ありがとう、ヤマナカ
「オーキッドパークのヤマナカ、閉店するらしいよ…。」
実家に帰省して食卓に着いた途端、家族の誰かがこう言っていた。オーキッドパークとは実家から徒歩1分のところにある複合商業施設で、TSUTAYAやブックオフ、ユニクロなどが入っており、東棟の1階に、「ヤマナカ」というスーパーも入っている。たいていのものはここでそろうし、小学生の頃はよくここの広場で遊んでいたから、とてもお世話になった場所だ。しかし、くだんのヤマナカはというと、利用したことはあるものの実はあまり思い入れがなかった。自転車で7分のところに、お値打ちなスーパー、カネスエがあるからだろうか。我が家の買い物も、ヤマナカはほとんど使わない。いや、そもそも実家にいた頃はヤマナカだろうとカネスエだろうと、おつかい程度にしか関わりがなかったスーパーは、わたしにとってそれほどの関心事ではなかったからだ。
先日家族と、隣に住む父方の祖父母で集まった時には、この話題で持ちきりになった。祖母は初耳だったようで、かなり驚いた様子だった。家族の間でひと盛り上がりした後だったので若干わたしたちの熱は冷めていたし、わたしにいたっては初めてこの話を聞いた時でさえ、「そうなんだ…」くらいに思っていたので、祖母にとって一大事だったこと自体がニュースに思えた。用心深い祖母は本当なのかと何度も何度も聞いてきて、夜遅かったがその直後自分の足で確認しに行き、本当であることを報告しに来てくれたほどだったから、かなりのおおごとだ。ポイントカードであるグラッチェカードは2017年8月20日日曜日をもって利用が終了し、9月24日日曜日にヤマナカ岐阜フランテ館が閉店する…。その場にいた父は、またすぐ新しいスーパーが入るよとこの話題に飽きた感じだったし母もそんな調子で受け答えしていたが、祖母はこれからどうすればいいのかとぼやいていた。それもそのはずで、自転車に乗らない祖母にとって、次の候補であろうカネスエまでは、徒歩で20分はかかる。この時期のような日差しの強い夏の日なんかは、重い荷物を持って帰れないだろう。そう考えると、家の窓から見えるような位置にあるヤマナカが、やっぱり便利なのだ。わたしもヤマナカの後に他のスーパーが入ることを願っている。
しかしそれよりなによりも、近所でしか通じないこのローカルすぎるニュースを聞くということが久しぶりすぎて、ほほえましいような、うらやましいような気持ちになっていた。久しぶりにヤマナカを訪れたら、「ギョギョギョ ギョーザ!つくろう♩」でおなじみのぎょうざのマーチがかかっていて、その聞いたことのあるメロディーが懐かしく、思わず一緒に来ていた妹たちと笑ってしまった。思い入れはないと思っていたヤマナカにも、おまけ目当てでお菓子を買いに行ったり、地元の友だちに偶然会ったりと、いくつかのことが思い出された。身勝手なものだが、なくなると思うとさびしい。
1人暮らしをして、わたしもスーパーに通う人になった。そうして思うのは、スーパーは徒歩圏内にあるのが一番だ。祖母のこぼした気持ちがよくわかる。さらに最近気づいたのだが、1人の家に帰ることが落ち着かない性分なのか、なんとなく人がいるところにいたいとき、買うつもりもないのに看板の光を目指してふらふらとスーパーに立ち寄ってしまう。東京での体験とヤマナカを重ね合わせてみる。祖母のようにヤマナカに毎日の食生活を支えてもらっていた人は大勢いるだろう。ヤマナカは、暗い夜道をいつも照らしてくれるともしびのようにいつもそこにあって、行き交う人びとを守ってくれるような存在だったのだ。ありがとう、ヤマナカ。