Rie Matsuura
exploring the power of place
5 min readJun 10, 2016

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モノ と まち を読み変える -コスプレのモノづくり-

コスプレとは、愛好するマンガやアニメのキャラクターの衣装や小道具を製作・着用し、写真撮影を楽しむ遊びである。またコスプレイヤー(コスプレをする人びと)全員に当てはまるわけではないが、自分自身でコスチュームや小道具を作成する。お店に自分が欲しいキャラクターのコスチュームや小道具が売っていなかったり、売っていたとしても高価であったり自身のイメージとは異なる施しがされていたりすることが多いためである(もちろん、裁縫や工作が元々好きという人もいる)。また、コスプレを行う頻度が高い人ほど、なるべく安価にコスチュームや小道具を仕上げたいと思う傾向にある。そのため、コスプレイヤーたちにとって安価でさまざまな商品が揃う100円ショップは制作には欠かせない場所となっており、100円ショップで手にはいる改変可能な商品がSNSで共有されることが多い。

例えば、上の写真では、100円ショップで購入したクリアファイル2枚を分解し、ウィッグをかぶった時の頭のサイズに合わせながら帽子の形に作り直している。装飾品である造花や布地代を合わせても300円ほどで作成しできる。「市販されている帽子は1000円以上するし、形を変形させるのは難しい。またウィッグをかぶった頭の大きさにバランスよくフィットするものは少ない」と言う。ホームセンターなどに行けば、クリアファイルに使われているようなプラスチックの板を手に入れることは容易だ。しかし、学校や会社帰りに気軽に立ち寄れるという点や、ひとつの商品が大量生産され、SNSで紹介されていた同じ商品を手に入れやすいという点も100円ショップを利用する人が多い理由だろう。

コスプレイヤーたちは常にコスプレを通してモノを見ているため、ありとあらゆるモノをコスプレのためのモノとして読み変えることができる。コスチュームを作りたいという欲求が強いからこそ、モノが意図していた使われ方とは別な使われ方を探すことができる。

また、コスプレイヤーたちが読み変えるのはモノだけではない。

コスプレイヤーたちが参加し写真撮影を楽しむコスプレイベントは、都内においては毎週必ずどこかで開催されている。そして、コスプレイヤーの多くは、それぞれの会場でどのような背景の写真が撮れるのかを熟知しており、コスプレの対象となるキャラクターの作風や世界観に合せながら参加するコスプレイベント(の会場)を決めている。コスプレイベントは公園や街中など野外で開催されることもある。イベント主催者によって敷地の管理者から利用許可が得られており、守られた空間の中,撮影できるようになっている。しかし、明確な境界線が引いてあったり一般利用の人びとに告知されているわけではないため、コスプレイヤーと観光客とが混在する中、開催されていることがしばしばある。例えば、東京のお台場にあるオフィスビル街は平日はサラリーマンやOLがお昼ご飯を食べる場所になっているが、土日祝日になると、コスプレイヤーたちの撮影スポットに変貌する。

たとえば、オフィスビルの間にあるちょっとした芝生やレンガの床に、大きいトランプや造花、ティーカップを置いて、「不思議の国のアリス風」の場所へと変えていく。

また、芝生の周りには近代的なビルが立ち並ぶため、それらが写り込まない様な角度で撮影スポットを作り、撮影する。オフィス街で撮られた写真には見えない。

このようにコスプレイヤーたちは、新しいモノを用意したり、ゼロから作り出したりすることに加え、既存のモノやまち(場)に新たに意味付けを行い、実現したいことをなしとげていく。

また、最近のコスプレイヤーたちの活動でさらに興味深い点は、知識や情報の共有をも遊びのように行う点である。主にTwitterを用いてコミュニケーションをとるコスプレイヤーたちは、コスプレに関する便利な道具や、モノや場をいかに読み変えしたかをハッシュタグ(#レイヤーのおすすめ商品プレゼン大会 #レイヤーの理想と現実 など)を用いて共有している。コミュニティ内で共有することがルールや規則になると、一気にやる気をなくしてしまったりめんどくさいものになってしまいそうだが、モノや場を読み変えることが面白いことであるということが文化的に根付いているからこそ、みなが主体的に楽しく遊びのように仲間に共有されていく。

モノやまちの意味を変えるのは、コスプレイヤーに限らない。私たちも意識的(ときに無意識的)に日常を読み変えているだろう。新しい世界はいたるところで作られているのだ。

参考文献

  • 松浦李恵、岡部大介;モノをつくることを通した主体の可視化:コスプレファンダムのフィールドワークを通して、日本認知科学会『認知科学』第21巻1号 pp.141~p153、2014年3月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/21/1/21_141/_article/-char/ja/
  • 松浦 李恵;人工物の利用を通した成員性の境界デザイン:キャラクターを支える遊びとしての「コスプレ」を対象に、日本質的心理学会『質的心理学フォーラム』第7号 pp.14~p23、2015年9月

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