キッカケは太陽の光
〜ぶらり散歩 上永谷編〜
私の最寄り駅には地下鉄が通っている。地下鉄なので当然のことながら、基本車外は真っ暗である。外の景色を楽しむことはあまりできない。そんな、車中に光を照らす駅がある。
上永谷駅だ。“地下”鉄であるにも関わらず、駅のホームが“地上”にある。その駅に停まったとき太陽の光が車内に差し込む。音楽を聞いていたり、本を読んでいたり、スマートフォンを眺めていたりしても、その光に顔をあげさせられる。この駅、このまちもまた神奈川に引っ越してきてから気になっていた。今回はここ上永谷駅周辺を散歩したときの話をしようと思う。
改札を降りると、二手に道が分かれているイトーヨーカドーなどがある繁華街方面と住宅地方面だ。普段目に留めているのは住宅地のほうだったので、まずは住宅地方面を歩いてみた。
住宅地に入っていくと静かな町並みが広がっていた。平日ということもあってか、あまり人をみかけなかった。ゆるやかな時間が過ぎていった。マップもみないで、ともかく自分の気になる道に入っていったり、気になる建物が遠くに見えればそれに向かって歩いたり、ともかく自分の感覚に、興味に身を任せて歩いた。
歩いていると坂道が多いことに気づく。急な坂道だ。そして、住宅地が並んでいる。こういった状況から想像するに、ここは昔、山だったのではないかと思った。そこを人が切り崩し、住む場所にしていった。よくある話ではある。しかしながら、自分が歩いているなかでそういうことを感じられたのは初めてのことだったので新鮮だった。そして、高速道路がこのまちの上を通っている、地下鉄が通っている、そしてこの坂道の多さ、きっとここは新しいまちなんだなと思いながら歩いて行った。
しばらく歩いていると川が流れていることを発見した。川幅の小さい川だ。川の両端には草木が生い茂っている。川にそってあるいていくと「正應寺」というお寺を発見した。猫が山門の近くでのんびりしていた。山門の前には川が流れており、川が流れていく音が心地よく聞こえてくる。静かな時間がそこには流れていた。
住宅地側は、ガヤガヤとしておらず、自然の音が聞こえる。まさに閑静な住宅地といった感じだった。
さて、今度はイトーヨーカドー方面に足をのばしてみた。さきほどの住宅地側とは打って変わり、人にあふれ、賑やかな雰囲気がそこにはあった。同じ駅周辺のまちなのに、こんなにも駅の顔が違う。ひとえに上永谷駅周辺でもこんなにも違うのは面白い。
ちょうどお腹も空いていたので、どこかご飯を食べられるところを探しつつ散歩していると、雰囲気の良さそうなそば屋を発見した。店内の雰囲気は寅さんにでてくるような、昭和の空気が流れていた。この雰囲気にプラスして、喉がカラカラに渇いている状態のときに、美味しそうな瓶コーラが目に入ってしまった。普段はお冷かお茶だが、思わず頼んでしまった。
カツ丼定食を食べながら、店内に置いてあるテレビから流れてくるワイドショーを見ていると和服を召した雰囲気の良いおじいちゃんが入店してきた。お店の方との会話を聞く限り常連のようだ。「今日は何を持ち帰るの?お茶の本数はいつもと同じでいい?」とお店の方が聞いていた。メニューには、“持ち帰り”なんて無いので一見変なやりとりではあるが、この会話がお店とおじいちゃんの親密さをよく表している。おじいちゃんはせっかく注文したオムライスをほんの少し食べたところでお店を出て行った。そこにはすでにお店が呼んだタクシーが呼ばれており、きめ細やかな心配りが最後までされていた。きっと、これが長年このお店とおじいちゃんのお決まりなのかもしれない。心温まる光景であった。
おじいちゃんが出て行ってまもなく、私も食事を終え、お腹をいっぱいにして駅に向かった。
駅を挟んでまちの雰囲気が異なる上永谷。地下鉄なのに、地上に駅があったことがキッカケで訪れてみようと思ったまち。ふらっと来て、のんびり散歩して、食事をしてゆっくりして、帰る。なんてことのない散歩だ。ただ、ずっと気になっていたまちだから興味全開でまちを歩いた。電車で20分程度で着く場所であり、とくべつ観光スポットというわけでもない。ただ、歩き回って、帰路についたとき小旅行をした気分になった。きっといろんな発見や出会いがあったからだろう。ちょっと得した気分になったそんな散歩だった。
さて、次回は北鎌倉駅周辺を散歩してみようと思う。