「ちがい」

Kana Ohashi
exploring the power of place
4 min readJul 10, 2018

しばらく前に、AAPA(アアパ / Away At Performing Arts)による公演『となりとのちがい vol.5』を観にいった。AAPAは、学部生の頃に所属していたゼミの先輩である上本竜平さんが立ち上げた、「日常と地続きの舞台空間を企画するプロジェクト」だ。2004年から活動を開始し、海水浴場、公園の休憩施設、歴史建造物の屋上、風力発電所、鉄道の高架下など、劇場外での公演を多数企画、上演している。2013年からは北千住駅のそばに「日の出町団地スタジオ」をオープンし、そこでダンスクラスやワークショップも開催している。竜平さんとは大学卒業以来、数回しか会う機会がなかった。数ヶ月前、私が映像作品を上映する場所を探していたことをFacebookで知り、竜平さんがスタジオでの上映会を提案してくれたのがきっかけで再会した。私はこれまでなんとなくしか知らなかったAAPAの活動に興味を持ち、今回の公演のチケットを購入した。

公演は北千住駅前に集合するところから始まった。チケット購入時に提供された情報にしたがって集合場所に行くと、案内人の女性が待っていた。客が全員集まると、案内人の女性が、そろそろそこの角の店に男性が現れるのでその人をよく観察してください、と私たち客に呼びかけた。私はこれから何が始まるのかと少し戸惑いながら、角の青果店に目を向けた。ほどなくして、竜平さんが現れた。竜平さんは私たちには目もくれなかった。何か考えごとをしているのか、何も考えていないのか判別できない表情をしていた。青果店では何も買わず、商店街を歩き始めた。私たちは案内人の女性の指示に従って、竜平さんを「尾行」することになった。私は、友人の都合がつかずひとりで参加していたので、この不思議な状況について語りかける相手がいないことにもどかしさを感じた。竜平さんは、和菓子屋に入って団子を買ったり、大きな通りからすっと脇道に入って住宅の間を通り抜けたりした。とぼとぼと歩いていたかと思ったら、急に早足になるので慌てて後を追った。私は北千住駅周辺の土地勘がないので、必死に周囲を観察し自分がいる場所の手がかりを得ようとした。そうやってまちを観察していたら、だんだんそこが現実のまちなのか、演出された舞台のうえなのかわからなくなった。

尾行しながら歩いているうちに、竜平さんのパートナーでありダンサーの永井美里さんと、サーカスとジャグリングが専門のニルダさんが待つホールにたどり着いた。ホールに着くやいなや、ニルダさんが私たちに向かって小さなボールをいくつも転がし始めた。客と演者が一緒になってボールを転がし合った。そのボール回しが収束した頃、気づいたら演者によるパフォーマンスが始まっていた。コンテンポラリーダンスの世界のことはまったく知らないが、身体をこんな風に動かし使って何かを表現することができるのかと圧倒されながら見入った。途中、美里さんによる語りにも引きこまれた。最初は美里さんが作品の背景を解説しているのかと思ったが、しだいにその話が現実なのか虚構なのかわからなくなっていった。そしていつのまにか、ダンスによるパフォーマンスが始まった。私は公演中、まちと舞台、舞台と客席、演者と観客、現実と虚構、ダンスと語り、身体と精神…さまざまな境目がわからなくなった。この公演のタイトルである「となりとのちがい」に思いをめぐらせた。となり合った二つの何かの「ちがい」を決めているのは何なのか。そもそも「ちがい」とは何なのか。「ちがい」があるとはどういうことなのか。自分の認識や感覚がどんどん揺らいで不確かになっていくことに、最初は戸惑ったがしだいに興奮を覚えた。新しい「世界」の見方に出会った気がして希望を感じたのだ。公演が終わり、来た道を戻って駅に向かった。さっきと同じ道が、どこかちがって見えた。

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Kana Ohashi
exploring the power of place

Ph.D. in Media and Governance. Associate Professor at Department of Communication Studies, Tokyo Keizai University.