つながれた関係

Saki
exploring the power of place
Nov 19, 2020

「これ、オススメだからぜひ!!」

たしかそんな言葉から私たちの”関係”は始まった気がする。

中学2年生の頃、私は同じクラスの友人にオススメのCDを貸した。当時、そのアーティストが大好きだった私は彼女の「え、ちょっとかっこいいかも」という言葉を聞き逃さず、楽しく語り合う仲間をまたひとり増やすためにも、すかさずCDを勧めた。

結論から言うと、あれから7年経った今、ようやくそのCDは私の元へと戻ってきた。ここまで長い間返ってこないとなると正直私も半ば諦めていたところはあったのだが、ついに返ってきた。いや正確には、”返ってきてしまった”という言葉の方が正しいかもしれない。

そんな彼女との経験を改めて少し振り返ってみようと思う。私が初めて彼女と出会ったのは、小学校5年生のとき。中学受験のために入った塾で、私は知り合いもおらず、”塾”という初めての環境で戸惑っている中、真っ先に声をかけてくれ仲良くなったのが彼女だった。しかしその後はコースが分かれたことにより、お互い特に話す機会もなくなり、別々に受験へと臨んでいた。そして、中学校の入学式の日、私は彼女と再会を果たした。友達ができるか、勉強にはついていけるか不安な気持ちを抱えながら教室へ入ると、私の隣の席には彼女が座っていたのだ。「改めてよろしくね」という言葉を交わしてから、私たちはどちらも自転車で学校へと通っていたためよく一緒に帰るようになった。

それから約1年半が経ち、そんな私たちの間に突然ひとつのCDが入り込んだ。私たちは中高6年間同じクラスだということが最初から約束されていて、毎日のように顔を合わせることが決まっていたので、「いつでも返せる」という状況がそうさせていたからか、「CD借りてるんだからさ〜」「CD貸してもらってるから〜」と冗談交じりに会話することはあっても、こちらも特に強く返却を催促することもなく、向こうも返却を焦ることなく学校生活を送っていた。時の流れは早いもので、あっという間に4年が経ち、結局CDが手元に戻ることはなく迎えた卒業式の日。ともに6年間過ごした仲間たちとこれまでの思い出を振り返る中で、私たち二人が交わした会話は「CD返さないとだから、またすぐ会おうね」だった。

そして私たちは大学生になり、互いに別々の道へと進み、バイトやインターンなど忙しい中でも何度か会う機会があり、ついにこの秋、私の元へとCDが返ってくることとなった。その約束をしてすぐは「ついに返ってくるのか…!」と嬉しい気持ちになっていたのだが、その日が近づいてくると私は次第に妙な気持ちになっていった。そして約束当日、彼女の手から私の手へとCDが渡される瞬間、心に”不安”という気持ちが浮かんできた。

思えば、私たちはCDというものを口実に、高校時代ではお互いを助け合ったり、大学進学後にも何度か会う約束をしていた。今振り返ってみると、CDの存在が物理的に距離が離れてしまった私たちを「貸手」と「借手」という関係でつなぎとめてくれていたのかもしれないとも思える。そう聞くと私たちのことを”冷たい関係”と思う人も中にはいるかもしれないが、少なくとも私はこの関係を”悪くなかった”と思っている。これまでたくさんの人に出会ってきたが、彼女という存在は私の唯一無二であったから。

CDというつなぐものがなくなった今、私たちはどうなっていくだろう。高校時代のクラスメイトという関係になるのか、元貸借関係となるのか、はたまた全く予想もしていなかった新たな関係をここからまた築くのか。

どんな形であれこれからも関係が続いていくことを願って、私たちは「またね!また…!」と強く言葉を交わした。

--

--