ノリコさん2

私の住む街にはある小さなパン屋さんがある。ノリコさんはそのパン屋の店主だ。

ノリコさんと私の出会いについては、今年1月20日に発行された『ノリコさん』という記事に書いたのだが、今回は前回書ききれなかった「ノリコさんのやる気の源」などについて話したいと思う。

あれから、一年ほどが経ったが私は相変わらずノリコさんの営むパン屋に通っている。今では2週間に1度ほどのペースではあるが、いつも優しく迎えてくれるノリコさんと会う時間は私にとって今も変わらず欠かせないものだ。

少しずつではあるが、時間を重ねる中で以前よりさらにノリコさんについて知る機会が増えている。ノリコさんの学生時代や以前の職業など彼女のこれまでの人生はもちろん、パン屋に通う中で見た他のお客さんとのやりとりから彼女の人柄についても垣間見ることができている。
例えば、ノリコさんのパン屋に5歳くらいの女の子とお父さん親子が初めて来た時のことである。お父さんがパンを選んでいる際に、その女の子が卵アレルギーを持っていることがわかった。すると、ノリコさんは卵を使っていないパンを紹介していく中で「このごぼうのパンは柔らかいけど、少しアクがあるからどうかな?」「こちらなら少し甘いので食べやすいかもしれません」というように、その女の子が食べやすいものをお父さんと一緒にじっくりと考えていた。無事にパンを選び終えその親子が帰ろうとした時、ノリコさんがしゃがんで女の子の目線に合わせ「おばちゃん忘れちゃうこともあるから、また何が好きとか何が食べれないかなどいっぱい教えてね、卵使ってないパンももっと作るからね」と優しく話しかけていた。その親子は嬉しそうに「また来ます」と言って帰って行った。

このパン屋においてのシュトーレンである「師走」。ノリコさんのお店ではひとつひとつのパンにアレルギー表記もされている。

このようにお客さん一人一人といつも丁寧に向き合っており、どの人とも変わらず素敵な関係を築いているノリコさんだけれど、もちろんお客さんにも様々なタイプがいて、うまく対応できなかった場合は彼女も落ち込んでしまうと言う。

そんな時、必ず会いに行く「やる気の源」が彼女にはある。

それは日本橋高島屋にいらっしゃるコンシェルジュの方だ。その方はノリコさん曰くかなり年配の男性で、常にスーツをビシッと着こなしており、佇まいが何から何まで美しいと言う。彼を目当てに高島屋へ行っても、常に会えるわけではなく会えるとラッキーな存在なのだそう。

そのコンシェルジュの方とノリコさんは特に知り合いというわけではない。では何を目的に会いに行くのかと言うと、彼の誰に対しても変わらない接客からエネルギーをもらうため質問をしに行くのだ。それもノリコさん自身がちょっといけずだなと思うものを尋ねるのだ。
例えば、「ここから一番近くにある〇〇銀行はどこですか?」「高島屋の中で1500円ほどでランチを食べられるところはありますか?」など普通だと困ってしまうような質問である。
すると、そのコンシェルジュの男性はジャケットの内ポケットから何年も丁寧に使われ続けた地図をサッと取り出し、懇切丁寧に銀行までの行き方を説明してくれたり、どのレストランのどのメニューだと予算に合うのかなどを教えてくださるそうだ。それだけでなく、雨が降っていれば「傘をどうぞお持ちください」と貸してくれたり、「このドリアが美味しくてオススメですよ」などと素敵な行動や言葉を添えてくれるのだ。

このように、どんな質問であってもお客さんに対して真摯に応える彼の姿勢に触れることで、ノリコさんは自分の悩みがちっぽけに思えてきて「私もがんばろう」と多くのエネルギーをもらうのだと言う。

そう話すノリコさんの顔はとても嬉しそうだった。

ノリコさんの話を聞きながら、私にとっての元気の源はノリコさんと話すことだなと感じていた。少し気恥ずかしくて伝えることはできなかったが、彼女との話はいつも優しい光で私の心を照らしてくれるのだ。

今後、大学を卒業し、いつかこの街を離れてしまう日も来るに違いない。だけど、きっとどこにいても私はこのパン屋さんに、ノリコさんに会いに帰って来るのだろう。

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