モーツァルトからHIP HOP

Sean
exploring the power of place
Feb 19, 2021

モーツァルトを聴くと幼少期を思い出す。僕が小さい頃、何をするときもモーツァルトの楽曲がかかっていた。ただ聞き流していただけで曲名すらわからないが、小学校の掃除の時間にかかる音楽がモーツァルトで、僕だけ完璧に歌えた(?)のがとても誇らしかったのを今でも覚えている。僕と音楽との付き合いは、ここから始まった。

僕は歌うことが好きだ。家の中でも、道端でも気づけば歌を口ずさんでいる。小さい頃はよく両親とカラオケに行き、そこで尾崎豊や安室奈美恵の曲を覚えた。それを歌うと先生や友達の親がびっくりして笑うのが嬉しかった。小学校高学年は車で流れていた洋楽を聞いて、歌うようになった。教室で洋楽を歌っていると先生がそれを気に入って、音楽発表会でソロを任されたこともあった。大きなホールに集まった1500人の前に1人で立ち、小さな体をいっぱいに使って歌いあげた。発表会が終わった後は、みんなから歌唱力や英語力を褒められて大きな達成感に包まれた。それまで聞き流すだけだった音楽を、歌うことの喜びを僕は知った。

中学生になると邦楽のロックを聞いた。周囲には兄姉の影響でロックを聞く友人がいて、彼らとライブにも行った。ステージ上で演奏するバンドマンに憧れて中学3年生の時にバンドを組み、高校に入ってからはライブにも出た。練習をするためにスタジオに入った際、初めて体感したジャムセッションの興奮は未だに忘れられない。

また、同じ時期にEDMも聴くようになった。EDMを操るDJに憧れた僕はすぐに機材を調達し、友達が家に来たときに流したり、自分で繋いだミックスを作ったりした。僕が流す音楽でみんなが盛り上がったり、落ち着いたりすることが気持ち良かった。それまでは聞いて歌うだけだった音楽を、奏でることの楽しさを知った。

高校2年生の頃にはHIP HOPと出会った。満員電車に揺られる通学中に聴いていると、同じ車両にいる誰よりも強くなれた。それからは、楽曲の歌詞を通して考えさせられることが多くなり、今ではHIP HOPが僕の生き方に影響を与えている。大学に入ると、実際に友人達とサイファー(複数人で即興でラップをすること)をするようになった。今までに関わってきた音楽によって形成された自分の感性をフルに発揮して音に乗り、韻を踏みながら言葉を吐く。そうして、音楽に自分の生き方を提示する場所の可能性を感じた。

最近では、自分で楽曲を作るようになった。ビートを打ち込み、ベースを設定して、鍵盤を叩いてメロディーを作る。歌詞を書き、自分で作った曲に乗せて自分で歌う。長時間にかけての録音と編集が終わると、1曲が完成する。楽譜は読めないし、音楽理論なんて全くわからないが、試行錯誤を繰り返して自分で楽曲を作る過程がたまらなく楽しい。こうして僕が今まで聞いてきた音楽と同じように、音楽で生き方を提示する。同時に、オリジナルを奏でることの難しさと楽しさを学び、アーティストへのリスペクトと楽曲への愛着が一層強くなる。だから、また音楽を好きになる。

僕と音楽との距離は複雑に変わってきた。聞き流していたモーツァルトから、自分で作るHIP HOPまで。音楽を聞いたり、流したり、乗ったり、作ったり。流すたびに聴く喜びを味わい、聞くたびに作る意欲が湧き、作るたびに乗る心地良さを知る。音楽との関わり方が変わると、音楽が新しい一面を見せてくれたような気がして、また音楽の素晴らしさに気づく。

そして、僕と音楽における距離の変化は、僕と人との距離も変える。だから、僕と音楽との距離を見れば、僕の生き方や人との関わり方が見える。モーツァルトを聞けば優雅だった幼少期、洋楽を聞けば何も怖くなかった小学生の頃、HIP HOPを聞けば尖っていた高校生の頃の記憶が鮮明に蘇る。こうして毎日何気なく聞いていた音楽は、いつの間にか僕を作りあげてきた。そんな音楽への感謝を込めて、僕が音楽を作る番になりたいと思う。

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