今日から私たちは、

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exploring the power of place
Feb 19, 2021

「親友になろうよ」

「めちゃくちゃ感じ悪い奴」と思っていたクラスメイトから、こんな風に言われたことがあるだろうか。おそらく私くらいのような気がする。10年経った今でも、そう思う。

Tのことは、幼稚園の頃から知っていた。かと言って友達のような存在だったかと問われると、たぶん違ったような気がする。居たことは憶えているが、関わった記憶があまりない。そもそも同じクラスだったかどうかもおぼろげ。そんな感じ。まあ幼少期の記憶なんて、こんなものなのかもしれないが、いわゆる「ただの知り合い」だった。
そのまま同じ公立の小学校に入学したが、ここでも3年生までの記憶はほぼない。Tが「ただの知り合い」から「めちゃくちゃ感じ悪い奴」、そして「親友」へ。あまりにも急な変化の全てが、4年生のたった1年間に詰まっているのだ。

4年生で同じクラスになり、秋頃に行われたくじ引きの席替えで前後の席同士になったことは、今でもはっきりと憶えている。真ん中から少し右寄りの列の、前から3番目と4番目。Tが前で、私が後ろ。
「前後の席」は、何かと関わりがあるものだ。例えば、プリントを回す時。前の席の人が束から1枚プリントを取って、残りの束を後ろに手渡す。Tは渡し方が丁寧ではなかった。後ろをちっとも見ずに片手でバサッ。何も言わずに渡すので、たまに私が気付かないと「早く取ってくんない?」ギロリとこちらを鋭く睨む目。正直怖かった。
自分の足が前の席の人の足に当たってしまう、なんてこともよくあるだろう。もちろん故意ではないので「ごめんね、当たっちゃった」と謝るのだが、「やめてくんない!?」また睨まれる。謝れば許してもらえるとは思ってないけれど、「そんなにキレなくても…」と困惑するのは、ごく自然な反応だろう。

そんな感じで、Tとの日々が続いた。私が何かTを怒らせてしまったのでは?と考えたこともあるが、いくら頭を悩ませても何も思い当たる節がない。そもそも前後の席になるまで、ほとんど会話した記憶がないのだ。
たぶんTは、私のことを本能的に嫌っているんだろう。そう思っていたし、私自身もTのことを「めちゃくちゃ感じ悪い奴」だと認識するようになっていた。
まさしくその時期だった。親友になろう、と話を持ちかけられたのは。

本当に唐突だった。授業と授業の間の、5分間の休み時間。いつものように次の授業で使う教科書やノートを準備していると、Tが私の方に体を向けてきた。Tがいつもと違ってニコニコしてる?

「ねえ、」
「ん?」
「親友になろうよ」

今思い返すとツッコミどころが満載である。親友って、そんな風になるものだったっけ。もっと友達から始まって、長い時間をかけて距離を詰めていって、知らない間に自然となってるようなものじゃなかった?そもそも親友ってどこからが親友?……
しかし、小学生のパワーとでも言うべきか。Tのその言葉は、仲良くなるのに本来踏むべきいくつものフェーズを一気にすっ飛ばして、有無を言わさず距離を詰めてくるようなエネルギーを確かに秘めていた。
私は、気付けば「いいよ」と返事をしていた。

そうやって、私たちは「親友」になった。休み時間や放課後はいつも一緒に遊んで笑いあうようになったし、交換ノートをした時期もあった。もちろん今までの嫌がらせもパタリと止んだ。いや、本当は嫌がらせなんかじゃなくて、仲良くなりたいと考えてくれていたのかもしれない。
中学に上がってから同じクラスになることはなかったが、一緒に広報委員会に入り、私とTで委員長・副委員長を務めた。Tを含めた仲良し4人グループで、毎朝Tの家の前で待ち合わせをして登校するようになった。このグループとは大学生になった今でも交友があって、コロナが騒ぎになる前は2泊3日の福岡旅行もした。

またコロナが落ち着いたら会おうね、と言うと社交辞令のように聞こえがちだけど、私は、Tに対しては、そうじゃない。心からそう思っている。また会えたその時には、「あの時親友になろうとしてくれてありがとう」と伝えようかな…いややっぱり恥ずかしいからやめとくか。

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