あの頃のサンタ

Yusuke Wada
exploring the power of place
4 min readNov 10, 2017

(恋人がサンタクロース 本当はサンタクロース 〜♪)

少しかじかんだ手でLINEを打ちながら友達が待つ駅に向かっていた。流れてきた音楽に「気がはえーよ」と思いつつも、もうそんな時期かと驚いた。久しぶりの再会もそこそこに、早足で近くの居酒屋に入った。15年来の友達がビールを持っている姿は、なぜだかちょっと笑える。

「最近なにやってるの?」

「普通に働いてるよ。お前はまだ学生やってるんでしょ。いいよな…」

「やっぱり、社会人って大変なんだ」

一通りの近況報告を終えると、話はお決まりの昔話になっていった。毎日昼休みになるとダッシュでサッカーをしにいっていたこと、給食は必ずお代わりじゃんけんに参加していたこと、帰り道に石を蹴って側溝に入れるゲームがなぜかすごく流行ったこと。小学生の頃の思い出はこんなことばかりだ。

「そういえば、さっきクリスマスソングが流れてたんだけど、まだ気が早いと思わない?」

「たしかに、まだ11月だしね。ってか昔一緒にサンタ捕まえようとしたよね」

「あー、した、した。うちに泊まりにきたときね」

僕らが小学2年か3年くらいの頃。クリスマスの夜はなんとか眠らずにサンタが来るのを待ってやろうと思うのだけど、毎年睡魔に負けてしまうから、今回は一緒にサンタを捕まえてやろうと作戦を練った。サンタの侵入経路はなんとなく知っていた。僕のおもちゃや絵本がすべてしまわれていた「おもちゃの部屋」という部屋があったのだが、クリスマスの朝に部屋の窓が開いていたということが何度かあったから、来るならここからしかないと踏んでいた。僕たちはサンタが窓から足を踏み入れた時に足が離れないようにするため、ガムテープや両面テープ、木工用ボンドなど思いつく限りの足がくっつきそうなものをダンボールにつけて窓の下に設置した。もちろんダンボール自体も床に貼り付けて、動かないようにした。一通りの準備が完了すると、2人で実際にサンタが入ってきた時のシミュレーションをして、絶対捕まえられるとワクワクしながら心置きなく眠りについた。次の日の朝、枕元には2つのプレゼントと「いたずらはダメだよ。よい子でいるんだぞ」というメッセージ。慌てておもちゃの部屋に向かうと、設置していたダンボールは微妙に床から剥がれて、やっぱり窓は開いていた。捕まえられなかったことよりも、本当にサンタは来たんだということが嬉しくて、その日からしばらくは友達にこの話を自慢していた。

「サンタを捕まえる方法、色々考えたよな」

「そうそう!とにかくどうすればサンタと会えるかってことしか考えてなかったよね」

「めちゃめちゃドキドキしてたわ〜」

あの頃はサンタがいると信じて疑わなかった。というより、僕たちの中には確かにいたのだ。でも、いつしかそのサンタはふわっとどこかへ消えてしまって、気がつけば僕も“大人”になっていた。

みんな、いつも余計に大人になりたがる。“大人っぽく”振る舞えるようになることに、嬉しくなるのだ。そして、その大人のものさしを使って、子供の頃の感覚まで修正しようとする。サンタなんているわけないと。そうやって無邪気な心を仕舞っていくことが、大人になるということだと勘違いをしてしまう。だけど、僕はそんな“大人”になりたくはないのだ。「何かを得たら何かを失うものだ」と聞かされてきたけど、本当は、その時にしか見えない世界がいつもあるだけなのだと思う。だから大人になるというのは、過去を大人のものさしで引き直していくことではなくて、新しい世界との出会いを重ねていくことなのだと思う。

「もうこんな時間か」

「そろそろ出ようか。明日もあるし」

「そうだね」

久しぶりに彼と会えてよかった。昔の友達と話をすると、まるでタイムスリップをしたかのようにあの頃の自分に戻る。大人になった今でも、あの頃に戻って話をするのはなんだかとても気持ちが良かった。

帰り道、相変わらず流れている音楽に、今度はふふっと笑いがこぼれた。

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