中でもよく利用しているのは二子玉川にある「高島屋」だ。ありとあらゆる専門店が店を構えている。この高島屋は本館、南館、西館など複数箇所に店舗を構えているちょっと珍しい百貨店だ。通い初めの頃は迷ってしまうこともたびたびあった。

ふくざつな配置の高島屋

二子玉川の高島屋には屋上庭園があり、ちょっとしたお散歩や買ったお惣菜を食べることができる。そのお散歩中に見かけたのが本館と西館のあいだにある「アレーナ通り」と名付けられた150mほどのストリートだ。歩行者数は玉川通りに比べて少なく、特別なアートがあったりイルミネーションが施されているわけではない。しかし本館と西館の間のアレーナ通りは通る人びとの姿が多様でとても面白い。この通りは、15時、16時、17時と言った区切りの良い時間帯になると、お客と従業員が入り混じる。

15時ごろのアレーナ通り

百貨店ということもあって、見かける従業員のスタイルは様々だ。二子玉川の高島屋の場合は先述の通り建物が点在しているため、どうやら従業員はバックヤードに戻る際、一度外に出ることになるようだ。

もっとも多く見かけたのがこのスタイル。おそらく高島屋の基本的な制服なのだろう(お惣菜売り場か婦人服売り場の人だろう)。ヒールは太く、高さが低いものを履いていた。スカートは膝が隠れる長さで白シャツに紺色のベスト、くすんだピンク色のエプロンを着用していた。髪型はお団子などまとめられている。また、エプロンと三角巾がないパターンの従業員もたびたび見かけた。歩きながら三角巾を取ったり、身なりを整えながら迷いなくスタスタと従業員出入り口に向か様子が見られた。

制服は多様だ。イラストの女性は赤いスカートに赤いヒールがとても印象的で、すぐに高島屋の中にある専門店の従業員だとわかった(おそらく化粧品売り場の方だろう)。スカート丈は膝が隠れる程度で、少しくすんだ白色のシャツを着ており、赤いウエストポーチを身につけていた。メイクは大人っぽく顔立ちがはっきりと出るようになされており、髪型は後れ毛が出ないようにカチッとまとめられていた。透明で中身が透けて見えるトートバックと上着が一緒に腕にかけられていた。上記の女性以外にも透明なトートバックを持って移動している人が多かった。多くの大型商業施設では従業員による万引きを防止するために利用を義務付けられているそうだ。

アレーナ通りを移動する従業員は、スタイルは従業員であるが挨拶をしたり笑顔を作ったりなどの「従業員的ふるまい」はしない。そしてそこを通る一般の人びとも百貨店の案内を求めたりしない。この通りでは、従業員は曖昧な立場になる。イラストのようにジャケット脱いでいたり、視線を通行人に合わせず無表情でいたり、三角巾を歩きながら着脱し、足早に従業員出入り口に向かう。制服という強いメッセージをまといつつ、曖昧な立場特有の「あいだのふるまい」を持っている。

ゴフマンの「行為と演技」論から見てみると、従業員にとって仕事場が舞台であり、控え室は舞台裏になるだろう。そして、このアレーナ通りは舞台上と舞台裏をつなぐ「通路」と言えるのではないだろうか。移行の領域である。この通路では仕事終わりなら仕事の振り返りや反省をしているだろうし、仕事始めなら今日やることを頭の中で整理しているのだろう。推測ではあるが、このような従業員の曖昧な姿は、企業側としては本来隠しておきたいであろう。だが、物理的に通路を隠せないため、従業員は曖昧な立場を「あいだのふるまい」で示すことを通して呈示する。区切りの良い時間のアレーナ通りは舞台と舞台裏のあいだにある曖昧なストリートになる。

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