わたしの見ているあなたの世界

今年の5月頃から、日課で「模写」を行うようになった。きっかけは大学のある講義内で1日1枚、何か模写するようにと課されたことだ。

私は絵を描くことが苦手だ。ペンを持っても何をどう描いたら良いか分からず、線を引きだすことすら怖いと感じていた。模写初日、とりあえず目の前にあった猫の置き物を描くことにした。どこかで聞いたことがある「モノを立体物の集合体として捉えろ」という言葉を思いだし、見様見真似で描いていった。描き終わった絵を見てみるとやっぱりなと自分でも感じるほど下手で不自然だった。それから私は、少しでも自分の変化や成長を感じられるのではと考え同じ物を3日連続で描くことにした。猫の置物を四方から描いたり、ジブリ作品のポスターを描いたりととにかく好きなものを模写するようにしたので、苦手意識を持っていた私でも案外楽しみながら続けることができた。とある日から、私は「ゆの」さんという好きなイラストレーターの絵を模写するようになった。

Twitter:ゆの(@_emakawa)より

これまでと同様のルールで、1日1枚、同じ絵を3日続けて模写した。絵の構造を捉えるということを意識しつつではあったが、無我夢中で描いていた。個展やイラスト集などで、これまでたくさんの彼女の絵を、また描いている姿を見てきたが、その時感じていた魅力や興奮とはまた違った感情が湧き上がった。ここにこう線を引くと一気に姿が浮かび上がるんだ!なるほど!と新鮮な感覚に、とにかく描きながら感銘を受けた。出来上がった絵を見ると、確かにゆのさんっぽい絵だった。ふと考えてしまった。

「私はこの絵が好きなんだろうか。」

「いったい私は何に魅かれているんだろう。」

それから、いつも見ていた時に感じていた彼女の絵の魅力を考えるようになった。

8月、友達から誕生日プレゼントに水彩絵具をもらった。夜中突然電話がかかってきて何が欲しいかと聞かれ、冗談半分に「この絵具、色揃ったやつ。」と答えると数日経って本当に届いたから驚いた。絵が下手ということで小学生の頃からずっと嫌で避けてきた絵具に対してものすごくテンションが上がったのを覚えている。早速絵具を開封し、その日の模写に色を塗ることにした。初めは色の模写を目指し観察しながらだったが、次第に対象の絵を見ずに塗り進めていた。きっとゆのさんならこう描くんだろうというのと、自分はこう描きたいというのと、そしてその間でそれらを再現できない自分に嫌気を感じながら描いた。描き終わると、紙に見ていた世界が一気に動き出した。これまでの線の模写以上に、日常感という言葉で表していた曖昧な感覚が自分の中で一気にカタチ付いたような感覚を覚えた。それから次第に私の模写のルーティーンは少しずつ変化していた。3枚のうち、1枚目は線の模写でだいたいで描く。2枚目も線の模写だがより詳細に、カタチを意識して。3枚目は線だけでなく色の模写も加えるといったようにだ。

彼女が描いた絵が好きなのか、彼女の描いた絵が好きなのか。自分の中でずっと引っかかっていた疑問であった。多分私は、 “ ゆのさんが描くゆのさんが見ている世界が好きなんだ ” その言葉にすごくしっくりきた。模写を通して、少しでもゆのさんの見ている世界に近づくことができたのだろうか。

いまだに絵の上手な塗り方は分からないし、描きたいように描けない自分に嫌気もさす。だけれども、「頭の中にはもっと面白い世界が広がっているのに。」そういった劣等感はどこか感じないようになっていた。ああ、またうまくいかなかったなんて、描き終わってから考えよう。今はとにかく夢中で描き進めることにする。

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堤飛鳥
exploring the power of place

写真はゆのさん(@_emakawa) mediumと卒プロの記録。